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『ただ笑顔が見たくて 』
浅黄 小夜ka3062)&藤堂研司ka0569)&ルナ・レンフィールドka1565)&エリオ・アスコリka5928)&沢城 葵ka3114)&鬼塚 陸ka0038)&水流崎トミヲka4852)&エステル・クレティエka3783

 小夜は一人、黒猫のぬいぐるみを抱えて机の前に座っていた。ペンを持ち、じっとノートに視線を落としながらも、ページに書かれている言葉は一つだけ。書き足そうとしては手を止めるので一進一退どころか完全に停滞してしまっていた。時計の針がかちかちと規則的に音を立てる。
 この前、黒猫に導かれて辿り着いたお店で小夜は研司に逢い、そして今目の前にあるペンやノートをプレゼントされた。いずれも小夜の好きな黒猫があしらわれた物だ。最初は嬉しさのあまりに使うのが勿体なく思えたけれど、家に帰る度に取り出して眺めるというのもそれはそれで、せっかく勉強用にと選んでくれた気持ちを無下にするような気がした。だからちゃんと使うことと最初に書く内容を決めて。
 一行目には、藤堂のお兄はんに贈る物と書いてある。ただ、その先が一向に進まないのだ。研司が自分の好きな物、使う物を選んでくれたから彼にも同じような物を贈りたい。しかし、大人の男の人に何を贈れば喜んでもらえるのか見当がつかなかった。最初は自身の父親を思い描いたけれど。
(――お父はんと同じやない)
 純粋に、日頃手料理を食べさせてもらったり、色々なことを教えてもらっているお礼をしたいという気持ちも強い。しかしそれだけでなく、自分がすることで研司が喜んでくれるなら、とも思うのだ。好きな人の笑顔を見たいなんて、ずるい考えかもしれない。
 聖輝節――リアルブルーにおけるクリスマスであれば、それなりに値の張る物でも受け取ってもらえるはず。だから、この機会は逃せないが、どうにも自分一人ではこれだ、といえる何かを決められそうになかった。
 誰かに話せば気が楽になるかもしれない、と優しくかけられた言葉を思い起こす。今回は本人には言えないから、彼以外の誰かに相談してみよう。カレンダーに目をやりつつそう思い立ち、小夜は思い浮かんだ二人の人物に早速連絡を取ることにした。

 ◆◇◆

 ハンターの活動を行ないながらも、同時に郵便屋としてリゼリオ中を駆け巡っているエリオは聖輝節のこの時期、後者の仕事に追われるのが常となっていた。手紙や小包といった品物は勿論のこと、年に一度のお祭りだからと他の地方からリゼリオに、あるいはその逆に普段は会えない相手と一緒に過ごしたい、そんな者も増える為だ。人や情報を届けるのもエリオの仕事の本分であり自分で選んだ生き方の一つでもある。
 しかしながら、全く時間がないわけではないし、遊ぶだけならともかく、見知った相手に真剣な顔をして相談があると言われれば、話を聞いてやりたいと思うもので。仕事終わりに食事も兼ねて、エリオは小夜と馴染みのレストランへと来ていた。
「それで一体、何の相談?」
 小夜は見た目通り大人しく口数も多いほうではないが、考え考え話す内容はストレートで分かりやすいと思う。会話のテンポも特には気にならない。その彼女が注文を終えて少し経っても切り出さないので促せば、頷いて少しずつ話し始めた。内容を聞くにつれて、躊躇った理由に納得がいく。明言はしなかったので本人が自覚しているのかエリオには分からなかったが、仄かに染まる頬と自然に笑んだ顔を見れば答えは明白だ。
(つまり、好きってわけだ)
 人見知りがちな小夜が自ら連絡し、エリオも多忙な中で時間を作るくらいには二人の仲はいい。小夜が自分のことを兄のように慕っているのも知っているし、エリオも無条件に甘やかそうとは思わないが、彼女の面倒を見ることを苦とは感じない。しかし、自分たちの関係はあくまで友人や仲間という言葉の範疇に収まるものだ。同じ呼び方をされていても、ニュアンスはまるで異なる。
 見ていて素直に微笑ましいな、と思えるのは従兄とその恋人の影響が大きい。勿論悪気がないのは分かっているし、個人個人では彼らのことを好意的に思ってもいる。しかしオフの日に揃えばそれはもう、周囲に花の幻覚が見えるレベルでいちゃいちゃしているのでたまにイラつくのも本音である。ラブラブなのは嫌というほど知っているから、せめて二人きりの時にやってほしい。片方が身内というのもまた居た堪れなさを増長させる。そんな万年新婚カップルが身近にいれば、初々しさに優しい気持ちを覚えるのも当然だった。
「エリオのお兄はんなら……どうしはりますか?」
「んー、そうだね……」
 事情説明の後にそう問われて、エリオも顎に手を添えて考える。お互いに食事をする手は止まっていた。
 郵便屋といってもプレゼントを開ける場に立ち会う機会は多くない。それに、そういった客観的な情報より個人的な意見を求めているだろう。
「好きなことに関するものとか? よく料理する人なら調理関係の」
 確か彼の趣味だか仕事だかがそうだったはずだ。と、従兄の話や依頼で一緒になったときに本人からも聞いたような気がする記憶を手繰り寄せて言う。
「といっても調理器具は包丁とか拘りあるかもだし、包丁携帯用のナイフホルダーは? 革製品好きな男って多いし、使えば使う分味が出るから、長く使ってもらえるんじゃないかな」
 調理関係でというのは小夜も考えていたのだろう、うんうんと頷いていたが、エリオが具体的に物を挙げるとはっとした顔にある。
「……革製のナイフホルダー、ですね」
「革ってピンキリだから気を付けてね。もし分からなかったら、ボクもまた時間を作るし」
 言うと小夜がぺこりと頭を下げて礼を返してくる。それを見て悪戯っぽく笑ってみせた。
「結果、楽しみにしてるよ」
 何を贈っても失敗はない。それだけは確かだった。

