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『この当たり前の日々を愛す 』
魂置 薙aa1688)&皆月 若葉aa0778

 エントランスホールは一足早く、クリスマス一色に染まっていた。上の階からも見通せる中央にクリスマスツリーが鎮座していて、その周辺にプレゼント箱やサンタクロースのオブジェが飾られている。遅い時間ではないが、冬は日が短く、ライトアップが施されているのも薙の目を引く大きな要因になっていた。
 ドレスコードに気は払うのだが、薙はファッションに対してこだわりがあるほうではなかった。動き易く肩が隠れて、変に思われなかったならそれでいい。英雄や友人たちと出会う前は顕著だった。しかし無頓着に、そしてエージェントの仕事や友人たちとの交流を優先しているうちに時間は過ぎ去って、さすがに人前では着れないほどくたびれた服も増えてしまった。それを親友との他愛ない会話の中で零したところ、新調しようと目を輝かせて言われたので、一ヶ月ほど先に服の大掃除を敢行し――。
「ん? 薙、もう行く?」
 と、立ち止まったのに合わせて隣に並び、待っていてくれた親友――若葉が薙の視線に気付き訊いてくる。
「うん、行こう!」
 薙が普段よりも強めのトーンでそう答えると、若葉はにっと歯を見せて笑って、数秒周辺を見渡した後に「じゃあ、まずはあの店だね」と一階の近くにある店舗を指差した。二人で連れ立ち歩きながら、薙は気恥ずかしさからほのかに熱を持った頬を隠すように、若葉から一歩分だけ遅れて進む。彼は他人の感情の機微に聡い気遣いの達人だから、薙が親友と二人、ショッピングモールで買い物を楽しむというこの状況に浮かれていることなど筒抜けだろうけど。
(それでも、やっぱり、恥ずかしい……)
 薙が一人で羞恥心と戦っているうちに店内に入る。そこは二人の年齢からすると若干敷居が高く感じるフォーマルウェアが並ぶ店だったが、普段も仕事中もカジュアルな服装が多い若葉のイメージと違っているのが、逆に興味を惹かれる。それに、これからも自分たちは歳を重ねていくのだから、いつかこういう格好が当たり前になるのだろう。
「若葉、これ、いいんじゃない?」
 分かれずに若葉の後ろを歩きながら、右手側のハンガーラックにかかった服を見ていた薙が声をかけると若葉は振り返り薙が指し示す先を見やった。飾り気のないシンプルなジャケットで、色も黒単色。彼が普段着ないような雰囲気があるが、似合うと薙は確信した。
「凄く格好いい感じだね。俺に合うかな?」
「うん。絶対に、似合うよ。ね、着てみて」
 薙が言ってラックからジャケットを取ると、若葉はそれを受け取って試着室へ向かった。薙も近くまで一緒に行って、今度は辺りにある帽子を眺めつつ待つ。直に試着室のカーテンが開き、
「……どうかな?」
 と、自分の体に視線を落としながら若葉が訊いてくる。薄茶から黒に上着の色を変えただけでも、随分印象は変わるものだ。
「いい感じ! あ、でも」
 ふと閃くものがあって、薙は先程まで見ていた棚まで戻ると幾つかある色違いの中から一つ選んで彼の前まで戻った。これも、と言葉を沿えて手渡せば、
「確かに合いそう」
 と言ってそのまま若葉は黒の中折れ帽を被った。巻かれているリボンは彼の髪色に近い赤だ。紫や青もあったがやはりこれがしっくりくる。
「うん、かっこいい」
 普段ならどちらかといえば可愛いイメージがある若葉だが、戦っている時や日常でも時折大人びた一面――成人しているのを思えば不適切な表現かもしれないが――を見せることがある。そういう場面での彼は格好よくて、年上なのだと強く実感する。そのイメージで選んだ贔屓目を抜きにしてもよく似合っていて、自分の見立ては間違っていなかったと満足し、頷く。
「そんなストレートに褒められるとちょっと恥ずかしいかも」
 若葉は試着室から出て来たときよりも照れくさそうに言う。
「でも新鮮だし、面白いなー。こういうのって友達に選んでもらう醍醐味だよね」
 満面の笑みで両方買おうと付け足す若葉を見ていると、選んだ薙も嬉しくなる。
「気に入ってくれて、嬉しい」
「じゃあ次は俺の番かな」
 着替え直し、ジャケットと帽子を抱えた若葉が店内を回るのについていく。まず彼は薙が見た中から黒のリボンがついた色違いの帽子を選んで、次にキャメルのチェスターコートを渡す。そして試着には待ったをかけ、ハイネックのニットが並ぶラックの前で立ち止まると、
