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『そんな日が来ると願って 』
ユメリアka7010

 声量の割によく通る声に名前を呼ばれて俺は目を覚ました。いつの間にか寝ていたらしい。病院って奴はどうしてこうも眠くなるのか。
「お久し振りです。あの、憶えていらっしゃいますか?」
 ユメリア、と俺が名前を呼ぶと、目の前にいる彼女はほっとしたように表情を緩めた。まだ空きがあるからと余分に取っていた場所を端に寄って確保し促せば、ユメリアは丁寧に断りを入れて俺の横に腰を下ろした。その軽いだろう体重で座席のクッションが少しだけ沈む。
「また、何処かお怪我をされたんですか?」
「あー……」
 ここで直ぐに否定しないのが答えみたいなもんだった。髪と同じ色の目を伏せる彼女を見ると、居た堪れない気分になる。
「もうほとんど治ってるから平気だよ」
 言うとじっと俺の顔を見返してくるので、嘘じゃないと念押しするとユメリアは安堵の息をついた。それなら良かったですという彼女の言葉を聞きながら俺は優し過ぎるっていうのも難儀だな、と思った。
 俺がユメリアと知り合ったのはある依頼を受けた時だ。俺はハンターは歪虚を倒す以外に何もしなくていいと思っていて、自分で言うのもアレだが、仕事中毒の気がある。だから怪我が治らないうちに次の任務、とそんな日々を繰り返していたが重傷を負って、まだ本調子じゃないのに依頼を探し、それを見かねた仲間に勧められたのが後方支援だった。俺も元気になったら前線に行こうと思って受諾して、それでコンビを組んだのがユメリアだ。聖導士で回復術が使える彼女と術は使えないが応急手当には慣れている俺で分担し、前線担当組の治療にあたった。その時もユメリアは辛そうな顔をしていて、正直これでやっていけるのかと思った。実際、戦闘系の依頼はあまり受けていないらしい。
「ユメリアは何の用事?」
 まさか怪我をしたとか、とビビりつつ訊けば彼女は首を横に振った。
「入院されている方に歌を届けに来ました」
「なるほど」
 そういや、ユメリアは吟遊詩人としても活動してたんだったか。というかそっちが本業か?
 覚醒者は自然治癒力が高いから大抵の怪我は直ぐ治る。が、不死身じゃないし、需要の関係から病院は一般人と兼用。覚醒者ってか実質ハンター向けの科が別にある感じだ。
「アロマテラピーだっけ? そういうのはやらないの?」
「い、いえ、その……調香は趣味なので」
 恥ずかしそうにする彼女にふぅんと生返事をする。現場に向かう時は緊張している様子だったのでそっとしていたし仕事中は忙し過ぎて必要な事以外喋る暇もなかった。でも帰りにはそれなりに打ち解けていて互いに身の上話――というほど大層なもんでもないが、初対面でしないような突っ込んだ話も結構して。んで俺も充足感でハイになってて、冗談で俺はどんな匂いがするのとかふざけて訊いた。そしたらユメリアも俺の手を取ってとまあそういう話だ。多分疲れてたんだろう。友人と言えるほどの交流もないが、折角知り合ったのに嫌われなくてよかった。
「ですが、香りが癒しになるのは本当ですし……誰かの為になるのなら試してみたいですね」
「そっかぁ」
 見てても折れそうで儚げで、勝手に心配になったりもする。聖導士としての能力を軽く見ているわけじゃないが、俺からしてみればやっぱ戦いには向いてないと思うから。覚醒者は全員が全員ハンターにならなきゃいけないわけでもなし。ただ、あの依頼の最中に、ユメリアが挫けることはなかった。いつも辛そうな顔をしながら、絶対に逃げ出さなかった。むしろ他人の怪我に慣れてない俺のほうが精神的にきてたと思う。幸い死者は出なかったが、出ていてもおかしくなかったのに。
 そういう苦境に立ち向かっても折れない、ってのはハンターにとって重要な資質なんじゃないかと俺は思う。ってか俺は、ユメリアと知り合って言葉を交わして、戦っている連中の手助けをするとか共闘する相手と交流するとか、そんな仕事をするのも悪くないなと思った。戦闘だと大抵の状況では俺のほうが強いだろう。でももしそれ以外の仕事でユメリアと一緒になることがあったら俺は、彼女には敵わないに違いない。人助けをしたいという彼女の思いは本物だ。微笑んだユメリアの横顔、その眼差しが真摯な色味を帯びている。
「――ユメリア」
「何でしょう?」
 きょとんとして小首を傾げる彼女にふと思い立った言葉を言おうとして。俺の声に被せるように聞こえたのは馴染みの看護師が俺を呼ぶ声だった。
「あの、えっと……」
「あー、いいよ。また今度会ったら言う」
 俺の言うことを素直に信じる姿を見て、大丈夫かと心配になる。ごめん、やっぱ墓場まで持っていくかも。俺が立ち上がるのに合わせてユメリアも立って、手を振り見送ってくれる。軽く手を上げてそれに応えて、俺は診察室に向かった。
 いつか彼女が語り継いでくれるような、立派なハンターになる、なんて。やっぱ口が裂けても言えない。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka7010/ユメリア/女性/20/聖導士(クルセイダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
吟遊詩人で聖導士で、自他の負の感情に弱いとのことだったので
その辺りを踏まえて考えた結果こんな話になりました。
ユメリアさんに語られるようになりたいハンター仲間、
というのがスタートだったのでモブの人の主張が強めかもですが。
性格的にも仕事的にも真逆の相手に影響を与えたという感じです。
今回は本当にありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年12月12日

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