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『■呼ぶは、『狂気』か 』
ケンジ・ヴィルターka4938)&ファルコンアイ(魔導型ドミニオン)ka4938unit002



「伍長! 伍長じゃないですか!」
 そんな呼ばれ方をしたのは、どれくらいぶりだろう。
 リゼリオの街中で足を止めて声を辿れば、トラックに乗った数人の青年達が手を振っていた。
 懐かしい顔ぶれに、思わずケンジ・ヴィルター(ka4938)は目を疑う。
「おぉ? 久し振りだな、元気でやってるか!」
「はい、お陰様で!」
「伍長こそ、お元気そうで何よりです!」
「無茶やって、ソサエティの整備士を泣かせてませんかー?」
「馬鹿言え。CAMの扱いで、俺があんた達を泣かせた事とかねぇだろーが!」
 ケンジが軽口で返すと、青年達は明るい表情で笑った。
 トラックに乗った彼らは皆、サルヴァトーレ・ロッソで働いていた整備士だ。
 付き合い自体はそう長くないかもしれないが、共に生死の境をくぐり抜けてきた仲でもある。
「よかったら今度、一緒に飲みましょーや」
「俺ら、伍長達のお陰で命拾いしたようなもんですからね。安酒で良けりゃ、おごらせてもらいますよ」
「命拾いはお互い様だぜ。あんた達がCAMをきっちり動かせるようにしてくれてたお陰で、初陣から生きて戻れたんだからよ」
「CAM乗りからそう言ってもらえるなんて、整備士冥利に尽きますよ」
「LH044は、大変な戦場でしたしね……」
 一瞬、彼らの間にしんみりした空気が流れた。
 どれだけ時間が過ぎても、戦いの痛みと喪失感はそうそう癒えるものではない。
 だからこそ、明るくケンジは話題を変える。
「で、今日はどうしたんだ。休暇で、ピクニックにでも繰り出すのか?」
「男ばっかりのピクニックとか、何の罰ゲームですか」
 再び、どっと笑い声が起きた。
「実は郊外で、先の大規模前に転移してきたと思しきCAMが見つかったんですよ。発見されてから、ずっと動いてないらしくて」
「ちょうどロッソの乗船勤務から外れてた俺らの班に、ちょっと見て来いって話が来ましてね」
「へぇ……」
 答えるケンジの胸に興味と共に湧いたのは、ざらりとした嫌な感覚。
 必ずしも直感に頼り切る方ではないが、スルーするには少々引っかかる点がある。
 例えば搭乗者の行方や、破損状態などなど……。
「俺も見に行って、いいかなァ?」
 口をついて出た問いに、彼らは嫌な顔一つせず。
「もし、伍長がお暇なら」
「そういや、魔導型CAMでしたっけ? 見せて下さいよ、伍長の機体!」
「あいよ。じゃあ、合流ポイントを教えてくれ」
 必要な情報を交わしたケンジは整備士達のトラックといったん別れ、魔導型CAMの使用許可を得る為の理由を考えながら足早にハンターオフィスへ向かった。




「こいつが伍長の愛機ですか」
「デュミナスのシルエットもいいけど、やっぱドミニオンの無骨さも捨てがたいですよね」
 技術者魂が刺激されるのか、現地で合流するや否や整備士達は興味津々で魔導型CAMを観察し始めた。
 オレンジのベースカラーに、関節部の黒がシャープな印象を与えるカラーリングが施された魔導型ドミニオン、機体名『ファルコンアイ』。
 ハンター達に使用許可が出ている魔導型CAMとしては最初期のものだが、やはりリアルブルー製の機体は整備士達にも愛着があるらしい。
「このカラーリング、もしかして……」
 しみじみ機体を眺めていた一人が、ふと気付いてケンジに振り返る。
「伍長が前に乗っていたCAMと、同じです?」
「んー、やっぱ落ち着くっていうか、な」
 照れくさそうに、ぽしぽしとケンジは髪を掻いた。
「思い出話はそれくらいにして、仕事にかかるぞ」
 本来の目的を忘れそうな整備士達へ、見かねた班長が声をかける。
「すいませんね、あいつら久し振りなもんで、はしゃいじゃって」
「あー、便乗したのはこっちだし。逆に仕事の邪魔だったら、すまねぇ」
「回収任務とはいえ万が一ってコトもあります。ハンターで、こいつを連れた伍長がいてくれると心強いですよ」
「そう言われると、むず痒くなっちまうけどな」
 軽く会釈をする班長にケンジは苦笑し、現場を見やる。

 街道から外れた丘に、問題の機体は『放置』されていた。
 左膝を立て、右膝は地面につけて腰を落とし、やや前傾姿勢で両腕をだらりと下げている。
 CAMを三方から囲むように作業台付きのクレーン車と運搬用のトレーラー、そして整備士達を乗せてきたトラックが停車。
 作業の現場から少し距離を置いて、ケンジの魔導型ドミニオンを載せたトレーラーが待機していた。

