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『闇の聖女へ 』
黒の貴婦人・アルテミシア8883)&紫の花嫁・アリサ(8884)

 紫の花嫁・アリサ(8884)は夢を見る。

 闇の夢を。

「いらっしゃい」

 テーブルには琥珀色に輝く美酒と一枚の鏡、そして2つの蝋燭。

 蝋燭の上では現実ではありえない色の炎が揺れている。

「今日はこの者で遊ぼうかと思うの」

 アリサが黒の貴婦人・アルテミシア(8883)に招かれるようにソファーに座ると鏡に映し出されたのは若い女性。

「……でも」

 その姿にアリサは戸惑いを見せた。

 この間は見知った者だったから、自分を馬鹿にし、嘲っていた者だったから罪悪感はなかった。

 しかし、目の前に写るのは、見知らぬ人。

「ルールはこの間と同じよ」

 そう微笑みアルテミシアは左の蝋燭をふっと吹き消す。

 煙に混ざるアルテミシアの甘い花の香りにアリサはすんと鼻を鳴らす。

「当たりね、さあ次はアリサの番よ」

 手元へやってきた財にアルテミシアは微笑みを深くした。

 揺れる炎越しに彼女が涙を流す姿が見える。

 少し申し訳ない思いを抱えたまま炎を吹き消すとアリサの元に大金が現れた。

 だが、少しだけ心が痛む。

(この方にも守りたいもの、大切なものがあるでしょうに……)

『あぁ……神様……』

 その後も気まぐれにやってくる不幸に、女性が悲観に暮れた表情で神に助けを求める。

(あぁ、この方も愚かなのですね)

 美しいドレスや宝飾品で身を飾りながらアリサはその様子を鼻で笑う。

 その頃には最初に感じた疼痛など欠片も残っていなかった。

(神など何の役にも立たないのに)

 アリサには女性の姿が以前の自分と重なって見える。

 世界の真実も知らずに、神に祈り清廉潔白を貫けば救われると思っていた愚かな自分に。

「簡単でしょう? 財なんて楽しみながらいくらでも手に入るのよ。アリサならね」

 アルテミシアの声に、琥珀の液体を喉へ流し込みアリサは頷く。

 今までの生活とは天地の差だ。

 毎日、教会で浮かべたくない愛想笑いを浮かべ信者の相手をし、神という名の愚物のために尽くす。

 それでも手に入るのは僅かな財だ。

「綺麗ね」

「ありがとうございます」

 髪へ差し込まれるアルテミシアの手に、気持ちよさそうに目を細めるアリサ。

 眺めるしかできなかった宝飾品が自分の髪の、首の、指の上で煌めいている。

 一生かかってもこの中の1つだって手に入れることは出来なかっただろう。

「こんなに簡単なことだったなんて……」

 アリサからこぼれる笑み。

 アルテミシアとアリサが楽しめば楽しむ程、女性は不幸になっていく。

 僅かな財を守るために自ら不幸への道を歩むこともあった。

 思いがけぬ訪れた些細な幸福に縋り、失えば慟哭する。

 その姿はある種の嘲笑を誘うほどだった。

(なんて愚かしくて、なんて醜い……)

 以前の自分はこんな風に他人の目に映っていたのだろうか。

 アリサはそう思う。

「愚かしい……」

 黒い嘲笑は炎を吹き消す吐息に溶けて消えていった。

 ***

「それは何に変えるの?」

 ゲームが終わり、アリサは手に最後に手に入れた大金を乗せ息を吹きかけた。

「あら?」

 現れたのはウェディングドレス。

「私と契っていただけませんか?」

 躊躇いのない真っすぐな声と共に床に膝をつくアリサ。

「ええ」

 アルテミシアは満足そうに口角をあげた。

「ちゃんと言葉にしなさい」

 アリサが顔をあげるとアルテミシアは先程と違い黒いウェディングドレスを身に纏っていた。

「はい」

 誓いの言葉を一言紡ぐたび、アリサの心に喜びがこみ上げる。

 差し伸べられる指に口付け、肌へ落とされるキスに声をあげ、自らも口付けを返す。

 罪悪感も、羞恥も、何も感じなかった。

 悦楽を、快楽を感じることが素晴らしいことだとアリサはもう知っているから。

「まだ欲しいの?」

 契りの儀式が終わってなお、アルテミシアの肌を欲しがるアリサを揶揄うようにアルテミシアは微笑む。

 こくりと頷くアリサの頬は赤く染まり、目は潤んでいる。

「契情のようね」

 アルテミシアは最後の教えへの親和性を感じながら唇へ口付けを落とす。

 聞きなれない言葉に少し不思議そうな表情をしたアリサだったが、何となく意味を察したのか恥ずかしそうに目を伏せ首を振る。

 貞淑なその素振りとは裏腹にとろんとした表情は、男好きする表情だとアルテミシアは思った。

 信者の男たちの内何人がこの表情を見たいと思っただろう。

 だが、アリサのこの淫らな微笑みは彼らに披露されることはない。

(アリサは私のものだもの)

「いいのよ。そんなアリサも素敵だわ」

 何度となく唇を重ねながら耳元で囁けば、また甘い吐息がアリサから漏れる。

「次に出会う時、帰依と婚姻の儀式をしましょう」

「帰依と婚姻の……? 嬉しい、です」

 その言葉に至福の表情で微笑むアリサ。

(やっとこの方のものになれる)

 その事実が、アリサの心を掴んで離さない。

「その時をお待ちしております」

 心からの言葉が零れた。

 いつの頃からかはわからないがずっと欲しかったそれをやっと与えてもらえる。

 アリサには、そのことが嬉しくてたまらなかった。

 心酔したようなアリサの瞳にmアルテミシアは最高の使徒にして花嫁の誕生を予感していた。

(今まで帰依させてきたどんな人間よりも素晴らしい者になるわ)

 もうほとんどアルテミシアの色で染まっているアリサだが、まだ足りない。

(色欲を教えてあげる)

 最後の仕上げとして、あえて残しておいたその教えを呑み込んだ彼女の姿を思いアルテミシアは深く深く微笑むのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 欲望の導き手 】

【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳(外見) / 自ら闇へ歩む 】
東京怪談ノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月07日

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