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『怪盗、現る! 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

●依頼
 シリューナ・リュクテイアは知り合いの美術館館長に盗人に対する防御の依頼をされた。
 彼女の美術館が所蔵する物に対して盗みに入るという予告状があり、差出人は怪盗Pとある。そして、犯人は人間ではなく魔族らしいというのだ。
 怪盗Pは一時期、週刊誌やテレビのワイドショーで名が挙がったことはある。ただし、捕まることがなく、活動が見えなくなったため、噂は消えて行った。
 そのため、シリューナも知っていたが、魔族だということは耳に届いていなかった。
 館長が言うには、異界を知っている被害者から漏れ聞いた噂から怪盗Pは魔族ということだったらしい。
「確かに、人間の警察は魔族に対抗できないわよね」
 館長が警察には言わず、直接シリューナを頼った理由はよくわかった。人間相手であれば、警察にも言うだろうが、魔族では管轄が違う。
「相手の能力なんかもわかるといいわよね……まあ、わからないから捕まらないし、依頼が来るのよね」
 添付されている予告状を見るが、ただの印刷物だ。魔力を感じるということもない。
 館長の情報によると怪盗Pを見たという人は、影は小さいという。ローティーンの少年か少女ぽいらしい。小さいというだけでなく、全体のイメージがそうらしい。
「Pはラテン語の少年か少女ということかしら? 話題になったころ指摘はあったわね……でも、それを真に受けると捕まえ損ねるかもしれない」
 それが幻覚で別途犯行に及んでいる本体がいることもありうる。
 魔族というのがわかっているため能力も幅が広くなってしまう。
「ああ、でも、この世界には防犯カメラというものがあるわよね」
 それに写るか否か、ごまかせるか否かという思考の選択肢だ。ただ、これまで情報に映像があったということはない。警察に押収されても、捕まえる為の情報としてワンシーン出ることはありうるが、それもない。
 情報の明確さがなかった。
 扉をノックし、ファルス・ティレイラが入ってくる。
「お姉さま、怪盗Pのこと調べてきました」
「ご苦労様、で?」
 ティレイラは表情をこわばらせた。うまくいかなかったのだろうか。
「図書館で新聞記事のデータベースを調べましたが、警察の発表以外に独自のネタもあるのです。でも、予告状があるとか、女の子だとか言われていますが、それ以上は何もわかりません」
 印刷してきたものをティレイラは渡した。
 シリューナは目を通したが、得ている情報と変わらない。
「前回起こってから半年経っている上に、ここの館長、警察に連絡しないで直接うちに連絡してきたから」
 新たな事件があるということは知られていない。
「そういえば、盗まれたもののリストは……これね」
 依頼してきた館長のように自力でどうにかしようとしていた者以外は警察やマスコミと関わっている。そのため、盗まれる物は伝わる。
「結構小さなものばかりよね」
「そうです。作者についてはバラバラです。同じなのはもって逃げやすいという点だけです。鞄に入っちゃいます」
 シリューナはティレイラの言葉にうなずいた。
「さて、予定の現場に行ってみましょう。今日は下見、明日が本番よ」
「はい!」
 ティレイラは元気よく返事をした。

●対策
 現場を見てシリューナは隠れられる場所、侵入経路などを想定する。館長が設計図等は貸してくれているため、建物の構造は理解している。壁をすり抜ける等という物理法則を気にしない相手でない限り、侵入経路は絞られる。
「入ってこられないようにすればいいんですよね?」
 シリューナは首を横に振る。
「そこから入ってくるとはだれもわかっていないのよ。今わかっているのは、どこからか入って物を盗んでいくという抽象的なことだけよ」
 ティレイラは指摘されてうなずいた。
「だから、侵入経路は抑えるけれども、品の側にいることが重要なのよ」
「それならば、偽物を置くというのはどうでしょうか?」
「今更作ってどうするのよ。それに、それで解決できるなら、この犯人捕まっているんじゃないのかしら? たしか、これ、イミテーションあるはずよ」
 リストにある名前をシリューナは指さした。
「すごいです、お姉さま」
 調べるときに一緒にどういうものか調べればいいのだとティレイラは理解した。今後に生かさないとと思う。
 一通り見た後、隠れ方や手順を決める。
 怪盗Pがヒトをどうやって判断するかわからない。目視でも体温や魔力の流れなどを見られると隠れている場所によっては一目瞭然だ。一方で、シリューナとティレイラは程度の差はあれど五感に頼る。第六感があるとしても五感が重要だ。
 そうなると離れすぎてもいけない。魔法を頼って隠れてばれるのも問題だ。
 物陰に隠れるという単純なものであるが、状況に応じて動く判断が必要であった。

