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『Ex.snapshot 003 石井 菊次郎 × テミス 』
石井 菊次郎aa0866)&テミスaa0866hero001

 心当たりが無い、と言われた以上は最早時間の無駄だが、だからと言って見逃すつもりは無い。
 …と言うか、幾ら仇とは無縁の一柱らしいからと言って、愚神≪グライヴァー≫を倒さないで済ますなどと言う理由が無い。
 十字の剣状をした宝杓のみを携え、天秤を持たない義の英雄≪リライヴァー≫がこちらに居る以上は、尚更。

 金色の縁取りがある紫の瞳。瞳孔は十字型――そんな瞳を持つ者に見覚えは無いか。石井菊次郎が訊ねたい最重要の事柄はそれである。『知っている』可能性がありそうな相手――つまりそれなりに高位と思われる自我と力を持つ愚神には、まず何をさておきこの事を訊ねる。他者からは無謀に見えるかもしれないが、菊次郎にしてみればそれこそが目的。その為に今の能力者≪ライヴスリンカー≫――H.O.P.E.のエージェントとしての立場を最大限に利用させて貰っている状況になる訳だから、誰にも邪魔はさせない。
 縁取りだの十字だのの特殊なデザインの上、紫に金と複数の色まで重ねられる以上、言葉で説明するなら少々ややこしいだろうが――直接見せて同じものに心当たりがあるかと問えば一発である。そう、普段はサングラスで隠している菊次郎の瞳も、同じく金の縁取りがある紫の瞳であり、十字型の瞳孔なのである。
 これは菊次郎の瞳を「こうした」相手――仇である愚神を捜す為の「質問」。
 菊次郎の恋人を殺した上、恋のゲームなどとふざけた事を嘯いて――自分を見付けたなら一つだけ言う事を聞くだの、その後は自分のものになれだのと勝手なルールを押し付けて来た女性型の愚神。
 そのゲームルールの一環として、この「説明するならややこしいだろう瞳」は彼女と揃いに設えられている――それを『契――ちぎり――の印』などと表現されたのには恐れ入った。
 まぁ、何と言うか、その時点で怒り狂うべきだったのだろうが、怒り狂ってそのまま相手に食ってかかるような真似は出来ていない。唐突な事過ぎて何も出来なかったと言うのもあるが、何の力も無かったところで愚神と言う言わば「捕食者」に遭遇した人間――被食者としての本能的な恐怖もあったのかもしれない。諸々理解が及んで漸く腸が煮え繰り返る程の怒りと絶望と悲哀に震えた頃には最早その愚神の姿は目の前に無く、幾ら姿を変えたとしても目印としてこの瞳だけは変えない、と言うこれまた勝手に決めて押し付けて来たルールを頼りに――その酔狂な愚神の思惑通りにその愚神を捜し続ける羽目に陥っている。…思惑通りになどなってやるものかと思っても、まず当の愚神が見付からなければ如何ともしようが無い訳で。
 …結果として、実際に十字の瞳孔を持つ愚神や、金の縁取りを除けば同じ色と瞳孔をした片目を持つ愚神も見付けている以上、それなりに「彼女」に近付いてもいるのだろうとは思う。
 思うが、それがこちらの思い込みで無いとは言い切れない――あの愚神が「恋のゲーム」とやらの中身をどう仕掛けて来るかなどわかったものでは無い。つまり、手掛かりらしい情報が出て来ても、わざわざ近付いていると匂わせる「彼女」の何かの仕掛けの内、と言う可能性が無いとは言えない――わかっていても、あの愚神に己のした事の落とし前を付けさせる為には、捜し続ける以外の選択肢は無い。
 せめて今以上に振り回されぬよう、愚神についての知識を深め蓄えるのも有効だろう――仇も何もさておき「愚神」と言う存在形態に対して知的興味を抱くようになったのはそんな思惑もあったからかもしれない。全く以て愉快とは程遠い選択をしたものだとは思うが、それでも「何も知らない」まま無策で追うよりは余程マシである筈だ――と自覚してもいる。

