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『きらりと輝く星の下 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&ジュード・エアハートka0410)&ルナ・レンフィールドka1565)&キヅカ・リクka0038)&藤堂研司ka0569)&フレデリク・リンドバーグka2490)&メアリ・ロイドka6633)&沢城 葵ka3114)&エアルドフリスka1856)&ユリアンka1664

 ギルド街の一角にある日本家屋。その庭の中央には聖輝節の象徴たるクリスマスツリーが鎮座していた。アルヴィンが依頼先から貰ってきたモミの木にオーソドックスながらセンスの感じられる装飾がほどこされていて、リアルブルーを含む世界各地から様々な人種が集まる街といえど、ここまで本格的なものはあまり見られない。
「何度見てもやっぱり綺麗だねー」
 と、縁側に腰かけてツリーを眺めているのは小隊仲間のジュードだ。その言葉に近くに立つアルヴィンもウンウンと頷き、天辺の星を見上げた。
『アオちゃんと一緒に作ったツリーが綺麗だから見てみて!』
 アルヴィンがギルドの交流用掲示板にそう書き込んだのは、葵と一緒にツリーを完成させた翌日だった。そしてその日のうちには手の空いている数人が見に来て、しかしこの完成度の高さを仲間内だけで楽しむのは勿体ない、そんな気持ちがアルヴィンの中で芽生えた。だから庭先を開放し、誰でも歓迎で一緒に遊ぼうと発案したのが、手に職とノリの良さを併せ持つ仲間たちのこと、あれをしようこれもしようと自然と役割分担が出来て結果、規模は小さいながらもパーティーを開催する運びとなった。イベント当日は依頼や年末のあれこれが控えていることを考慮し早めに日程を調整。各々準備があるので、今いるのは主催者のアルヴィンと掃除や設営を手伝ったジュードの二人だけだ。
 しかしながら、狭いようで広いハンター業界、東方色の濃い建物にツリーという物珍しさから立ち止まる人は多いが、知り合いとなると案外いないものだ。アルヴィンとしては知人じゃなくても構わないのだが、小隊の年長組たる葵とエアルドフリスに不用意に声をかけるなと釘を刺されている。普段ならそれで止まるアルヴィンではないが、折角のお祭りをふいにするのは避けたかった。
「――アレ?」
「リッチー、どうかした?」
 ジュードが首を傾げて訊いてくるが、アルヴィンの視線は生け垣の向こうに集まった数人の、更に後ろで見え隠れする見知った人らしき姿に引き寄せられる。
「チョット見てくるネ!」
「はーい」
 いってらっしゃいと見送ってくれるジュードに手を振り返し、アルヴィンが裏から回って通りに出ると、遠慮して若干捌けた人混みの中でもしかしてと思った相手と目が合う。
「ヤァ、メアリ君」
「お久し振りです」
 声をかけるとメアリはそう返して頭を下げる。親しいという程の間柄ではないが、雪山の依頼で一緒になった際に話したことのある相手だ。笑顔が多いアルヴィンとは逆に無表情でいることの多い彼女だが、好きな相手の話をするときに口や目の雰囲気が柔らかくなる、そんな様子をよく憶えている。あの後進展したのか気になったが、やっと現れた知り合いだ。とりあえずその話は後回しにする。
「ここ、前から気になっていましたが、オールドリッチさんのところでしたか」
「僕たち神託のアジトなんダヨー!」
 メアリがなるほど、と頷く。彼女は研司とも少し面識があったので、小隊のことも知っていたのだろう。
「それでネ、今日は皆でパーティーを開くんダヨ。メアリ君もお暇ナラ一緒に遊ぼー!」
「……部外者の私が行ってもいいのですか?」
「モチロン、大歓迎!」
 ウインクのおまけまで付けてみせる。メアリは唇に指を沿えて考える仕草をして、
「……それなら折角なので、お言葉に甘えますね」
 と、色好い返事が貰えたので手袋越しに彼女の手を握って上下に振った。
「アリガトー! マダちょっと時間がかかるケド、楽しんでいってネ」
「は、はい」
 手を離すとずれた眼鏡を戻しながらメアリが答える。と、いつの間にかジュードが生け垣の傍まで来ていた。
「あ、一人目のお客さまかな?」
「そうダヨ。メアリ君」
 お互い自己紹介から入っているので知り合いではなさそうだが、顔と名前は一応知っていたらしい。店を経営しているジュードは言うまでもなく、メアリも性格的には決して取っ付きにくいタイプではないので二人でも上手くやれるだろう。そろそろ買い出しや下準備に取りかかっている面々もやってきそうだ。
「サテサテ、僕はマタ誰か捕まえに行ってくるカラ、後は任せたヨ。ハーティ」
「了解ー。あんまり呼び過ぎないよう気を付けてね」
 家の敷地は広いが、ツリーを見ながらパーティを楽しむというコンセプト上、庭先に入れる人数は限られる。室内よりは多いはずだが。そのことも頭の隅に入れつつ、二人に見送られながらアルヴィンは街に繰り出した。

