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『素敵な夜を過ごしましょう 』
荒木 拓海aa1049)&皆月 若葉aa0778


 ピンポーン、と玄関の音が鳴る。荒木 拓海は玄関を開け、客を出迎えた。
「いらっしゃい、若葉!」
「こんにちは! ゲームソフト、色々持ってきたよ」
 玄関の外で待っていた皆月 若葉は拓海の顔を見てにっと笑う。
「ああ、とても楽しみにしてた」
 どうぞと招き入れる拓海に、若葉はお邪魔しますと告げて荒木家へ上がった。外とは違う、暖かくて優しい空気に包まれ思わず顔が綻ぶ。
 拓海の嫁や英雄たちも、若葉とは顔見知り故に歓迎ムード。挨拶をして持ってきた菓子折りを渡し、若葉は今日の目的を果たすべくテレビのある部屋へ向かった。

 荒木家を訪れた理由は──少々時を遡る。
『そう言えば拓海さん、ゲームとかする?』
『ゲーム? 普段はしないけど、教えてもらえば多分できるよ』
 なんてことない会話に挟まれた、新しいゲームの話。
(こういうの、拓海さんは好きかな?)
 なんて思って話題をふってみたのだが、思った通り──いや、思った以上に拓海が食いついたのである。それは普段遊ばないからこその好奇心も含まれていたかもしれない。
『面白そうだな! 若葉は持ってるのか?』
『うん! 俺も気になって、発売日に買っちゃった♪』
『それならそのゲーム──』
 うちで遊ばないか?
 瞳を輝かせる拓海に、勿論若葉が否と言うはずもなく。
 かくして、大晦日も手前の今日に荒木家宿泊が決まったのだった。


「ゲームソフトは……これか?」
「うん──あ、でも待って。こっちの説明書を見ながらの方がいいかな?」
 若葉が説明書を手渡す。ソフトの前に、まずはコントローラーの説明からだ。
 コントローラーと説明書を眺める拓海が思わず苦笑を洩らす。
「……ボタン、どれが何だかわからなくなりそうだ」
「あー……慣れるまではちょっと大変かもね。あまりボタンを使わないゲームからやってみようか」
 持ってきたソフトをずらりと並べ、その内1つを指差す若葉。ミニゲームの詰まったソフトなら簡単なゲームもあるし、難易度の調整もできるだろう。
「これはタイミングに合わせて、画面に出るマークと同じボタンを押すんだ。割と簡単かな」
 最初に選んだのは音楽ゲーム。ビートに合わせてボタンを押していくものだ。
「おお、確かに慣れればなんてことないな」
 初めはややもたついていたものの、すぐにリズムに乗ってボタンを押し始める拓海。大した難もなくクリアしたので、若葉は難易度を1つあげた。
「うおっ、同時押しもあるのか……!?」
「もっと難易度が上がると、訳わかんないくらいマーク出てきたりするよ」
 予想外の動きに手元を乱す拓海。若葉はその様子に小さく笑いながら、まだまだ余裕そうにクリアしていく。
「危ない……もう少しでクリアできないところだった……」
「でも、ちゃんとクリアしてるよ。コントローラーに慣れてきたなら、他のソフトもやってみていいと思うけど……」
 どう? というような若葉の問いに拓海は小さく唸り、暫くして「いや、」と画面へ向き直った。
「もう1回やらせてくれ。もっと余裕を持ってクリアできるようになりたい……!」
「お、いいよ。頑張ろう!」
 こうしてもう1度──では流石に終わらず何回か繰り返し、ようやく納得のいくクリアをした拓海。次はと手を伸ばしたのは格ゲーであった。
「ここで使うキャラクターの選択ができるんだ」
「すごい、こんなにいるのか……!」
 複数いる中からそれぞれ好きなキャラを選択し、いざゲームスタート。
「拓海さん、ジャンプして!」
「ああ……っ」
 若葉の言葉にキャラを必死で動かす拓海。コツを掴んでくるのか、何回かゲームを遊んでいると慣れを感じさせてくる。
「若葉、相手キャラの難易度を上げてみないか?」
「NPCの? いいけど、俺も勝てるかちょっと不安かも」
「やってみなくちゃわからないさ」
 それもそうだね、と若葉はNPCの難易度を普通に上げる。まあまだもう1段階、もしかしたら2段階以上の難易度を残している中でさほど難しいわけが──。

