▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『メリー・ヴァリオス 』
ミアka7035

 紙袋片手に街を歩いていたミアが呼び声に振り向くと、エヴァルドが部下の男性職員を連れて立っていた。
「エヴァルドちゃんニャス!」
「街中で出会うのは奇遇ですね」
 エヴァルドは職員を振り返ると、先に帰っているよう指示をする。
「お仕事中ニャスか?」
「ええ、お世話になっているお店へ年末のあいさつ回りを。ですがそれもひとしきり終えたところです」
「じゃあ、ちょっと街を回らないニャス?」
「こちらもそのつもりでした。ご迷惑でなければ」
 そんなことないと首を振ると、ミアはにっこり表情をほころばせて彼の手を引いた。
 長いこと外回りを続けていたのだろう。
 彼の手は氷のように冷たく、かじかんでいた。
 
 聖輝節で晴れやかな街を、2人で当てもなく並んで歩く。
 ちょうど冬ごもり用にミアが買い込んでいた肉まんを頬張ると、冷え切った身体がじんわりと温まるのを感じた。
 こうした買い食いに不慣れだったエヴァルドもミアと過ごすようになってからはだいぶ作法(と呼べるほどのものではないのだが)も覚えたようで、挑戦心はあってもどこか抵抗があるように見えた食べ歩きもずいぶんサマになってきた。
 それでも、どこか気品があるのは家柄だろうか。
 ミアは汚れた手をハンカチで拭う横顔をぼーっと眺めていた。
「お使いになりますか? 私が使った後で申し訳ないのですが」
「えっ? あっ、大丈夫ニャスよ!」
 ふわふわスカートのすそで拭おうとして、はたとその手を止める。
 はしたないかな――手を引っ込めて、もじもじと彼を見上げた。
「やっぱり……借りてもいいニャスか?」
「はい、もちろん」
 受け取ったシルク生地のハンカチは柔らかく、しっとりと手に馴染んだ。
 ワンポイント花の刺繍が入ったそれは……あれ、これ女物?
 ドキリとして、まじまじと広げて見てしまう。
「ああ、それ、母の使わないものを貰ったものなんです。昔に父に貰ったそうなのですが、使われずにタンスに眠っていたとかで……変、ですよね」
 エヴァルドははにかむ。
「そんなことないニャスよ! リアルブルーでは男性が女性ものを使ったり、女性が男性もの使ったりとか、流行ってたって聞いたことあるニャス」
「なるほど。では、時代の最先端でしたね」
 そう言うと、ちょっと嬉しそうに彼は笑ってみせた。
 
「そう言えば、エヴァルドちゃんの聖輝節はどうするニャスか?」
 賑やかな喧騒の中で時期がらそんな言葉が口をつく。
「期間中は稼ぎ時ですから、何かと忙しいものです。本番その日だけはよほどのことがなければ毎年家族と過ごすことになっています」
「お父さんと、お母さんニャス?」
「ええ。他に祖母がまだ元気で。あと弟と妹が2人」
「おおっ、けっこうな大家族ニャス」
「兄弟が多いのは階級社会の常ですね。父など8人の兄弟姉妹だと聞いています。1度どころか、挨拶すらしたことがない親族もいるくらいですよ」
「ううん……なんか、想像できないニャスね」
 規模の大きさにミアの頭の中はこんがらがり。
 親戚に会ったことがないってどんな状況なんだろう。
 ミアの生まれた集落では家族も親戚も、そうじゃないご近所さんも、ご近所じゃなくても、村丸ごとみんなみんな顔見知りだ。
 顔見知りどころか好きな食べ物や趣味や特技だって知ってる。
 だからこそ義務と礼儀と建前で満ちた社交界の繋がりは、どうにもぴんと来ないのかもしれない。
「ミアさんのご家族は?」
「みんな集落に――あっ、でも今はサーカス団のみんなが家族みたいなものニャスね」
「そう言えば、まだ見物に伺っていませんでしたね。年始の挨拶回りが終われば少しは時間も取れると思いますので、その時はぜひ公演に顔を出させてください」
「もちろん、特等席準備して待ってるニャス!」
 見に来てくれるのが嬉しいのか。
 会う約束ができたことが嬉しいのか。
 ミアは深く考えやしなかったが、胸の奥がじんと熱くなった。

