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『妖精たちのちゃちゃちゃ 』
ファルス・ティレイラ3733



 魔法道具の通販需要が高まる昨今、それらの商品を扱う流通倉庫は夜を徹してのフル稼働を余儀なくされていた。
 基本的に店に赴き直に品定めをして買い物をする事をよしとするティレイラの師匠でさえ、使用頻度の高いマジックエーテルや魔法薬を入れる小瓶などは通販で大量発注していた。
 一方、ティレイラ自身はあまり魔法道具の通販を使った事がない。東京で美味しい食べ物の通販などは頻繁に行うものの、魔法道具とはさして縁がないからだ。そもそも運び屋の仕事に特別な魔法道具は必要としないし、なんでも屋にしてみても必要であれば依頼主の側で準備されている事が多い。
 かくいう今回の仕事の依頼もそうである。
 ユニフォームに特に決まりはなく、ただ魔法警棒、非常用インカム、迎撃用・捕縛用ロールがいくつか支給されていた。
 それらをしっかり装備してティレイラは案内されるままに業界トップシェアを誇る巨大通販倉庫内を歩く。
 通販システムの大枠は東京の数多ある通販サイトと大して変わらないだろう。
 カタログが魔法によるフォログラムになっているとか、注文が魔法通信であるとか、システム自体が魔法機械による全自動になっているとか、その程度の違いだ。
 注文と同時に商品がベルトコンベアに乗せられ、梱包フィルムにラッピングされ次々配送先に仕分けられ、瞬時に注文主の元へと転送される。
 配達屋さんを仕事にしているティレイラとしては複雑な気分であった。とはいえ、運んでいるものが違うかと思い直す。
 ともあれティレイラは倉庫内でせっせと働く魔法機械群に圧倒されていた。同じ事の単純作業とは言えこれだけの魔法をロジカルに組み上げる事は、今のティレイラでは到底不可能な話である。得意な火系統の魔法でもこうはいかないだろう。
 とにもかくにも人手を必要としなさそうなこの倉庫に、ティレイラが何ゆえ呼ばれたのかと問われれば、なんでも屋の仕事の延長で倉庫内での見回り警備を頼まれたからだ。といっても長期的なものではなく、産休に入った現警備員さんの代役で夜間のみ。
 警備も魔法で自動化出来そうと思わなくもなかったが、商品を傷つける事なく、とか、手加減をして、といったような、きめ細かな事はさすがに機械的にとはいかないらしい。
 納得してティレイラは早速警備の仕事に就いた。
 といっても、早々に何か起こるわけでもない。
 かといって暇を持て余す事もなかった。
 カラフルな商品に、巨大テーマパークのミニチュアを見ているような気分で魔法機械の作業を眺める。中でも、バラバラで大きさも形状も異なる商品を遅滞する事なく梱包フィルムでパッキングしていく様は見事というほかない。魔力を発散している商品がパッキングと同時に魔力を感じ取れなくなるのにも驚く。あらゆる魔力や衝撃から商品を保護するという謳い文句に偽りはなかった。
 この魔法フィルムも売り物として商品ラインナップにあったりするのかしら、と考える。そこから、どんな魔法道具が売れ筋なんだろう、と出荷数をいろいろ数えてみたりもした。
 また、謎の魔法道具を見てはどんな風に使うのか、自分だったらどう使うだろう、と考えるだけで楽しくて、瞬く間に日は過ぎていった。