 予告にある物の側にティレイラが隠れる。距離や部屋の広さなど考えると適任だった。
 シリューナは退路を断つための行動を取るのだった。

 翌日、追加調査はするが、見張りのために適度な休息は取る。その上、美術館が見張られている場合を想定して、館長が言っていた職員のルートから入る。
 予告の時間が迫る。
 丑三つ時。
 静かな館内で、ティレイラは呼吸すら止めたくなる。ちょっとした音が異様に気になった。
(もし、相手が私に気づいて逃げてしまったらどうなるのかな?)
 ティレイラは物が盗まれないということではよいが、根本解決にならないことにすぐに思い至った。
(結局、リベンジがくるのかもしれないよね? むしろ、お命頂戴します、だったり……プライドを傷つけたとかで)
 見張りというのは確証がないため意外と暇であるため、想像の翼は広がっていく。
(現実問題として、体を動かしていないと、いざっ、となったとき動けるのかな)
 身じろぎひとつしない状況というのは、全身の筋肉がこわばっていく。できる限りで筋肉を動かすべきだととも考えてみたが、筋肉を動かすだけでも衣擦れが起こり、静かな場所だと音が響きそうで怖かった。

 ポフン……フワッ、ポン……。

 何か小さな音が響いた。小さく軽い、走る音のように感じた。
 ティレイラはのぞき穴からうかがう。
 小柄な影が展示室を歩いていた。
(人間のような形だよね。だからと言って人間とは限らないし)
 まず彼女自身がそうだ。人間の形をしていても、それは仮初である。
(どこで飛び出すべきかな。こちらに来た時かな? でも……こっちに来なかったら?)
 ティレイラは隠れていたところから神経を使い外に出る。
 その人影は動きを止めた。
(勘が鋭いタイプ?)
 ティレイラは判断した。怪盗Pに他者がいることを示し、足止めする必要である、と。
 紫の翼と尾を解き放ち、間合を詰める。
「神妙にお縄につきなさい!」
 ティレイラは相手の手を掴もうとした。
 しかし、寸前で相手は手を引く。すっと笑うと、ティレイラの横をすり抜ける。
 ティレイラは相手の動きを目で追い、方向転換する。その間、相手の手が徐々に輝き出しているのには気づいている。
 暗がりにいるせいで、その光は目を引くと同時に目つぶしになる。影響を抑えるために目をつぶるわけにもいかない。
「やった」
 ティレイラは怪盗Pの手首を握った。大変細い。
 怪盗Pからが何か言っている。意味のない言葉ではないと気づき、ティレイラははっとして手を離した。
「遅いよぉ?」
 怪盗Pは呪文ではない言葉を発し、距離を取ろうとしたティレイラを追った。虹色に輝く光をまとって右手でティレイラを突き刺し、引き抜いた。
 ティレイラは突き刺されたとき、怪盗Pが少女ぽいことを認識した。
「きゃああ」
「痛くはないよぉ?」
 くすくすと怪盗Pは笑う。
 ティレイラは刺されたところから冷えていくのを感じた。そこに触れるが傷はないため、魔法の力を注ぎこまれたということを理解した。
「こっちが本命だよぉ!」
 高い声が笑いながら言う。ティレイラは尻尾の先に何か当たったのを感じた。それを取ろうと動くが、怪盗Pが攻撃をするように近づいてきてそちらの対処に追われた。
 ティレイラは尾から自由が利かなくなるのを感じ、焦った。
(捕まえないと! 捕まえないと!)
 動けない中、崩れ落ちそうになるのをどうにか耐える。翼を広げ、尾でバランスを取る。少女を取り押さえようとしたが四肢は重く、絶望が心を染める。
「ぐぅ、あっ」
 ティレイラは声を出そうとしたができなかった。
「おしまいだね? 魔力に反応して金属にするものだよ?」
 そこでティレイラの意識は途切れた。

