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『君と過ごす贅沢な時間 』
鞍馬 真ka5819

「誕生日おめでとう、透。きみが生まれたこの日に感謝を!」
「……。うん。今日はどうも有難うな、真」
 鞍馬 真のことを、暗い人間だと思ったことは一度もない、が。待ち合わせの場所に現れた彼は、いつもよりひときわ明るい気がして、正直なところ伊佐美 透は少々面食らいながら、挨拶を返した。別に、落ち着きが無いわけでは無いが。
 そんなわけで、透の誕生日である。
 祝いがしたいという真の申し出を、透は有難く受け取ることにして、そうして二人、街に繰り出している。
 街並みはすっかり聖輝節のそれだ。華やかに彩られた商店街を歩くのはそれだけで少しわくわくする。まだ当日では無いが、準備のために買い出しに出てる家族連れや恋人たちの姿はよく見かけるし、それを目当てに各店もセールに盛り上がっている。
 そんな道を歩きながら、どこに行こうかとあちこちの店を何とはなしに二人、眺めて回っていた。
 ……今日はお祝なので真の奢りで食べに行く。押し切られる形でそう決定した本日の事であるが、じゃあ何が食べに行きたいか、を事前に決めることは無く。当日見ながら決めても良いか、という提案を、真は深く考えずに了承してくれた。……下手に「これがいい」と品目を決めて、やたら高価な店など選ばれたりしないだろうか、と危惧したからなのは、内緒である。
「そう言えば透は、買い出しとかは良いの?」
「あー……うん、特に、今買わなきゃいけないものは思いつかない、かな」
「そう。でもあちこちセール中だよ? 折角だから何か買っていっても良いんじゃないかな」
「うー……ん。いや、いいや。やっぱり。欲しいものが特に思いつかない」
「……もしかして、遠慮とかしてる? 流石に、透が迷惑しているのに、必要以上に何かを押し付けたりはしないよ?」
 ふと思いついたように、苦笑して聞いてくる真に、透はやっぱり苦笑して首を横に振る。
「いやそもそも、どうにもあんまり物欲がないんだよな。無いというか……自分に物を片付けるという余裕が足りないことに気がついて、対処としてじゃあ物を増やさない、という手段をとるようにしたら、無くなっていったというか……」
 後半は視線を泳がせながら答える透。
「ああ……成程物が無ければ片付ける必要もない……か。……透は賢いなあ」
 応じるうちに、真の視線はそれよりもっと泳いだ。
「……。片付け、真も苦手か」
「……。ひ、一人暮らしの男、相応じゃないかな?」
 言いながらしかし、そう言えばこないだ唐揚げ食べに行ったとき透の部屋は片付いていたな、と思い返す真である。……そして確かに、物は少ないと感じた。少し、寂しいとすら思えるほどに。……まるで、ずっと仮住まいであるかのような空間。
「……」
「……」
「何食おうか」
「そうだねえ」
 そうして、微妙な空気を互いに察して、この話題はここでやめることにした二人である。
「あったかいもんがいいよなあ」
「そうだねえ。すっかり冷えるようになったねえ」
 冬の道を行くのは実際寒い。何気ない会話をしながら街を歩くのもなんだかんだ、悪い時間では無かったが、自覚すると思ったより体が冷え始めている。
 そうして。
「あれ、美味そうじゃないか?」
「おっけー」
 透が一つの店を指し示すと、主賓の決定に文句があるわけもなく、今日の店はそこに決まった。

 鍋、である。
 と言っても、和食の店、というわけでは無い。
 ここリゼリオでそれなりに年季を感じさせるその店で注文したのは、野菜にキノコ、ソーセージに魚介といった具材がミルクをベースにしたスープに入って鍋ごと供されるというもの。サラッとしているがコクがある味付けはシチューに近い。魔導機械に置かれて冷めないようになっているそれを味わうのは暖まるし、トロトロになっていく野菜がこれまたならではのもので味わい深い。
 その他、美味しそうなもの、酒のつまみになるものをいくつか注文し、更に、まずはとスパークリングワインを瓶で注文し、乾杯する。
「改めて。誕生日おめでとう、透!」
「ありがとう。大切な友人に祝ってもらえて、とても幸せだよ」
