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『宝石より美しいもの 』
ファルス・ティレイラ3733


 その依頼は簡単な物になるはずだった。
 美術品を盗む魔族の撃退。普段は運送ばかりをしているファルス・ティレイラにしてみれば慣れない仕事には違いないが、困り果てた館長を放っておく訳にはいかなかった。
「すみません、いくら何でも屋だからってこんな依頼まで……」
 申し訳なさそうに頭を下げる館長に、ティレイラは朗らかに微笑んでみせる。
「任せてください。美術品は、すべて守り抜きます」
 そう微笑むティレイラを、館長は頼もしげに見つめていた。

 それが、こんな結果を招くとは思っていなかった。
「ッ、……いや、ァ!」
 悲鳴を上げるティレイラを、魔物は楽しげに眺めていた。
「随分積極的に追いかけてきてくれるから、てっきりこうされたいのかと思ってたけど」
 嘲るような笑い声に言い返す余裕は、もはやティレイラには残されていない。
 つかの間の油断だった。
 王宮のネックレスを持って逃げ去ろうとした魔族を、空中で追い詰めたと思った。その矢先唐突に魔族が振り返り、素早くティレイラの背後を取ったのだ。
 殺されると思った。だが魔族はそうしなかった。代わりに魔法の液体を振りかけてきたのだ。
 透明なそれをかぶった瞬間、身体がずんと重くなった。
「なっ……」
 みるみる間に高度が下がった。尻尾も翼も、鎖で縛り付けられたように自由が効かない。
 焦るティレイラに対して、魔族は余裕そのものだった。
「どうしたの? 追いかけなくていいのかしら」
 ティレイラはキッと魔族を睨み付けた。ティレイラを嘲る魔族がギリギリまで近付くのを待ち、炎を放つ。
 だがティレイラの反撃を、魔族はたやすくいなした。
「これっぽっちかしら、お嬢ちゃん」
 鼻で笑う魔族に、しかし、ティレイラは叫び返す。
「コレで終わりだと、思わないで……!」
 炎の魔術はフェイクだった。本命は、魔族の背後の空間断裂だ。
 裂けた空間が、魔族の腰から上を飲み込む。このまま空間を閉じてしまえば、ティレイラの勝利だった。
 だが、遅かった。
 片方の目玉が、金属に変わった。
「きゃっ……」
 視界が奪われ、術への集中力が鈍る。魔族は一瞬の隙で回避し、地面に落ちたティレイラを抱きかかえ起こした。
「若い女の子の割には、楽しませてもらっちゃったわね」
 魔法金属に変わってしまった太股のラインをなぞられる。
 今のティレイラには感覚が無い。だが、ぞわりとした恐怖が背中を駆け上がっていく。
「やだ……やめて、元に戻して……」
 敵に哀願するなど、屈辱以外の何物でも無かった。だが今のティレイラには、そうするほかない。
「あら、今更言うこと聞くと思うかしら?」
 魔族は奪ったネックレスに優しくキスを落とし、気まぐれにティレイラの首に飾った。
「極上ね……」
 てっきりネックレスを褒め称えているのだと、ティレイラは考えた。だが、続く言葉がティレイラの想定を上回るものだった。
「あなたの前じゃ、こんなちゃちな宝石かすんじゃうわね」
 ぞわりと悪寒が走った。だが逃げ出すことが出来ない。
 まだ柔肌のまま保たれた首に、うっとりとした溜息がかかった。
 逃げ出したいのに、足も腕も、もはや自由にならない。魔族の指が自分の身体を賛美するように堪能するのを、どうしようもないままに、眺めることしか出来ない。
「……たす、け」
 て。
 最後の一音は、口から零れないままだった。
 完璧な魔法金属に帰られてしまった少女の姿を、魔族はうっとりと眺めていた。質感をじっくりと味わうように、時折舌で表面をなぞりながら、甘い溜息を零す。
「楽しかったわ……。また遊びましょうね」
 動かなくなったティレイラの唇に自らの唇を重ね、魔族はどこへともなく姿を消した。


 翌朝、首から宝石のネックレスを下げたティレイラの変わり果てた姿が発見された。
 だが館長は対処することなく、代わりにパンフレットを作らせるよう命じた。
 近日、名も無き名工の美術品が公開されることと、一人の少女の失踪を関連付ける者は、まだ現れていない。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご注文ありがとうございました。
女の子同士の絡みながらなんだかセクシーな雰囲気の場面だなと思いながら納品させていただいた次第です。
またのご注文をお待ちいたしております!
東京怪談ノベル(シングル) -
椎堂アキラ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年12月25日

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