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『噂の正体 』
千良 侘助aa3782

 ルポライターの仕事は嫌いじゃない。
 しかしだ。締め切りが近付けば流石に厳しく感じる事はある。それに底辺の月刊誌であるから売れるネタでなくては意味がなく、折角取材して記事として仕上がったとしても良いものが新たに入れば、没になる事もしばしばだ。だから栄養ドリンクと煙草は欠かせないのであるが、今日はその補給も難しそうだ。
「はぁ〜、全くなんて日だ」
 薄暗い雲に覆われた空の下、目の前にあるのは如何にも怪しげな古いマンション。
 もう何年も人が住んでいないと言うが、最近この建物の中から夜な夜な赤子の鳴き声が聞こえるらしい。
 その真相を探る為に俺はここに来たのだが、まず一番にまずったのはここの鍵を忘れた事だ。借りはしたのだが、持ってくるのを忘れては意味がない。だが、もう入稿までの時間はそれ程残っていないから戻る余裕は全くない。
(まあ、中に入る許可は取ってあるんだ…別の所を探しますかねえ)
 これだけ古いマンションなら、窓の立て付けも悪い筈。
 鍵がなくても入れるかもしれない。不審者と見られかねないが、幸いな事にこのマンションは曰くつきだからあまり人が近寄らない。そこで周囲をぐるりと観察して回って、壊れた窓を見つけたのは数分後の事だ。
「さてと…では、お化けマンションの正体を暴きますか」
 埃だらけの床に俺―千良 侘助(aa3782)―の足跡がくっきりと浮き上がる。話によれば老朽化と共に借主が減り、大家も病により急死。その後の跡継ぎもおらず放置されてしまったらしい。一歩進むたびに床は軋み、廊下には蜘蛛や虫が徘徊している。
「もうお化けの季節は終わったんだがな」
 ハロウィンは十月末日の話だ。もしここでパーティーでもすれば、さぞスリルな体験が出来ただろう。
 そんな事を考えながら俺は一室一室部屋を確認する。だが、幾ら進んでも噂にあった赤子の鳴き声は聞こえてこない。
(デマだったか…だったら弱ったな)
 行って見たが何もありませんでしたでは記事にならない。
 かと言って、自分はルポライターだから個人の意見を差し挟むのはお門違いだ。あくまで自分は記録者であり、現場報告者。主観的意見を交えてしまえばそれはジャーナリストになってしまう。ただ今一個人として推理するならば、この建物の噂の真相は…。
(誰かの悪戯だったか、あるいは別の生き物の声を聞き間違えたか)
 子供はたまにこういう所で遊びたがる。肝試しだの秘密基地だのと理由をつけて忍び込んではありもしないものを見ただのとよく言って回り、周りを巻き込んだりするではないか。
「まあ、いい。そろそろ帰りますか」
 ハズレだったのなら仕方がない。一通り、見て回ったが何もなかったと結論付けて俺は元来た道を引き返そうと踵を返した――まさにその時だった。
「ほぎゃ、ほぎゃあ」
 無人のマンションに木霊する声。それが紛れもなく俺の耳を抜けていく。
「おいおい、うそだろ…」
 確かに全ての部屋を見て回り、その全てが空室だった。なのに、今この建物の何処からか声がしている。その謎を解くべく、俺は走り出す。本当にこれで幽霊なら大スクープだ。持参したカメラで姿が写せれば、更に注目を集める事だろう。
(何処だ、何処にいるっ!)
 久方振りのスクープネタに身体が動く。が、声の先にいたものは…。
「なっ!?」
「おぎゃあ、おぎゃあ」
 窓枠に留まり声を上げていたのはただのオウムだった。
 何処かで覚えたのだろうが、これは正直拍子抜けだ。
「あぁ、まさか…こんな結末と、ッ!!」
 それでも頭を掻きかき噂の正体をカメラに収めようと一歩踏み出した俺に最悪の展開。元々少し穴が開いていたらしい。その穴に足を取られ、すっ転んだのが運の尽き。派手な音を上げ床板を破り、下の階へと転落する。落ちる瞬間、翼の羽ばたく音がして…俺は心中で肩を落とす。
(こりゃあ逃げられたな)
 落ちた床に寝そべったまま俺は思う。できれば捕まえたかったが、もう無理だろう。それにだ。どうやら打ちどころが悪かったらしく頭から血が流れているのが判る。
「ハァ…本当になんて日だ」
 だが、締め切りは待ってくれない。こういう事もあろうかと俺は持参していた救急バッグから包帯を取り出し、適当に巻き付ける。
(これで何とかなるだろう…とにかく戻らなくては)
 応急手当を済ませて、オレは立ち上がる。外に出た時にはもう空は真っ暗であった。

 そして、数日後。とある雑誌のとある記事に俺は飲みかけの珈琲を噴き出す事になった。
『恐怖!木乃伊男出没! 黒魔術師の仕業か?』
 記事だけならまだしもそれは写真付きであり、微妙に画がぼけてはいるが場所からしてもこれは自分に間違いなさそうだ。
(ああ、こうやって噂話が出来上がるんだな…)
 オウムの声が赤子になった様に……案外真実とはチープなものだ。
 しかし、いつの間に撮られたのか。気付けなかった自分はまだまだこれから。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa3782/千良 侘助/男/27/ワイルドブラッド/リンカー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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おまかせノベルのご依頼有難う御座いました、奈華里です
発注頂いた時考えていた展開から徐々に内容が変わっていきました故、ゆっくりな納品となりました
少し痛々しい描写とホラーチックな展開、苦手でしたらすみません
設定のイラストと戦闘がからっきしという事で
包帯を巻いたお姿を連想しまして木乃伊男という選択に相成りました
本人視点で描かせて頂いた為、口調は「友達対応」の方を採用させて頂きましたが
問題あるようでしたら、お問い合わせよりリテイク申請頂けたらと思います

それではリンブレは終息に向かっておりますが、最後までよき物語が紡がれますように
誤字等もありましたら、お手数ですがご連絡の程よろしくお願いします
おまかせノベル -
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2018年12月12日

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