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『宿縁の軌跡 』
柳生 楓aa3403

 アイルランド南方の港町、キールセンの夕暮れに行き交う人々。
 その奔放に淀みない流れが、ある一点へ至った瞬間唐突に曲げられ、弾かれ、視線を釘づけられては引き剥がされていく。
 近寄りがたかったのだ。
 すれちがうことすらためらわれたのだ。
 見つめ続けるにはまぶしすぎたのだ。
 そしてなにより――痛ましかったのだ。

 人々の形成したエアポケットの中心点にあるものは、ひとりの少女。
 髪の色と合わせた薄青のパファージャケットの高い襟に埋めた美しい面は厳しく引き締められていたが、落としきれないやさしさと切なさが映り込んでいて、儚げだ。男女の別を問わず、思わず惹き寄せられてしまうほどに。
 だが。
 あえて剥き出された脚は金属質の外殻で覆われていて、それが造りものであることを知らしめていて……
「自虐か、機械じかけの聖女サマ」
 エアスポットの内、ただひとり踏み込んできた少女が、白髪を白指でイライラと払い、白面のただ中にある赤眼をしかめて吐き捨てた。
「目印です。あなたが私を見つけてくれるように」
 機械の脚から小さな駆動音を発し、薄青の少女が白き少女へと踏み出す。
 彼女の名は柳生 楓。H.O.P.E.東京海上支部に所属するエージェントであり、白き少女と宿縁を繋いだ者。
「笑い合って茶を飲むような仲でもないだろうに」
 顔をしかめたまま歩き出すアルビノの少女――リュミドラ・ネウローエヴナ・パヴリヴィチ。愚神勢力の一派である人狼群を率いるヴィランであり、楓に宿縁を繋がれた者。
 あといくばくかの後、ふたりは決戦の場にて相対することとなる。
 これはその寸前に描かれた、ささいな話。


「もうすぐクリスマスですね」
 リュミドラと並び、街に溢れるクリスマスミュージックへ耳を傾ける楓。
「だからって25日の朝が来るのを指折り数えることもないさ。あたしはもうプレゼントをもらったから。音よりも迅く飛ぶ弾を」
 鉱石の愚神ウルカグアリーからの贈り物、というわけだ。
 なぜか薄笑んだ楓は、いぶかしげに眉をひそめたリュミドラを見ず、応える。
「でしたらそれは、あなたから私へのプレゼントになるんですね」
 人狼群の内からリュミドラを人界へ引き戻す。それだけを考えて、しかしなにを為すこともできぬままここまで来た。
 このまま、どちらかの死をもって宿縁の糸はちぎれ落ちるだけなのかもしれない。
 それでも。
「私、逃げませんから。歩を迷わせることも、顔をそむけることも、絶対にしません。まっすぐにあなたを見据えて、狼に囚われたあなたへ向かいます」
 これは聖女の慈愛なんかじゃない。柳生 楓がみっともなく駄々をこねて泣きわめいて、それでも投げ棄てずに抱え込んだ、たったひとつの我儘です。
 かすかに触れた肘からそれを読み取ったように、リュミドラは肩をすくめて腕を離した。
 今、自分が楓の思考を感じたのと同じく、彼女に読まれてしまいそうだったから。内にわだかまる、こうと言い表せない万感を。
「……石の女神とやりあうんだろう?」
 話を逸らしたくてリュミドラは問うた。
「そのためにここへ来ました」
 前哨戦などと言える戦いですまないことはわかっている。
 そも、ウルカグアリーはリュミドラへ、寵愛と呼べるほどの思い入れを持っているのだから。アルビノのスナイパーを狙う楓を潰しに来る可能性は高い。それでも。
「あの愚神を越えていきますから」
 リュミドラに逸らさせるつもりもない。
 楓は覚悟を突きつけたのだ、相応の覚悟をもって受けてもらわねば困る。
 ああ、聖女サマだなんて言われてるみたいだけど、この女は怖くて強(こわ)い。逃がさないって脅迫してきやがるくせに、そいつがギラギラじゃなくてキラキラしてる。
 リュミドラは息をつき、声音を引き締めて。
「石の女神から、いっしょに別の世界へ行くかと訊かれた。でも断ったよ。ここで生まれたんだ。続けるのも終わるのもここがいい」
 だから、戦う。あたしがあたしを続ける道も、あたしがあたしとして終わる末路も、おまえの向こう側にあるんだろうからさ。
 言えずにしまい込んだ言葉を胸の内に響かせ、リュミドラはついに楓の横顔を見た――と、待っていたのは横顔ならず、楓の青瞳。
「よかった。でしたらすぐに追いつけますね」
 別の世界まで追いかけていくのはいろいろと難しいでしょうけど、この世界の内でなら。あなたの12・7mm弾が私に届くように、私の手と切っ先もあなたに届く。
 まっすぐに見つめ合ったふたりはどちらからともなく視線を外し、つま先の向く先を違えて歩き出した。

 何度めになるか知らないけど、もう一度言っておくよ。……次に会うのは戦場だ。
 リュミドラは背で語り、雑踏へ紛れていく。

 次に会うのは戦場。たとえ結果がどう出るのだとしても、その言葉を重ねるのはこれが本当の最後です。
 楓は振り返らずに胸仲で応え、歩を早めた。

 かくて宿縁の物語は、終わるがために幕を開ける。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【柳生 楓(aa3403) / 女性 / 19歳 / 志狼】
【リュミドラ・ネウローエヴナ・パヴリヴィチ(NPC) / 女性 / 17歳 / 白狼】
 
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2018年12月18日

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