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『オートマトンの見る夢 』
深守・H・大樹ka7084)&トラウィスka7073

☆奇跡のスノードーム
 クリスマスイヴの夜、ハンターとしての一仕事を終えた深守・H・大樹とトラウィスは静かに雪が降る中、家への帰り道を歩いていた。
「ホワイトクリスマスとは、天からステキなプレゼントだね。普段なら夜に人々が出歩くことは少ないはずなんだけど、今夜は特別に人が多いよ」
「ええ、そうですね」
 街がクリスマス用にライトアップと飾り付けをされているおかげか、はしゃぐ人々があたたかい家の中から寒い外へ出ており、みんな笑顔で楽しそうだ。
 そんな様子を大樹は笑顔で、トラウィスは普段と変わらない無表情で見つめている。
 夜店の屋台もいくつも並んでおり、眼が引かれてしまう。
「おにいさん達、クリスマスにスノードームはいかが?」
 声をかけられて足を止めて見ると、十七歳ぐらいの少女が数多くのスノードームを売っていた。
「実はこのスノードーム、ちょっとした不思議な力があってね。寝る時に反対に回して中の雪が降っている間に眠ると、望み通りの夢を見ることができるんだよ。効果は一度きりで、見終わったら雪は無くなってしまうけどね。でも中の飾りは残るから、置物として使えるよ」
「ふふっ、それはおもしろいね」
 興味を引かれて大樹がスノードームに近付くと、トラウィスもそれに続く。
「クリスマスにしか効果が出ない物だから、お安くしておくよ。おにいさん達、カッコ良いしね♪」
「そこまで言われたら、買うしかないね。トラちゃんくんもどうだい? こういうのもたまには良いだろう?」
「……まあ、そうですね」
 不思議な効果のことは正直信じてはいないものの、それでもまだ若い女性が雪が降っている中でも笑顔で売り子をしている姿を見ると、力になってあげたいと思う。
「それじゃあ僕は、このログハウスのスノードームをいただこうかな」
「私はモミの木のスノードームを」
「まいどあり!」


 そして大樹とトラウィスはそれぞれ自宅に帰ると、スノードームをベッドサイドテーブルに置く。
 少女は言っていた通り、確かに安くしてくれた。今までこういう物にあまり興味が無かった二人だが、実際に買ってみると何となく心がはしゃいだ。
 寝る前に一度スノードームを逆さまにして、戻して置く。中に降る雪を見ながら、自分が望む夢とは何だろうと考えながら、眠りについた――。