 …つまり、時間など幾らあっても足りはしない。

 そして、今である。
 H.O.P.E.経由で受けた依頼の最中、ここで愚神に「この瞳」の事を訊ねてみた結果は――どうも、全く心当たりが無いとしか見えない様子で。
 今の場合、愚神の程度からしてかなり駄目元…の感もあった「質問」ではあったが、それでも少々残念と思う事には違いない訳である。
 天秤を持たない義の英雄の――テミスの揺るぎない断罪の意志に、少々引っ張られてしまうくらいには。

 共鳴≪リンク≫の最中、菊次郎の左手の上で開き携えられているのは――周囲にまで陰鬱とした妖気を漂わせる一冊のグリモア。重厚な表紙の上に浮き出る光の剣杓――その意匠が、テミスの揺るぎない意志が文字通りそこに宿る事を主張する。開かれたページが次々と繰られるのは自動的――風に煽られるようにしてページの一つ一つがパラパラとはためく。内、特定のページのみが形を変え――蝶のように舞い散る繊細な虹色の乱反射を纏いつつ、新たな形を成していく。
 これで、依頼の対象である愚神に御見舞いするスキルの展開準備は整った――…





 …――結論から言えば、殆ど一撃。
 エージェントとしてチームを組んで来た事自体が拍子抜け、に近いくらいの手応えの無さで撃破は完了。つまりは相手の級を買い被っていたようなところがあったかもしれない。逆を言えば「そう見せ掛けられるだけの能力」は持っていたとも言えるかもしれないが――その辺りを観察する間も無かった訳で。

「…何だか少し残念でしたねえ」
「何がだ」
 今の一柱が主の「その瞳」を知らなかった事なら、充分過ぎる程に想定の範囲内だろうが。
「いえ。ある意味『変わった力』をお持ちの一柱だったようですから…もう少し観察の余地があったかと思いましてね?」
「…主。何を悠長な事を言っている。ただの時間の無駄だ」
「そうでしょうか」
「こんな小物にいつまでもかかずらってる暇があるなら次の当てを捜せ。その方が余程有意義だ」
「一理ありますが。ですがあまりこういった…酔狂な力をお持ちの柱も他に存じ上げませんからねえ、その力の正体くらい見極めておきたかったなと思うのは無駄でしょうか?」
「無駄だな」
「ですか」
「こんな張りぼての力ならそれこそ力押しで疾く済む話だ。気にする価値も無い」
「ええ。確かに今回の一柱はそれで済みましたが…ですがもし、それなりの級に数えられる愚神が同様の力を持っていたとしたらかなり厄介になる可能性もあるかと思ったんですが…」
「主。見当違いの思案も大概にしろ。それ程の力ある柱がこんな子供騙しをすると思うか?」
「さて。子供染みた遣り口と括るなら、俺のこの目を取り換えた愚神も大差無いと思いますが」
 やる方の視点で考えたなら。…勿論、やられた方としては堪ったものじゃありませんけどね。
「ふむ。それも一理あるか――そも、愚神に人の感覚を当て嵌めるのは早計かもしれないな」
「でしょう」
「だがどんな技持て来られようと我の――我らの為す事に変わりはあるまい。我らはただ愚神を断罪するだけだ。主がこれまでに蓄えた数多の知識があれば、今程度の力、奮われたとしても対処のしようは幾らでもあるだろう。何の脅威がある。…主はそれ程融通が利かない石頭だったか?」
「…テミスさんは相変わらず苛烈な方ですねえ」
「何を今更。いや、この程度まだまだ生温い」
 まさか主は我と共にありながらそれ程軟弱になってしまったか?
「おや。テミスさんもお人が悪い」
 今こうやって共鳴している以上、あの時交わした誓約に何の変わりも無いとわかっているでしょうに。
「ならばただの戯言か。それこそ時間の無駄だ」
「…失礼しました」