 ギルド街には兼業者の店も多く立ち並ぶ。ざっと回るだけで衣食住が賄えると言われているほどだ。だから、買い物に利用するハンターも多く、待ち構えていたときが嘘のようにあっさりと知人を見つけることが出来た。
「こんにちは、アルヴィンさん」
「コンニチハー! ルナ君はお買い物カナ?」
 アルヴィンの問いに頷き、ルナが肘に下げた鞄を揺らしてみせる。まだ空らしい。
「ソレならモット後でも構わないんダケド、今日はアジトでパーティーをやるカラ、ルナ君も来てくれると嬉しいナ」
 ツリーのことも話すと彼女は目を輝かせ、
「是非見てみたいです! 準備をしてから伺いますね」
 と笑顔で応じてくれる。ルナなら場所は知っているから、案内する必要はないだろう。そう考えるとアルヴィンの脳裏にある青年の姿がよぎって、手招きでちょいちょいと彼女を呼ぶと内緒話をするように小声で伝える。
「ユーリ君もそのウチ来ると思うヨ」
 言って直ぐに離れれば、寒さで仄かに色付いていたルナの頬が見る見るうちに赤く染まる。もどかしいくらいに進展しないユリアンとルナの関係だが、特別な機会に何か動きがあればいいとアルヴィンは思った。彼女は分け隔てなく優しいけど、ユリアンと一緒にいるときのその優しさと温かさはやっぱり特別なのだ。
「頑張ッテね」
 自然と零れた言葉にルナは頬を隠す手を下ろしてこちらを見返し、はいと芯の強さを感じさせる瞳で答えた。

 ◆◇◆

 通りを歩きつつ伸びをすれば、背中の辺りからぼきぼきと音が鳴ってリクは嘆息した。こちらで迎える年の瀬にもすっかり慣れたもので、例年通り大規模作戦に参加するため、その打ち合わせを終えて帰路に就くところだった。リクが主に活動している帝国はこの時期、色々厄介な事件に見舞われることが多い。対策に奔走すれば当然、疲労は溜まる一方で、戦えば無傷で済むほど甘くなく、リクが再びリゼリオの地を踏む頃には売れ残りのケーキを買い、怪我の療養をしながら侘しく食べる。そんな未来が待っている。自主的に参加しているのだから後悔はないが。
(でも、やっぱちょっと虚しい……)
 皆でわいわい楽しく遊びたい。その願望がないと言えば嘘になるが、リクの気持ちが自然と歪虚と戦う方向に向きがちなのは事実だった。走れる限り走り続けたいし、友人知人と過ごすたまの休日だけでも充分だ。熱意に体が追いついてくれないのがもどかしいところだが。
「あ、リッチーさん」
「ヤァヤァ、リク君」
 何か目立つ人が遠くからこっちに来るなぁ、と思っていたら知っている人だった。いつもの何気に高そうな礼服の上にケープを羽織っている。見た目こそ端麗な容姿に似合うスーツとシルクハット、モノクルの組み合わせがもうザ・貴族といった雰囲気を醸し出しているが、声のトーンで大抵の人間は変人だと察せる相手だ。
(いや、悪い人じゃなくてむしろいい人なんだけどさ)
 何というか半端なく濃い。己のキャラの薄さを自覚しているリクとしては少し見習いたい気もする。見よう見まねで身につけられるものでもないが。だって絶対天然モノだし。
「リク君はこれカラお出掛けカナ?」
「家に帰るところ。っていっても、特に用事はないんだけどね」
 肉体的な疲労感はまだ然程なく、むしろ軽く体を動かしたいくらいだった。リクの返答にアルヴィンは満面の笑みを浮かべる。
「ナラ、リク君も一緒に遊ぼー!」
 遊ぶ、と言われて何だろうと思ったが、話を聞くと小隊仲間と早めのパーティーを開催するらしい。ツリーの大きさをジェスチャーで表現したり、飾りの美しさを嬉しそうに伝える姿を見ていれば、リクの予定も自然と決まる。
「うん、じゃあ、お邪魔させてもらうよ」
 そう答えれば、アルヴィンは無邪気に喜んでくれる。そして、リクが来た方向に進もうとして静止した。不思議に思って覗き込めば、彼は両手を目の前に広げ、左手の親指から指折り数え出す。九までカウントしたところで止まり、少しのラグを挟んで何か大発見をしたような表情で右手の小指を畳んだ。
 アジトに案内するという彼についていきながら、流れで打ち合わせや例年のあれこれにまで話が及ぶと、アルヴィンの手が肩を優しく叩いてくる。
「今日はイッパイ遊ぼうネ」