 ある日。
 毎日淡々と仕事をしていた魔法機械が誤動作をした。配送先と商品が入れ替わったのだ。気付いたティレイラが慌てて戻す。
 と、背後で笑い声が聞こえてきた。振り返るとペットボトルくらいの大きさをした妖精達がティレイラに向けて人差し指であっかんべぇをしてくる。どうやら機械の誤動作ではなかったらしい。
 倉庫に数多貯蔵されている商品が放つ魔力にでも引き寄せられたのだろうか。
「こらっ!!」
 ティレイラは妖精達を追いかけながらとりあえず魔法警棒を取り出した。とはいえ、倉庫内には縦横無尽に商品が行き交っている。それを縫うように妖精達が羽を広げてちょこまかと二手三手に分かれて逃げ回るのだから警棒を振り回すにも限界を感じてティレイラは迎撃ロールを妖精達に投げつけた。
「待ちなさーい!」
 飛んでくるロールに気付いたのだろう妖精が野球のバッターよろしく持っていた槍を振ってそれを打ち返す。
「キャー!!」
 ロールはティレイラの前で開いて爆竹のように大きな音を立てて小さな爆発を繰り返した。
「やったわねー!!」
 今度は捕縛ロールを投げる。しかし、それもあっさり返されてティレイラはとりもち状の魔法陣に捕まった。
「いやーん!!」
 妖精達に笑われながらべりべりとロールを剥がして難を逃れると再び追いかけたがあっさり逃げられた。

 翌日。
 追いかけっこが殊の外楽しかったのか、妖精達の矛先は魔法機械への悪戯からティレイラへのそれに変わったようだった。
 妖精を走って追いかける足下に紐を張られて派手に顔から転ばされたり、大きな商品を倒されて慌てて支える脇をくすぐられたり、バナナの皮をあちこちに配置されたりなどして遊ばれた。
 更に翌日、今夜こそはと勢い込むティレイラに、妖精達の方が上手過ぎるのか特に進展はなく。
「待てこらー!!」
 飛び回る妖精達にティレイラも飛翔可能な半竜形態で追いかける。そのために動きやすい服を選んできたのだ。機動力にはちょっと自信がある。
 そんなティレイラに、この日妖精は珍しく羽を止めた。と、思いきや勢いよくこちらに突進してきた。ティレイラは避ける事も出来ず弾かれるようにして後ろに突き飛ばされた。
 それは大きな箱の商品が梱包フィルムにパッキングされるところだった。
「!?」
 一瞬の出来事だ。
 機械は文字通りただただ機械的にベルトコンベアに乗っていたものをパッキングした。そこに何が乗っていたかは問題ではない。ただ自らの使命を果たすだけである。確認するのはその形状とサイズのみ。
「ちょっ!! 違うのっ!!」
 ティレイラは慌てて両腕を振り回そうとしたが、伸縮自在の梱包フィルムの前では暖簾に腕押しも甚だしい。魔力も無効化され、まるで箱に張り付け状態である。
 呼吸が出来るという事は通気性は抜群なのだろう。そんな事、身を持って知りたくはなかった。
「なんでこうなるのよ〜!!」
 天を仰いで叫ぶのは、天におわす神様にでも文句を言うためか。
 透明なフィルムの向こう側で妖精達がけらけらと笑っていた。
「ちょっと出しなさいよ〜!!」
 その声は届いてるのかいないのか。
 妖精達はバット代わりにしていた槍を構えた。もちろん槍自体妖精サイズなのだからそう大きなものではない。刺さっても致命傷足り得ないだろう。それでもティレイラは蒼白になって身構えた。避ける事も抵抗する事も出来ない。
「!?」
 梱包フィルムはこんなに薄いのに破れるでもなく、こんなに薄いのに衝撃吸収効果は絶大でホッと安堵の息を吐く。
 それをわかってて驚かしただけだったのか、妖精達は可笑しそうに笑っていた。完全にからかわれ遊ばれている事に悔しいやら悲しいやら。
 しかも。
 衝撃吸収によって痛みなどはないが、全く感じないというわけではなく。次々に特攻してくる槍たちに、優しく撫でられているような感覚が。
「ひゃっ!! 腰は…あはは…だめって…ははは…くぐったぃっ!!」
 身を捩って避けようとするがフィルムに阻まれて。

「あはははっ! …いやーん!!」

 ティレイラの笑声が倉庫内にこだました。




■END■





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ありがとうございました。
楽しんでいただければ幸いです。

東京怪談ノベル(シングル) -
斎藤晃 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年12月26日

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