「やば、挟み撃ちされた!」
「あぁっ、若葉!!」
「拓海さんやられそう逃げて! 逃げて!!」
「いやこれ無理──あっ、」

 ──難しかった。
「「ああーーーーー……」」
 画面に踊る『LOSE』の文字。暫くすると画面はリザルトへ移る。
「全然動きが違ったな……これより上の難易度はどうなってるんだろうか」
「俺もやったことないからなぁ……拓海さん、リベンジしない?」
 勿論! と2人は再挑戦。何度も繰り返し遊んでいれば勝率もやや上がり、気づけば始めて3時間以上経過しようとしていた。
「ちょっと休憩するか?」
「だねー、大分遊んだし」
 目にも疲れは溜まる。2人はゲーム機の電源を落としてソファに腰かけた。緩く沈む体にも疲労がのしかかる。
「ゲームってこんなに疲れるんだな……」
「長くやってたし、前のめりにもなりやすいから、意外とね。でも、もっとこまめに休憩を取れば大丈夫だよ」
 うーん、と体を伸ばす拓海に若葉が苦笑し、出してもらっていたお茶を飲む。ゲームではしゃいだからか体は暖かく、叫んだりしたこともあって喉を流れるお茶が美味しい。
「……あ、そういえばさ」
 と若葉がふった話題は拓海が少し前に向かえた第2英雄のこと。
「こっちには慣れた?」
「ああ。心細い感じだったのが、何時の間にか変わってきて……」
 第1英雄に似てきただろうか。先日クリスマスプレゼントを買いに付き添った時も、なかなか鋭い一言が飛んできた。
 思い出して苦笑するも、すぐにその表情は緩む。
「だが……可愛い。何をしても負けてしまうんだよな」
「この前の着物モデルも可愛かったよね。あ、あの時撮ってた写真ってある?」
「ああ、プリントしてこっちのアルバムに入れてある。ほら」
 ぱらり、と開かれたアルバムには沢山の写真と、そこに写る第2英雄。秋桜を散らしたティーン向けの着物は彼女に良く似合っている。
「そういえば、この時若葉は振袖を着ていたな」
「あれば……俺もビックリしたよ。皆がどんどん決めていっちゃうから」
 それも若葉の第2英雄が振袖を見て「これ着たい!」と言ったのが切欠で──。
「あ、そうだ」
 少年とも少女ともつかぬその英雄が写真の少女と遊びたがっていた話をすると、拓海は頤に手を当てた。
「2人とも、そんなに年は変わらなそうだしな。あの年頃なら遊園地とかかな?」
「いいね、楽しそう♪ 近場だとどの辺りだろう」
 休憩中という事もあって、2人の手はスマホへ。互いに近場の遊園地を調べつつ『ここはどう?』なんて画面を見せて話し合う。
「──こんなところかな? 明日、見せて聞いてみるよ」
「うん、俺も帰ったら聞いてみるね」
 ひと段落したところで、2人はどちらからともなくゲームの準備を始める。
「若葉、これは?」
「ん? ああ、それはモンスターとかを狩って、素材とか集めるんだよ。その素材で強い武器とか作れちゃうんだ」
 ソフトを入れ替えると、画面に表示されるのは広々とした草原。そこらを駆けまわってある程度の動作を覚えた拓海は若葉のキャラクターと共に草原を駆けた。
「まずはどこに?」
「そうだな、じゃあ──」
 モンスターを狩り、シューティングゲームで共闘し、最初の音ゲーに戻ってさらに高難易度に挑戦し。
 それらの結果に一喜一憂する声は、空が燃えるような色になるまで聞こえていた。