「インナーは黒……いや、白もありかな?」
 言いつつ両手に持ったその二色のニットを交互に薙の体に当てて悩み、少しして白のほうに決める。薙はその三点を抱え持って試着室へと入った。そして暫く経ち、
「どう、かな」
「うん、いいと思うよ」
 若葉がぐっと親指を立ててみせるのを見て、薙はようやく先程の彼の気持ちを理解した。相手の好意や感性への疑いは微塵もないけれど、普段と違う大人な装いを似合うと勧められ、更に褒められるのは嬉しいと同時に少し恥ずかしい。それは薙が若葉を見ているのと同じく、彼が自分を見てくれている証でもあるから。自然とあまり意識しなくなっていた親友という関係性にくすぐったさを覚える。
 未だにふと鏡を見たとき、過去を思い起こすことがある。意図的に残した左肩の傷以外綺麗に治っているのに、自分の一部が造り変わっている現実を自覚する。だから後悔に囚われていた頃は鏡を見るのがたまらなく嫌だった。――でも。
(今は、嫌じゃ、ない)
 むしろ自分の生を強く噛み締める。あの日交わした誓約と、友人たち。積み重ねてきた時間が確かに薙を変えていった。そうして自分に様々なものをくれた彼らを、彼らがいる日常を守りたい。彼らと一緒に生きていたい。
「ん? 薙、どうかした?」
「う、ううん。大丈夫。僕もこれ、買う、ね」
 やはり先程の薙に近い心境になっているのだろう。やった、と笑う若葉と一緒に会計に並んで紙袋を一つずつ持ちながら次の店に向かった。歩き回って今度は薙がカジュアルな店をセレクトする。色々な種類の冬用アイテムを揃えるほうがいいと思ったのだ。一式コーディネートしたいなと思いつつも、視線は店頭にあった帽子に引き寄せられた。帽子というよりはゴーグルの印象が強いが、元気な感じもやはり若葉にはよく似合う。
「これとか、どう?」
「いいね、こういうの好きだな」
 薙が渡した白のニットキャップを受け取って、若葉は後ろを向く。無造作に自分の頭に被せた後、目元が隠れないようにつばの角度を調整して振り向いた彼は、ドヤ顔と表現するに相応しい自信満々な表情をしており、薙は思わず吹き出し、慌てて口を隠した。してやったりという顔つきを見るとわざとだったらしい。もうと笑って若葉の腕を小突けば、つられたように彼も笑い声をあげた。
「こっちも、あったかそう」
 ひとしきり笑い合い、先程渡した物の近くにある帽子を二つ手に取る。一つはニットキャップの前面や耳当ての部分を含む内側にファーが付いた、見るからに暖かそうな物。もう一つはつば付きキャップで素材がニットではなくボアの物だ。どちらも触り心地がいい。
「これは薙にも似合う気が……」
 二つを並べて見せていると若葉が耳当てのついたほうをひょいと持ち上げ、そして一歩踏み出す。
(ち、近い……!)
 意表を突かれて動けない薙に気付いていないらしく、ぐっと顔を近付け若葉が帽子を被せてくる。身長がほとんど変わらないので少しだけ上目に帽子の向きや深さを調整する彼の楽しそうな顔がよく見えた。照れを自覚した直後に若葉は距離を戻し、薙も誤魔化すように棚の上にある鏡に顔を向ける。
「っこれも、いいね!」
「ばっちり似合ってるし、ほんと暖かそうだね」
「すごく、あったかい」
 被ってみると見た目以上に暖かいのが分かる。若葉にも暖かい物をと思って、彼が薙の持っていたボアのキャップも試しているのを見ると、帽子以外にしようと考え、反対側の棚にあるマフラーへと目を向けた。色柄と素材に悩んで、首の大部分をカバーしてくれそうな幅広のマフラーを手に取った。振り返って、考えているのを見ていたらしい若葉に慣れない手つきで丁寧に巻く。
「よく、似合ってる」
「温かい色合いがいいね」
 フリンジを触りながら若葉が笑い返す。クリーム色に茶色のラインが入っていて、単体だと地味だが今の彼のように青や紺の入った服だと色が締まるし、一軒目で買ったクラシカル系の服装にもよく馴染む。
「じゃあこれも買っちゃおう」
 うん、と頷いて答えてまたレジへと向かう。前の店の紙袋にまとめて入れてもらって、ずっしりと重みのあるそれを手に次の店を探した。何年も困らないくらい買ってきていいと姉のような存在から結構な金額を渡されている。まだ余裕はあった。
(全然、疲れない。……楽しい、な)
 改めてそう思って、笑みが零れた。