 グラスを合わせ、酒を口にしながら、料理を堪能する。
「温まるなー……」
 鍋をつついて一言、まず出るのはその言葉である。
「美味しいね。この店に決めて良かった。有難う」
 ふわりと微笑んで真が言う。
「いや俺こそ。本当、誘ってもらえて嬉しかったよ。……何もなければどうせ、自分で適当に済ませて、一人ケーキの予定だったしなあ」
「あはは。……去年はちゃんと祝えなくてごめん。ただ……」
「……。うん。あの頃は……そうだな。踏み出すと決めたけど、その実不安しかなくて、余裕が無かったし。君とも……まだ、『鞍馬さん』だったよな」
 思い返してみれば、たった一年ほどで、色々なものが大きく変わった。
「あれ? そういえばチィさんとは?」
「……ああそう言えば。あいつには確かに、祝ってもらってはいるっちゃあいるな」
「何か微妙? ああ、でもやっぱり彼がいち早くだったのかな。流石に、積年の相棒には後れを取ったかな」
 くすくす笑いながら真が聞くと、透は神妙な顔つきになる。
「まあある意味いち早くっつったら誰よりもいち早くだが。今年は確か六月くらいに」
「六月」
「六月」
「透の誕生日?」
「言っておくと今日で間違いない。あいつ本っ当日付ってもんを気にしないんだよ」
 だが歳を重ねたという事を祝うという概念はあるらしく、一年に一度どこかで「今思い出したんで今日やりやしょう」と言われて二人分を祝う。それが透とチィの誕生祝である。
「……自由だねえ、彼……」
「もう慣れたけどな……」
 そんな風に、たわいのない会話を重ねながら、食事が、酒が進んでいく。
 これまでの戦いで。まだその精神疲労が言えたわけでは無い真だが、今日はその陰も気付かないほどに、祝う気持ちが前面に出ているようだ。
 杯を傾けて、いつになくふわふわとその表情を崩して……。
(……待てよ、これは……)
 何となく見覚えのある雰囲気に、透は思わず身構える。そして。
「……しかし、透はやっぱりイケメンだよねえ……」
「あ、うん。やっぱりまた始まるのか。それ」
 以前にも見た姿。それに、透はそういうものなのか、と確信する。
 鞍馬 真。酔うとやたらと人を褒め始める。

「だってさあ。透は本当に背も高いし……体格もいいし……はあ……羨ましいなあ……」
 いや、今日はただ褒めるというだけの感じでも無いかもしれない。逆に気が抜けているせいか、自身の身長や華奢な体格を気にする風なそぶりが滲み出ている。
 そんな真の様子に、ふと気がついて透は言った。
「身長はともかく体格を気にするならさ。君、食事ちゃんと気を使ってるか?」
「……え? う……」
「どうせ、忙しいとか言って雑に済ませたり抜いたりしてるんじゃないのか。それであれだけハードワークしてたら、そりゃ細ってくだろうよ」
 言って、透は鍋からキノコや魚の切り身などをごっそりと掬い取って真の皿によそいつける。
「はい。そういうわけで筋肉付けたいならまず食べる」
「は、はーい。って、流石にこれ多くない? これじゃまず太るから……」
「そうだよ。一旦太ってから絞る。筋トレやるなら付き合うよ? 二人だと出来ることも増えるし」
「あ、うん、ええと」
 何気ない愚痴だったのに結構なマジレスが返ってきて、真は戸惑う。が、そういう事なら筋トレをしてもらうのも悪くない気もして……そうして、戸惑うというか、躊躇う本当の理由に気付く。
 透は分かっていたように、ふ、と微笑んだ。
「……でも、自分の見栄えを気にしてそこに時間かけるより、一人でも誰かを助けに行けないかってことが気になるんだろ、真は」
「いや……そんな……」
「格好いいよ。真は。真の格好良さがある」
 じっと見つめながら言われて、真は……何も言えず、でも、受け止めることも出来ず、沈黙して視線を伏せるしかなかった。
「……贅沢な時間だよな、今」
 そうして、視線を横に、聖輝節に輝く窓の外へと流して、ぽつりと透は言った。
「君とこうして、ゆっくり、沢山話がしたかった。下らない話も。それから……」
 真はいつも忙しいし、依頼で顔を合わせるとき──ハンターとして事件に向かっているときは、透に余裕が無いことが殆どだった。寂しそうな、悔やむような透の言葉に、真はハ、と、顔を上げる。
