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『女神面会 』
スノーフィア・スターフィルド8909

 夢ですね。
 スノーフィア・スターフィルドは2秒で納得した。
 なぜなら混沌としか言い様のない空間に、超達筆調で形作られた【夢】なる文字が浮かんでいたから。
 こんな不思議空間でお知らせまでしてもらったらもう、疑うほうが失礼というものだろう。
 なにせスノーフィアからして、普通の人間ではなく女神なのだから。
 その割に万能感はありませんけどね……。
「それでいいのよ。それがいい」
 彼女の思考を遮ったのは、唐突に現われたおっさんだ。
 くたびれたスーツのジャケットをぽんと脱ぎ捨て、最初からゆるゆるのネクタイを引っぱり外して、こちらもぽい。ふいーと息をついて胡座をかく。
 すごく久しぶりだが、このおっさんオブザおっさん感はまちがいない。
「神様!」
 スノーフィアにかるく手を挙げて応え、どこからか生じたちゃぶ台の向かい側を示す。
「元気ぃ?」
「はい、ぼちぼちと……」
 据わった途端、ちゃぶ台の上に焼酎やサワーの素、エイヒレやチーズ鱈などのおっさん飲み仕様な物々が顕われる。これはこれで神の奇蹟……なんだろうか?
「がんばるのはすごいいいんだけど、あんまりお金使っちゃダメよ? 予算決まってるんだから。その内消費期限ギリギリの缶詰とかばっかになっちゃうよぉ?」
 あー、やっぱりそういうことか。
 スノーフィアは未だグレードの戻りきらない食材の品質を思い、ため息をついた。通販は便利ですけど、使いすぎに注意ですね。
 芋焼酎のお湯割り(梅干し入り)を渡してやると、それを受け取った神様がうんうん。
「そういうとこいいねぇ」
 はい?
「まあ、おたくにゃ言えないことばっかなんだけどさぁ」
 返杯とばかりにライム風サワーをスノーフィアへこしらえて渡した神様、少し口ごもって。
「異世界転生とかってほら、ボーナス能力でチート無双! って感じになりがちでしょ?」
 今時流行しているタイプの物語では確かにそうだ。実際、買い物ついでに本屋をのぞけば、そんなタイトルがついたソフトカバーやら文庫本が大量に売られている。
「でもおたく、普通に困ったりうまくできなかったり、大変だもん」
「……」
 なにも言い返せない! やっていることと言えば、半ば部屋に引きこもって酒を呷ることくらい。微妙に冒険したりしているが、それでなにかを世界に及ぼすようなこともない。
 私、思っている以上に無職なのでは――?
「いいのよいいの。それがいいんだって」
 エイヒレをライターで炙ってぱくり。神様はソフトパッケージから煙草をくわえて引き抜き、同じライターで火を点けた。
 スノーフィアも元はおじさんで、若い頃を過ごしたオフィスはいつも紫煙で曇っていたものだが……神様の煙草のパッケージに見覚えはなかった。多分、すでに絶版となった古いやつなんだろう。
「そういや煙草吸わないの? アレだったら支給品に入れとくけど?」
「いえ、大丈夫です。元の“私”はともかくスノーフィアの設定上、煙草は吸えませんし……水煙草は少しだけ興味ありますけど」
「水煙草かぁ。あれ、炭の管理とか大変よ? 100均の木炭とか燃焼剤入ってるから使えないしねぇ」
「神様、お詳しいですね」
「そりゃー神様だしぃ?」
 かるい会話の中で、スノーフィアはあらためて思う。一応は私も女神なのに、ほんとになんにもできてませんし、してませんよね。なんでしょう、ただ生きてるだけ?
「生きててくれたら御の字よぉ」
 深くうなずいて、神様はお湯割りの梅干しを箸の先で崩し、ぐーっと呷った。
 神様の姿はスノーフィアの想像力が及ぶ範疇で構成されるそうだが、いったい“私”は神様をなんだと思っているのやら。ちょっと自分の常識というか、良識というかに自信がなくなってくる。
「ま、普通の人はさ、神様なんてよくわかんないもんだからねぇ。イメージないから適当に知ってそうなもんに変換しちゃうってことなんだろね」
 むはー。口だけじゃなく鼻からも煙を吐き出して苦笑する神様。
