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『【任説】父親と息子 』
虎噛 千颯aa0123

 諸事情により仔細は省くが、今日は嫁が1日家にいない。
 つまり、今、我が家には、デカい野郎と小さい野郎しかいない。

「……」
「……」

 母がいない家の中は案外と静かだ。
 それはパタパタと忙しく動き回る人物がいないせいでもあるし、休日だからとソファーでだらける夫を叱る妻がいないせいでもあるし、散々と食べ散らかした後片付けをしながらご機嫌な息子をあやす母がいないせいでもある。

 つまり、嫁がいない家は、とても静かだった。

 息子は最近よくおしゃべりをするようになったのだが、母がいない寂しさからか口数が異様に少ない。今も一人でお利口さんに積み木を積んでは崩している。とても真剣な表情だった。楽しんでいるのかどうか、千颯には判断がつかない。

「……」

 むん、と真剣な顔で積み木を積み上げる息子。
 母に甘えたい盛りで、「とーちゃんとかーちゃんどっちが好き?」という父親の他愛ない質問に満面の笑みで「かーちゃ!」と答えるようなマザコンである息子。
 そういえば、こんなに長い間二人きりで過ごしたことはなかったな、と、ふと思う。
 千颯が子育てに参加していなかったわけではないのだが、どこかで嫁に甘えてしまっていたのかもしれない。

「……、よっし!」
「んぇ?」

 思い立てば行動に移すのは早い。
 千颯はだらしなくソファーに寝そべっていた身体を勢いよく起こすと、息子に向かってにぃっといたずら心に満ちた笑みを向けた。積み木を掴んだままの息子が、父の唐突な行動に疑問を浮かべて首を傾げている。

「とーちゃんとお出かけするか!!」
「!!」

 にぱっと笑って息子に両手を広げて見せれば、最近ようやっと会話らしきものが成立するようになった我が子は、花が散らんばかりに満面の笑みを浮かべて父の胸に弾丸のごとく飛び込んだ。



 さて、父一人子一人でお出掛けするとて、実のところ行ける場所は結構限られる。
 まだ幼い息子は突然親の手を振り払って走り出したりするので車通りのある場所は難しいし、同じ理由で人混みも却下だ。テーマパーク系は息子が乗れるものが少ない上にまだ楽しめるような年齢ではないし、海や川なんかは目を離した隙に水に浮いていたとかありえそうで恐ろしい。山など論外。
 そんなわけで、千颯が選んだ場所はといえば。

「がおーちゃん!!」
「そうだな、トラさんだな」
「とーちゃ!! がおーちゃ!!」
「そうだな、がおーちゃんだな」

 動物園だった。
 ここならば息子が唐突に走り出したとて車に轢かれる心配もなく、ごみごみと人がいるわけでもないので迷子の心配も比較的少ない。息子がぐずったら飲食店に入ってもいいし、動物園は子供連れに何かと便利なのだ。
 何より、千颯もなんだかんだで楽しい。

 ライオンやゾウ、キリンなどのテンプレを巡り、ワオキツネザルの不動具合に訳もなく笑い、ユキヒョウのもふもふ加減にテンションを上げ、大きな蛇にきゃらきゃらと悲鳴をあげ、シロクマのダイナミック入水に歓声をあげ、顔の割におとなしくあくびをしているトラを指差して笑う。
 母親を含め3人できたことはあったが、父と息子二人きり、というのもなかなかにオツなものである。

 母親がいないから愚図るかもしれない、と考えていた千颯の不安は杞憂に終わった。
 小休止に入った売店に置いていたホワイトタイガーのぬいぐるみに文字通り唾をつける息子をやんわりと諌めながら、汚したものは仕方ない、と購入するため小脇に抱える。「だっこ」と両手を差し出してきた我が子を抱き上げて、自分のためのコーヒーを探して売店を見渡した。
 ニコニコと笑う息子と目が合う。

「たのしい?」
「? うん!」

 思わず問えば、満面の笑みで返された。
 それに少し、ホッとする。これで「かーちゃといっしょのがよかった」などと言われたら二度と立ち上がれなかった自信がある。




 あれやこれやと園内を見て回るうち、肩車していた息子が寝落ちしたのに気付いて、千颯は近場のイートインスペースに移動した。周りには同じような親子連れが散見し、どこのご家庭も考えることは同じなのだとなんだか感慨深くなる。

 眠る息子を胸に抱き、汗ばんだ髪の毛を梳いてやりながら、千颯は我知らず父親の顔で微笑んだ。

「……かーちゃん、もう直ぐ帰ってくるからな」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0123/虎噛 千颯/男性/24歳/一児の父】
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2018年12月21日

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