「私は透の言葉に、行動に、いっぱい助けて貰っているんだ。だから、もっと自信を持ってよ」
 少し前に言われた言葉を思い出して、真は透にそう話しかける。
「……でも、そうやって俺の言葉を受け取る度に、君はなんだか申し訳なさそうな顔をするだろう。結局、君に残るものが罪悪感や劣等感なら……俺が君に与えているのは、希望なんかじゃない、もっと性質の悪いものじゃないのか」
「それは……違う。君の言葉が悪いんじゃない。……私の問題なんだ」
 真には自覚がある。透に向ける羨望や信頼、親愛。そこに若干、拗らせたものがあることに。だけどそれは、透の存在から目を背けたいという類のものでは、決してないはずだ。
 透はそれでも、そうじゃない、と首を振る。
「俺は君に、ちゃんと伝えられていない。俺が君に一番に伝えたいことは、綺麗事や、希望なんて大層なものじゃないんだ。──君に感謝を。尊敬を。信頼を。君と同じくらい、君以上に。俺は一度も君に貸しを作ったつもりなんかない。どんな言葉も行動も、君を信じて、頼ることが出来たから為せた。大言壮語を吐いても、きっと君が居るから何とかなる、と。俺はずっと、共に戦って、支え合ってるつもりだったよ。……でもその感謝が、どうやったら君に伝わるんだろう」
「透……」
 ──嗚呼、今日この時の、なんて贅沢。なんて幸福。
 君と話したいことがあったんだ。もっと、沢山。
「……俺には。君が失ったものを判ってやることは出来ない。君の暗い部分をじっくり聞くのは、俺じゃないんだろう」
「……。ごめん。夢を追うきみには……自分の事で煩わせるのが、どうしても嫌なんだ」
「いやいいんだ。それで正しい。言ったろう、俺は身勝手だよ。自分の夢の事で目一杯でさ。出来るのは結局、それを目指しながら必要なことのついでで……人に割いてやれる余裕は、それほどない。例えば、君が重大な怪我や病気で倒れたとして……それが公演期間中だったりしたら、俺は駆けつけられないんだ。そんな奴だから」
「そんなこと、気にしないで。むしろそれを聞けてすごく安心したよ。私が透の芝居の邪魔をするなんて、絶対に嫌だからね」
「うん、だからつまり……俺は成れないけど、君が弱い部分を預けられる場所が見つかると良いなって、そう思ってる。……小隊、所属することにしたんだって? おめでとう……は変なのかな。つまりそう、なんか安心したよ」
「……私の空虚をどうするのかは、分からないけど、そうだね。所属してみて良かったと、少なくとも今は思ってる。大規模作戦の度に、一人で頑張って来たけどさ。皆で作戦を立てて、皆で動くっていうのが……思っていた以上に、楽しかったんだ」
「あの人の所だから、だからか? 受勲者としてとかで何度か噂は聞いてたけど、うん。一緒に戦えた時、すごい人だな、って思ったよ」
「うん、あのね。……──」
「しかし君は本当、知り合いを褒めたり褒められたりするときに生き生きするよなー」

 店を出る。
 まだ本番じゃない街の夜は人気が減って、それでも飾りに輝きが満ち溢れていて。その中を歩きながら、まだまだ話す。
「そうだ。忘れないうちに、これ」
 真がプレゼントと言って取り出したのは、猛禽類「マウントホーク」を模ったメダリオンだった。
 御守りだ。その鳥の習性に因んで願われる意味は──「無事故郷に帰れるように」。
 瞳の部分に嵌められたその宝石の色は蒼。……透が帰りたいと願ってやまない故郷を思わせる。
「……ありがとう。最高の贈り物だ」
 その意味を理解して、透は心からそう言って、大事に、大事にそれを見つめる。
「……どうしようか。こんな……嬉しい。本当に嬉しいのに、君の誕生日に、何もしてないのにさ……」
 感動と、後悔の入り交じった泣きそうな声で透は押し殺した声を漏らす。
「いいんだよ。私は小隊の皆に祝ってもらってるからね」
「……うん。そこや、恋人に祝ってもらってると思ったんだ。だから……」
 こちらから連絡を取ることは憚られて。結局、プレゼントも用意できなくて。返せないことが……悔やまれて、堪らない。
 真はふ、と笑った。
「じゃあさあ……頭を撫でてくれないかな」
「……え」
「好きなんだ。安心するから。……だから誕生日プレゼントに、頭、撫でてくれないかな」
「え、ええ……?」