「あいつはデュミナスタイプか」
「ざっと見、そんな感じですね。俺らがこっちにきた後の、改良型か試作型みたいで」
 ドミニオンと違って曲線的なフォルムを持つCAM……のはずだが、装甲には衝突して出来たと思われる凹凸が目立ち、本来の滑らかさを失っている。
「じゃあ、こっちも準備するかなァ。手伝えるなら雑用でも呼んでくれよ」
 ヘルメットを被り直す班長にケンジは声をかけ、魔導型CAMのコクピットハッチを開いた。
 シートに座ると身体をベルトで固定し、インカムをかける。
 その間にハッチが閉じ、システムが起動した。
 魔導エンジンは低く唸り、コンソールの各部が息を吹き返したように光を宿す。
「起動シークエンス完了。システム、オールグリーン。ファルコンアイ、いつでも動けるぞ」
『こちら整備班、了解。総員、見られて緊張してるとさ』
「ははっ。大人しく見学してるから、ヘマするなよって伝えてくれるか」
 冗談を交わしながら、外を映すモニタにケンジは目をやった。
 腕や脚部にワイヤーをかけて機体を固定した整備士達はクレーン車を寄せ、先端の作業台から機体の様子を窺っている。
 作業台に乗った整備士が身振りで指示し、クレーンが胴体部へ伸びた。
「手動で開けるか……」
 呟き、操縦桿に手をかけたままで作業を見守る。
 搭乗者が生存している可能性は、ほぼゼロだ。
 だから作業する整備士は、慎重にロックの解除を行う。
 その時、モニタの隅で何かが動いた気がした。
 目を凝らすと、右腕を固定する為に地面へ打たれたワイヤーのピンが徐々に傾き。
「班長、クレーンを下がらせろ!」
 インカム越しに呼びかけながら、思考をフル回転させる。
『伍長? いったい……』
「そいつは、まだ生きてる!」
『うわあぁぁぁぁーーッ!!』
 警告と同時に、ハッチを開けた整備士の悲鳴が響いた。




 ビィンッ!
 鈍い音がして、太いワイヤーが宙を薙ぐ。
 ドミニオンの腕がそれを人がいない方向へ弾き飛ばし、クレーン車へ伸びるデュミナスの腕を掴んだ。
『総員、後退! 車両も安全を確保しつつ後退だ、急げ!』
 班長が指示を飛ばしている。
 疑問も理由も後回しで、誰もが自分と仲間の安全と、そしてケンジの邪魔にならない事を優先させた。
 一方、ワイヤーで固定されたデュミナスは、唯一動く右腕をファルコンアイに押さえられている。
 そのまま、もう片方の腕でケンジは半開きになった胸部のハッチを掴んだ。
 鈍い音がしてハッチはもげ、コクピットが顕わになる。
 搭乗者が乗る空間は……ただ、粘性のある黒い塊で満たされていた。
 逃げ損ねた整備士は塊に頭から飲まれる形で、腰の辺りまで埋まっている。
「くそ……ッ!」
 躊躇する暇なぞ、なかった。
 ハッチが開く間にベルトを外し、外へ飛び出す。
 愛機の腕を足場に、ひと息で間合いを詰め。
 塊が動き出すのに先んじて、携えた日本刀「骨喰」を鞘走らせる。
 白刃を追って、薄青の燐光が散り。
 ぞむっ、と。
 粘性が高くとも、ソレは切断された。
 一瞬、怯んだように塊の表面が波打ち。
 その虚を突いて、整備士が着けたハーネスの腰ベルトを引っ張る。
 ずるりと上体が黒い塊から抜け、意識のない男の体重がケンジの腕へ一気にかかった。
「こっちです!」
 叫ぶ声に目だけ動かすと、クレーン車が作業台を限界まで接近させている。
 そして作業台から、懸命に班長達が手を伸ばしていた。
「あいよ! 頼んだ、ぜェ!」
 素早く刀を納め、腰のベルトを両手で握り、勢いをつけて整備士の身体を放り投げる。
 宙を舞った身体は受け止めようとする班長を巻き込んで、作業台に転がり込み。
 黒い塊は一部を触手の様に変形させ、『獲物』を奪った相手へ伸ばした。
「悪ィが、俺の機体は決まってんだぜ!」
 意識を集中し、足場の悪い状態で触手を避ける事に徹する。
 その隙にクレーンが縮んで、機体から離れ。
 ケンジも踵を返し、愛機のコクピットへ身を滑らせた。
『彼は無事です、伍長! あの機体は……』
「ありゃァ、歪虚CAMだぜ。VOIDが乗っ取ってやがる」
『そうですか……致し方ありません。「処分」を頼んでも?』
「了解」
 苦々しい依頼に短く答え、操縦桿を引いた。
 握るハッチがドスンと地に落ち、ドミニオンは歪虚CAMから距離を取る。
 自由になった右腕で歪虚CAMは残るワイヤーを引き抜き、各部を軋ませながら立ち上がった。
 相手に、武装の類はない。
 ファルコンアイはトレーラーまで戻ると、マウントされていた長めの銃身を持つマシンガンを取り。
 おぼつかなく向かってくる歪虚CAMへ、銃口を向ける。
「乗っ取られて、苦しかったろ。今、眠らせてやるぜ」
 そして、マシンガン「ラディーレン」の引き金を引いた。
 正確な射撃が関節部を破壊し、装甲を貫く。
 装填された25発の弾丸を打ち尽くすと、歪虚から解放された機体は崩れ落ち。
 そして、爆散した。

「伍長には、また助けられましたね」
 班長の言葉に続き、神妙な顔の整備士達が略式の敬礼でケンジと魔導型ドミニオンへ謝意を示す。
「やめてくれよ、んな仰々しいマネ」
 困り果てて彼が手を振ると、ようやく一同は表情を和らげた。
「すみません。じゃあ代わりに機体の整備、やらせて下さい」
「あー、そうだな……それなら、うん」
 頷いて、ケンジは『ファルコンアイ』を見上げる。
 夕陽を受けて佇む機体は、さながら失われたCAMへ黙祷しているように思えた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【ka3351/ケンジ・ヴィルター/男/21/人間(リアルブルー)/舞刀士(ソードダンサー)】
【ka4938unit002/ファルコンアイ/―/―/魔導型ドミニオン/―】

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2018年12月12日

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