 ◆◇◆

「ク、クリ……くくくクリスマスプレゼントォ?」
 思わず、死ぬほど吃りながら鸚鵡返しに聞くと、小夜は戸惑うでもなく頷いた。
 未成年に見られがちな容姿をしているとはいえ、その実、小夜より一回り以上も年上のトミヲが一人で行くには敷居の高いケーキバイキング。彼女と一緒なら友人同士に見えなくもないだろうし、と喜び勇んで誘ってテーブルに所狭しとケーキを並べ、一口目を食べた矢先に爆弾を落とされた。そりゃ手も止まるし、やあ小夜ちゃん、こんにちワッツ? なんて待ち合わせ場所で言ったようなノリも引っ込む。だって。
(それ僕に聞く? 自慢じゃないケド、僕DTだぜ?)
 とはさすがに年頃の女の子を前に言えない。世間ズレしていない彼女は多分、大事なものを守り切って三十路入りしたら魔法使いになる、なんて例の通説も知らないだろうし。眼鏡をくいっとして続きを促せば、大人の男性への贈り物、というフレーズにトミヲはまた一人静かにダメージを受けた。確かにトミヲも立派な成人男性ではあるが残念ながら、清らかさ(意味深)を捨てたら魔法が使えなくなるか検証する予定はない。というか独身って気楽だしお金にも困ってないからいいよね、という域に達しつつある。だから別にリア充死ねと思わない。
(おおおお思ってないからね!?)
 と、心の中で言い訳する。そもそもトミヲの脳内にクリスマスは存在しないのだ。十二月は大掃除をする月に過ぎない。所詮はただの師走なのだ。
「藤堂くん……彼、自分が使う物には拘りがありそうだからね。僕は身につける物でもいいと思うなあ」
「……身につける物……ですか?」
「うん。ほら、バンダナとか、首飾りとか。あ、置物みたいな部屋に飾る物でもいいよね。小夜ちゃんのことをちょーっとしたときに思い出す品、って意味では、僕ぁそういうヤツのほうがイイのかなー、なんて思うかなぁ」
 バンダナは視界には入らないが一応頭部を保護する役割もあるし、置物は家に帰る度に目にすると考えれば存在感は抜群だ。今すぐどうこう、とはならなさそうな二人だし思い出せばその分だけ意識する回数が増える、と考えれば我ながらグッドアイデアだ。小夜も純真無垢な瞳を輝かせてメモを取る。
「水流崎のお兄はんも、ほんに頼りになります」
 ありがとうございますと京訛りで礼を言う小夜の、ふわりとした笑顔が微笑ましい。
「良かったねぇ……」
 思わず、そんな言葉が零れる。同じように魔術一本で戦うからか、師匠と慕ってくれる贔屓目もあるかもしれない。しかし、彼女の近頃の言動がほろりとトミヲの涙腺を刺激するのも確かだった。向こうで好きに生きた反面ハンターになってからは怖い思いも苦労も重ねてきたトミヲだが、動機はネタ混じりとはいえ自分で決めた生き方に後悔はない。しかし小夜はリアルブルーに帰りたいと願っていて、件の作戦の行く末にも気を揉んでいた。だから行事を楽しんだり、誰かを特別に想う余裕がなさそうだと心配していたのだ。一人の女の子として真っ直ぐ歩んでいるこの現実が、ただただトミヲは嬉しかった。
(……う……何だか泣けてきた……)
 喜びの涙は恥ずかしくないが、親のようにしんみりするにはまだ早い。ぐすと洟をすすれば小夜が首を傾げる。それを誤魔化すように満面の笑みを浮かべてみせた。
「ほらほら早く食べよう! じゃないと僕が、店中のケーキを食べちゃうよー?」
 頷いて食べ始める彼女を見て、トミヲも意気揚々と二口目を口へと運んだ。