●鑑賞
 ティレイラの声を聴き、シリューナは急いだ。手に持っているワンドに解呪の言葉を織り込んでいく。
(ティレが相手をしているのだから時間はある)
 十分対応できると考えているが、相手がどのような能力を有しているかわからない。そのため、急ぐのは道理だった。
 ティレイラがいる部屋に入ったとき、少女ぽい声を聞いた。
「……竜族の子はさすがだよぉ」
 手放しで喜ぶような口調だ。
 少女らしい姿のモノが、シリューナの記憶にない金属のオブジェの前にいる。その人物はシリューナの姿を見て動いた。
 遅れを取ったことに対し色々思うところはあるが、まずは逃がさないことが重要だ。
 シリューナは無言で距離を一気に詰めるとワンドを突き出した。
 少女は回避行動をとる。動きは素早い。
 シリューナは彼女の手が輝いているのを見て、そこにワンドを叩き込んだ。ワンドの使い方ではないが、ワンドの力を放つことと相手の行動を止める為だった。
 ワンドが折れたが、その魔力は相手に放たれているはずだ。少女の魔法が不安定化して止まった瞬間、ワンドの魔法は発動した。
 怪盗Pは踵を返す一瞬の動作のまま、石像と化した。
 ほっとしたシリューナは妹分ティレイラの様子の確認に移った。
「……ティレ……何で封じられたのかしら……」
 オブジェ好きなシリューナであるが、ティレイラの様子がわからないため、喜べない。
「術具は何かしら? この子は手に何か持っているわよね……ああ、一緒に石化している……? いえ、していないわね……これは、機能的には……」
 ぶつぶつとつぶやきも漏れる。ティレイラの尾に輪のような物が見えた。それが術具であり、キーワードと魔力に反応し、相手の動きを封じるものだと理解できた。
 シリューナは怒りの方向がティレイラに向かった。
「この怪盗Pに遅れを取ったということよね? まさか、ティレが? 不意打ちを受けたのかしら、それならばしかたがないわね。でも、このままでは聞こえないわね!」
 今のティレイラならもう少し頑張れるはずだし、怪盗Pなら捕まえられたとシリューナは実力から見て考えている。
「まったく」
 一度、大きく息を吐く。元のに戻せるから文句が出るのだ。
 すると、安心してティレイラの姿を見られる。戦闘中の一瞬を切り取った様子で、愛らしさや美しさの中にりりしさ、魔法を食らったときの切ない様子もうかがえた。
「ああ、ティレ、なんて美しいのかしら。頬から胸、脚のライン……この金属の光沢は尻尾の形状をよく表しているのに、なめらかでもあるのよね……モデルと材料、どちらの素材も生きているわ」
 うっとりと手を這わす。
 広げられた翼、舞い上がる髪。
「ああ」
 歓喜の声とともに、ほお、とため息が漏れた。
「それにしても……この子は?」
 怪盗Pを見た。ほっそりとして、凹凸がない肢体であるが、しなやかさと柔らかい曲線を持つ。
「この真っ直ぐであっても真っ直ぐではないのは素晴らしいわ……それより、これ以外に魔法道具持っているかしら?」
 石化しているためポケットの中身は見えない。
「……捕縛準備して、解かないとね……」
 ちらりとティレイラを見る。
「……もう少し……見たいわね……」

 シリューナは館長が朝、来るまで、二つの像の鑑賞をしていたのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋
3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)
???/怪盗P/女/13?/盗人


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは。
 今回はバトル風を盛り込みつつ、といっても、盛り込んだうちに入らない気もします?
 魔族盗賊はティレイラさんと違うタイプを考え、凹凸ない感じになりました。
 いかがでしたでしょうか?
 ありがとうございました。
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年12月19日

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