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『精霊の悪戯 』
イスフェリアka2088

「ごめんね、こんな事になっちゃって……」
「……そんなに謝らなくていい」
 布団に寝かされ、濡れた手拭いを額に乗せているイスフェリア。
 その顔は真っ赤で、苦しそうで……。
 彼女は数日前からオイマト族の逗留地に遊びに来ていた。
 子供達に連れられて遊びに出たは良かったが、足を滑らせた子供を庇って川に落ちてしまい――。
 いくらハンターの身体が頑丈だとはいえ、風邪を引く事もある。
 イスフェリアも例外なく、熱を出してしまったと言う訳だ。
 寝込んでしまっただけでも申し訳ないのに、忙しいバタルトゥに看病させてしまうなんて……。
 しょんぼりしているイスフェリアを見て、彼はため息をつく。
「……そんなに落ち込むな。……子供を救って貰って礼を言わなければならないのはこちらの方だ」
「あれは当たり前の事をしただけだし……」
「……ならば、恩人を看病するのも当たり前の事だろう?」
 そういわれると返す言葉がなくて、無言を返すイスフェリア。
 熱に浮かされてぼんやりとした頭。だんだん瞼が重くなって来て……彼女はそのまま、眠りに落ちた。


「……あれ? ここどこだろ」
 キョロキョロと周囲を見渡す彼女。さっきまで布団にいたはずなのに……。
 草に覆われた大地。
 そして遠くに、崩れた白い建物が見える。
 そこに聞こえてきた足音。近づいて来る馬の上には見覚えのある人物がいる。
「……精霊様は余程悪戯好きと見えるな。またお前に会うとは」
 向けられた笑顔に目を見開くイスフェリア。
 ――以前、精霊樹の記録を調べる依頼を受けた。
 白龍の神殿に、沢山の幻獣と人間達が寄り添うように暮らしていた時代の記録。
 そこで出会った、あの人にそっくりな――。
「オイマトさん……?」
「ああ。もしかして忘れられてしまったか?」
「ううん! びっくりしただけ。無事だったんだね」
「お陰様でな」
 馬から降りてきて微笑むオイマト。
 ――押し寄せた怠惰の軍勢。立ち向かおうとしていた彼に逃げ延びて欲しいと請うた。
 それはとても残酷な願いであったと自覚している。
 でも、彼が生き延びなくては、その後に続くオイマト族が消えてしまう。
 そう思ったから……。
「あの時、勝手なお願いをしてしまったから気になっていたの。他の人達も無事逃げられた?」
「ああ。白龍とデュンファリは犠牲になったが……彼らのお陰で、生きていけるだけの場所は出来た。……とはいえ、歪虚は時々襲って来るから、生き残った幻獣と人間達で協力し合って暮らしている」
「そうなんだ。良かった」
「……一応報告しておいた方がいいのか」
「なあに?」
「その……家族が出来たんだ」
「わあ……! すごい! おめでとう」
 はにかんだ笑みを浮かべるオイマトに、拍手をして喜ぶイスフェリア。
 母の仇を取る為に必死だった彼が、未来に目を向けた事が本当に嬉しい。
 そして、同時に……もう1つの感情が沸き上がる。
「いいなあ。家族」
「……お前には家族はいないのか?」
「うん。わたし、孤児だから」
 言ってからしまった、と思ったが、もう遅い。
 正直に言うイスフェリアに、オイマトは気遣うような目線を送る。
「俺も孤児だったが、親代わりはいた。お前にもきっと家族が出来るさ」
「そうかな。……そうだと、嬉しいんだけど」
 苦笑するイスフェリアの脳裏に浮かぶオイマト族の人達。
 彼らと接していると、孤児である彼女にも『家族』というものを感じる事が出来るから、とても幸せだった。
 ――正直に言うと、オイマト族の一員として暮らしていけたらどんなに楽しいかと思う。
 自分の幸せを忘れてしまったあの人と、微笑み合って生きられたら――。
 でも、それは。とても我儘な願いだとも思うから……。
 暫し黙っていたオイマトは、己の首飾りを外すと徐に彼女の手に握らせる。
「オイマトさん、これ何?」
「母から教えて貰ったお守りだ。人の縁を繋ぐと言われている。お前にやろう」
「えっ。そんな。悪いよ」
「構わないさ。家族が出来た俺が持ってたんだ。効能は折り紙つきだぞ?」
「それはそうかもしれないけど……本当にいいの?」
「ああ。お前達が命を繋いでくれたから今の俺がある。……せめて、お前の幸せを願わせてくれ」
「……うん。ありがとう」


 急に光が溢れる視界。
 眩しさに目を開けると、オイマトに良く似た男が覗き込んでいた。
「……目が覚めたか」
「……バタルトゥさん?」
「……どうした?」
「ううん。何でもない」
「……そうか。粥は食べられるか?」
 こくりと頷くイスフェリア。頷き返して部屋を後にした彼の背を見送る。
 ――さっきのは夢だったのか。
 オイマトさんに会えて嬉しかったのに。
 布団から起き上がろうとした彼女は、手に何かが絡まっているのに気が付いた。
「……あれ? これ……」
 見覚えのある首飾りに、ハッとするイスフェリア。
 ――これも精霊の悪戯だろうか?
 彼女は微笑むと、それを大事そうに抱え込んだ。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka2088/イスフェリア/女/16/家族に憧れる女の子

kz0023/バタルトゥ・オイマト/男/28/仏頂面な族長(NPC)
オイマト/男/年齢不明/オイマト族の祖(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

イスフェリアちゃんのお話、いかがでしたでしょうか。
以前の依頼で会った、オイマト族の祖である青年のお話に触れてみました。少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2018年12月12日

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