 ◆◇◆

 聖輝節を前に、明るいムードに賑わう街でルナとエステルは買い物を楽しんでいた。二人は親友同士であり、そしてお互いにまだ恋人と呼べる段階まで進んでいないが、意中の人がいるという共通点もある。なので自分で使う物だけでなく、プレゼントも視野に入れて様々な店を回っていて。雑貨屋にエステルが集めている小物を見に行ったとき、難しい顔で置物を眺めている小夜を見かけた。最初はその真剣な表情に誰か大切な人への贈り物を考えているのだろうと察し、彼女もこちらには気付いていない様子だったのでそっとしておいた。しかしエステルと共にあれが可愛い、これもいいねと店中の商品をチェックする勢いで回り、小夜がいた棚の前まで戻ってきたところで彼女が微動だにしていないことに気付けば放っておけるはずもなく。可愛いお友達の為に一肌脱ごうとエステルと頷き合い、元々休憩する予定だったからと説得して悩んでいる様子の小夜をカフェへと連れ出した。
 その結果、それぞれ想い人に何を贈るかの相談会が開かれる運びとなった。ルナにとっても他の人の意見を聞けるのは有難い。小夜は先に相談した二人の受け売りだと前置きしてルナには紅茶を飲んでいるイメージがあるからとティーカップを、エステルには雑貨屋さんなら商品の仕入れに歩き回ると靴を勧めた。それをふまえつつルナも考えてみる。
「うーん……調理器具のメンテナンス用品はどうかな? 料理人さんだし愛用の包丁とかあるだろうから、道具そのものよりそういう系のほうが良さそう。――砥石的な物とか?」
 個人的には重い物は避けて通ることを勧めたい。となれば消耗品が無難で、確実に使ってもらえる物として真っ先に思いついたのがそれなのだが。
「渋い感じですね」
「え? 渋すぎ?」
「ルナさんらしいなぁって思います。ね、小夜さん」
 話を振られた小夜がこくりと頷く。
「ルナのお姉はんも、楽器にはこだわってはるから」
「あぁ〜……」
 自分では意識していなかったが、言われてみれば確かにそうだ。楽器は勿論、弦などの演奏に影響を及ぼすパーツにも相性があるから出来れば好みに合う物を自分で選びたい。けれど共通ではない趣味に理解を示し、必ず使う物を贈ってくれたならそれは嬉しいことで。期せず自分の好みが判明してしまった。参考になったなら良かったけれど。
「エステルちゃんだったらどうする?」
 彼女も同様に楽器――横笛を嗜むが、音楽への姿勢は異なるし、折角なのでエステルの好みも知っておきたいと思った。聖輝節は家族や友人とも楽しむものなのだから。話を振られた彼女は唇に人差し指を添えた。

