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『男温泉二人旅 』
十影夕aa0890)&小鉄aa0213


「特賞! 温泉旅行ペアでご招待〜!」
 というおじさんの元気な声が今回の話の始まりだった。その日十影夕(aa0890)は一人で買い物に出掛けており、たまたまレシートを使っての福引が開催されており、一回しか出来ないがダメ元で、とガラガラを回してみた所金色の玉がころりと出てきた。
「とは言っても……温泉旅行宿泊券をペアで貰っても……」
 夕は現在二人の英雄と暮らしている。一人は尊大な態度の童子。一人は美男子大好きあけすけ女子。本人達が聞いたら間違いなく怒るだろうが、問題なのは「どの選択肢を選んでも戦争になる」という事だ。夕と英雄合わせて三人。だが温泉に行けるのは二人。置いてきぼりを食うどちらかが確実に文句を言う。夕がお留守番で英雄二人を温泉に、という選択肢もないではないが、あの世間知らず二人で温泉……? 無理。怖い。何かトラブルを起こさないかと不安しか感じない。
 でも、だったらどうしよう。英雄以外の誰かと一緒に行くのはどうだろう。英雄二人には「仕事なんだ」と温泉の事は内緒にして。同性で、それなりに親交があり、同い年か年上で、急に「温泉行こう」と持ち掛けても快く引き受けてくれる人がいれば……。
「って、そんな都合のいい人……あ、いた」
 

「十影殿! 本日はお招き下さり誠にかたじけのうござる!」
 言って小鉄(aa0213)はビシッとした動作で夕へ頭を下げた。小鉄は夕と同じくH.O.P.E.所属のエージェントで、オンラインゲーム仲間でもある。最初に一緒にやったゲームは異能学園バトルRPG。オフ会でその事を初めて知り、以降も別のタイトルでちょくちょく一緒に遊んでいる。
 なお夕は至って普通のラフな服だが、小鉄は「ザ・忍び」と言わんばかりの忍装束。今日も今日とて上から下まで黒一色。口はきっちり覆面着用。もっとも英雄が……武士やらネコ耳やら騎士装束やらが当たり前のこのご時世、温泉に忍者がいた所で誰も気にはしないだろうが。
「いいよ。むしろ俺の方がめちゃくちゃ世話になってるし」
 小鉄を選んだ理由は先の条件もあるのだが、「小鉄の英雄がめちゃくちゃ頼れる」という理由もある。具体的には夕の英雄を預けても問題ない、むしろ積極的に世話してくれる。おいしい和食を作ると息巻く彼女の厚意に有り難く甘え、こうして夕は小鉄と共に温泉街の地を踏んでいた。
「さて、最初はどうしよう」
「特に希望がないのであれば、土産物屋を回るのはいかがでござろう」
 小鉄からの提案に夕は二もなく頷いた。確かに日が暮れて寒くなる前に回った方がいい。英雄達……特に尊大童子の方は食べ物にうるさいので、しっかりと吟味してそれなりのものを購入したい。もう一人は女の子だし、アクセサリーの方がいいのかな? でも大食いだから食べ物でも大丈夫……かな?
「小鉄さんはお土産決まってる?」
「温泉饅頭でござる!」
 即答だった。「温泉と言えばこれ!」と言わんばかりの即答だった。だが、その後小鉄は頭を掻きつつ、何かをくいっと煽るようなジェスチャーをする。
「それから、これも」
「ああ、お酒」
「実は楽しみにしていたでござる」
 照れくさそうに笑う小鉄に夕は「なるほど」と呟いた。つまり土産物屋を回るのは土産そのものよりも試飲目的。いつもはおかん、もとい英雄が目を光らせているが、今日はそのおかんはいない。
「いいけど、あんまり飲み過ぎないでね」
「拙者、アルコールでは酔わぬ体質でござるよ!」
 小鉄はきっぱり宣言すると「まずはあの酒を!」と走っていった。夕より確実に年は上、背も高くガタイもいいが、まるで子供のようである。夕は目を少し細めると、覆面をしたまま酒を飲む忍びの下へと歩いていく。
「やっぱり覆面は着けたままなんだ」
「もはや拙者のぽりしーでござるな」
 どのようなポリシーかは不明だが、いつの間にか紙コップの中から酒が消えているのは事実だ。そして小鉄の覆面はまったくもって濡れていない。と、小鉄が何かを発見し、「十影殿!」と夕に突き出した。『酒』と焼き印された饅頭。つまり酒饅頭である。
「これなら十影殿も食べられるでござろう?」
 小鉄は無邪気に聞いてくるが、実は夕はアルコールの匂いがそんなに好きじゃない。だが好意で差し出されたものを無下にするのも気が引けるし……。
「いただきます」
 一つ口に入れた途端、日本酒独特の香りがすうっと鼻を通っていった。次いで感じるのはしっとりした皮。それらに包まれた上品に甘い餡。
「いかがでござろう」
「おいしい」
「では、これをお土産に」
「でも、うちのチビに酒饅頭は、どうかな」
「ぬっ、言われてみれば確かに……」
 酒饅頭の箱を持ったまま小鉄はがっくり項垂れた。見た目は圧倒的忍者だが、酒ではしゃいだり、土産物でがっくりしたり、感情が忍んでいない。加えるなら恰好が忍装束というだけで、見た目的にもむしろ忍んでいない。もっとも、一緒に旅をする相手としては楽しいが。
「まあゆっくり探そうよ。せっかくだし色々試食して」
「そうでござるな! どうせなら土産物屋全てを制覇するでござるよ!」
 酒だけでなく食の方も堪能する気満載のようだ。まあそうしてくれた方が誘った側としても甲斐がある。それに夕は物静かなタチなので、小鉄がにぎやかでいてくれるのも割とありがたい……かもしれない。
「では、次はあの店を!」
「そうだね、順番に見ていこうか」
 元気溢れる小鉄の後を夕はのんびりついていく。少し、留守番している英雄達と小鉄の姿が被ったが、それは小鉄の名誉のために口には出さないでおく事にしよう。


