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『クリスマスの贈り物 』
石井 菊次郎aa0866)&テミスaa0866hero001

「ん? 『クリスマス特集』?」
 H.O.P.E.の本部に用があって訪れたテミスは、図書コーナーの一角に作られた『クリスマス特集』の文字を見て足を止める。
 H.O.P.E.はテミスのように異世界から訪れた者の為に、この世界のことを知る機会の一つとして本部内に図書コーナーがあった。一ヵ月ごとに特集される本のジャンルが変わり、少なからず本と縁があるテミスは惹かれるものがある。
 こちらの世界に来て大分経つテミスだが、あまりに季節のイベントが多いので未だに全てを把握しきれていない。
 契約を結んだ能力者の石井菊次郎が興味を持たないことは教えてくれないことが多い為に、自ら知らなければならないのだ。
「うむ……。ある程度クリスマスの知識は得ているが、どうも人によっては違いがあるようだ。せっかくだし、少し本を読んでいくか」
 言葉とは裏腹に、足取り軽く図書コーナーへ向かう。
 子供向けの童話から大人が読むような難しい本まで、テミスは適当に選んで机の上にドサッと置くと、イスに座って読み始める。
 そしていくつかの本を読み終えたテミスは、端正な顔に困惑の色を浮かべた。
「……うぅ〜む。何だか知れば知るほど、よく分からなくなるな」
 軽く痛むこめかみを指で揉み解した後、クリスマス特集の雑誌を手に取る。しかしそこに掲載されているのは、恋人への贈り物特集であった。
 ――だがその記事を見た途端に、テミスは菊次郎があまりクリスマスについて語らなかった理由を悟る。
「『恋人』……か。そこには触れられたくないだろうな」
 何の因果か、一般人として平凡ながらも恋人がいて幸せに暮らしていたであろう菊次郎は、ある日突然全てを愚神に奪われた。
 それからの日々は復讐の為に生きていると言える菊次郎が、クリスマスという恋人達が盛り上がるイベントを自ら進んでテミスに教えるわけがない。
 何となく気が重くなり、雑誌を読んだ本の上にバサッと載せて立ち上がる。
「……さて、知識は十分に得た。そろそろ帰ろう」
 読んだ本を抱えて、棚へ行く。一冊一冊丁寧に元あった位置に戻した後、ふと平積みにされた本が目に映った。
 テミスは何となくその本を手に取り、パラパラと読み始める。
 テミスが興味を引かれた理由は、表紙に仲良さそうな男女の絵があったからだ。大きなクリスマスツリーを背景に、長い髪の女性と金色の懐中時計を持つ男性が、熱のこもった目で互いを見つめ合っている。
「クリスマスの日の夫婦の物語か……」
 短いながらも考えさせられる内容で、テミスは読んだ後にため息を吐く。
「無駄な結果になろうとも、大事なのは互いを想ってプレゼントを贈る心――か」
 心打たれる内容だったが、それを現実化するのは難しい。
「我が主が一番に望む物と言えば……、かの愚神の首?」
 うっかりその想像をしてみるも、明らかにクリスマスプレゼントという意味からは程遠い。
 テミスはふぅっ……と軽く息を吐くと、本を元の位置に戻す。
「やはり我は人外だな。人間の気持ちなど、よく分からない」
 しかしそのことに悩む表情は人間らしいことを、本人は自覚していない。
「さて、この後は買い物に行く予定だったな。クリスマスが過ぎれば、年末年始で買い物がしづらくなる。ちゃんと年を越す為にも、さっさと行くか」
 菊次郎から本部近くにある店に買い物に行くようにと、買う物を書いたメモと金を前もって渡されている。そろそろ行かなければ、店は閉まってしまうだろう。
 外は12月らしく冷たく乾いた風がふいているものの、歩く人々の表情はどこか楽しげだ。街の中が、クリスマス一色のせいかもしれない。
 そんな中でもテミスは淡々と買い物を済ませて、家へと歩みを進める。
 しかしふと、とある店の前で足を止めた。
「コレは……」