 ◆◇◆

「聖輝節のプレゼント……あったか靴下やスリッパとかどうでしょう? これもある意味消耗品ですし、そこまで拘る部分じゃなさそうですよね。温かいし、家で使ってもらえそうかな、って」
 ルナの提案になるほどと思いつつ、エステルも違う切り口で考えてみた。
「靴下だったら刺繍を入れて、こっそりお揃いにも出来ますよ?」
 言って、ふふと笑みを零し。私もそうしようかな、と思った。小夜の靴という発想も目から鱗だったので、セットにするのもありかもしれない。ペアルックは恋人同士でもハードルが高そうだが、ワンポイントなら気付かれないだろうし、ふとした瞬間に想いを馳せるきっかけになる。相手にアピールするというよりも自身の感情を深める意味合いが強いか。それはエステルが自らの恋愛事情より、ルナと兄の関係がどうなるかに関心を寄せている影響もある。もっとも、全力で応援する気持ちに嘘はないが、晴れて恋人になれば会う時間が減ってしまう寂しさも少しだけ感じていた。兄に対しても親友に対しても。
『お揃い……』
 二人の声が重なる。好きな相手に限らず友達でも仲間でも、同じ物を持つことには特有の魅力がある。
 小夜とは依頼で何度か一緒になったことがあるが、年下でリアルブルーの出身で、なのにしっかりと地に足の着いた芯の強さがあり、しみじみ凄いなと思っている。そんな彼女も憧れのお兄さんの話をするときは照れに頬を赤らめ、一生懸命考えている姿を見ると親近感を覚えるし、こうして自分なりに助言をするくらいしか出来ないけれど、これからもこっそりと応援していきたい。
(ルナさんも……聖輝節、どうするのかなぁ)
 兄にはいい加減に甲斐性を見せてほしいものだが。ルナにも贈り物の候補を挙げるついでにそれとなく訊いてみようと考えながら、エステルは胸中でそっと願い事をした。
(――皆、二月に向けて良いステップが踏めます様に)
 それに、恋に戸惑い悩みながらも幸せそうな二人を見ていたら、自分も頑張ってみようかなと思えた。聖輝節の相談会はまだ少しだけ続く。

 ◆◇◆

 今日も今日とて仕事終わりの帰り道、リクはげんなりとしつつ通りを歩いていた。ソサエティに行ったところ例のごとく高難易度の仕事を斡旋されて、答えをはぐらかし逃げてきて現在に至る。普段なら率先して引き受けるが問題はその時期だ。年末年始に被っているのである。大怪我をすること請け合いの依頼を受けて寝正月、なんて事態はさすがに避けたい気持ちで一杯だった。
 と、欠伸一つして何気なく横を見れば公園のブランコに座る見知った女の子の姿を見つけ、リクは立ち止まる。ブーツの底で地面に何か描いているのがいつかのように寂しげに思えて、放っておけずそちらへ足を踏み出した。
「小夜ちゃん、どうしたの?」
「……リクのお兄はん」
 顔をあげた小夜は少しだけ考えるように目を伏せて、
「……今、お時間はありますか?」
 真剣な眼差しでそう訊いてくる。リクはうんと頷き、囲いに軽く体を預けた。
(へぇ、プレゼント……! しかも男性に……これはいよいよ、そういう時期ですかぁ!?)
 小夜の懸命な説明に相槌を打ちつつ、内心一人で盛り上がる。一人前の魔術師でも子供らしいというか、恋愛事に興味がなさそうに思えた彼女が異性に贈り物をしたいと言うのだ。ちょっとくらいニヤニヤしたくもなる。しかしふざけるわけにもいかないので、真面目に相手の嗜好を想像して考えた。
「そうだなぁー……やっぱり、腕時計?」
「腕時計……ですか」
「時間管理って大事だしね。割と激しく動くタイプだから、実用性が高めの耐久力があるやつとか、そのあたりかなぁー」
 戦いに身を投じるだけに、いざというときに機能しなかったら困る。時刻が見やすく壊れにくいというのは重要な点だ。それはそうと。
「小夜ちゃんって、その人のことどー思ってるの?」
「え!?」
 ど直球の質問をすれば、あまり大きな声を出さない小夜が思わずといったふうに驚愕の声をあげる。困らせるようなら適当に誤魔化そうか、とリクが考えていると、想像に反して彼女の躊躇いは短く、真っ直ぐこちらを見上げて口を開く。
「凄く、大好きな人……です」
 小夜の赤紫色の瞳にきらきらと星が瞬いた――ような気がした。あぁ、と懐かしくなる。
(そうだよなぁー……今の時期って、ドキドキするけど楽しいよなぁ)
 そんな感傷は内側に留め、代わりに違う言葉を口にした。
「小夜ちゃん、今のその気持ちを覚えておいて。大事なことだからさ」
 トーンの変化を感じ取り、小夜もしっかりした声音ではいと答える。すぐに意味が分かるわけではないが、いつかこの言葉が助けになればいいと思った。
 小夜と別れた後、またふと足を止めて夕暮れ空を見上げる。
(あれから……君がいなくなってからもう二年……か)
 かつてのリクも、同じように人を愛おしく思った。そして、それが世界を変える強さになるんだと知って。またあの頃と同じ気持ちを抱く日が来るのか、リク自身にも分からない。ただきっと今年ではないと思った。来年か再来年か、もっとずっと先かもしれない。
(――ならせめて、誰かが笑っていられるように)
 目を閉じ、ゆっくりと開く。ポケットから魔導スマートフォンを取り出して、慣れた手つきで操作した。そして出た相手にこう伝える。
「さっきの案件の話、やるよ」