 ◆◇◆

 クリスマスパーティーといえば料理だ。となれば、料理人としても日々研鑽を重ねている研司が張り切らない道理はなく。いつもよりも奮発し、市場を回って仕入れてきた食材の魅力を最大限に引き出して、リアルブルーでも定番のメニューを取り揃えた。サーモンムースには野菜を混ぜ込んで赤く彩り、ブロッコリーの入ったクリームポテトはクリスマスらしく全体を緑色に染めあげている。赤色要素にもう一つミネストローネも用意していて、こちらは暖を取るのにも最適な料理だ。他のメニューもそうだが、メインディッシュの七面鳥のグリルにも中にたっぷり野菜を詰め込んでおり、栄養管理にも一切抜かりがない。
 食材をそのままアジトに持って行って料理するのが手間がないのは確かなのだが、今回は下拵えに時間がかかるのが目に見えていたこともあり、ただのテントに見えて調理環境バッチリの研ちゃんキッチンで仕上げ以外はほぼ終わらせてある。さすがに量が量なので葵にも手伝ってもらったが、大変だったのは調理よりも運搬のほうだ。ネイルを気にしつつも何だかんだと最後まで付き合ってくれ、有難い限りだ。
「それで、オールドリッチはまだその辺をぶらついてるの?」
 と軽く化粧を整え直して戻ってきた葵が呆れ顔で言う。それに、みたいですねとメアリが答えて、何故か少し急いできた様子のルナがいつ頃にアルヴィンと会ったかを話している。ジュードはリッチーだしねと楽観的に構えているが。
(何だろうな、このアウェー感)
 三人とも料理を見て美味しそうだと言ってくれたのに、妙な居心地の悪さがある。そして少し考えて理解した。圧倒的女子率のせいだ。ユリアンと親しい仲のルナは勿論、メアリとも談話室で話したことのある間柄なので特に緊張はしないが。エアルドフリスとユリアンは遅くなりそうだよな、と考えていると、がらがらと音を立てて玄関扉が開く。
「すみませーん、遅くなりました!」
 揃って玄関に向かえば、いつもの元気さに少しだけ疲労を滲ませた笑顔でフレデリクが挨拶する。上がり框に置かれた袋の中には宣言通り、ワインやお菓子が入っているのだろう。少なくとも小隊仲間は集まる予定になっていたのでかなりの量だ。小柄な彼には重労働だったはずだが、その割には疲れてなさそうだ。もしかしたら誰かに運んでもらったのかもな、と研司は思う。儚げな美少女が大荷物を持っていたら下心がなくとも協力したくなるものだ。
「おー、いいワインだね」
「折角なので奮発しちゃいましたっ」
 葵もお菓子を用意していたし、ルナが差し入れてくれたフルーツタルトもあるが、最終的には捌けそうな気もする。余ったらお土産に持って帰るのもアリだろう。研司と葵がワインを引き取り、お菓子はルナとメアリに任せる。
「リンドバーグ、あなたまだだったでしょ? 今の間に見ておいたほうがいいわよ」
「フレデリク君、こっちこっち」
 ジュードに連れられたフレデリクの後を追うようにまたぞろぞろ廊下を通る。
「わー! 素敵なツリーです!」
 室内から見て歓声をあげ、二人で縁側から庭に出るのを見送り。仕上げに手をつける頃には隊長と彼が連れてきたお客さんの声が聞こえた。