☆二人が願う夢とは……
「……ま、大樹兄様! いつまで寝ているんですか? とっとと起きてください」
 バサッと布団をはぎ取られて、大樹は寒い空気に全身を包まれてブルっと震える。
「トラちゃんくん……。年上の従兄に対して、そういう態度はないんじゃないかな?」
「私より六つも年上で三十代になった大樹兄様こそ、いつまでも子供のような態度は止めてください。年下の従弟として、恥ずかしいです」
「ぐっ……! ……分かった、起きるよ」
「おじ様とおば様は街へ買い物に行きました。朝食は準備してありますよ」
「クリスマスデートとは、ウチの両親もまだまだ若いねぇ」
「ご両親の仲が良いことは、一人息子である大樹兄様にとっても良いことでしょう?」
「……恥ずかしい気持ちもあるんだけど。まっ、とりあえず朝食を食べようかな」
「リビングルームで待っています」
「はいはい」
 トラウィスが部屋を出て行くと、大樹は背伸びをしてベッドから降りる。普段着に着替えた後、洗面所で冷たい水で顔を洗うと意識がハッキリしてきた。
「昨日はハンターとしての依頼で夜遅くまで忙しかったのに、トラちゃんくんは元気だなぁ。……コレが二十代と三十代の大きな差、かな?」
 ブツブツと呟きながらリビングルームへ行くと、暖炉の炎のおかげで暖かい。テーブルには朝食が準備してあり、トラウィスがコーヒーを淹れてくれた。
「トラちゃんくん、朝ご飯は?」
「私はもう自分の家で食べてきましたよ」
 そう言いつつ大樹の向かいの席に座り、コーヒーを飲み始める。
 トラウィスの実家と、大樹の実家は歩いて五分もかからない場所にあった。そのおかげで二人は子供の頃から、実の兄弟のように仲が良い。通う学校も同じで、気付けばハンターという職業まで同じだ。クラスは別だが、それでも同じ依頼を引き受けることが多い。
 血の繋がった従兄弟であり、幼馴染であり、親友でもあり、同業者でもある。あまりに一緒にいることが多いので、兄弟と思われることが多いぐらいだ。
「今夜はこちらの家で、家族ぐるみのクリスマスパーティーがありますからね。もし出かけるとしても、夕方には戻って来てくださいよ」
「そんな予定、残念ながら無いよ。トラちゃんくんこそ、女性からのお誘いはなかったの?」
「私はハンターとして、年末年始のスケジュール調整を行う予定を入れましたので、全てお断りしました」
「……相変わらず真面目だねぇ」
 しっかり者の年下の従弟は女性にアプローチをされても、簡単に無視してしまう。
 本人いわく、「ハンターとしてまだまだ未熟な自分が女性と交際する余裕なんて今は無い」――らしい。
「歪虚は我々のスケジュールなどお構いなしに活動しますからね。頑張った分だけ人々の平和な暮らしを守れると思えば、難無きことです」
「うわぁ、トラちゃんくんの背後に後光が差しているよ」
「何をバカなことを言っているんですか? そもそも結婚の話ならば、私よりも大樹兄様の方が先でしょうに。おば様がお見合いの話を持ち掛けても、逃げてしまうばかりだと嘆いていましたよ?」
「うっ……! 甥っ子にそんな話をするとは……」
「三十歳で実家暮らしだとそうなるんですよ。……まあ一人息子だからご両親が心配で家に残る気持ちは、私も分からなくはないですけどね」
 大樹もトラウィスも一人息子なので、将来は嫁を貰うつもりだ。
 しかしそもそも、未だに二人とも付き合っている女性すらいないのが問題である。
「でもさあ、ハンターという職業上、出会いがなかなかないんだよね。魅力的な女性と出会うことはあるけど、みんな同業者ばっかりだし。家に嫁いでくれるという条件があると、同業者では難しいと思うんだよ」
「まあそこも否定できませんが……」
 女性ハンターは自分の仕事に誇りを持っている者が多く、専業主婦になろうと思う女性はほとんどいないと言って良い。
「ですが女性ハンターの場合、結婚後も仕事を続けても大丈夫なのでは? おじ様とおば様はケガをする前はハンターだったんですから、逆に理解があるかもしれませんよ?」
「う〜ん……。でも僕はお嫁さんや自分の子供達は家にいてほしいタイプなんだよねぇ」
「……めんどくさいタイプですね」
「何か言った?」
「いえ、何も」
 リビングルームの中の温度が一瞬、マイナスになった。
「ああ、そういえば、ちゃんとおじ様とおば様へのクリスマスプレゼントは用意したんでしょうね?」
「それはもちろん。良いブランドのペアマグカップを買ってあるよ。……買う時、店員の人に『恋人への贈り物ですか?』と満面の笑顔で聞かれた時は、表情が思わず強張ったけど……」
「だからそういう年齢なんですってば。でもまあお二人が喜びそうな物ですね。私も父にはコートを、母にはストールを購入しました。……しかし父のコートのサイズを知った時、以前より身長が小さくなっていることには衝撃を受けましたが……」
「人間、歳を取ると身体にも変化が訪れるものさ。僕達だって父と同じぐらいの年齢になれば、そうなるよ」
「はあ……。それまでに両親を安心させるような、息子になっていなければなりませんね」
「……いちいちチクチク刺してこないでよ」
「気のせいですよ」
 最近、従弟の態度が母に似てきたなぁと、大樹は思う。
 ――けれどそれが心地良くあり、ほっとする一時でもある。
 ハンターという職業上、修羅場を何度も経験しているが、慣れるものではない。
 その為、こういう平和な一時が一番落ち着けるのだ。
 ふと窓に視線を向けると、モミの木に雪が降り積もっているのが目に映る。
「おや、雪が降ってきたみたいだね」
「ホントですか? 外に出て、玄関先だけでも雪かきしてきましょうか。ご両親が帰ってくる前に」
「そうだね」
 空になった食器を流しに置くと、二人は厚着をして外に出た。
 ――だがそこで、二人は違和感を覚える。
 トラウィスは家の前にある立派なモミの木に、見覚えがあったのだ。
「……おや? このモミの木、ここではないどこかで見たことがあるような……」
 そして大樹もまた、出てきた家を見上げて目を丸くしている。
「……このログハウスが実家だったっけ?」
 真っ白な雪が降り積もるモミの木とログハウス、見覚えがある理由は……。


☆夢から覚めて
 二人は別の場所で、ほぼ同時に目が覚めた。そして視線は、ベッドサイドテーブルに置かれたスノードームへ向けられる。
 トラウィスはモミの木、大樹はログハウスのスノードームだが、眠る前に見た時と違いがあった。それは、中の白い雪が無くなっていたのだ。
 逆さまにしても雪は無く、ただの置物になってしまっていた。
 窓越しに外を見ると、本物の雪が静かに降り積もっている。
 胸に残るあたたかい熱を感じながら、二人はベッドから降りた。


<終わり>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka7084@WT10/深守・H・大樹/男性/30/疾影士(ストライダー)】
【ka7073@WT10/トラウィス/男性/24/機導師(アルケミスト)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご指名をしていただきまして、まことにありがとうございました(ぺこり)。
 せっかくですので、クリスマスにちなんだストーリーを書かせていただきました。
 二人が人間の男性であったなら……のIFストーリーを、楽しんでいただければと思います。

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ファナティックブラッド
2018年12月18日

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