 日も暮れ、夜の帳が世界を覆う。夕食と入浴のため、ゲームは中断だ。
 風呂から上がり、酒盛りをしようと冷蔵庫を開けた拓海。用意されていたつまみに顔を綻ばせる。
(色々用意してくれたんだな。後でお礼を言わないと……)
 きっと嫁や英雄たちだろう。先程台所の方で聞こえた物音はこれのためか。
 冷蔵庫からひょいひょいとつまみを取り出し、扉側に収められた酒瓶を見て拓海はそれも出す。
(今日こそはこの酒を出すか! 若葉、覚えてるだろうか?)
 覚えていなかったら寂しいので、是非とも覚えていてほしいところである。
 そう思いながら部屋へ戻る拓海。若葉も先に入浴を済ませ、部屋でのんびりしているはずだ。
「おつまみありが──あっ!」
 部屋へ戻ってきた彼に若葉は視線を向け、その腕の中にある酒瓶を見て目を丸くする。その反応に拓海はニヤリ。
「『若葉も20歳を越えたら一緒に飲もうか』って言っただろ?」
「去年のことだよね? 勿論覚えてるよ」
 それは本来出回ってはいけないのだが、味と香りが本家を上回るばかりに出回ってしまった密造酒。若葉がまだ飲酒できなかった頃に渡した物──拓海への誕生日プレゼントである。
(味の保証はできないけど美味しいはず……って、今思えばだいぶ冒険心に溢れたプレゼントだったかな)
 若葉はその時のことを思いだし、内心苦笑を浮かべる。けれど当時の若葉にとっては年の離れた友人へ、一生懸命考えた結果だ。
 現に拓海は嬉しさのあまりすぐに飲むことができず、また先ほどの言葉も相まって、このプレゼントはずっと冷蔵庫の住人と化していた。
 今年の5月に若葉も成人を迎え、今は飲むことに支障ない。拓海は2つのグラスに酒を注ぎ、1つを若葉に手渡した。
「「かんぱーい!」」
 カチン、と小さくグラスを合わせて酒を呷る。リンカーがアルコールで酔う事はないが、食べて飲んで語り合っていれば雰囲気に酔ってしまうというものだ。
 ──そしてそうなれば饒舌にもなるもので、会話は酒のうんちくから任務の話、そして拓海の嫁の話へ。
 嫁が俺に自信をくれるんだ、と拓海は嫁の姿を脳裏に浮かべて微笑む。
「だから、嫁が何時でも誇れる奴でありたい……と、自分を律すれる」
「そっかそっか……いいなぁそういうの。良いパートナーだよね」
 彼の嫁もエージェント。普段から仲睦まじい姿を見ているが、こうして話しに聞くと益々──なんて。
 不意に、拓海がずずいっと若葉へ距離を詰めた。
「若葉は好きな子っていないのか?」
「お、俺? そうだなぁ、」
 その動きに肩を揺らした若葉、グラスに口をつけてから苦笑を浮かべる。
「縁がないんだよね……いい子がいたら紹介してよ」
「大学生なんだから、若葉の方が縁はあるだろ? それともあれか、あまりそういう気にならない、とか」
「うーん……」
 若葉は拓海の言葉に小さく唸った、気にならないわけではない、と思うのだが。
 試しに女子と一緒にいる自分を想像してみる。
(……なんか、しっくり来ないんだよね)
 おそらく"今"はそうではないのだろう。恋愛より友情。拓海や親友──そういった人たちと過ごす時間の方が、今の若葉にとって大事なのだ。
「今のところは、こういう方がいいかな? 拓海さんみたいに、良い人と出会えたら別だけど」
 出会う『いつかの日』までは──まだ。
「出会えたら、か……そうだな。それなら出会うまで無理に作るもんでもないか。じゃあ、飲み終わったらまたゲームをしよう」
 小さく笑った拓海はひと口酒を飲み、そんな提案を。若葉はいいね、と笑って拓海を見る。
「沢山ソフトは持ってきたし、徹夜して全部やっちゃおう!」
 こうしてグラスの酒を飲みほした2人はつまみを食べつつ雑談を挟みつつ、時には昼間のように声を上げ──。


「……あれ?」
「若葉、どうした?」
 先に気付いたのは若葉だった。その様子に拓海は首を傾げる。
「ほら、あれ。もしかして……もう朝?」
 若葉が指差したのは窓。カーテンの隙間から淡く光が漏れている。拓海が壁時計を見遣れば──時刻は7時。
 朝だと認識した瞬間、2人の元へ睡魔がやってくる。
「まだ夜だと思ってたのに、あっという間だったね……ふわぁ、」
「全くだ……そろそろ皆、起きてきそうだな」
 欠伸をしたり体を伸ばしたりしていると、拓海の言葉通りに彼の英雄が扉を開けて顔を出した。続いて彼の嫁も。
 楽しそうだったと小さく笑う2人に、どうやら若葉と拓海の声は筒抜けだったらしい、と互いに苦笑を浮かべる。
 気付けばローテーブルに広げていたつまみや酒はほとんどなくなり、空になった皿などが散らかっていた。2人は目だけを動かして視線を交錯させる。
「片づけないとね」
「ああ。あと……流石に、眠い」
 窓から差す光は体内時計を整えると言うが、それでも勝てない睡魔もあるのだ。

 2人が眠り、目を覚ますのは昼か、夕方か。さらにもう幾日もすれば──今年も終わり、新しい年がやってくる。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa1049 / 荒木 拓海 / 男 / 28歳 / 誰の手も離さずに 】
【 aa0778 / 皆月 若葉 / 男 / 20歳 / 大切な日々と共に 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております。お2人の楽しい夜をお届けします。
 年を越してしまうと『一緒に酒を飲む』というお約束が一昨年になってしまうところでした。年内ギリギリとなりまして申し訳ございません……!
 色々な要素を発注文に盛り込んで頂き、どれもこれも想像が膨らんでとても楽しかったです。お2人のイメージに沿えておりましたら幸いです。
 リテイク等ございましたらお気軽にお申し付けください。
 この度はご発注、ありがとうございました。良いお年を!
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2018年12月28日

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