 ◆◇◆

 細々とした作業を手伝ってもらいながら葵と研司を中心に準備を進めて、近く始められる頃合いになったところで玄関扉が音を立てる。そして、
「いやはや。何の騒ぎだね、こりゃあ」
「エアさん!」
 他に玄関先で声をかけずにあがってくる人物など限られているというのもあるが、それにしても勢いと反応良くジュードがエアルドフリスの元へ駆け寄る。犬だったら全力で尻尾を振っていそうな様子ながら、自然な動きで恋人が外したマフラーを受け取る姿を見ると微笑ましくも砂糖を吐くような思いがする。初々しいようで、付き合いの長さがよく出ていた。
「もう、パーティーは今日だよ。忘れてたの?」
「あー……すまん」
 歯切れ悪く言ったエアルドフリスが後ろに視線を向ける。荷物を片付けていたらしく、遅れて部屋に入ってきたユリアンが、
「師匠も分かってるんだと思ってたよ」
 と言って、微苦笑を浮かべる。エアルドフリスの本業は薬師でユリアンはその助手だ。毎年この時期は体調を崩す人間が多いことから、二人が多忙を極めるのは恒例と化している。エアルドフリスが忘れるのも無理からぬことだ。彼としては往診のついでに立ち寄った、というところだろう。
「お二人共、お疲れ様です」
「ルナさんも来てくれたんだね」
 労いの声をかけたルナが長身のユリアンを見上げて微笑み、彼も笑顔を返す。こちらはまだスタートラインに立っていない二人だ。
(さっさとくっついちゃえばいいのにねぇ)
 などと葵は思ってしまうが。ユリアンには彼なりの事情があるのだろう。ルナも直截な表現こそないものの、最近は積極的にアピールしているようだし、近々丸く収まりそうな気もする。そのいじらしさは同性として好感が持てた。
「ア、そう言えば忘れてたヨ!」
 良くも悪くも空気を読まないアルヴィンが唐突に手を打つ。そして一度違う部屋へ消えた後、前が見えないほどの荷物を抱え戻ってきた。近場にいたユリアンが一部を引き取り、中身が見えたらしいエアルドフリスが何とも言えない表情をしたので葵も色々と察する。
「ジャーン! コレがリアルブルーの正装なのダッテ!」
 と今日は使わない机の上に広げてみせたのは赤い衣装。リアルブルー出身者の一人である葵にも当然見覚えがある。
「おっ、サンタ服か!」
 ニコニコと楽しそうな研司が言うとおり、ずらりと並ぶのはサンタのテンプレ衣装だ。ミニスカやショートパンツ、トナカイの着ぐるみとニッチなのもある。
「あ、俺これ着たい!」
「じゃあ私はこれを貰いますねっ」
 案の定、ジュードがミニスカを、フレデリクがショートパンツの衣装を手に取る。サイズ的にも、二人に合わせたものだろう。付き合いが長いだけに好みをよく把握している。
「おいおい、どういう趣味だ」
 とエアルドフリスが呆れて額に手を当てているが、アルヴィンに気にした様子は欠片もない。エアルドフリスが彼に対して口さがないように、アルヴィンも多少の苦情という名のツッコミはスルーするスキルが身についている。
「メアリ君も着てミル?」
 言ってアルヴィンがメアリにもサンタ服を勧める。さすがに止めようと思ったが、
「着てみてもいいのですか?」
「モチロン!」
「それなら……着てみますね」
 と自ら衣装を手に取るメアリを見て踏み留まった。銀縁眼鏡のレンズ越しに水色の瞳が柔く細められる。唇も僅かに曲線を描いていて、乗り気なら止める理由もない。
「ユーリ君はどうカナ?」
「意外と暖かそうだね」
 ユリアンは差し出された衣装一式のうち、サンタ帽だけ取って被ってみせた。温厚なので断れなさそうに見えて、意外としっかりしているのが彼だ。率先し手伝っているとはいえ助手の仕事は気苦労が多く、鍛えられているのだろう。むしろ、
「リク君もドウゾー」
「えぇ……?」
 とスタンダードな服を渡されて困惑した様子のリクはといえば、ちらっとアルヴィンの顔を見返した後で、
「……じゃあ着ようかな」
 と受け取った衣装を眺めつつ言った。嫌々という風でもないが、皆が着るならという右に倣え精神を感じる。葵は自分とリク、それから研司の故郷を思った。ノーと言えない――なんてフレーズを不意に思い出す。
「先に言っておくけど、あたしは着ないからね。研司、あなたもまだ仕上げが残ってるでしょ?」
「あー、そうだね。汚すと悪いから、遠慮しておくよ」
 何気にノリノリでトナカイの衣装を受け取った研司が肩を落とし。アルヴィンに返却しようとして彼の視線はふと横へと向けられる。葵を通り越しエアルドフリスに。つられるようにアルヴィンも彼のほうを見た。
「ルールー、着タイ?」
「ハァ? 着ぐるみ? ……俺は着ないからな?」
 着ない、の辺りを一音一音区切って強調し、エアルドフリスが心底嫌そうな顔をする。サンタ服ならまだしも、これを喜んで着る猛者はアルヴィンか研司くらいのものだろう。リクも勧められれば乗ってしまうかもしれないが。
「お手伝い枠はモウ一杯なんダヨー?」
「使われないままってのも勿体ないよなぁ」
「使いたいなら、あんたが着ればいいだろう!」
 悪意ゼロの煽りを受け、早くもエアルドフリスがキレ気味にアルヴィンを指差す。しかし僕はコレなんダヨーと普通のサンタ衣装に加えて、やたらもっさもさとした白い付け髭を出してきた。これはこれで勇気のいる代物だ。彼が嫌がるのもさもありなん。
「そうよね、エアハートの前でその衣装は格好つかないものねぇ?」
 と葵も乗っかったところで、フレデリクとスカートの丈を確認しつつきゃっきゃしていた彼の可愛い恋人が、
「トナカイのエアさん……可愛いかも」
 ぽつりと独り言のように爆弾を落とした。葵に切り返そうとした勢いを削がれたらしいエアルドフリスはしばし沈黙して、渋々といった雰囲気を全面に出しながらも研司が持ったままだった例の衣装を受け取った。普段は葵とともに年長者として皆をまとめる立ち位置に収まっていることの多い彼だが、交渉による巧みな誘導を好む性質から特に話術に関しては負けず嫌いな面が発揮される。素でやっているアルヴィンと研司に、からかう思惑のある葵も加われば乗せてしまうのは案外簡単だ。しかし、どうせ後悔することになるのなら、恋人の願いを叶えるほうがマシのはず。フレデリクは言うまでもなく面白がっているし、ユリアンも下手な慰めは助けにならないと見守っている。隣のルナはまだ慣れずにおろおろとしているが。
「全員が着替え終わるまでに用意しておくわね」
 葵が言って一旦解散だと手を叩いてみせると、着替え組はそれぞれ別の部屋に連れ立っていく。メアリにはルナが声をかけてくれたようだ。
「この飾りつけを二人で? 見事だね、凄いな……」
「これは料理の盛りつけも負けてられないなぁ」
 とツリーを前に話している研司とユリアンの背中を軽く叩き、葵は仕上げに際し気合いを入れ直した。