 ◆◇◆

 違う世界でも偶然似ていたり、あるいはリアルブルー由来で定着した文化もある。聖輝節とも呼ばれるクリスマスがその最たるものだろう。ツリーを飾り、ケーキや料理を用意してと、既にクリスマスらしさを満喫してはいるのだが、当日にも時間が出来れば何かやろうと考えて葵は散歩がてら買い物を楽しんでいた。そして、クッキーの型抜きに使う新しい型でも見てみようと調理関係のコーナーに立ち寄ったところ、普段こういう場所では見ない相手の姿に声をかける。
「あら、浅黄じゃない。何を探してるのかしら?」
「……沢城のお姉はん」
 小夜と調理器具で連想するものといえば、葵と同じ小隊に所属し、料理という同じ趣味を持つ友人でもある研司だ。前のアップルパイのように何か作ってプレゼントでもするのだろうと思い、からかおうとしたが、思いのほか深刻な表情を見て気が変わった。何か言おうとして口を噤む彼女の肩にそっと手を乗せる。
「あたしでよかったら、相談に乗るわよ」
 葵の言葉に小夜はいくらか逡巡し、やがてお願いしますと頭を下げたので、落ち着いて話を聞けるよう、併設されたカフェに行くことにした。まずは温かい飲み物とデザートをいただいて、それから彼女の話に耳を傾ける。先程の予想と大きくは離れていなかったが、好きな人に一番喜んでもらえる物を贈りたいという健気さは好ましい。
(これが男共だったら適当におちゃらけるのもアリだけど、こぉんなに可愛い恋する女の子は、本気で応援しないとね!)
 そう思いながら、真面目にアドバイスしようと考えを巡らせる。
「相手は藤堂でしょぉ? 料理に使える小物とか、ちょっと珍しい調味料のセットなんてどうかしらね。年齢差もあるから、あんまりガツガツしたもの贈っても引かれちゃうだろうし」
 料理にかける情熱は筋金入りなので、器具類のメンテナンスは怠っていないはず。大抵のことは技量でカバー出来るから初心者向けの簡単な道具も必要ない。となればその辺りが無難なところだ。あるいは、
「冬用のアイテムなんかもいいかも。お揃いのマフラーとか、ね」
 お揃い、という言葉を聞いて、小夜は難しい顔をする。意外と嫌なのかと思っていると、実は、と彼女は事情を話し始めた。
「そう。他の人にも相談してたのね」
「……全部買うわけにもいかへんけど、どれがいいんかもよう分からんくて……」
 双方ともに交流のある相手に意見を求めれば、それこそふざけでもしない限り、的外れな答えは出て来ないだろう。彼女が挙げた名前は葵からすると依頼で一緒になった程度の相手もいれば、最近知り合ったばかりの者もいるが、みな好ましい人柄でちゃんと二人のことを考えて言ったのが想像出来る。
「別に、誰かの意見をそのまま採用する必要はないんじゃない?」
「え……?」
「そのアドバイスを聞いて何がいいって思ったのか、それを突き詰めてけばあなただけの答えが見つかるかもね」
 結局最後にものを言うのはインスピレーションだ。意見はあくまで最良を見つける材料に過ぎない。
「自分だけの答え……」
 助言を頑張って咀嚼しようとする小夜を見守りながら、葵はふと思い出した。そういえば近頃、研司の姿を見かけていないことを。

