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『Ex.snapshot 004 来生・一義 × 来生・千万来 』
来生・一義3179)&来生・千万来(0743)

 今に始まった事では無い、今に始まった事では無いのだが…。

「にしても何だか久し振りだなぁこの状況…っ!」

 舗道を軽やかに蹴って走りつつ、半ば自棄気味に来生千万来は声を上げている。荒げている…と言う程では無いが、取り敢えず息を切らす代わりに大声上げて嘆きたい気分は心の何処かにあった。
 とは言え本当なら別に嘆く事では無いと自覚している。いつもの事と言えばいつもの事だから、これはただの八つ当たりに近い発散行為である。確かに千万来本人がこうやって「捜し回る」羽目になる事はあまり無いが、それは別の人が今の千万来の立場に居るだけの事になる。…例えば捜し人当人の弟に当たる、週刊誌の記者やってる親類のおじ…じゃない、お兄さんとか。
 正直、記者な親類のお兄さんの普段の苦労が偲ばれる。…学生の頃にバドミントンでインターハイとか出てたくらいなんだから別に運動神経悪い訳じゃないのに、何でここまで!? と壮絶に疑問に思う。そもそも脳のつくりからして男性の方が空間把握とか地図読むの得意な筈なのに! と結構どうでもいい雑学を思い出したりもするが――全く該当しない実例がすぐ側に居ると、こんな雑学はただの与太話にしか思えない。

 その実例とは、来生一義。

 ちょっとありえないくらいの人知を超えた方向音痴な、親類のおじ…じゃない、こちらもお兄さん、である。ちなみに生前同様の実体を保っている幽霊、と言うちょっとした秘密(?)もあるが、千万来としてはあまり気にしていない。実体を保てているのは常に身に着けている指輪の力だとか聞いた事はあるけれど、あまり突き詰めて事情を聞く事では無いだろうなと思うので詳しくは知らないし、今ここで一義さんが一義さんらしく普通に日常を過ごせているならそれでいい。ただその「普通の日常」が壊滅的な迷子込みなのは何と言うか、取り敢えず自分が捜す側に回ると閉口する。
 一義さんが方向音痴なのは生前からで、親類内でもある意味有名なくらいだった。そして死んでもその方向音痴は治らなかったらしく、の割に隙あらば外出したがるとかで――今でも事ある毎に迷子になるのは、殆ど恒例である。
 見た目は銀縁眼鏡にオールバックの髪型、ぱりっとしたスーツ姿…と地味ながらも隙の無い格好をしているので、傍からは全然そんなお茶目かつ破壊的な欠点があるとは思われない。性格も生真面目で几帳面、おまけに神経質…ときっちりし過ぎるくらいきっちりしているので、結果、この方向音痴が露呈すると…何と言うか、方向音痴の一語で想像されるだろう欠点の破壊力がただごとで無く上昇し、人物的イメージがガラガラと崩壊する。
 それが良い方に転ぶ(意外と親しみ易いと思われる)か悪い方に転ぶ(美点の悉くが棒引きされる)かは相手次第だが、それが一義さんなのだから仕方無い。

 と、居た。



 一義さんを捜して周辺をいいかげん駆け回った後、やっと見付けたのは…何やら大荷物を脇に置いた小柄なおばあちゃんと仲良くベンチに座り、和やかに話し込んでいる一義さんの姿。場所としてはバス停で、どうやら親切にもその大荷物を持ってここまで一緒に来てあげていた、と思しき様子だと見て取れた。

「一義さん!」
「! …あ、千万来」
「何でこんなところにまで来てるんですか…っ」

 息を弾ませ声を掛けつつ、千万来はおばあちゃんの方にも軽く会釈。すると――お迎えが来たようでよかったねぇ、とおばあちゃんの方が一義さんの方ににこやかに笑い掛けている。
 そして一義さんと互いに礼を言い合ってから、ちょうど到着したバスに乗り、おばあちゃんは去って行く。
 千万来の方でもそれをにこやかに見送ってから、で、と話を改めた。

「俺が目を離したところで今のおばあちゃんと会って、荷物持ってあげてここまで来ちゃったって事ですか?」
 ここ、全然利用した事が無いような路線のバスですけど。
「ああ…うん。大枠としてはその通りなんだけど…」
 詳細はちょっと違う。

 …曰く、一義さんの方が道に迷うのが先で、その最中に道を訊いた相手が今のおばあちゃんだった、と言う流れらしい。そして一義さんの方で見かねて荷物を持ってあげた、と言うのも間違いないが――どうも、おばあちゃんの方でこの一義さんの方向音痴を薄々察知したらしく、目的地のバス停まで到着しても一義さんを一人で放り出さずにこの場に暫く引き止めておいてくれた、らしい。
 …たださすがに人知を超えたとまで言われる程の方向感覚の欠如があるとまでは察知出来なかったようで、道々で会ったその地点から然程離れなければ多分見付けてくれる人が居るだろう、と判断したらしかったのだが――会ったその地点でもう結構とんでもない位置だったのが現実で。
 おばあちゃんはなんと三本も目的のバスを見送って、一義さんと一緒に居てくれたらしい。

「ってバス停って言う目印があったなら電話とかしてくれれば早かったのに」
「…いや、持ってなかったんだよ」
 私も、今のおばあちゃんも。
 だから、わかり易そうなところで待ってる、と言う選択肢になった訳だが。
「で、次のバスが来るまで待ってみて、それでも駄目だったらバスで行った先の駅前の交番までついでに送ってくれるって話になったところで、千万来が来てくれたんだ」
「ってそれ、もっとちゃんと御礼しなきゃならないくらい御世話になっちゃってる事になるよね今のおばあちゃんに!?」
「そうなんだよね。ただ、名前も聞いてなくて…御礼のしようが無い事に今になって気が付いた」