 ◆◇◆

「どうです、可愛いですか?」
 フレデリクはジュードと腕を組んで、お披露目をしていた。開き直って胡座を掻いているトナカイ衣装のエアルドフリスの視線が、かなり際どい短さのスカートの裾に引き寄せられて直ぐに逸らされる。人目なんて気にしなくていいのにと思いつつも、今日は初めましての人もいるので仕方ないとも思う。ルナが密かに溜め息を零す。根拠はないがもしかしたら着たかったのかもしれない。ユリアンが物語の主人公ならば彼女はヒロインと表現するに相応しい。これから先が気になる二人だ。
「ウン、イイ感じダヨ!」
 とサムズアップするアルヴィンの声は付け髭に吸い込まれて不明瞭だが。プレゼントの入った袋を背負ったり、葵手製のジンジャーブレッドマンを配ったりとサンタになりきって遊んだ。皆にも喜んでもらえて満足だ。
 手伝っているうちに配膳が終わって全員が集合し、銘々に手を合わせて研司と葵渾身の料理を頂くことになった。最後に配られたクリスマスリースサラダには星型に切り抜かれたカラフルなパプリカが並んでいて可愛い。
「さあ皆、召し上がれ!」
 頂きますと言う声がバラバラなのはご愛嬌だ。身内だけ集まっても綺麗に重ならない。早速グリルに手を伸ばせば肉汁と野菜のエキスが程好く混ざっている。その美味しさに思わず声が漏れた。皆の様子を見ている研司も満足そうだ。
 メアリやルナと話をして戻ってくると何やら盛り上がっている。葵が何処かからリクがゲーマーだったと訊いて、共通の趣味を肴に舌鼓を打っていたらしい。フレデリクもリアルブルーの機械に興味を持って機導師を志した身なので、解説を挟んでもらいつつ話を楽しんだ。
「そういえば、リクさんってお酒飲めるんですね!」
「全然強くはないんだけどね」
「あの……飲み比べ、しませんか?」
 上目遣いに尋ねれば驚いた顔をされる。先程アルヴィンが手品しているのを見て、自分も何か余興を披露したいと思ったのだ。折角の休みにお酒を楽しみたいというのも半分。
「ちょっと、あたしを挟んでお酒の話をするのはやめてくれる?」
「だって、沢城さんって超うわばみじゃないですか」
 負けが見えている勝負は余興にもならない。それもそうねと納得し、空のボトルを手に葵が席を立ったのでフレデリクは身を乗り出してじーっとリクを見つめる。彼が流されて了承するまでに時間はかからなかった。