 ミアの歳末の買い物を手伝いながら、気づけば辺りはすっかり暗くなってしまった。
 陽が落ちると本来の空気の寒さが肌にしみて、ちょっと痛いくらいにも感じる。
「どこかで食事でもしていきますか?」
「うんっ……って、あっ、でも食べ物が」
 返事をしたところで、自分と彼の持っている荷物を見る。
「ああ……早く保存しないと、痛んでしまいますよね。では、今日は残念ですが」
「ニャス……」
 思わずしゅんとしてしまうミア。
 耳も尻尾も垂れ下がった彼女の姿を見て、エヴァルドはどうしたものかと辺りを見渡す。
 すると道端にホットワインの移動販売を見つけて彼女の肩を叩いた。
 煮詰まってアルコールのずいぶん弱まった赤い液体をふうふう冷ましながらすする。
 濃い葡萄の香りに甘くもピリッとしたスパイスの香りが溶けて、舌先からふんわりと鼻腔をくすぐった。
 カップから立ち上る白い湯気の向こう。
 街は魔導イルミネーションの光で星空のように輝く。
「エヴァルドちゃん、お仕事大変じゃないニャスか?」
「そうですね……大変です。やりたいこと、やらなければならないことが多すぎて、身体がいくつあっても足りないくらい」
 エヴァルドがそう語ると、大変なのは彼のはずなのに、ミアの方がどこかもやもやとした気分になる。
 それを察したのか、エヴァルドは彼女を安心させるようにはにかんだ。
「ですが、嫌ではありません。商売人にとって忙しさとは生きている証。心地よくすら感じるものです」
「ニャら、いいんだけど……」
 どこかミアの想いが煮え切らないのは、きっとこうしている彼の姿はよそ行きのものだからだと感じているから。
 本心を隠している――というわけではないのだろうけれど、本音は言っていないと勘繰ってしまう。
 それはまだ心を許されていないからなのか。
 それとも自分に彼の力になるだけの器がないのか。
 そんなことを考えていると心が痛む。
「っ……どうしましたか?」
 不意に、温まったミアの手がエヴァルドの両頬を包むように触れて、彼はちょっと驚いたようにミアを見た。
「寒いかニャ、と思って」
「ありがとうございます。ですが、年頃の女性がみだりにそうしてはいけませんよ」
 エヴァルドはミアの手を優しくとって、下ろしてあげる。
「それもマナー、ニャスか?」
「マナーというよりは将来のためです」
「将来。ミアは……」
 どうしたいんだろう。
 彼に触れたのも温めたかったから?
 それとも……自分がそうしたかったから?
 彼の言葉をどこか悲しいと感じながらも、ミアは今の気持ちを表す言葉が思い浮かばない。
 そもそも、自分自身に説明することもできていないのに。
「ミア、こうしてて迷惑じゃないニャスか?」
 しおらしいミアにエヴァルドはいつもの調子で、だけど優しく言い聞かせるように語った。
「仕事づくめの私にそうでない時間を作ってくださる。今まで、そんなことをしてくださる方がいるとは思ってもいませんでした。私の知らない世界を教えてくださっているのはミアさんです。その時点で、私にとっては特別な存在であり、時間なのです」
 少し間を置いて、エヴァルドは残りのホットワインを一息で飲み切る。
「さ、帰りましょう。温まった身体が、また冷めてしまう前に」
 そう言ってミアの手を取るエヴァルド。
 温まった手の体温が、ミアの手を伝ってじんわりと胸まで伝わったような気がした。
 
 ――了。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka7035/ミア/女性/外見20歳/格闘士】
シングルノベル この商品を注文する
のどか クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年01月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.