 ◆◇◆

 親友が楽しそうで何よりだと、何度思ったことか。初めは一応年上だからか敬語にさん付けだったし、若葉も薙を名字で呼んでいた。それが忙しくも充実した濃密な日々を重ねて、今では親友と呼べる関係にある。それを実感して、この日常を守りたいと改めて思った。薙とは守り守られる対等な関係ではあるけど。
(って、仕事の話は今日はナシ)
 胸中で呟くと若葉はちら、と店頭で立ち止まったものの多分若葉に合わせる物だろう靴を決めかねている薙の姿を見た。口にもしたが友達に選んでもらうのは楽しい。少し考えて、
「薙は青系やモノトーンなイメージだから、統一したり……思い切って差し色で赤とかどうかな?」
 と、買い物籠に五足ほど詰めて薙の前に持っていく。
「……いいかも」
 薙は赤色のスニーカーを手に驚いた顔をしつつも履いて鏡で確認し、自分の籠にそれを入れた。他の靴も試しては二人であれこれ言いながら買うか判断して、今度は薙がまた選んでくると気合いを入れて店内を回るのを椅子に腰かけて眺める。それだけで若葉自身も楽しくなった。
「若葉は、茶系と黒の組み合わせの服が、多いイメージある」
 それに合わせるならと考えて薙が持ってきたのは、モスグリーンのハイカットシューズや黒地に明るい緑色のラインが入ったスニーカーだ。
「うわ、このデザインいいね!」
 自分でもテンションが上がっているのが分かる。受け取り、実際に履いて軽く足踏みしてみると見た目だけでなく履き心地も抜群だった。
「うん、いい感じ! このまま履いて帰ろうかな」
「若葉、気が早い」
 言って薙は若葉から隠すように手で自身の顔を覆った。喜びを隠さない反応が嬉しかったらしい。その様子を見て若葉も嬉しさを感じつつ、スニーカーも試そうと椅子へ座り直した。買い物はもう少しだけ続く。

「いい買い物ができたよ」
「たくさん、買ったね」
 並んで歩きながらそう言い合ったのは閉店も近い頃だった。このまま二人で途中まで一緒に家路を辿る。紙袋はお互い両手に一つずつだが中に複数の店の衣料品が入っていて、鍛えていなければ筋肉痛に見舞われそうな重みになっている。途中で軽食をとったこともあって充足感が凄かった。
「あ、そうだ」
 薙と一緒に袋に上手く詰めようと四苦八苦していて、渡しそびれていた物がある。紙袋の紐を肘で留めて器用にもう片方の中身を探る。上のほうに入れておいたので直ぐに見つかった。
「これは薙に、今日はありがとう」
 少しだけだが自分で選んだ物も何点かあったので、薙も気付かなかったのだろう。白と黒とちょうど中間くらいのグレーのストライプ柄になっているマフラーを彼に手渡した。薙は驚いた顔をして、それからこちらを見ると、ほんの少しの間だけぼうっとした。知らない間に何か付いていたのかなと考えて、でもそれなら言ってくれるはずだと思い直す。それとも変な顔になっていたかと不安になる。とにかくお礼を言いたくて自分がどんな顔をしていたのか、全く自覚がなかった。若葉が気になって口を開くより早く薙は我に返って、
「こちらこそ、ありがと! 大事にする」
 と、若葉と同じように紙袋を肘に引っ掛けて、両手で持ち直したマフラーをぎゅっと抱き締めて微笑んだ。
「つけてく?」
 若葉が言ってモスグリーンの靴の爪先で地面を突いてみせれば、薙は頷いて簡易包装を取って袋に仕舞い、自分の首に巻いてみせる。タグが見えないよう整えた。
「ありがと、若葉」
「どういたしまして!」
 今年の冬もまた、忙しくも楽しい毎日が待っている。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1688/魂置 薙/男性/18/アイアンパンク】
【aa0778/皆月 若葉/男性/20/人間】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
5000字あっても結局尺がカツカツになってしまいました。
行動内容に少し反映出来ていない部分があったり、
視点の関係ではっきり描写出来なかったりしたんですが、
わたしにはこれで一杯一杯でした。申し訳ない限りです。
会話の雰囲気を掴もうと薙くんのつぶやきを見ていたら、
勝手に感慨深くなり。若葉くんの兄感……凄く好きです。
今回は本当にありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
りや クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年12月17日

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