 ◆◇◆

「ユリアンさん、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
 飲み物を運んだりと忙しなく動いていたルナだったが、冷める前に食べてほしいと研司に勧められてようやく腰を下ろす。隣に座るユリアンがお茶を受け取って微笑んでくれるだけで、ルナの心臓は大きく高鳴った。こっそり距離を縮めるように座り直し、赤らむ頬を誤魔化しながら、まだほんのりと温かいミネストローネを口に運ぶ。
(言い訳なんて、しなくてもいいかもだけど)
 と胸中で呟く。夢に見た積極的なユリアンの姿が思い浮かんだ。甘い言葉を囁く彼の表情がルナの心に焼きつく。でも現実の彼が核心に触れることはなくて、いっそ自分からと手を伸ばしてもなかなか手応えもない。ちらりと視線を向ければ彼もあまり食べていないようだった。ルナとは別の席に皿を運んだりしていたからだろう。
「……ルナさん」
「ひゃ、ひゃい」
 思わず声が上擦る。横目で窺うように見れば真剣な顔のユリアンと目が合い、ルナは緊張しつつ食事を中断して彼のほうに向き直った。ぎこちなくなっているのが分かる。ユリアンは一瞬だけ何かを堪えるような表情を浮かべて、口を開いた。
「今度……何処かに出掛けようか? ――二人で」
 付け足された言葉の、普段より低く囁くような声に酩酊感を覚える。ルナは反射的に顔を背けて、何もない地面に視線を彷徨わせる。そして覚悟を決めて顔をあげた。青い瞳がルナを真っ直ぐに射抜く。
「……はいっ」
 体を寄せれば互いの吐息が白く混じる。優しく頬を撫でる感触に身を委ねて、ルナはそっと瞼を下ろした。

 ◆◇◆

「良い子はプレゼントも貰えるんダヨー!」
 手品でアルヴィンが取り出したのはお菓子や小物類だ。いずれもステッキやリース、ツリーといったクリスマスらしい形をしている。メアリは隣のジュードや研司と同じように礼を言って受け取った。
(……このまま食べるのは惜しいな)
 手元に視線を落とし、次に立派なツリーを見上げそんなことを考える。
 幼い頃から両親は忙しそうで、最初こそ小さい子供を一人にしないようにどちらかは一緒にいてくれたものの、成長するにつれてその頻度も低くなっていった。セキュリティが家を守っていたのもあるだろう。しかし安全が親代わりになってくれる筈もなく、寂しいと訴えることもしなかったから、結局良い方向に変わる日は来なかった。それでも本当に小さな頃には、家族で笑い合ったクリスマスもあったのだ。
「楽しんでもらえてるみたいで嬉しいよ」
 そんな研司の言葉を聞いて初めて、感情が表に出ていることに気付く。彼はそろそろタルトを持ってくるよと笑顔のまま言って、席を立った。アルヴィンも後を追うように、しかし研司と違うほうにスキップで離れていく。いつも笑顔の絶えない人だが、やはり今日は特別楽しそうだとメアリは思った。
「雪山ではお互い、大変だったわね」
 葵がやってきたのは、ジュードと二人でツリーの話をしているときだった。ジュードは人懐っこい雰囲気があってとても話し易い。メアリが向こうでも機械を自作していた話をすると、フレデリクと話が合うよと教えてくれた。さっき話せばよかったなと少し後悔する。葵が差し出すココアを礼を言って受け取って、手で温かさを感じた。
「懐かしいですね。あれから……様々なことがありました」
 言いながら自然と目が向くのは、そこはかとなく甘い空気を醸し出しているユリアンとルナ、少し離れた場所から二人を観察するアルヴィンに何か言っているエアルドフリスの姿だ。
「何か、女子トークでもしてみる?」
「あっ、いいね!」
「エアハートさんは惚気でしょう?」
 葵が提案し、ジュードが乗って、メアリが悪戯っぽく言う。ジュードも笑って否定しなかった。しかし流れはメアリの恋愛話へと発展して、二人から違うベクトルでの助言を貰う。堪え性のない自分に引く戦法を維持出来るかは分からないが、押して駄目なら――。
 ふと会話が途切れたタイミングで音楽が流れ出す。一瞬録音かと思ったが、見ればルナがリュートを手に演奏していた。さすがに向こうの定番曲とは違うものの雰囲気は似通っている。明るくて楽しい、クリスマスらしい曲にまた何とも表現しがたい感情がわく。
「こりゃあ、お邪魔かな」
「エアさん」
 暫くの間、リュートが奏でる音色に聴き入っていると、エアルドフリスがやってきて三人の顔を順繰りに見て笑みを零す。華やかでしょと葵が笑い、ジュードはそわそわとした様子で彼を見上げた。
「うちの連中は皆、賑やかだろう。何か困っていることがあれば遠慮なく言ってくれ」
「いえ、大丈夫ですよ。……とても楽しいです。それより――」
 言葉を切り視線を向けた先には、立ち上がった彼の恋人の姿がある。風がスカートを揺らめかせて、エアルドフリスはそれを見ると衣装の上に着ていた自前のコートを羽織らせた。前を留めてしまえば膝のところまで隠れる。
「ジュード、踊ろうか」
「うん!」
 手を取り合ってツリーの傍まで歩いていく二人の背を見送った。
「ほんっとラブラブよねぇ」
 しみじみと零す葵の言葉に同意する。自分と想い人があんな風になることはなくても、この感情を諦めたくないと強く思った。

