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『もう聖女はいない 』
黒の貴婦人・アルテミシア8883)&紫の花嫁・アリサ(8884)

「アリサ……」

 耳慣れた愛しい声が聞こえる。

 寝室で休んでいた紫の花嫁・アリサ(8884)が声を聞いたのは聖夜の事だった。

「……?」

 周囲を見渡すが寝室には自分以外に誰もいない。

「聖堂まで来なさい」

 吐息まで感じられる程の囁きに、耳が熱くなるのを感じながらアリサは、両親にばれないように寝室を抜け出した。

 最初はゆっくりだった歩調も聖堂にたどり着く頃には小走りになっていた。

「……」

 息を整え聖堂の扉をくぐると黒い薔薇が待っていた。

 一歩足を踏み出すと質素だった服がウェディングドレスへと変わる。

 夢の中で何度も纏ったその質感。

 祭壇に立つ漆黒のウェディングドレスの女性。

「来たわね。待っていたわ」

 目が合う。

 にこりと微笑む姿も夢と同じだ。

「……ぁ」

 声をかけようとして、アリサはまだ相手の名前さえ知らないことに気が付く。

 それなのにこんなにも恋しい。

「私の名はアルテミシア。現実で会うのは初めてね。約束通り帰依と婚姻の儀式をしましょう」

「アルテミシア……様……」

 黒の貴婦人・アルテミシア(8883)の微笑みにアリサは愛おしい人の名を口にする。

「アルテミシア様、私、アリサは貴女様だけを信じ絶対の忠誠を誓います」

 ひざを折り、手の甲へ落とされる敬愛の口付け。

 その唇はそのまま爪先へ動く。

「いい子ね」

 アリサの顔を上げさせるとアルテミシアはアリサの額へ口付ける。

「私の使徒にしてあげましょう。私だけの」

 差し出される細い指をアリサが取る。

 触れ合う熱は夢の中よりも熱く、アルテミシアが目の前に存在することを強くアリサに伝える。

「さあ、花嫁の誓いを立てましょう」

「はい。……私はアルテミシア様だけを愛し、敬い、慈しみ、私の全てを捧げることを誓います」

 目の前で恋人たちが唱えるのを何度も見てきた。

 だが、自分には無縁のものだとずっとアリサは思ってきた。

(この方とこの契りを交わせるなんて)

 喜びが体を支配する。

 アルテミシアの誓いの後、祭壇にあった指輪がアリサの指に通される。

 アルテミシアのものになったのだという証のようで、気が付いた時にはアリサは指輪に口付けていた。

「私には嵌めてくれないのかしら」

 花嫁の言葉に祭壇にもう一つ指輪があることに気が付く。

 優しく指輪をはめるとそのまま指を絡ませる。

 どちらからともなく唇を重ねる。

「こっちの方が貴女らしいわ」

 口付けの合間に触れたのはアルテミシアの指。

 それが唇をなぞれば妖艶な紅が引かれる。

「アリサの望みは? 思うまま口に出して誓いなさい」

 紅とドレスが教えてくれると囁かれ耳に甘い吐息がかかる。

 その声に、吐息に心音が早くなるのを感じながらアリサは口を開いた。

「アルテミシア様だけに奉仕し、快楽と欲望に溺れたい……です。淫蕩に身を任せ……アルテミシア様の下で、淫らに生きていきたいです」

 紅が言葉を紡いだのは最初だけだった。

 そこに意思が宿り、ドレスに導かれるように触れ合わせた肌には気が付いた時には自分の意志で口付けていた。

「アルテミシア様……お願い……します……」

 快楽を引き出すように何度も口付け、淫猥な言葉で懇願する。

「そんなにして欲しいの?」

「はい……」

 潤んだ瞳で見つめるアリサはぞくぞくする程の色気を放っていた。

「いいわ。契りを結んであげる」

 満足そうな微笑みと共に胸元をきつく吸われれば漏れるのは甘い声。

 所有の印を刻まれたのを見るとアリサは潤んだ瞳をさらに潤ませキスに没頭した。

 ***

「ちゃんとお別れをしないとね」

 アルテミシアの指の音。

 現れたのは、経典や思い出の品。

「……はい、アルテミシア様の仰せのままに」

 もう一度指が鳴ると、それらがアリサの足元へ散らばる。

 かつてアリサが大切にしていた物々が床へ散乱するのを目にしても、もうアリサの瞳は揺れない。

「もう、こんなものいらないですから」

 嘲笑の表情で、最初に踏みにじったのは神の経典だった。

 冒涜的な侮蔑に満ちた言葉と共にヒールを振り下ろすその姿はどこか楽しそうにも見える。

 ぐちゃぐちゃになった品々へ唾を吐き、それでも足りないと、祭壇にあった燭台を落とす。

 燃えゆく品々に照らされたのは恍惚の表情だった。

(想像以上ね)

 躊躇うと思ってはいなかったが、予想以上の行動にアルテミシアは満足していた。

「貴女の思いは受け取ったわ。これからは私が愛してあげるわ」

「アルテミシア様……」

 歓喜に震えるアリサを抱きしめ甘い口付けを交わすアルテミシア。

「ずっと会いたかったわ」

「私もです。アルテミシア様に出会わなければ私は……」

 アルテミシアの言葉に灰と化した品々を一瞥しアリサは微笑みを返すと喉へ唇を這わせる。

「もっと欲しいのかしら?」

 意味を汲んだアルテミシアの喉が震える。

 その言葉に、恥ずかしそうにしながらもアリサの瞳は情欲に揺れていた。

「そうね。行きましょう」

 アルテミシアはアリサの手を取り、寝所へ導くように歩き始めた。

 2人が立ち去り、誰もいなくなった聖堂には甘い情欲の香りだけが残された。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 漆黒の主人 】

【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳(外見) / 漆黒の花嫁 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月07日

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