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『Dear friend 』
時鳥 蛍aa1371)&雁屋 和aa0035


『久しぶりに会えないですか』
 そんなメールが雁屋 和(aa0035)の下に届いたのは、もう少しで今年も終わるというある日の事だった。
 差出人は時鳥 蛍(aa1371)。和とは一回り程も年の離れた少女だが、和と同じH.O.P.E.所属のエージェントで、また友人の一人である。『久しぶりに』という言葉通り最近会っていなかったが、友人からのお誘いを断る理由は和にはない。
『いいわよ。何処で会いましょうか』
 そして二日後、二人は喫茶店にいた。蛍はいつも通り『呼び出してすいません』とタブレットを和に見せ……蛍は非常に無口で内向的な性格で、タブレットPCを使った会話が主なのだ……和は「いいのよ」と返事をした。そして待った。珍しく蛍から「会えないか」と尋ねてきたぐらいだ、きっと自分に言いたい事があるのだろうと和は思った。
 しかし蛍は何も言わない。ウェイターが注文を聞きに来ても、ウェイターが去った後もじっと押し黙ったまま。もっとも、時折和を伺うような素振りは見せるが、それでも口を開く様子もタブレットを弄る動作もない。
 もし和の勘が良かったら、蛍が何を望んでいるのか見抜けたかもしれないが、生憎和は、こういった事に関してはむしろ鈍い方と言えるだろう。
 和は待った。蛍が口を開くのを。けれど蛍は顔を上げようともしないし、両手に持ったタブレットに何かを打ち込む様子もない。和は、とりあえず自分だけ注文した紅茶をちびちびと飲んでいき、カップが空になってしまった所でようやく意を決した。
「ゲーセンでも行きましょうか」


 数十分後、二人はショッピングモールにあるゲームセンターを訪れていた。クリスマスが近い事もあり、街はすっかりクリスマスカラーに染まっていた。あちこちからクリスマスにちなんだ曲が流れてきて、ゲーセンでも景品のほとんどがクリスマス仕様になっている。
「時鳥さん、何か欲しいものがあったら言って。私頑張って取るからね! ……とは言っても私そこまでゲーセン得意でもないんだけれど」
 じゃあ何故来たし、と突っ込む所だが、蛍は何も言わなかった。楽しそうには見えないが、しかし拒絶の意も示さないで黙って和についてくる。
 だから、正解ではないかもしれないが、間違いでもないと思いつつ、和は蛍が喜びそうな景品を吟味して回った。そして赤い帽子を被った、一抱え程もある、まんまるでもちもちしてそうな鳥のぬいぐるみを発見する。
「時鳥さん、これ、どう? 私は可愛いと思うんだけど」
 蛍は鳥を一瞥するとこくりと一つ頷いた。和はさっそく小銭を取り出し、「1PLAY200G」に従い硬貨を二つ投入した。まずは右への移動ボタン、次に奥への移動ボタン。そして最後にクレーンの回転ボタンを押して。
「ここだ……行け!」
 クレーンはスーッと下がっていき、鳥に爪をめり込ませたが、鳥を捕獲する事なくそのままスーッと上がっていった。「あああ!」と頭を抱える和。何も言わない蛍。
「待っててね、絶対あの鳥さんをゲットしてみせるから」
 和は今度は「3PLAY500G」に硬貨を投入した。そして先程と同じ手順で鳥を捕獲しようとする。だがクレーンはまた外れ、空しくスーッと上がっていく。蛍はそれを、見もせずに黙って俯いていたが、投入額が2000Gを越えた所でようやく顔を上げ始めた。そして3000Gになった所でおろおろし始め、4000Gになった所で、流石に慌てて和の腕に縋り付く。
「あ……あのっ、か、雁屋さん……」
「待っててね、あと少し……あと少しで……」
「す、すいません、あの……その……えっと……」
「お客様、お手伝い致しましょうか?」
 そこに、天の助けと言わんばかりに店員さんが現れた。店員さんはぬいぐるみを穴の近くに移動させ、さらに「ここを押すと落ちますよ」とアドバイスをくれて去っていった。
 店員さんの言葉通り鳥の脇腹(?)をクレーンで狙って押し込むと、鳥はころりと転がり、そのまま穴に落下した。和は手を突っ込んで白い鳥を確保すると、そのまま蛍の両手に戦利品を押し付ける。
「やったわ時鳥さん!」
「あ、あの、雁屋さん……」
 蛍は和を見上げた。和は「何?」と首を傾げた。蛍は何も言わず、ぬいぐるみを受け取り、もちもちした後頭部に自分の顔を押し付ける。
「ありがとう……ございます……」
「それじゃあ次は、洋服屋さんでも行きましょうか!」