 ◆◇◆

 ルナが奏でるメロディーに合わせて踊る。舞踏会のように優雅で形式に則ったものではなく、思うままに踊りを楽しむ。調子がずれていたのはほんの少しの間だけで、自然と足並みが揃っていく。このダンスしているとき特有の一体感が心地良くてジュードは微笑んだ。見合えばエアルドフリスも似たような笑顔をしている。
 彼が着ているトナカイの衣装は着ぐるみというより部屋着に近いタイプで、やっぱり格好いいというよりも可愛い系だが、たまにはこういうのもいい。
(その点、俺は全然刺激的じゃないかも)
 ミニスカサンタの衣装を見たときにはこれしかない、そう思ったものだが、イベント時には女装していることのほうが多いし、付き合いが長くなったからこそ、色々な格好に慣れてしまったんじゃないかという考えに至る。
「――ねぇ、エアさん」
「どうした?」
「この格好、似合ってなかった?」
 ジュードがそう訊くと彼はいつも眠たそうな目を丸くした。そして若干言い淀む。
「よく似合っているが……寒いだろう。それに――」
「それに?」
「見知った相手ばかりなのは重々承知だが、俺に見せびらかす趣味は無いぞ」
 彼の想いを疑う気など微塵もないし、表情や空気感で直感的に察せることも日毎に増えていく。それでもエアルドフリスから与えられる言葉の一つ一つがジュードの内側へと沁み込んで、愛おしいという感情を育てるのだ。
「エアさん、大好き!」
 想いを言葉に乗せれば、恋人は眉を下げて笑い、そして再び口を開いて――。

 ◆◇◆

 縁側から遠巻きに見る、活気ある雰囲気がひどく心地良かった。先程まで隣にいたルナの歌と演奏に耳を傾けながら、タルトを持っていったときに少し話をして、その際にリクに注がれたワインをそっと揺らす。世界の命運を賭けた戦いの最前線を行くような人も、間近にすれば気さくで話し易い相手だったなんて当たり前のことを思いながら、ユリアンはワインを胃の中へと流し込んだ。アルコールには滅法弱く、醜態を晒さない為にも一杯までと決めているし、飲まないまま後片付けに徹することも多い。
 尊敬する人物の傍に付いて、その手伝いが出来るのは幸運なことだとユリアンは思う。近頃はこのまま助手として彼の背中を見ていたい気持ちと、独り立ちして同じ目線で物事を見てみたい気持ちに挟まれてふらふらと揺らいでいるが。ルナとの付かず離れずの曖昧な距離のように、いずれは明確な答えを見つけなければと思う。
(ここに来て、本当によかったな)
 不思議と周囲の人々を惹きつけ、頼りにもなるアルヴィンを筆頭に神託があって、彼の交流の広さから更に輪が広がっていく。その中には自分もいて、これからも続いていくのだ。
 往診についていったり雑用をこなしたりと、ここ暫くの疲労も相まって、急速に睡魔が襲ってくる。せめてもっと邪魔にならない場所へ移動しなければと思いながらも体は動かず、ゆっくりとその場に横になって、一度閉じた瞼は開こうとしても開かない。
 優しい音色に誘われるように、ユリアンの意識は心地良い眠りへと落ちていった。

