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『今、ここにある幸せ 』
麻生 遊夜aa0452)&ユフォアリーヤaa0452hero001

「ふう……。ようやく、寝てくれた……」
 ユフォアリーヤことリーヤは、もうすぐ生後半年になる我が息子&娘が寝息を立て始めるのを見て、安堵のため息を吐く。
 今日は孤児院で夜からクリスマスパーティーを行う為に、朝早くから子供達や職員達と準備に大忙しだった。
 しかし双子の我が子はそんなことお構いなしに、お腹が空けば泣き、オムツが濡れては泣き、大きな物音にもすぐに反応して泣く。
 ゆえにリーヤはなかなか手伝い続けることができず、今は使用する予定の無い客間に我が子達と移動していた。
 ちょうどお昼時で双子に母乳を与える時間だったので、静かな空間で誰かの視線を感じることなく何とか済ませられたのだが……。
「赤ちゃん達はお腹いっぱいで眠っちゃったけど……、流石に戻りづらいなぁ」
 揺りかごの中で幸せそうに眠る子供達は、天使のように可愛い。愛する男性との間に生まれた子供達だからと――いうのもある。
 けれど今日のようにリーヤが手伝いをしなければならない時に泣かれると、ちょっと困ってしまう。
 孤児院にはたくさんの子供がいるものの、リーヤが産んだ子供達が一番年下だ。ゆえに職員や孤児達は可愛がってくれるのは嬉しいのだが、迷惑をかけているのではないかと心苦しく思う時がある。
「はあ……」
「どうした? ため息なんかついて」
 聞き慣れた声に導かれるように振り返ると、最愛の夫である麻生遊夜ことユーヤが客間に入って来るところだった。
「あっ……、ユーヤ。パーティー会場の準備、終わった……?」
「ああ。子供達がたくさん手伝ってくれたおかげでな。一段落ついて、今は休憩中。リーヤは食事の準備をすると言っていたのに、キッチンを覗いてみたらいなかった。だから職員に聞いて、ここへ来たんだ」
 説明しながらもユーヤはリーヤの隣に並ぶと、同じように揺りかごの中を覗き込む。
「子供達は昼寝か?」
「うん……。さっき母乳を飲ませたから……」
「そうか。そろそろ離乳食をはじめた方が良いんだよな? 少し買ってきてみたんだが、今夜、与えてみるか?」
「う〜ん……。そう、だね……。母乳だけじゃあ、そろそろ栄養が足りないかも……」
 生まれてはじめての冬を体調を崩さず越すには、やはり栄養の問題がある。
「とりあえず野菜のペーストとスープのレトルトや缶詰、フルーツをいくつか買ってきた。まあこのコ達が食べなかったら、俺達で食べればいいさ。薄味なだけで、大人でも食べられるみたいだしな」
「……ふふふっ」
「ん? 急に笑い出して、どうした?」
 ユーヤは不思議そうに首を傾げるも、リーヤは嬉しそうにニコニコと微笑んでいる。
「……だってユーヤ、キリっとしたお父さんの顔になっているんだもの。ボクが妊娠中の時や、このコ達が生まれたばかりの頃は……ずっとニコニコ顔ばっかりだったから……」
 当時のことを思い出したのか、ユーヤは少しだけ渋い表情を浮かべた。
「そりゃあ俺にとって、このコ達は自分の血を引いたはじめての子供だからな。でもいつまでも甘い顔はしていられない。一人前に育てることこそが、親の役目だからな」
「うふふっ……。そうだね」
 ユーヤは口ではそう言うものの、子供達にちょっとしたことがあると激しく一喜一憂する。
 その姿はリーヤや孤児や職員達がちょっと引いてしまうぐらいなので、後で注意しようと思っていたところだ。
 ふと、外から子供達のはしゃぐ声が聞こえてきた。
「ああ、また雪が降ってきたな」
 ユーヤは窓越しに、白い雪が静かに振り出してきたのを見て知る。
 休憩中の子供達の何人かが、はしゃぎながら雪と戯れていた。
「さっき外から荷物を運び入れる時に、足を滑らすところだった」
「ここ最近、ずっと降っているからね……。地面も滑るから、気を付けないと……」
「ああ。子供達にも後で言っておくか」
 ユーヤが困り顔になっているのには理由があり、あまりに寒い日々が続くと子供達が体調を崩すのではないかと心配しているのだ。
 孤児院は一人の子が風邪を引くと、瞬く間に大勢の子供に移るという難点がある。ゆえに風邪の防止策は徹底していると言っても良い。
「……でもさすがに、『雪が降っている時は外に出て遊ぶな』とは言わないよね……? ユーヤ?」
 リーヤがスゥッと眼を細めながら尋ねると、ユーヤはビクッと身体を震わせたものの、すぐに笑みを浮かべる。
「あっ当たり前、だろう?」
「ふぅーん……」
 確かに言わないだろうが、心の中では思っているらしい。
「あっ、もし良かったら、リーヤも外で遊んできたらどうだ? ちょうど子供達は寝ているし、俺も休憩中だから、な?」
「……うん。でもいい、大丈夫……。今はこうしてユーヤと子供達と、家族団らんしていたいから……」
 そう言って甘えるように、ユーヤに身体を預ける。
「そうか……。まあこうやって四人だけになるっていうのも、なかなかないからな」
 28人もの孤児と職員達がいると、こうやって家族だけになる機会が少ないのだ。