 藪蛇でしたね、と苦笑する。
 テミスが菊次郎の前に初めて現れたのは――件の愚神と遭った直後の事。その時の菊次郎に降り掛かった愚神による理不尽に反応してか、この「異界の精霊」だと言う高圧的な彼女(いやむしろ首になったサラリーマン風とも言える菊次郎の哀れを誘う地味な姿も相俟って、高圧的な女上司と言った感でもあるのだが)は菊次郎に仕える為に来たのだとあまりにも堂々と言って来た。曰く、この世に来た時に異界の精霊である事以外の多くは忘れたが、己の為すべき事だけははっきりしており――その為すべき己の望みと菊次郎の求めるものが同じだと知ったから、こうするべきだと決めたのだ、との事。
 理不尽からの急転直下でそんな出逢いを得た事で、菊次郎の方でも己の状況を理解して行うべき事を行うと言う頭が戻って来た、と言う面もあったかもしれない。

 即ち、仇である愚神を捜して約束を果たさせる――こちらの望み通りに死んで貰う、と言う目的が、確りと目の前に見出せたと言う事だ。

 さておき、まずは共鳴を解く。…今の愚神により展開されていたドロップゾーンも既に消えており、脅威は去っている=依頼も完遂したと言う事になるので、チームのメンバー共々、自然と戦闘態勢を解いた訳だが。
 蝶のように舞い散る繊細な虹色の乱反射と共に、テミスは融合していた菊次郎のグリモアから分離し人型に再構築。当たり前のように地に降り立つと――どう見られるのか承知の上のような仕草でたっぷりと後ろ髪を掻き揚げつつ、菊次郎を睥睨する。
 そして先程までグリモアから響いていたのと同じ声が発された。

「さて。これで依頼は完了した訳だが――主は余計な事に気を取られ過ぎでは無いか?」
「どうでしょうねえ。有用な知識は何処に転がっているかわかりませんから。殊、愚神に絡む事となれば知識を得る機会も限られて来ますし」
 愚神絡みの話は歴史が浅い以上、書物から辿るのは限界がありますからねえ。人に聞いても同じです。結局最後には、しょうもないと思えるような些細な事でも、実地でコツコツ自力で見定めて行くしか無い訳ですよ。
「…まだるっこしいな」
「テミスさんに同じ事をしろとは求めませんから御容赦を」
「言われずともその気は無い。勝手にやれ。我は主の剣となるべき時に剣となるだけだ」
「頼りにしてます」
「当然だ」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0866/石井 菊次郎/男/25歳/人間/命中適性】
【aa0866hero001/テミス/女/18歳/ソフィスビショップ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 石井菊次郎様、テミス様には初めまして。
 今回はおまかせノベルの発注有難う御座いました。果たして初めましての当方で本当に良かったのかと思いつつ。
 そして初めましてから大変お待たせしてしまっております。…当方こんな感じで毎度の如く作成期間を長く頂いてしまう輩なのですが、宜しければお見知り置き下さいませ。

 内容ですが、おまかせ…となるとキャラクター情報やら過去作品やらからして「こういう事あるんじゃないかな」と考えてみたキャラ紹介的な日常、がまず思い付くところなのですが、今回何となく軽い戦闘?に絡めた石井菊次郎様の回想及び、テミス様との口撃的かつ他愛無い日常的なやりとり…と言う形になりました。

 初めてお預かりするのにいきなり回想と言う内面描写、かついまいち自信の無い能力者さんの戦闘描写(エフェクトとか手順とか)と言う無茶やらかしておりますが、致命的な読み違え等無ければ良いのですが…もし「こんな事考えないし共鳴の仕方とか何か違う、こんな口調だったり態度じゃない」等あったら申し訳ありません(汗)

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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2018年12月27日

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