 ◆◇◆

「風邪を引きやすい時期だ、あまり外に長居するのはお勧めせんぞ」
 言ってエアルドフリスが薬草茶を渡せば、受け取ったメアリは頭を下げ、既に台所で飲んで風邪など引きそうもない元気さを維持している研司と共に屋内へ戻っていった。縁側の隅ではコートを着たままのジュードがお茶の温かさに顔を綻ばせている。ちなみに、そろそろお開きの頃合いだろうと薬草茶を淹れるついでに元の服に着替えてある。
「リクさん、起きてくださーい!」
「リンリン、お疲れサマみたいダカラ、寝かせて置イテあげようネ」
 アルヴィンがそう言うと、彼は素直に頷いた。そちらへ近付いていってフレデリクに配ってくれと盆を手渡し、その代わり何処となく幸せそうな顔でテーブルに頬をつけて眠るリクの脇に手を差し入れる。
「若いノニ、スゴク頑張りすぎて大変そうダヨネ」
「……だろうな」
 反対側からリクの体を支えているアルヴィンがしみじみ言うので、いうほどあんたは歳が離れていないだろう、というツッコミは飲み込んで同意する。若さ故にエネルギーがあって、そして時には自らの限界を見誤る。リクに対してその心配はしていないが年長者として、あるいは薬師として手助けをしてやりたいとは思った。
 客室まで運ぶとルナが布団を敷いていて、
「どうぞ。もう一組敷きますね」
 と、手早く中央にある布団を端にずらす。邪魔にならないよう隅に移動した彼女に礼を言い有難くリクをふかふかの布団の中に押し込んだ。ジュードとまた逆側の隅でひっそりと寝こけていたユリアンのために準備していたのだろう。エアルドフリスが薬草茶を手に戻ってくる頃にはおそらくこれも色々と気の回るルナだろう、掛け布団が被せてあったので風邪は引きにくいだろうと後回しにしてしまったが。
「ユリアンも俺たちが連れて来よう」
「お願いします」
 体力的には研司のほうが有難いが、彼は彼でずっと奔走していたからとユリアンを運ぶ要員にアルヴィンを確保しつつ、また縁側へと戻る。フレデリクと葵を中心に室内外で分担して、てきぱきと片付けが捗っていた。
「ルールー、楽しかったネ」
「……ああ。来年と言わず、この先もずっと続けていきたいものだよ」
 そう遠くない未来、歪虚との戦いに決着がついたとしても、自分たちにはまだ山程の時間が用意されている。様々な因果に思いを馳せ、普段とは逆に助手に世話を焼きながら。アルヴィンと共にきらりと輝く樹上の星を見て、目を細めた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26/聖導士(クルセイダー)】
【ka0038/キヅカ・リク/男性/20/機導師(アルケミスト)】
【ka0410/ジュード・エアハート/男性/18/猟撃士(イェーガー)】
【ka0569/藤堂研司/男性/25/猟撃士(イェーガー)】
【ka1565/ルナ・レンフィールド/女性/16/魔術師(マギステル)】
【ka1664/ユリアン/男性/20/疾影士(ストライダー)】
【ka1856/エアルドフリス/男性/30/魔術師(マギステル)】
【ka2490/フレデリク・リンドバーグ/男性/16/機導師(アルケミスト)】
【ka3114/沢城 葵/男性/28/魔術師(マギステル)】
【ka6633/メアリ・ロイド/女性/20/機導師(アルケミスト)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
圧巻の人数に「!?」となりつつ、出来る限り行動内容と
希望要素を拾いたかったのですが、この文字数でも全然足りず、
ちょくちょくダイジェスト的な感じになってしまいました。
視点ごとにバラつきはありますがバランスは取ったつもりです。
口調や内容に間違いがあればリテイクの申請をお願い致します。
登場人物一覧の男女比率が何度見ても不思議な感じですね。
今回は本当にありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年12月20日

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