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『■午睡の夢 』
ジェールトヴァka3098




「ああ……困りましたよ、ジェールトヴァさん。また、あの子達です」
 街道沿いの町にある小さな聖堂で、入ってくるなり中年の修道女が浮かぬ顔で告げた。
 市場の商人達から呼び出され、出掛けていたのだが。
「その様子だと、苦情かな」
 手にした本から顔を上げたジェールトヴァ(ka3098)は、外套を脱ぐ修道女へ穏やかな口調で問う。
「ええ。店番が目を放した隙に、売り物の果物やパンを盗んだと。一度や二度じゃないですし、皆さんカンカンです」
「それは困ったね」
「食事は足りている筈なんですけど……」
 肩を落として嘆息した直後、慌てて修道女は髪や服の皴を整え始めた。
「すみません、愚痴ってしまって。あの子達を良き方へ導く側なのに、私ってば」
「ふむ……少し、彼らと話をしてみようか」
「ジェールトヴァさんが? ですが……」
「男同士、という訳でもないけどね。難しい年頃だし、私はいずれ去る者だから、話せる事もあると思うよ」
 答えながら、ジェールトヴァは読みかけの本をそっと閉じる。
「分かりました。よろしくお願いします」
 困惑と若干の安堵が混じった表情で、修道女は一礼した。

 この町では、聖堂が身寄りのない子供を保護している。
 そんな子供らの中でも問題児扱いされているのは、十代半ばの少年二人だった。
 仲が良いのか、二人はいつも一緒に行動しているのだが。
「お兄ちゃん達なら、いないよ」
 子供部屋を訪ねたジェールトヴァへ、残っていた幼い少年が頭を振る。
「どこへ行ったか、知ってるかい?」
「ううん、わかんない」
「ありがとう。ちょっと捜しに行ってくるよ」
 いってらっしゃいと手を振る無邪気な笑顔に頷き返し、彼は部屋を後にした。




「くそっ、またやられた!」
「苦情を入れたばかりなのに、あのガキども……」
 町の市場は、やや険悪な空気に包まれていた。
 それを横目に見ながら、ジェールトヴァは細い路地へ入っていく。
 入り組んだ裏路地を自分の庭のように歩き、やがて小広場で少年達を見つけた。
 どこかやさぐれた風の二人は『戦利品』らしきドライフルーツのパウンドケーキを手でちぎり、口へ放り込んでいる。
「あぁ、やっと見つけたよ」
「やべっ、客人のじーさんだ」
「逃げるぞ!」
 慌てて二人は口の中のケーキを飲み込み、逃げ出した。
 石畳の細い道を抜け、何度も角を曲がり。
 ある程度走ったところで足を止め、呼吸を整えていると。
「顔を見た途端、逃げなくてもいいんじゃないかな? 私は話をしに来ただけだよ」
「うわ!?」
「こっちだ!」
 息も切らさず追いついた相手に驚き、再び駆け出す二人。
 今度はさっきの倍を走り、老人の足では追いつけまいと高をくくっていれば。
「やれやれ。足が早いね、君達は」
「なんで……!」
「早く!」
「待ちなさい! 君達を叱りに来たんじゃないんだ」
 三度、逃げようとする二人をジェールトヴァが鋭く呼び止め、怒っていないと示すように両手を広げた。
「……じゃあ、何だよ」
「お説教か?」
「そんなところだね。私から逃げるという事は、二人とも悪い事をしたと思ってるんだろ?」
 穏やかに指摘された少年達はバツが悪そうに視線を交わし、うなだれる。
 その様子を見た彼は笑顔を浮かべ、二人へ歩み寄った。
「もしかして君達は、聖堂から追い出されたいのかな?」
「……俺ら、いい歳だし。いずれ出てかなきゃいけないのも、分かってる」
「どこかに引き取られるか、見習い扱いで別々の聖堂に行くか……だよな」
「そうだね。遠からず、そうなる」
 肯定する言葉に、口をぎゅっと結ぶ二人。
 その姿に、ジェールトヴァは目を細め。
「離れ離れが嫌なら、一緒に道を踏み外すより共に働く手段を見つけた方がいい。畑でも耕すか手に職を付けるか、あるいは別の道を探すか。二人で相談し、考えてみるといい」
 真剣な眼差しで聞く少年達の肩に、ポンと手を置いた。
「でもまずは、商品の代金を払いに行こうか」




 かくんと首が落ちた拍子に、ジェールトヴァは陽だまりの椅子で目を覚ます。
 覚め切らぬ目で膝の上の本を見れば、そこに人影が落ちていた。
「お久し振りです、ジェールトヴァさん」
「じーさん、まだ生きてたんだな」
「君達は……」
 整った身なりをした二人の青年には見覚えがあり、何度か瞬きをしたジェールトヴァは記憶を整理する。
「不思議なものだ。ちょうど君達の聖堂にいた頃の夢を見ていたよ」
「え?」
 キョトンとした青年達は、互いに顔を見合わせた。
「それより、二人とも元気そうだね。随分と背も伸びて……」
「貴方は変わりませんね」
「じーさんのお陰で、何とか二人でやってるぜ。追っかけられた時は怖かったけどな」
 懐かしい憎まれ口に微笑んで頷き、ジェールトヴァは椅子から立ち上がる。
「せっかくだから、お茶でも入れよう。その程度の時間はあるかな?」
 彼の提案に、青年達は揃って頷く。

 それは暖かい陽の差す、ある午後の出来事――。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【ka3098/ジェールトヴァ/男/70/エルフ/聖導士(クルセイダー)】
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2019年01月07日

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