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『【任説】白いワンピース 』
マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001)&迫間 央aa1445

 一目惚れだった、と言ったら、君は笑ってくれるだろうか。



 春の終わりに見かけた、白いワンピース。
 普段彼女が着ているものと似ているようで、けれど決定的に違うワンピース。
 仕事帰りの道筋、普段は目もくれないショーウィンドウに飾られていた、いかにも夏を連想させるようなノースリーブの白い服が、その日はどうしてか、いやに目についた。

 襟元は詰まっていて、腰元でゆるく締めてある。襟は『ボーカラー』と呼ばれるタイプのもので、膝丈程度の、どちらかといえば清楚なデザイン。裾から胸元にかけて施された淡い色の刺繍がかわいらしい。

 それを着ている彼女の姿が、ふと、脳裏によぎった。

 気が付いたらそのワンピースが入った箱を抱えていて、央は思わず乾いた笑みをこぼす。
 どんな顔をして渡せばいいというのだ。いや、というか、衝動的に女性の服を買う男って、なんだ。しかもそれを急に渡される女性の身になればどうだろう。少なくとも自分はドン引きする。

 結局、そのワンピースは渡せないまま、クローゼットの奥で眠っていた。



「……あら? これは……」

 夏の終わり、もう暦上では秋に入ってしばらく。
 そろそろ肌寒くなってきた頃、衣替えをするついでに、クローゼットの整理をしていた時。
 クローゼットの奥、隠されるように置かれていた見覚えのない箱を見つけて、マイヤはことりと首を傾げた。

 見た限り、開封された様子はない。それどころかよくよく見れば箱にはうっすらと埃が付着している。かなり長い間クローゼットの隅に放置されていたようだ。
 箱に印字されているのはマイヤも見覚えのあるブランド名。だが、マイヤの記憶が正しければ、このブランドは女性物を主に扱う店。

 もしかして、誰かへの贈り物だろうか。はたまた、誰かからもらってそのままになっている?

 そう考えて、マイヤは一人首を横に振る。央の性格からして、どちらもあまり現実的ではない。贈り物ならさっさと渡してしまうだろうし、貰ったものも基本的には早々に処理してしまう。
 では、これは一体。

「あれ? どうかした?」

 箱を前にしてうんうんと考えていると、作業の手が止まっているのを見かねた央が手元を覗き込んできた。渦中の人の出現に、マイヤの肩がびくりと跳ねる。

「央」
「なに? どうしたの? ……うん? その箱は……」

 どうしたものかとオロオロとしていると、央はマイヤが腕に抱えた箱に目をやり、驚いたように目を見張った。

「それ……」
「あの、央、ごめんなさい、ワタシどうしていいのかわからなくて……」
「あー……うん、大丈夫、むしろ俺が悪いなこれは」

 オロオロするマイヤに対し、央はどこか恥じらうような、バツの悪そうな、それでいて何か期待しているような笑みを向けた。マイヤが今までに見たことのないタイプの笑顔だった。

「央?」
「これ、マイヤに似合うと思って、随分前に買ったんだ」

 そう言いながら、央はマイヤの手から箱を取り上げて、丁寧な手つきで開封する。
 出てきたのは、可愛らしいデザインの白いワンピース。夏にぴったりなデザインのそれは、マイヤが普段着る服とは少々趣が違ったが、それでも素直に「かわいい」と思えるものだった。

「これを……ワタシに?」

 きょと、と首を傾げながら問えば、央はくすぐったそうにはにかんで見せる。

「うん。結局渡せなくて、そのまましまいこんで忘れてたみたいだ」

 もう夏も終わっちゃったな。そう言って笑いながら、央はマイヤに白いワンピースを手渡した。
 サラサラとした肌触りのいい生地に、繊細な刺繍が映える。きっと、かなり値が張っただろう。しまいこんでいた割にはシワなく状態がいいから、今すぐ着ても大丈夫なほど。

「これを、央が、ワタシに」

 確かめるようにそう口にして、ワンピースを抱きしめるように胸へ充てる。頬が熱い。

「……それを着て、海辺に立つマイヤが見たかったんだ」

 まるで叱られた子供が親を前に言い訳をするかのような顔をして、ちょっぴり頬の赤い央が言う。男のロマン、と言うものらしいが、マイヤにはよくわからない。
 わからないけれど、マイヤにだって思うところはあるのだ。

「……今からだって、十分着れるわ。上にもう一枚薄手のブラウスを羽織れば、秋にだって着れるのよ」

 熱に浮かされたようだ、と、マイヤは思う。
 普段はこんなこと絶対に言えない自信がある。きっと、長い間日の目を見ずにしまいこまれていたワンピースの無念に取り憑かれたのだ。そういうことにしておこう。

「少し濃い色のものを合わせれば、秋口でも問題ない。だから……」

 だから、連れて行って欲しい。
 あなたが見たいと願った、その景色へ。

 その言葉は、言わずとも伝わったらしい。
 央の眼差しが、やわらかくとけた。

「……ひまわりのついた麦わら帽子は?」
「それは、来年のお楽しみ、かしら。秋口には、ちょっと」

 央の伸ばした手が、マイヤの頬に触れるか触れないかの場所で止まる。微妙に伝わる熱がもどかしくて、マイヤは頬を寄せるように小首を傾げた。

「央?」
「……これは、予想以上」

 くつ、と喉の奥で笑った央は、頬に触れた手を引き剥がすように、若干乱雑にも思える仕草でマイヤの髪を攫っていった。

「勝手に女性の服を買う男って、どう思う?」
「変態だと思うわ。でも」

 あなたなら別よ。

 囁くように告げられた言葉に、彼は泣きそうな、それでいてほんの少し優越感の滲んだ、複雑な顔で微笑んだ。



 一目惚れだった、といったら、あなたは笑うかしら。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1445/迫間 央/男性/25歳/人間】
【aa1445hero001/マイヤ サーア/女性/26歳/英雄】
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2018年12月26日

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