 これはもう、後で偶然の出会いに頼るしかないかな。



 そんな話になると、何となくこの場から離れ難くもなる。…まぁ元々、たまたま近くに来たから折角だから一義さんたちに会いに来た、程度の千万来と、ちょっとした買い物に託けた一義さんの外出希望が重なっての二人連れだった訳で(だから一義さんの姿が突然見えなくなった時は千万来としては少し焦った)、何か特別外せない用事があると言う訳でも無い。
 今のおばあちゃんとの接点はこのバス停だけ。だがまさか帰って来るまでここで待ったり、名前や住まいを調べて後で御礼を言いに押し掛ける…と言うのも何かが違う気がするので、ここは感謝の気持ちを持って、後で他の困っている人に施そうとささやかな決意をするのが無難なところである。
 が、ひょっとしてまた会えるかも、程度の感覚が今はまだどうしても残っている。
 …だから何となく、離れ難い。

「一義さん」
「ん?」
「これからどうします?」

 一応まだ、千万来の休憩がてらベンチを借りる、と言う言い訳も立つ段階。次のバスが来る時間になったら退かなければと言う頭はあるが、今この周辺はあまり人気も無く、こうやっていても他人様の邪魔になる事は無いと思う。

「どうしようか。また迷っちゃったら悪いしね」
「さっきはちょっと目を離しただけなのにもう姿が無いから焦りましたよ」
「ごめんね。私の方でもそこまで移動していたつもりは無かったんだけど…」
 でも、気が付いたら千万来の姿が見えなくて、またやっちゃったかと思って焦って元居た場所に戻ろうとしていたら…。
「却ってとんでもない方向に行ってしまって今に至ると」
「そうなるね。本当にごめん」
「いやもうこれは一義さんの場合しょうがない事だからいいんですが」
「いや、迷惑掛けてる事になるから何とかしたいとは常々思っているんだけどね」
 この方向音痴を克服する何かいい方法無いかなぁ。
「…すいません、思い付きそうに無いです」

 こういう言い方は申し訳無い気がするけれど、もし方向音痴じゃなくなったらそれは最早一義さんじゃないような。



 結局、そのままバス停で暫しぼんやりとしていてみる。
 こういう無駄っぽい時間も、今時だと意外と有意義な気がするし。

 そうしていて、千万来はふと頭に浮かんだ事を訊いてみた。

「幽霊なのってどんな感じなんですか」
「うーん。どうって言われてもね…気合いで勝ち取った延長戦、って感じかな」
「あー、十一年間の執念でしたっけ」
「そうそう。念願叶ってやっと今の生活にまで漕ぎ着けた」
「凄いですよね。…気合いで勝ち取った延長戦かぁ…」
「何か、気になる事でもあるのかい」
「いや、俺の場合って周囲に在る色んなモノとかヒトとか、普通なら意志の疎通が出来ない相手と、何となくでも何を考えてるか…って言うか感情って言うか、そういう意思とか望みみたいなものがわかるじゃないですか」
 それで、わかるから、仲良くなれてる…と思ってるんですが。
「それってただの俺の思い込みだったりする事もあるのかなーって、たまーに気になるんですよね」
 何となくわかるって言っても、俺自身がそんなモノとかヒトの立場になれてる訳じゃないですから、本当にはわかってないのかもなって。
 だから、取り敢えず…人間じゃない立場な一義さんだとどうなのかなって思っただけです。
「…そういう事なら、幽霊じゃなくたって、人間だって――誰の事もわからないって事にならないかな」
「…。…あー、確かにそうですね」
 どうしたって、自分は、自分以外にはなれない。
「て事は…わからないって事を前提に、それでも『相手をわかろうと努力する』事が大切なのかもしれないですね」
「…千万来は本当にいい子に育ったね」
「何ですかいきなり」
「褒めてるんだから素直に受け取っておきなさい」

 一義さんはそう言うと、うーんと伸びをしながら立ち上がる。そして時刻表に目が行き――つられるようにして千万来も時刻表を見、あ、次のバスがもうすぐ来る時間だ、と千万来の方でも気が付いた。
 即ち、このバス停のベンチに居るままでは御迷惑が掛かるタイミングが近い訳である。

 …移動するには頃合いだ。
 なら、次は――今度こそ、本日の他愛無い予定に戻ろうか。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3179/来生・一義(きすぎ・かずよし)/男/23歳/弟の守護霊・来生家主夫】
【0743/来生・千万来(きすぎ・ちまき)/男/18歳/城東大学医学部1回生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 来生千万来様には初めまして。来生一義様にはいつも御世話になっております。

 今回はおまかせノベルの発注有難う御座いました。それも初めましての千万来様までおまかせでお預け頂きまして…本当に良かったのかと思いつつ。
 そして年末営業日に間に合わず年明けになってしまいましたが、大変お待たせ致しました。
 旧年中は御世話になりました。今年も宜しくお願い致します。

 内容ですが、おまかせ…となるとキャラクター情報やら過去作品やらからして「こういう事あるんじゃないかな」と考えてみたキャラ紹介的な日常、がまず思い付くところなのですが、今回何故か内容があるのか自体が謎っぽい感じになってしまいました(汗)。強いて言うなら一義様の方向音痴について千万来様視点で語っているような入り方で、全般としてのんびり駄弁っている…と言う形になっています。

 初めてお預かりする千万来様の独白っぽい形、と言う無茶やらかしておりますが、致命的な読み違え等無ければ良いのですが…もし「こんな事考えないしこんな口調だったり態度じゃない」等あったら申し訳ありません(汗)

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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東京怪談
2019年01月07日

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