 ◆◇◆

 小夜が信頼出来る人物を頼って、様々な贈り物を検討している最中。研司は研司で彼女に贈るクリスマスプレゼントに悩んで、一人悶々とした日々を送っていた。
 何しろ相手は一回りほども年齢の違う女の子である。歳の離れた妹がいるわけでもなし、何が好みかなんて分かるはずもない。人に相談すればあっさり答えが出るような気もしたが、見栄は張りたいし、苦労を表に出したくないのが男心というやつである。幸いにも仕事やパーティーなど諸々の調整から早めに逢う日が決まっていたので、考える時間は山程ある。
(食べ物? お菓子?)
 それはクリスマスみたいなハレの日に限らず、ケの日にだって振る舞いたいものだ。勿論用意はするがプレゼントの括りには入らない。
(じゃあ服? 装飾品とか?)
 そもそもサイズなんて知っているはずがなかった。背恰好からおおよその推測は出来なくもないが、色に柄に質感にと好みに左右される部分が多過ぎる。文房具ならいざ知らず、身につける物で微妙だと色々と気を遣わせてしまっていただけない。アクセサリー類も悪くはないが、
(あの黒猫のペンダントの印象を邪魔してしまわないか?)
 元々黒猫を飼っていて、覚醒者として契約を交わした精霊も飼い猫の紫苑と、何かと黒猫に縁があり、好んでもいる小夜だ。魔術具として使えるのを抜きにしても気に入っている、あのペンダントの邪魔になるような物も避けたい。しばし考えた末に身につける物はダメだと結論を出した。食べ物と服飾以外で、贈って喜んでもらえそうな何か。どれだけ考えてもしっくりとくる物がない日々が続いたが、ふと包丁の切れ味が落ちてきたのが気になり、いつも研ぎを頼んでいる鍛治師の元を訪ねたとき。ふと天啓が舞い降りた。
「鍛治師の兄ちゃんっ!!」
「な、何だい!?」
 テーブルの上に置かれた、持ち運び用のケースを受け取ろうとした鍛治師の両手を勢いよく掴むと、彼もいきなりのことに驚きながらも、とりあえず話を聞いてくれる姿勢になる。
「いっちょ頼みたいことがあるんだが、聞いてくれるか!?」
「ま、まあ、俺に出来ることなら……」
 言う前から引き気味だった彼は、畑違いなのは重々承知しつつ研司が作ってもらいたい物の名称を挙げるとぽかんと大口を開けて固まった。そしてはっと我に返ると、
「いやいやいや、無理無理! 作ったことないし!」
 全力で首を振る鍛治師に説得を試みたり、拝み倒したりし、最終的には二人の大声でのやり取りを聞いて奥から出てきた彼の妻の、やってあげなよという鶴の一声で無事協力を仰ぐことに成功した。上手くいかないかもと繰り返し覚悟を促す鍛治師に頭を下げれば、彼も呆れながらも笑って。研ぎの後で打ち合わせして帰る段になると、奥さんに背中をばしっと叩かれる。
「うまくやりなよ」
 力強さとは対照的に優しい声で言う。どうやら、最初から大体お見通しだったらしい。
 一人帰路を辿りながらこれからの忙しさを思って、気合いを入れる為に軽く頬を叩く。再び包丁を研いでもらう日はそう遠くないかもしれない。

 ◆◇◆

 部屋のカレンダーについた赤い丸。その日が刻一刻と近付いているのを感じながら、小夜はノートを広げ、じっと見つめていた。ただ、少し前とは違って一ページ分丸々が綺麗に文字で埋まっている。
 前半に書かれているのは、相談に乗ってくれた人の名前と勧めてくれた物、それから日記代わりに一行ずつだけ、話した内容も添えてある。小夜から声をかけたエリオとトミヲ、教えてもらった物を探しに行った先やその帰り道で偶然に会い、話を聞いてくれたルナとエステル、リクに葵。依頼でお世話になったり一緒に遊んでくれたりと、研司に対する感情とはまた少し違うけれど好きな人たちなのは確かで。改めてお礼を言って、いい報告をしたいと強く思う。
 彼らの名前の下には葵の助言を参考に貰った意見でいいと思ったところや、覚えている範囲で研司と話していて感じたことなども何かのヒントになればと雑多に書き連ねてある。それらを組み合わせて自分で結論を出し、手渡しする。どんな言葉をかけるのかは、深く考えないことにした。多分、率直に感謝を口にしたほうがいいと、そう思えるから。
 そして暫く考えた末にプレゼントを決め、小夜はその文字を囲うように丸を描いた。これならきっと後悔することはない。

