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『温泉手前雪山事件 』
オルソン・ルースター8809

 オルソン・ルースターは知り合いに教えてもらった温泉宿に予約を入れようと考えていた。露天風呂を有しているその宿は、この時期は雪に覆われるという。
 白い雪、温かな湯、地元に伝わる酒。
「秋は紅葉、夏は緑……それはぜいたくで素晴らしいものだ」
 日本の四季を温泉とともに満喫できるのだ。
「ともかく、宿を取ろう」
 温泉宿の部屋を抑え、後は出かけるだけになった。

 当日、車の運転手によると天気は晴れの予報であったという。
 オルソンが乗っている車の回りは数分前から真っ白だ。
 運転手が悪いわけではないため、打開策を考えつつ外を見る。明かりがあり、建物があるのが分かった。
「ここに山小屋があるのか?」
 オルソンが指す方向を見て、運転手は首を傾げた。
「このあたりは……走っていたところからおおよその位置はわかるのですが、どの家かというのがよくわからないです」
 景色がはっきりと見えていない上、電波が届いていないためカーナビの情報も怪しい。
「明かりがついているなら住人がいるだろう」
 オルソンの推測に運転手はうなずいた。吹雪で視界は白いが明かりが急に消えるということがない限り進めるだろう。
「ロープとか長いものはあるかな? ここにつけて、もしもの時は伝って戻れるようにしておけないだろうか?」
 遭難する可能性もある。道路を横切るならば他の交通の邪魔になるのだが、彼らが進んでいた方向を考えると反対側車線は建物が見える方向ではない。
 安全策を取りつつ、二人は向かった。
 視界が悪くても見えただけあり、建物には到着できた。
「すみません」
 インターフォンはないため、運転手が扉をたたく。
 人の声も物の音もしない。
「気づかないのでしょうか?」
 運転手の歯がカチカチいっている。
「扉は開くか?」
 ノブに手をかけると回る。扉は開いた。
「申し訳ないが、吹雪が収まるまで入れてもらえないだろうか?」
 中には誰かいる気配はなかった。鍵をかけずにでかけているのだろうか?
 二人で何度か声をかけるが返事はない。
 オルソンは部屋の状況を確認する。玄関に靴はないし、コートをかけられるハンガーには一着もかかっていない。薪を取りに行っている可能性もあるが、周りに足跡はあっただろうかと思い返すが、足跡はなかった。雪で埋もれたということもないようだった。
 一方で小屋の中では暖炉に火が入り、ぬくもりに満ちている。それだというのに生活感がなく、住民がいる雰囲気がない。
 いくつもの矛盾が見られる。
「玄関までは上がらせてもらう」
 推測はともかく、雪のひどさからの避難を優先させる。
 濡れているコートを脱ぎハンガーにかけ、靴を脱いで床に座る。玄関であったとしても、外に比べると十分暖かい。
「助かりました……火をそのままに出るというのは不用心ですよね」
 運転手は気味が悪いという顔をしているが、暖かさに安堵している様子もある。
「二階があって隠れているとか、屋根裏にいるのかもしれない?」
 耳を澄ましても聞こえるのは暖炉で木が爆ぜる音。
「暖炉の火というのはどこか安らぎを覚えるね」
「そうですね」
 時間だけが過ぎ、外の雪はやまない。住民は現れない。このままだと朝まで降りそうである。ぬくもりが自然と眠りを誘う。
「ここまで降ることは珍しいのかい?」
「え、まあ……しかし、天気予報であってからですね……ずれることがあっても」
 世間話をするが時間は経たない。夜という時間やぬくもり、することのない間が睡魔を呼び込む。

 うつらうつら、していた。

 ふと、冷たい空気を感じたため、扉が開いたのかとオルソンは目を開けた。
 周囲はは氷漬けであった。
 その中で、透き通るような白い肌、雪のような白さの絹の髪を持つ美しい女性が運転手を見下ろしている。
(これは! ジャパニーズホラー! 雪女!)
 オルソンは知識の中から引っ張り出して、目を輝かせた。妖怪ではなく日本が好きなだけである。
「お嬢さん! この男性を凍らせてどうするのですか? オブジェにして楽しむ? それとも、生気を吸い取りあなたの糧にするのですか!?」
 好奇心から質問がこぼれた。
 推定雪女はオルソンを驚きの顔で見ている。
「沈黙? この中に答えがあるということですね!」
 オルソンは立ち上がると距離を一歩詰めると、小柄な雪女は一歩引いた。
「お嬢さん、雪女でしょう?」
 念のため確認を取る。
「……それだったら、悲鳴を上げて逃げるとかするもんじゃないの! 大体、質問攻めとかわけわかんない! 大体――」
 雪女はオルソンに対して激しい反論を始めたのだった。

 朝が来て、雪が止む。
 オルソンとしては会話ができて嬉しかったが、雪女は溜息を漏らして立ち去った。
 運転手は目を覚ましたが、動けるようだった。

 到着した宿の女将によると、狐に化かされるという伝説があるという。
 そうなると雪女は狐だったのだろうか?
 温泉に浸りながら不思議な話を思い返していたのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
8809/オルソン・ルースター/男/43/ご隠居


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、発注ありがとうございます。
 ……初めまして……でおまかせということで、イラスト見て覚悟を決めました。その結果、温泉に行ってもらいましたが、到着する前の話となりました。
 いかがでしたでしょうか?
 今後ともご縁があればよろしくお願いします。
おまかせノベル -
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東京怪談
2019年01月07日

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