 その頃、菊次郎は疲労の色も濃くデパートの中を歩いていた。
「……この任務、本当にエージェントじゃなければダメだったんですかねぇ?」
 12月になった途端、様々な任務がH.O.P.E.の本部に来るようになった。
 その中で、菊次郎は知り合いのエージェントに頼まれる形で今日、このデパートの任務を引き受けたのだ。
 デパートの中にあるジュエリーショップが、クリスマスの為に特別に高価な商品を展示することになった。非売品ながらも店の宣伝になる物で、大粒のダイヤモンドが連なるネックレスだ。
 しかしこの時期になると泥棒も多くなり、万が一のことを心配したデパート側とジュエリーショップの店員達が、ダイヤモンドの警備をH.O.P.E.に頼んだのだ。
 エージェントであれば普通の人間より感覚が鋭いので、安心して警備を任せられる――と言われたまでは良かったものの、黒い警備服を着てほぼ一日展示品の横に立ちっぱなしの任務は地味にきつかった。
 それでも引き受けたのは、報酬が下手な戦闘任務よりも良かったからだ。
「年末年始で出費が激しいですし、ありがたいと言えばありがたい任務でした……」
 戦って傷付くこともなく、ただデパートに訪れた人々を監視するだけならば体力的には問題はない。しかし気疲れはかなりする。
「夕食はデパ地下で買っていきましょうか。彼女も今日は外出していますしね」
 菊次郎の頭の中に、テミスの姿が浮かぶ。
 異世界から訪れた彼女はH.O.P.E.の本部に足を運ぶことが多いので、今日はついでにおつかいを頼んでいた。
 きっとテミスもグッタリしながら帰ってくるだろうことを想像して、美味しそうなデパ地下の弁当を買っていくことを考える。
 何にしようかと思いを巡らせていると、デパートの中に響く音楽がクリスマスソングに変わった。
「……ああ、そういう季節でしたね」
 ボソッと呟いた菊次郎の表情は、寂しげというより冷たいものだ。
 あの日あの時、愚神に恋人を目の前で殺されてからというもの、恋人達の行事にはあえて目を伏せていたような気がする。
 だが一度気付いてしまえば、デパートの中にいるはしゃぐ恋人達の姿が目に映った。
 それでも心がざわつかない自分の変化に、思わず菊次郎は苦笑する。
「――成長したんでしょうか?」
 以前は恋人達を見るだけでも辛く、顔をそむけていた自分が懐かしく思える。
 今も正直なことを言えば胸がちくりっと痛むものの、それでも恋人達が幸せに過ごせる日々を守りたいというエージェントらしい気持ちが芽生えていた。
 それはきっと、あの絶望の後にあった出会いのおかげ――。
 サングラスの奥の目を細めて、菊次郎は軽くため息を吐く。
「彼女には大分お世話になっていますね。何のお礼もしないというのは、少々礼儀に反しますか」
 テミスは菊次郎が一番辛い時に、側にいてくれた。
 例えそこにお互いの思惑があったとしても、菊次郎は救われたのだ。
「本部へ任務終了の報告をしに行くついでに、クリスマスに何か楽しそうな任務がないか調べてきますか」
 流石に二人っきりでクリスマスを過ごすのは、気恥ずかしさがある。
 たまにだが、クリスマスなどのイベントの前には能力者と英雄が参加できるパーティーの任務が来ることがあった。
 そういった任務に参加すると良い気晴らしになるし、菊次郎もテミスも素直に楽しめる。
「……と言いましても、それが『お礼』にはならないでしょう」
 そういう任務に参加するというのもテミスを喜ばせる手段の一つではあるものの、彼女個人への礼としてはちょっと違う。
「ここはやはり、贈り物でしょうか」
 タイミングよく、今菊次郎がいる場所はデパートだ。
 クリスマスが近いおかげで、女性物が売っている店に男性一人が気恥ずかしそうながらもいることはいる。
「しかしこう物が多いと、何が良いのかよく分かりませんね……」
 女性への贈り物は選択を間違えればとんでもないことになることを、菊次郎は過去の経験で身に沁みていた。
 だが寛容なタイプのテミスは、菊次郎が考えて買って贈ってくれた物ならば、何でも喜んでくれそうだ。
「う〜ん……。それもそれで男としてのプライドの問題があります」
 テミスの姿を思い浮かべながら店内をウロウロしていると、ある店の商品が目に映る。
「……おや? アレならば……」


 12月24日、クリスマスイヴ。
 菊次郎が受けた任務のクリスマスパーティーに参加したテミスは、珍しく上機嫌だ。
「今日は楽しかったな♪ クリスマスの料理やデザートを、たくさん食べることができて満足したぞ」
「それは良かったです」
 二人そろって家への道を歩いている中、ふと菊次郎は立ち止まる。
「ん? どうした? 酔っ払ったか?」
「いえ、その……。コレをどうぞ、テミスさん。クリスマスプレゼントです」
 コートのポケットに入れていたラッピングされた小箱を、菊次郎はテミスへ差し出す。
 テミスはキョトンとしたまま小箱を受け取り、開けて見る。
「おおっ……! 素敵な髪飾りだな」
「バレッタと言うんですよ。テミスさんは髪が長いですからね。束ねるのにちょうど良いと思いまして」
「……ありがとう。実はな、我も準備していたんだ」
 そう言ってテミスはハンドバッグの中から、手のひらより少し大きな長方形の箱を差し出す。
「開けて見ても?」
「もちろん」
 菊次郎は箱を受け取り開けると、中には新品のサングラスが入っていた。
「これは……」
「いつも身に着けている物の方が、貴公には良いと思ってな。そんなに高い物ではないが、似合いそうだったんだ」
「嬉しいです」
 そう言って菊次郎は早速身に着けていたサングラスを外して、テミスから贈られたサングラスを着ける。
「――どうですか?」
「流石は我が選んだ物だ。良く似合っているぞ」
「ありがとうございます」
 二人はニコッと笑い合う。
 しかし次の瞬間、テミスは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「いつか……サングラスをしなくてもいい日がくると良いな」
「テミスさん……。ええ、そうですね。それまではこのサングラスをかけていたいと思います」
「ああ」
 そして二人は頷き合うと、肩を並べて歩き出す。


<終わり>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0866@WTZERO/石井 菊次郎/男性/25/命中適性】
【aa0866hero001@WTZEROHERO/テミス/女性/18/ソフィスビショップ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご指名をしてくださりまして、ありがとうございました(ぺこり)。
 せっかくですので、クリスマスをテーマにストーリーを書かせてもらいました。
 楽しんで読んでいただければ光栄です。

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2018年12月12日

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