「色々買っちゃったわね」
 数時間後、二人はビニール袋と共にレストランに着席していた。袋の中身は帽子やマフラー、手袋や漫画やお菓子など。あれから和の言うままにモールのあちらこちらを回り……早い話がショッピングである……そして二人は夕食のためファミレスに入っていた。
「私は何がいいかな。寒いしやっぱりキムチうどん鍋かしら……時鳥さんは?」
『それじゃあ、季節の焼き野菜カレーを』
 店内は家族連れや高校生で賑わっていた。料理を待つ間、一瞬の沈黙が降りる。ここまでほぼ話さなかった蛍が、タブレットに文字を打ち込み和に見せようとしたが。
「今日、連絡くれて嬉しかったわ」
「……え?」
「時鳥さんとショッピング出来て、楽しかった」
「……楽し……かった、ですか?」
「ええ、とっても」
 和はにこりと笑みを見せた。蛍は打ちかけのタブレットを抱えて少し俯いた。何か言おう、何か言おうとしている内に、二人の前に料理が届く。
「さ、冷める前に食べましょう」
 和が笑顔のまま蛍の手にスプーンを渡す。そうされてしまうと、蛍はもう何も言えない。「ありがとうございます……」と消え入りそうな声で言って、スプーンを受け取りカレーを食べる。
 そんな蛍を、和は蛍に気付かれないように見つめていた。

 蛍が何故「会えないか」と和に尋ねてきたのか、その理由を和が正確に把握する事は出来ない。
 だが、心当たりはあった。蛍は一月程前に、エネミーという敵の討伐依頼に参加した。そこで辛い想いをした。
 具体的には自分を「人殺しなのだ」と称する程。
 蛍が自分で手を下した訳ではない。手を下した、和にとっての友人達も、好き好んでそんな事に手を染めた訳ではない。苦渋の決断だった。エネミーを止める為の。これ以上犠牲を出さない為の、多くを護る為に取らざるを得ない選択だった。
 蛍はそれを乗り越えた。まだ小学六年生という幼さで、覚悟を決めた。友人達の罪を共に背負うと決意した。けれどそれは、平気という事ではない。傷付いていないという事ではない。蛍は強くなった。とても。共鳴していない今でこそ、口を開くのにも苦労しているような内気な少女だが、共鳴し戦場に立つ彼女はとても凛としている。自らが傷付いてもなお、戦い続ける覚悟がある。
 けれど、それでも、傷付いている。捨てざるを得なかった誰かの命は、握り締めた手のひらにしっかり突き刺さっていて。
 だから。
 だから和は、蛍をゲーセンやショッピングに連れ回す事にした。ありふれた日常を共に過ごす事にした。それが正しいかどうかは分からない。本当は蛍が和に何を望んでいるのか、どうして会えないかと聞いてきたのか、それは和には分からない。
 だけど、和は不器用だ。辛い想いをした友人に、何をしてあげればいいのか分からない。どうしたのとか何かあったのとか聞くべきかとも思ったが、俯く蛍を見ていたらそんな事は言えなかった。
 とは言えいきなりゲーセンに行こうなんて突拍子なく見えただろう。笑顔を浮かべているつもりだけど、上手く笑えているだろうか。表情が薄い自分の事が、今は恨めしい。
「今度、お泊り会でもしましょうか」
 突然の和の言葉に蛍は目を瞬かせた。「おと……まり……かい?」と首を傾げる蛍に「ええ」と和は笑みながら頷く。
「パジャマパーティー。私の家に集まって。ご馳走するわ。私特製のお鍋、食べさせた事ないわよね? 雁屋家の調理担当よ、とっても美味しいんだから」
 言いながら和は胸の内で苦笑する。殴れば相手は斃れる。戦う時はそれでいいのに、辛い想いをした友達相手にはそう簡単にはいかないものね。
 けれど、それしか出来ない。それぐらいしか思い付かない。慰めるのも励ますのも、違うような気がしたから。だからただの思い付きで行動しているに過ぎない。的外れかもしれない。空回りかもしれない。それでも、和は一生懸命に、友人の為に言葉を紡ぐ。
「お風呂は近くの温泉に行ってもいいわね。みんなでゆっくり温泉に浸かって、アイスを食べて、帰りにコンビニでお菓子を買うの。それから夜通し特撮鑑賞よ。ゲームもいいわね。テレビゲームもいいけれど、ボードゲームとかTRPGとか……」
 タブレット使っていいわよと言われ、蛍はタブレットを取り出した。自分の口で話そうと頑張っている最中だが、やはりタブレットを使った方がスムーズに会話出来る。
『いいですね。楽しそうです』
「それじゃあ今度一緒に、ゲームとか見に行きましょう」
 もう一人の友達も誘って、と和はひたすら喋り続ける。蛍は興味深そうに和の話を聞いていたが、突然「あ」と呟いた。和は何かマズったかと焦ったが、蛍はタブレットにこう書いた。
『すいません。私が会いたいって言ったのに、失礼な事ばかり』
 多分喫茶店以降ずっと黙っていた事についてだろう。和は「いいのよ」と手を振った。
「申し訳ないと思うより、今日は楽しかったと思って貰えた方が嬉しいわ」
 蛍はまた目を瞬かせ、タブレットに何かを打ち込んだ。そして必死の形相で、和の方にずいっと突き出す。
『楽しかったです。鳥さん、ありがとうございました。大事にします』
 それから、ぎこちなくだけど、けれど嬉しそうな笑みを見せた。それを見て、和は心からの、気負いない笑みを浮かべる。
「良かった」

(あなたのために何が出来るか分からない。それでも一緒にいるあなたが、笑ってくれると嬉しいわ)
 
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【時鳥 蛍(aa1371)/外見性別:女性/外見年齢:12/能力者】
【雁屋 和(aa0035)/外見性別:女性/外見年齢:21/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。依頼やノベルなどを拝見させて頂き、このようなお話を作成させて頂きました。イメージや設定、口調など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願い致します。
 この度はおまかせのご注文、誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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2018年12月19日

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