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『Reach for 〜クラン・クィールス〜 』
クラン・クィールスka6605

 一時期、自分より大きな手が苦手だった。
 弱った自分を救いあげてくれそうな手が。
 力強く全てを受け止めてくれそうな手が。
 飢えや危険から遠ざけてくれそうな手が。

 そういった手は、幼い自分を痛めつけるも拘束するも意のままにできる手でもあると、身をもって知っていたからだ。


  *


 クラン・クィールスは向かいで手酌するダルマを見咎めた瞬間、しばらく忘れていたその感覚を不意に思い出した。

 先日は友人と共に訪ねて来たが、今日はひとり、ふらりと呑みにやって来ていた。龍園の雪を見ながら静かに呑むのも悪くない。そう思ったのだ。もっとも相手がダルマでは、静かに呑めるかは怪しかったが。
 招き入れられた龍騎士隊詰所の一室は、床に敷かれた龍鉱石の効果で意外な程暖かで、窓の外の銀世界がまるで現実味のない映像めいて感じられる程だった。
 音もなく降りしきる粉雪を肴に、男ふたり、ぽつぽつと呑んでいる。

 褐色でゴツゴツしたダルマの手と、クラン自身の手を見比べた。
 クランは決して華奢ではないし上背もある。ハンターとしての実績を確実に積んできており、得手の剣に加え銃器も扱えるようになったことで、対応できる戦場も戦術の幅も増えた。猛者揃いのハンターの中でも、クランを一方的に押さえつけられる者はほんの一握りだろう。
 そんなクランの手は実力相応に逞しく、長い指に恵まれた剣士らしい手をしている。
 けれど。
 またちらりとダルマの手を見やった。

(でかいな……やはり体格の差、か?)

 大柄で筋肉質なダルマの手は、やはり体格相応に大きく節くれだっていて、見るからにクランの手よりも力強いものに感じる。
 それでも一片の嫌悪もなく、冷静に観察できるようになっている自分を改めて実感する。

(俺自身も『大人』になったからなのか……あるいは、身に付けてきた力に対する自負なのか……)

 そんなことを考えてると、視線に気付いたダルマが無造作に酒瓶を差し出してきた。

「どうしたァ、お前もおかわりか?」

 ぬっと近づけられた手、そこから続く丸太のような腕。それでも特に感じることはない。
 クランはふっと目許を緩めると、その手から酒瓶を引ったくった。

「いや……貸せ。何も手酌することはないだろう?」
「別に良いじゃねェか、野郎同士のふたり呑みなんだしよォ」

 苦笑しつつ、差し出された杯を紅玉色の酒で満たす。それからどちらからともなく杯をかち合わせた。すぐに杯を干してしまったダルマにまた注いでやると、ダルマはしげしげと顔を覗き込んでくる。

「今日はいつも以上に大人しいな。何か考え事かァ?」
「いや、そういう訳じゃ……俺も変わったな、と思っただけだ」

 ぽそりと答えると、ダルマは何故だか嬉しそうににっかり笑う。

「そうだなァ、お前さんと一緒にこうして呑める日が来るたァな!」
「そこかよ……だからお前は俺の親父か何かか?」
「勿論そんだけじゃねェさ。見るたンびに仲睦まじくなってるようだしなァ?」
「何の話だ?」

 と、ダルマは意味ありげに声を潜め、クランの彼女の名を呟いた。

「っ……! ダルマ、わざわざそこに触れてくるのは中年臭いと思うぞ」
「何でだよ!? それに連れてお前さんの雰囲気っつーか人当たりも柔らかくなってる気がするしよォ、でっけぇ変化だろーがよ!?」
「!」

 言われて思わず振り返る。
 子供の時分に差し出された手に裏切られて以降、自分から他人に親しむことはおろか他人から距離を詰められることさえ忌避していた。
 ハンターになり、同じ目標を持って動く同業者と行動する内に、いつしか友人や仲間と呼べる存在もできてきたけれど。

 それでも――常に他者との間に築かずにはいられなかった透明な壁を、乗り越え、溶かし、傍らに寄り添ってくれたのは。

 こうして他人と呑もうと自ら訪ねるようになったのも、それが自分より大きな手を持つ相手であろうと気にしなくなったのも、彼女が壁を溶かしてくれたことが一因なのかもしれない。

「…………」

 そう思い至った途端、クランは脳裏に浮かぶ彼女の面影を振り払うように、軽くかぶりを振って顔を背けた。そうでもしなければ、火照りだした頬をダルマに見られてしまいそうで。
 だがしかしオッサンは目敏かった。

「なァんだよその反応は、顔真っ赤だぞ?」
「……っるさい。酔いが回っただけだ」
「何だよ良いじゃねェか、何か進展あったンなら聞かせろよ。ン?」
「絡むな酔っぱらいっ」
「はッ……! おいアレか、まさかお前さんも遂に『オトナ』に……? おおぅそりゃァ悪かった、オッサンでりかしーが足りなかったぜっ」
「は!? 違っ、」
「こりゃめでてェ! ほら呑め、祝いだ祝い!」

 既に出来上がっていたダルマは、ノリノリでクランの杯に酒を注いでいく。

「勿論責任取るンだろ? 式はいつだ? 子供は何人の予定だ? 披露宴の余興なら任せとけ!」
「〜〜ッ!! だから……っ! 人の話を! 聞けーーっっ!」

 珍しいクランの大声が、詰所中に響き渡った。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6605/クラン・クィールス/男性/20/変わりゆく片翼】
ゲストNPC
【kz0251/ダルマ/男性/36/年長龍騎士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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クランさんの龍園でのひとときのお話、お届けします。
オッサンがすみません。シナリオでご縁いただく度にクランさんの変化を感じておりましたので、
そこを中心に書かせていただきました。オッサンがすみません。
静かに呑んで頂く予定だったのですがオッサンがそうさせてくれませんでした……。
気になる点等ございましたらお気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命くださりありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年12月17日

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