「……うん。でも本当は、ちょっと遊びたい心はあるの。やっぱり狼の獣人だから……かな?」
 リーヤは自分の頭に生えている狼耳を、ピンっと動かす。
「ああ、だからか? いつもより、リーヤの口数が多いのは」
「そう……かな? ……ん〜、確かに曇っていて太陽の光は隠れているし……、雪も降っているし……、今日はパーティーもあるから……、実はウキウキなのかも……♪」
 自覚なしで浮かれていたリーヤを愛おしく思い、ユーヤは肩に手を回して抱き寄せる。
「なら、俺のクリスマスプレゼントも楽しみにしていてくれ」
「うんっ……! ユーヤも楽しみにしててね」
 互いに間近で微笑み合うと、二人の子供が声を上げた。
 まるで自分達も『クリスマスプレゼントを楽しみにしているよ♪』とでも言っているかのように、笑顔で両手をパタパタと動かしている。
「もちろん、おまえ達のもちゃんと用意してあるぞ」
「後のお楽しみ……ね♪」
 父と母が子供達に手を伸ばすと、息子と娘は嬉しそうに小さな手を伸ばして差し出された指をギュッと掴む。
 我が子の可愛い仕草を見ながら、ふとリーヤは遠い目で呟く。
「……ユーヤ、幸せに……なろうね」
「ああ」
「愚神との戦いで……傷付いたコは、いっぱいいる。そのコ達も、幸せにしてあげようね……」
「……ああ」
 この孤児院には愚神のせいで、親を失った子供もいる。
 しかしだからといって、自分達と同じ戦いの道を歩ませるつもりは全くない。
 できるなら普通の人間としての幸せを得てほしい――と、二人は望んでいる。
 愚神がいなければユーヤとリーヤは出会えず、こんなに幸せを感じることはなかっただろう。
 だからと言って、戦う日々を選んだことが正しかったとは胸を張って言えない。
 戦いによって失った命、身も心も傷付いた者達が目の前にいたからこそ、孤児達には自分達と同じ道は歩んでほしくないと思えるのだ。
 愚神への復讐に燃えるのではなく、孤児達の親として幸せを望む者になれていることは密かな自慢ではある。
「……さて、ボクはそろそろ食事の準備に戻るよ。みんなに任せっきりじゃあ、流石に悪いし……。子供達のこと、少しの間お願いね……?」
「分かった。任せろよ」
「うん。……あっ、ユーヤの料理にはできるだけ……合成香味を使わないようにするね」
「それは頼む」
 匂いに関して敏感なユーヤは、真剣な表情で頼む。
「ん〜……。でもそれなら案外、子供達の離乳食で良い……のかも? 赤ちゃんのごはんって合成香味をほとんど使っていない……って聞いたこと、あるし……」
「うっ……!? そっそれは流石に止めてくれ……。残した物を食べるのならともかく、最初から同じメニューでは子供達に笑われてしまう……」
「うふふっ♪ そんな困った顔……、しないで。冗談だよ。それじゃあ……行ってくるね」
「ああ」
 リーヤはユーヤの額に軽くキスをして、子供達にも続いて頬にキスをして背を向ける。後ろからはしゃぐ三人の幸せそうな声を聞きながら、客間を出て行った。
 ――そんな妻の後ろ姿を見送り、ユーヤは声なく安堵のため息を吐く。
「朝早くからクリスマスパーティーの準備に参加すると言うから気になっていたが……、とりあえず大丈夫そうだな」
 こちらの世界に来た時から、太陽の光を苦手としていたリーヤ。
 冬は太陽が滅多に出ないとはいえ、最近は子供達の夜泣きで寝不足の日々が続いていた為に、ユーヤは心配していたのだ。
 しかし母となったリーヤは強かった。しっかりと前を見据えて、自ら動くほどに。
「リーヤの成長は嬉しいような寂しいような……」
 少しだけ悲しそうな顔をしていると、子供達が慰めるように両手をパタパタと動かして声をかけてきた。
「ああ、すまない。ここは素直に喜ぶべきだな。……でもおまえ達はそんなに早く成長しなくていいから、なっ?」
 孤児達には見せられないほどの情けない表情と声を、赤ん坊達にかけるユーヤ。
 その様子を少しだけ開いた扉の隙間から覗き見ていたリーヤは、お腹を抱えて声を出さずに笑うのに必死であった――。


<終わり>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0452@WTZERO/麻生 遊夜/男性/34/アイアンパンク】
【aa0452hero001@WTZEROHERO/ユフォアリーヤ/女性/16/ジャックポット】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご指名をしてくださり、まことにありがとうございました(ぺこり)。
 せっかくですので、クリスマスにちなんだストーリーを書いてみました。
 息子と娘がいる状態での、はじめてのクリスマスを楽しく過ごしている雰囲気が、少しでも伝わっていただければ嬉しいです。

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2018年12月17日

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