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『二度目は直ぐ後の話 』
双樹 辰美aa3503hero001

 一戦交えてみたい。それだけの願いが何故叶えられないのだろう。気付かない間に無礼を働いてしまい、不興を買ってしまったならまだ理解は出来る。その時は故意にした行為ではないと説明をすれば、納得し希望に応えてくれるかもしれないとも思う。しかし彼が告げた戦いを拒む理由は、辰美にはどうしても覆せないものだった。
 視線を落とせば足元への視界を阻害するもの――自身の胸が映って、辰美は嘆息した。自分の性別を変えることなど出来ないが、もしもこれが潰して隠せる程度の大きさだったら、あるいは何か違っていたのだろうか。既に女と知られているから今更奮闘しても仕方ないが。
 辰美が気付いた時に覚えていたのは、名前と己が剣士であるということだけだった。そして初めて目にした自分以外の人間――彼はその外見、立振る舞いのいずれをとっても強者以外の何者でもなかった。だからここが何処か、自分がどういう状況に置かれているのかを聞くより先に勝負を挑んで。しかし敢えなく断られて、納得出来ずに強引に勝負を仕掛けて。それでもまともな戦いは叶わず、未だに辰美はこの地に留まっている。今は彼と雌雄を決することだけが目的だから。相手は強者だ、絶対に勝てるとまでは言わないが勝機はあると自負する。
 朝靄に包まれた自然の中、雑念を振り払って感覚を研ぎ澄ます。空気を吸い込んで肺を満たし、全身に気を循環させてから吐き出した。それを何度も繰り返すうちに自分と世界とが一つに混じり合った感覚がする。つまるところ、勝負において物を言うのは実力と経験だ。しかし相手の性格や戦い方を知るのと同じくらい、自然というものの在り方を理解するのも重要だと辰美は思う。生き物は等しく地面に繋ぎ止められているのだから。空を飛ぶ鳥さえ同様だ。
 真剣を抜き放ち、無心に振った。記憶が無くても型は体に染み付いている。
 そうして幾らかの時間が経過し、刀身を鞘に収め、疲労感から滲む汗を拭っていると後ろから拍手が聞こえて、辰美は振り返った。老女が笑みに皺を深くして近くのベンチに腰を下ろしている。おはようございますと挨拶すれば、彼女は頷きながら同じ言葉を返した。更に拝むように手を合わせる。体がうっすら透けているせいだろう、度々お年寄りにされる。驚きはしない辺り自分のような存在は珍しくないのかと思いつつも、色々と助けてもらっているのも確かなのでそこは素直に感謝している。
「今日も精が出るねぇ。そろそろまたやるのかい?」
「……はい。今度こそ、上手くやってみせます」
 そうかいそうかい、と老女は独り言のように呟き、
「頑張っておくれよ」
 と続けた。もう一度、はいと頷いて答える。
 申し出を受けてすらもらえなかったのが悔しくて、頭に血が昇っていたせいもあるのだろう。追い縋っても応えはなく、大きな背も見失った。最初はあの鳥居の前で待っていればいいと思ったが、自身の体を見れば悠長に構えている場合ではないと思い直して。それに彼が常に周辺にいる保証もない。ならばこちらから動くしかないと聞き込みして、情報収集を図ったのだ。その過程でこのおばあさんのような知り合いが出来、彼について理解を深めた。大柄で左頬に十字傷のある男性。そう告げるだけで名前も、元々ここの出身ではなく武者修行の為に一時的に留まっていることも、直ぐに分かった。
 辰美は強敵だが決して勝てない相手ではないだろうと彼の腕前を評している。そして彼も辰美を弱いと思っていないはずなのだ。でなければ「女と戦わない主義だ」ではなく、弱い奴とは戦いたくない、あるいはお前じゃ話にならない、といった言葉が出てきただろう。だから尚更戦いたいと思う。出来ることなら完膚なきまで打ち負かせるようになりたい。けれどおそらく、辰美にそれだけの時間は残されていない。
「よいしょっと」
「危ないですよ」
 言って反射的に伸ばした手は空を切り――危なっかしくベンチから立ち上がろうとしたおばあさんの体をすり抜ける。幸いにも転んでしまうことはなく、胸を撫で下ろしつつも触れられないことを寂しく思った。姿は誰にでも見えているようだし、物になら触れて掴むことも出来る。飲まず食わずでも支障はないので誘われても断るようにしているが、多分飲食も可能だろう。だから普段は、彼が泊まっている宿付近で奇襲を試みては失敗して一人反省会をしたり、こうして少しでも上達するように黙々研鑽を積んだり、そんな日常のせいで忘れがちになるが彼らと触れ合うことは出来ない。
(――あれ? でも……)
 追い縋った時に彼の腕を掴んだような。あの時は自分が透けているという自覚もなくて何の違和感も覚えなかったが、今にしてみれば不思議だ。戦いに支障が出ないのは喜ばしいが疑問が残る。一度きりだったから気のせいかもしれない。
 手のひらに視線を下ろす辰美をおばあさんが微笑み見守っていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa3503hero001/双樹 辰美/女性/17/ブレイブナイト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
最初は二人が仕事で留守の時に掃除や洗濯をする辰美さんを書こうと
思っていたんですが、リンクブレイブの醍醐味はやはり出会いかなと。
相性のいい能力者は誓約前の英雄に触れるらしいのでそこも触れつつ。
誓約する前の辰美さんは奇襲作戦と修行以外に何をしていたんだろう、
というところから考えて、彼女の礼儀正しい性格なら人に、
特にご老人方に気に入られそうだなあと思い、こんな話になりました。
今回は本当にありがとうございました!
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リンクブレイブ
2018年12月13日

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