 ◆◇◆

 鍛治師の奥さんがリアルブルー出身だったのは僥倖という他ない。期日にはきっちりと、蓋を開けば優しく郷愁を誘う音色できらきら星を奏でるオルゴールが完成していた。最初はシンプルの一言に尽きる見た目だったのも、研司がいないときにも夫婦で意見を出し合っていたらしく様々な案が提示され、最終的には曲名にちなみ蓋の上部には星々を、下部にはそんな夜空を見上げる黒猫のシルエットを描いてもらった。自分にはせいぜい惑星とその衛星くらいしか分からないが、似て非なる世界だからおそらく、リアルブルーとクリムゾンウェストでは星座も違っているんだろうと思う。けれど見上げたときに広がる景色は変わらなくて、だから向こうの世界に帰りたいと願う彼女にこれを渡したい、そんなふうに思ったのだ。
 無理を言って作ってもらったということもあって、相場より多く見積もった金を半ば強引に受け取ってもらった。どうしても小夜への贈り物を依頼の報酬で支払うのは嫌だったので自身の持つスキルをフル活用して、料理を作ることで全額賄ったという、実物から手段まで拘り抜いて手に入れた品だ。そのオルゴールをクリスマスプレゼントらしい赤と緑で包装し、そして当日。
「こんにちは。藤堂のお兄はん」
「いらっしゃい、小夜さん」
 あらかじめ風邪を引かないよう言っておいたので、研司の元にやってきた小夜はマフラーに手袋、帽子ときっちり防寒対策を行なっていて内心ほっとしつつ。本音を言えば、これは絶対に喜んでもらえるというほどの自信はなかったものの、そんな少しの不安は心の奥に仕舞い込んだ。いつも自分が彼女の前で浮かべているだろう表情を意識し、努めて明るく満面の笑みを浮かべてみせる。勿論こんな特別な日に小夜と逢えるのが嬉しいのは本当だ。これから一緒に過ごす時間が楽しいものになることも疑いようもない。
 何処か緊張した面持ちをしていた小夜がほっと息をつくのを見て、研司も密かに安心する。いつどんなときだってやはり、彼女には笑っていてほしいと思った。特に地球凍結作戦が行なわれてまだ日が浅い今だから尚のこと。来年の今頃にはまた二人で笑い合えるよう、より一層力をつける必要があると決意を抱いた。
 見上げた空は薄曇りで、そのうち雪がちらつき出すかもしれない。そんなことを思いながら二人、暖かい室内へ入っていった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka3062/浅黄 小夜/女性/16/魔術師(マギステル)】
【ka0038/キヅカ・リク/男性/20/機導師(アルケミスト)】
【ka0569/藤堂研司/男性/25/猟撃士(イェーガー)】
【ka1565/ルナ・レンフィールド/女性/16/魔術師(マギステル)】
【ka3114/沢城 葵/男性/28/魔術師(マギステル)】
【ka3783/エステル・クレティエ/女性/17/魔術師(マギステル)】
【ka4852/水流崎トミヲ/男性/27/魔術師(マギステル)】
【ka5928/エリオ・アスコリ/男性/17/格闘士(マスターアームズ)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
おまかせノベルのときの感覚でプレゼントを渡すところまで
書く想定で進めていましたが、文字数や他のPCさんとのバランス、
発注文を考えると逢いに行く、迎えるという場面までかなと
思い直してこういった形にさせていただきました。
思い切り勘違いしていたら非常に申し訳ないです。
あと、エリオくんの一人称はつぶやきの表記にさせていただいてます。
それぞれの提案を読んで、なるほどなあと思いながら書いていました。
今回は本当にありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
りや クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年12月27日

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