 困惑しながら、それでも近づいてくる真を拒絶するわけにもいかず、透はポン、と真の頭に手を置く。
「あー……」
 すごく幸せそうに目を閉じる真。
「……」
 撫でる透。
「うん……」
「……いや、良いのかこれで」
「とっても」
「……」
「あ、撫でるのも好きだよ?」
「え。いや、撫でるのか」
「透が良かったら」
「いや俺ー? 撫でるの俺ー? それどうかなー」
「嫌ならいいけどー……」
「いやなんかもう……こうなりゃ好きにすれば良いけど……」
 と言うことで、攻守交代である。真に撫でられる透。
「うーん……」
 満足げな真。
「……。いやごめん。そろそろ良い? そろそろ何なのこれ!?」
 何なのと言われると、男同士(本日をもって互いに28歳)頭を撫で合うの図である。
 ……改めてちゃんと文字にするとカオス。
「ぷっ……ふふふ、あはははははっ!」
 真が笑い出す。本当に、本当に楽しそうに。
「贅沢だっ……! 本当に贅沢な時間だねえっ……!」
「ああ……贅沢だなあっ!」
 それを聞いて、透も笑い出す。
 沢山の話をするのも良いけど。
 ただ、こんな馬鹿みたいな時間を! 君と!
「……来年も、その次も。ずっと、一緒に祝えたら良いなあ」
 真が、ぽつりと言った。
 その声の、響き。それに。
「もしも、君が」
 掌のメダル。そこに望まれた未来を見つめながら。透は思う。
「また、今の君を失うことを恐れて、未来をあきらめているのなら」
 彼の暗闇に手を伸ばしてやることは出来ない。だから自分が真に何かを返すなら。
「誓うよ。……また君に見つけてもらえるくらいの役者になって、待ってるから」
 自分が目指す先にある希望を。綺麗事でも。
「だから君は恐れなくていい。今の君のありのままを俺に残すことを、躊躇わなくていい。君は俺を裏切らない。捨てていかない」
 見上げる先に、ツリーがある。聖輝節の星が、そこに輝いている。
「また祝える。何度だって。……俺とは多少日付がズレてもいいから、来年は君の誕生日もな?」
 願うものは同じだった。

 ──……かけがえのない友に、願う未来が訪れますように。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】
【kz0243/伊佐美 透/男性/28/闘狩人(エンフォーサー)】(NPC)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
この度はご発注ありがとうございます。
……いや、本当にありがとうございます。
本文中でも繰り返しお伝えしましたが、本当に贅沢な時間でした。
いつかきちんと伝えたいと思っていたことや、取り敢えず思い付いちゃった小ネタ、余すところなく書ききることが出来ました。
本当に、お馬鹿なことに使う字数があるってこちらからすると奇跡的なことで……。
でも、本当は、友人と過ごしたいのは、真面目な話ばかりじゃなく、こんな時間です。
……少し愚痴のような話になってしまいますが。
やはりNPCというのは本来、PC同士のような関係にはなれないと思っています。
作戦掲示板で相談をすることが出来ません。
気軽に実アイテムとしてのプレゼントも渡せません。
呟きやギルドで、交互のやり取りをしながら話をする、というのにも節度があります。
辛い思いをしているのを見ながら、シナリオを出す以外に出来ることはなく。
他のPCさんとのやり取りを見て、勝手に心でお願いしつつもああ、やっぱりPCさん同士には敵わないなあと。
それで良いんですが。コミュニティゲームってのは本当、PC同士でそうあるべきでこれで正しいもんと思うんですが。
それでもやっぱり、どこか寂しいなあという気持ちは消せなくて。
だから今回本当、お前……贅沢なやつだなあと。幸せなやつだなあと。
何度でも言い足りないのですが、ありがとうございます。
今回の発注だけでなく、ここまでの関係に。
終了までまだ色々あると思いますが、どうぞよろしく。
イベントノベル(パーティ) -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年12月17日

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