「いやあうまい! ここの酒はうまいでござるな!」
 三時間後。小鉄は温泉に浸かりながら改めて酒を飲んでいた。あの後夕と一緒に温泉饅頭を試食巡りし、酒を試飲し、アクセサリーの類を見て、酒を試飲し……なお洒落っ気のない夕と脳筋忍者の小鉄に女の子に似合うアクセサリーなど見繕えるはずもなく、結局英雄達への土産は温泉饅頭に落ち着いた。
 夕は湯に浸かりつつ小鉄の姿を眺めていた。当然二人とも素っ裸だが、小鉄の口元には覆面が巻かれている。下は完全素っ裸なのに口には覆面が巻かれている。しかもそのまま酒を飲んでいる。ヤバさと謎が相乗効果を為しているが、徐々に違和感が薄れていくのは忍びの為せる技なのだろうか。
「十影殿、いかがしたでござるか」
 そこでようやく、小鉄は夕が自分を見ている事に気が付いた。そしてはっとし、手の中のおちょこと夕を見比べる。
「も、申し訳ないでござる! 拙者ばかり酒を!」
「え? いや、いいよ。だって好きなんでしょ? 俺はまだ飲めないし」
 夕は無表情のまま手を振った。決して怒っている訳ではない。表情に乏しいだけである。
 しかし……本当に美味しそうに、そして楽しそうに飲むものだ。前述のように夕はアルコールの匂いはそんなに好きじゃない。だが温泉に浸かってまで、こうも楽しそうに酒を飲む姿を見ればやはり興味も湧いてくる。
「お酒っておいしい?」
「うまいでござる! 喉を焼き五臓六腑に染みわたる、酒は正に命の水と言えるでござるな!」
 小鉄は胸を反らしてそう言ったが、言ってからまたはっとした。酒の飲めない相手の前で、「酒はこんなにいいものだ」と主張し過ぎるのはなかなか酷なものがある。
 オロオロし始めた小鉄に、しかし夕は薄く笑った。
「大丈夫だよ。でも、お酒好きな人って本当においしそうにお酒を飲むよね。二十歳になったらちょっと飲んでみようかな……なんて」
「その際は是非拙者にも声掛けを! ふむ、十影殿が二十歳になったら、またこうして共に温泉に来るというのもいいでござるな」
「え?」
「ここの酒はうまいでござるが、一人で飲む酒はやはり少々つまらぬでござる。十影殿が二十歳になったら、今度は二人で試飲して回るでござる。その時は英雄殿達も一緒に」
 小鉄は名案を思い付いたとばかりに、にこやかにそう言った。二十歳になった所で、夕が試飲に付き合えるかどうかは分からないが、でもまあ「また一緒に温泉に来たい」と思って貰えるのは素直に嬉しい事である。
「いいけど、英雄も一緒だとさ、試飲巡りは許してもらえないんじゃない?」
「はっ! そう言えば」
「だからまあ……そうだね、二十歳になったら、考えておくよ」
 

 部屋に運ばれた夕食もまた豪勢なものだった。肉鍋に、季節の野菜や海の幸をふんだんに使った天麩羅に、茶碗蒸しに炊き込みご飯。フルーツの盛り合わせ。
「全部食べられる自信がないな」
「もし残りそうなら拙者がありがたく頂くでござる。けれどたくさん食べて大きくなるでござる」
「俺もそれなりに大きくなったつもりだけど」
 無表情の夕が放った台詞に小鉄が豪快に笑い出した。乾杯しようと杯を掲げ、る前に小鉄が呟く。
「やはり今度は皆で一緒に来たいでござるな。十影殿と二人旅も楽しいでござるが、他の皆にも温泉や食事を堪能して欲しいでござる」
「試飲巡りは諦める?」
「なんの、拙者は忍びでござる。当然忍んでいくでござるよ。なのでその時は十影殿も」
「……なるほど、俺も一緒に忍んで、ね」
 もっともそんな事をした日には英雄の雷が落ちるだろうが、小鉄と一緒に怒られるならなんだかそれも楽しそうだ。小鉄と二人で正座して、小鉄のおかんに説教される姿が浮かび、夕は思わず口の端を吊り上げる。
「それでは十影殿」
 小鉄に声を掛けられて、夕はジュースを持ち上げた。それから二人声を合わせて。
「「乾杯」」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【十影夕(aa0890)/外見性別:男性/外見年齢:19/能力者】
【小鉄(aa0213)/外見性別:男性/外見年齢:24/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。宇宙開拓物ゲームで忍者がぷかーと浮かんでいる話も考えたのですが、今回は男二人の温泉旅にさせて頂きました。イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願い致します。
 この度はおまかせのご注文、誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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2018年12月12日

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