「でもね、さっきから言ってるけど、それがいいんだってば」
 小首を傾げて続きを待つ。
 多分、これは聞いておかなくちゃいけない大事なことだから。
「おたくって今、世界変えられるくらいすごい力持ってるわけでしょ。でも、それでチート無双したりしないでニート非無双してるわけで」
 ええ、まったくもってそのとおりです。
 客観的にも主観的にもそのとおりなので、もうグサっときたりしない。
「おたくは力を活用してないけど、それよか悪用してないってのが大事なとこ」
 まずいことになりかけたことはあるが、それはちゃんと回避したし。
「ただね。許可したの神様だけどさぁ、こないだ命の創造とかしてたの、アレはちょっとやめといてほしいかなぁ。生態系荒れるから」
 麦焼酎の創造がそこまで大問題になっていたのか! っていうか、やめてほしい理由ってそれなのか。
「結局んとこ、世界ってのはバランスだからね」
 確かに。
 ギャルゲー的なフラグに悩まされていたとき、世界のバランスは大きく崩れていた。あるべき法則を書き換えられ、スノーフィアの有り様に引きずられて大きく歪んだのだ。世界にとってそれは緊急事態だろうし、なにより“私”はそれを望まない。
「そういうね、“当たり前”がわかってるのはいいことなのよ」
 手酌でグラスに焼酎とお湯を継ぎ足して、神様は崩した梅干しを箸でかき混ぜ、種を取り出した。こういうところは本当、そのへんのおっさんっぽい。
「いや、これも全部おたくのイメージだからね? ――普通はさ、無双しちゃうのよ。人間って社会的動物ってやつなんで誰かに認めてほしいもんだし。1回そういうの味わっちゃえば2回3回、どんどんやらかして、最後は世界最大の敵にまでなっちゃう」
 最初は人の役に立つこともあろうが、エスカレートすることで世界に害を及ぼすようになり、最後には……という話。
 身に覚えはなくとも、さすがに想像できる末路だ。
「あと、無双しないにしても試したくならない? それこそ男が女に変わったら、そりゃあもういろいろね?」
 ああ、エロス方面の話ですね。でも。
「スノーフィアを穢すつもりはありませんから」
 いつもより行儀よく、スノーフィアらしさを意識しつつサワーを飲む。香料臭くて安っぽい、実になつかしい味わいだ。
「なんとも二次元キャラに入れ込んでるんだねぇ。いや、その姿にしといてよかったよぉ」
 思わせぶりなことを言いつつ、神様は柿ピーの袋を開ける。
 ここまで来れば、それがひとつのごまかしであることは知れた。語れないことがあるからごまかしたい。多分、“私”がスノーフィアとなった理由と密接に関わっているのだろうことを。
「理由はお訊きしませんけど、感謝しています。私をスノーフィアにしてくださって」
 うん、それだけは確かなこと。
 だから“私”と私は、スノーフィアとして生きていく。
 なにもせず、無為にだらだら過ごすだけなのはどうかと思うけれども。
「そういうこと思えるのがまたレアだから。大事にしてってほしいよねぇ、その感覚。で、今度こそ全うしてこうよ。おたくの人生ってやつ」


 ベッドで目覚めたスノーフィアはあたりを見回し、戻ってきたことを確かめる。
「神様にもご心配おかけしてるんですね、私」
 うんと伸びをしてベッドから降りて。
「今日も一日がんばずにがんばりましょう」
 甲類焼酎の大容量ペットボトルをがっしと掴み。
 まずは夢の中でほとんど飲めなかったお酒をいただきます!
 かくて、いつもどおりのダメな今日は始まるのだ。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【スノーフィア・スターフィルド(8909) / 女性 / 24歳 / 無職。】
【神様(NPC) / ? / ? / 苦労性!】
東京怪談ノベル(シングル) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月07日

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