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『寄り添う人 』
時音 ざくろka1250

 アメルは度々ざくろに護衛依頼をするようになっていた。大抵は、街歩きに付き合ってほしいとか、買い物に行くので付いて来てほしいというような戦闘の伴わないものである。
 そして、今日も、街を歩いた後、噴水のある公園のベンチに腰掛けて小休憩をしていた時である。
 2人の前を、逞しい肉付きの男性が颯爽と通り過ぎた。
 それを見て、
「筋肉って良いですわよね……」
 アメルがぽつりと言った。
「アメル……?」
「は!?」
 アメルは呟いたことに気がついていなかったらしく、ざくろが問い返したことでようやく自覚したようだ。
 ところで、ざくろは決して、筋骨隆々といった見た目ではない。
 顔立ちは整って少女のようであるし、黒髪は長く絹のように艶やかだ。体つきも少年にしては細身で柳のようにしなやかである。
 ざくろは、文化祭の罰ゲームでアニメの女装コスプレをさせられていた時に転移した。その格好は露出多めで、細い腰や、すらりとした腕が惜しげもなく晒されている。
 ざくろは細身ではあるが、そこは戦闘を生業とするハンターである。軟弱な細さではなく、無駄な脂肪のついていない、豹のようなしなやかな肉体であるのだ。
「あ、いや、違うんですのよ!?」
 耳まで真っ赤にしてアメルは弁解する。わたわたと手を振るので、首にかけている、ざくろから貰ったペンダントも一緒に揺れた。
「筋肉があれば大体解決するとか、考えていませんわよ!?」
 アメルはもともと体が弱かった。成長した今でこそ、普通に生活できているが、幼少期はほとんどベッドの中で過ごしていた。覚醒者の素質もない。
 彼女の父親は高名なハンターだ。そして、アメルはその父親にファザコン気味の愛情を向けている。
「勘違いしないでくださる? 割れた腹筋とか、厚い胸板とか、羨ましいとか思ってませんよ!?」
 おそらくだが、そんな優れた肉体の持ち主である父への愛情と、虚弱な自分の体への劣等感情、自分が決して成れないハンターへの憧憬が混ざり合って、筋肉への屈折した感情を形成したのであろう。
「筋肉か……ざくろは逞しい方じゃないけど……」
 ざくろが腕を持ち上げ力瘤を作ってみせる。しかしやっぱり、その腕は細く女性的な印象を与える。
「いえ、決してざくろさんが筋肉がなくて軟弱だなんて言っているわけでも、思っているわけではないのですよ」
「大丈夫、それはわかってるよ」
 ざくろの言葉にほっとするアメル。が、ほっとしたのも束の間、すぐにいつも他人に向けるような厳しい目付きになる。
「私だって、武芸の心得くらいありますから、筋肉と無縁なわけではないのです」
 そして、立ち上がって、武芸の型を見せようとしたのであるが、長いスカートの裾を踏んでしまい体がよろめく。
「危ない!」
 あわや地面に倒れこむ寸前にざくろがアメルの体を受け止めた。
「アメル……大丈夫?」
 2人は互いに抱き合うような体勢になった。密着する体は、相手の体温を伝える。だから、ざくろは気がついた。いつか、星を見に行こうとして歪虚に襲われ、ざくろに抱きついた時のように、アメルが震えていることに。
「……アメル、このままで聞いてほしい」
 ざくろは囁くように優しく、それでも凛としてアメルに語りかける。
「強くないと、世の中を渡って行くのは難しいかもしれない」
 歪虚という敵がいて、時として人間も敵になる。
「でも、戦えることだけが、ざくろは強さじゃないと思うんだ」
 ざくろは自分の夢を語って聞かせた。桃源郷や理想郷に至った先祖たちのように、自分も仲間を見つけてこの世界の神秘や謎を探ること。いつか故郷に帰る道を見つけたいと思っていること。
「冒険には危険が付き物だよね。それを乗り越えるには戦える人がいるだけじゃダメなんだ。地図を読める人がいて、船を修理できる人がいて、交渉ができる人も大切で……それぞれ違う強さを持っていて、そのどれもが欠けちゃ、冒険は出来ないと思うんだ」
 だからね、とざくろは言葉を続ける。
「戦えない自分を責めないで。アメルは十分強いよ」
「本当?」
「ざくろはアメルのこと、ちゃんと知ってるから」
 アメルの震えが止まった。緊張していた体から力が抜けて、深くざくろに寄り掛かる。
 もう、2人の間には言葉はいらなくて、温かな沈黙だけ流れる──はずだった。
「あー! イチャイチャしてるー!!」
 近くで遊んでいた子供がざくろとアメルをからかった。
 赤面する2人。
「ちょっと、取り消しなさい! 私はざくろさんと神聖な語らいをしていたのであって──ぁ」
 抗議するように立ち上がったアメルだが、そこで再び躓いた。
「アメル、危ない!」
 ざくろがアメルを再び受け止めた。
 しかし、それにより、もっと密着した体勢になってしまうのだが、それはまた別のお話。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1250 / 時音 ざくろ / 男性 / 18 / 機導師】
【ゲストNPC / アメル・ボルコンス / 女性 / 16 / 捻くれお嬢様】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 おまかせノベルなので、どうしてこのような内容になったのか、あとがきとして書いておきます。

 時音 ざくろさんは、見た目は美少女だけど、精神面は凄くカッコいい人だなあ、と思ったので、その辺りを書きたいな、というのがはじまりです。
 まっすぐな優しさが、捻くれ者の心には届くのではないかな、と、こんな話になりました。

 この度はおまかせノベルのご依頼ありがとうございました。
おまかせノベル -
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2018年12月26日

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