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『妖精のようなあなた 』
フューリト・クローバーka7146

「リトさん、しっかりしてください!」
 自分を起こそうとする声に、フューリトは金の瞳をしばたたかせる。
「あれ……? おかしいな、グリューさんが見える……夢かな……?」
「夢じゃありません! 本物のグリューエリンです!」
 グリューエリンは地面に倒れているフューリトの側に膝をついて、しきりに声をかける。
「今、医者を呼んで来ますから……!」
「えーっと、僕はここで何をしていたんだっけ……?」
 フューリトは自分が何をしていて、どうして倒れていて、グリューエリンがいるのか考えてみた。

 今日はとても天気が良かった。夏の日差しは強過ぎず、肌をぽかぽか暖める。
 こんな日に家にこもっていてはもったいない。フューリトはそう思い立った。
 この季節なら、野山には花がたくさん咲いているだろう。乗合馬車で少し行ったところに素敵な草原があるらしい。
 お花が好きなフューリトは是非それが見てみたくなったのだ。
 そうだ、そこへ行こう。
 と、フューリトは出かけて行った。
 乗合馬車の乗り場にあるベンチで次に来る便を待つことにする。
 太陽の光が気持ちいい。
 のどかないい日だった。
 とってものどかないい日だった……
 のどかな……のどかな……のど……かな……

「あー、僕、それで寝ちゃってたみたい」
 心地よいあまり、フューリトは座ったまま寝てしまったらしい。そして体勢を崩して地面に倒れ込んだのだ。
「……ちょっと動かないでくださいね?」
 グリューエリンはそう言うと、ハンカチでフューリトの鼻の下を拭った。
「ふぇ?」
「鼻血が出ていましたから……出血は多くないようですけど」
「このくらいいつものことだから平気だよー。ありゃ、ハンカチ汚れちゃったねぇ」
「洗えば綺麗になりますから、お気になさらず。リトさん、本当に大丈夫ですか? 痛いところはありませんか?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。僕は元気だよ」
 ピースサインを作ってフューリトは言った。
 ようやく、グリューエリンもホッとしたようだ。
「ところで、グリューさんはどうしてここに?」
 グリューエリンは今日は非番であった。どこかに出かけようと街を歩いていたら、人が倒れているのを発見した。それがフューリトだった、という訳だ。
「グリューさんも暇なんだね?」
「そうですわね」
「じゃあさ、僕と一緒にお花を見に行こうよ!」
 こうして2人は連れ立って、草原へ向かうことにした。

 乗合馬車に揺られてたどり着いたのは、見渡す限りの大草原である。
「わあ、すごーい!」
 色とりどりの花が地面には咲き乱れていた。夏の日差しが、鮮やかに花弁を照らしている。
「うんうん、みんな元気そうにしてるねー」
 フューリトは屈んで、花々と同じ目線になってにこにこしていた。グリューエリンも後について回っている。
「あ」
「リトさん、いかがなさいました?」
「しーっ」
 人差し指を立てて口元に当てるフューリト。
「あそこにね、うさぎさんがいるんだよ」
 フューリトの視線に誘われた先には、野うさぎが鼻をひくひくさせていた。
 後ろ足だけで立ってあたりを見回している野うさぎもフューリトたちに気がついたらしい。
 じーっと見つめ合うフューリトと野うさぎ。
「『こっち来てもいいよ』って言ってる」
「リトさんは、うさぎの言葉がわかるんですの……?」
「んー、そんな気がするんだよねぇ」
 フューリトはゆっくり野うさぎに近づいて行った。
 野うさぎは特に逃げ出すこともなく、フューリトが近づくのを待っているようだった。
 手を伸ばせば触れる距離まで来て、フューリトは、
「あなたに触ってもいい?」
 と、野うさぎに尋ねた。
 野うさぎは、本当に言葉を理解したのかわからないが、すっと、背中を撫でやすいように丸まってみせた。
「じゃあ、触らせてもらうね。嫌だったら言ってね?」
 フューリトの白い手が、野うさぎの茶色い毛を撫でた。
「うわー、もふもふしてるー。素敵な毛並みだねぇ」
 野うさぎもおとなしくされるがままである。
「グリューさんもこっちに……って、うわっ」
 その時、一陣の強い風が吹き抜けた。
 目を細めるフューリト。彼女の茶色い髪が舞い上がる。
 周囲の花も風になぶられて、花弁を散らしていた。
「ありゃ。うさぎさん、いなくなっちゃった。風にびっくりしたのかなぁ」
 髪を整えながらフューリトは花畑から立ち上がる。散らされた花弁は幾枚か頭に乗っていた。
 それを見たグリューエリンは、フューリトを妖精みたいだ、と思った。
「? どうしたの、グリューさん」
「いえ、なんでもありません……リトさん、頭に花弁がついていますよ」
「え、どこどこ?」
 戦場に身を置く彼女たちの、小さな温かい時間は、ゆっくり過ぎて行った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka7146 / フューリト・クローバー / 女性 / 15 / 聖導士】
【kz0050 / グリューエリン・ヴァルファー / 女性 / 16 / 闘狩人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 おまかせノベルなので、どうしてこのような内容になったのか、あとがきとして書いておきます。

『お花が好き』や『立ったままでも寝られる』という部分を書きたいというのがはじまりでした。
 あとは、フューリト・クローバーさんは動物に好かれそうだなあ、と思い、野うさぎが登場したのです。

 この度はおまかせノベルのご依頼ありがとうございました。
おまかせノベル -
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2018年12月25日

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