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『ここからの風景 』
鞍馬 真ka5819

 通路先から聞こえてきた物音に、三人が一斉に身構える。姿を現したのはスケルトン──雑魔の一種だ。
 チィ=ズヴォーが、伊佐美 透が前に出る。
 鞍馬 真は一歩だけ前進するとそのままやや後方の位置に留まって、符を構えた。
 展開された数枚の符に魔力が宿ると、その力はチィが、透が構える刀へと流れ込んでいく。
 数は敵の方が多い。回り込み取り囲まれぬよう透が剣舞を閃かせて牽制すると、敵が最も留まる位置目掛けてチィが研ぎ澄まされた突きの一閃で纏めて貫いていく。
 真は戦況を確認する。どう援護する? 二人の戦いを見つめる。
 ……こうして後ろからじっくり見ると、ずいぶん性格の違う剣だ。
 チィの剣は常に実戦から成り続けてきたものだ。戦いの中で必要に応じて効率化が為された結果だろう、無駄なくただ敵に届き、威力を高める方向に研ぎ澄まされている。
 透の剣は技術から先にある。どう扱いどう軌跡を描くのか、頭と身体で理解している。故に感じるのは威力よりも自在さだ。必要な場所、望む位置に剣先を伸ばす。
 そんな二人が、互いを意識して戦えばどうなるのか。チィが石畳の廊下に強く踏み込みの音を響かせる。反応しようとするスケルトンの腕を透の剣が叩いて鈍らせる。透が、位置取りの支配と特定箇所への攻撃を重ねることで隙を作って……チィがそこに、全力の一撃を叩き込む!
 ……ああ、この程度の敵に、これ以上符術での援護は不要か。確信すると真は、敵に向けて符を投げる。三つの札は雷撃と化し、チィの刺突の余波に巻き込まれていた数体に止めを刺した。
 普段とは違う立ち位置。違う景色。この三人で行くなら、後衛として立ち回らせてほしい、と真から申し出た。
 ──どんな状況でも、どんな敵が相手でも役に立てるように色々試しているから。
 勿論、普段と勝手が違う事をするのだからうまく動けるか分からない、その分負担はかけてしまうかもしれない。……が、だからこそ、信頼できる相手が前に居るときしか出来ないと思った。
 今のところ上手く行ってる……と、言えるのかは判断し辛い。単純に、苦戦するほどの敵が出てきていないから、今までので最適な行動なのかはまだよく分からない。だが、符術を使える回数は限られている。無駄にするよりは待機している方が……──
「っと!」
 通路奥から、新手の気配。眼前の敵に注視している二人には気付き辛いだろう。警告の意味も込めて、再びそこに向けて風雷陣を放つ。
 はっと意識を広げた二人の気配に、真はふう、と短く息を吐いた──気付いてよかった。自分が気付かなければいけないところだった。
 気を引き締め直す。分かっていたつもりだけど。
 ──後衛、大変だな! 視界と意識の使い方が全然違う!

 大雨の後、不意に現れた地下道の調査、というのが依頼だった。
 何らかの施設が、災害で埋まったものなのだろうかと予測されたそれから、負のマテリアルが確認されたのだ──犠牲者が居たのなら、有り得ることだろう。
 予想を裏付けるように、立ちはだかるのはゴーストやスケルトンといった犠牲者がそのまま雑魔と化したような敵だった。その風貌から、研究施設であったことも判明してくる。
 最奥に居たのは、完成間近のゴーレムだった。動力を与えられていないはずのそれは、負のマテリアルを吸い込み、三人の気配に反応してその身を立ち上がらせる。
 強敵の気配に、チィが刃に己の生体マテリアルを纏わせていく。彼の攻撃を支援すべく、透が前に出て敵の注意を引く。真もこれまでと同じように術で援護する。スケルトンたちと同様にとはいかないが、三人の実力ならば渡り合える……と、思った。
 ゴーレムの額が突如強い輝きを放つ。広範囲にわたる衝撃波が、三人を襲う!
「……チィ! 平気か!?」
「……正直、もう一発は貰いたくねえでさぁ……」
 呻くチィの声。一度退却、の文字は三名同時に浮かべた。……直後、だが、援軍を呼ぶ前にこのゴーレムが人里へと向かったら? とも、同時に──起動させてしまったのが、自分たちかもしれないのに。
 どうすればいい。
 何が出来る。
 真は、ゴーレムの額、そこに走る一筋の線を指し示した。
「あれだ。今は閉じてるけど、衝撃が来るまで、ゆっくり開いてた……──」
 後ろから。符術で狙いを付けていたからこそ、それを観察できた。
「成程。また開ききる前に倒しきれれば、ってことですかぃ」
 チィが応えた。最も危険な立場にも関わらず、だからこそ真っ先に。
「……分かった。俺はゴーレムの動きとあいつの援護に集中するから──」
 透の言葉は、真に向けられていた。
「うん」
 不安を飲み込んで、真は応える。覚悟のために。
「他の事は私が見ている。任せて」
 言葉に背を押されるように、透がゴーレムに斬りかかっていく。一歩遅れて、回り込むようにチィが逆サイドから斬り下ろし……そして──ゴーレムの視界を、桜の幻影が覆う。
 視界が霞む向こう側から、強いエネルギーが向かうのをゴーレムは感知していた。それに対しゴーレムは、もう一つ、秘めていた機能を作動させる。反撃システム。視界は不良だが、向かい来る存在に腕を振るうだけなら回避よりは確度は高い。
 ──……石の腕が激しく何かを叩く、鈍い音が響いた。
 真はその時──動かない。
 動かなかった。何も出来なかった? ──否。
 見えていた。すべて。分かっている。
 薄紅の霧が晴れたその後、ゴーレムの拳は……透が受け止めていた。
 だから自分がすべきことは。
「……終わりだ!」
 とどめの、一撃。

「二人ともお疲れ様! 流石だったよ!」
 帰路。疲労しきった身体を支えるように、真が声を上げる。
「いや、援護助かったよ。本当に真は何でもできるな」
「ううん、やってみて分かったけどまだまだ全然だよ……後衛の人たちはいっつも凄い色んな事に気を配ってるんだなあ……知恵熱でそう」
「まあ、お蔭さまで全力で殴るだけでいいのは楽でさぁ」
 チィの言葉に、透と真が苦笑する。だが、半ば冗句なのはお互いよく分かっている。前衛は前衛なりの大変さと責任がある。
 ……二人がしっかり前に立っていてくれたから、全体を見渡すだけの余裕があった。すべきことの判断が目まぐるしくはあったけど、焦ることは無かった。
 自分が前に立っているとき。安心を与える背中に、自分はなれているのだろうか……?
「二人とも、本当に今日はありがとう。お陰で色んなものが見えたよ」
 そうして、真はしみじみとそう口にしていた。
「……だから、お互い様だよ。今日は本当、真が下がっていてくれなかったら対処できなかった場面が幾つもあっただろ」
 緊急事態だった。故に、メインクラスだけを見たら極端に偏った三人で、一先ず偵察だけでもと向かった任務でのことだ。器用な真が、実験的な意図とは言え「下がる」と申告していなかったらどうなったか……。
「結局さ。どれだけ腕前を上げても、色んな事を覚えても、それでも予想外の事態ってのは起こり得るんだよな」
 溜息をつきながら、透。だがその声は決して重いものではない。
 そうしたことに立ち向かうのに、結局何が必要なのか……──
「そういう時に。心から信じられるやつと一緒に行けるってのはやっぱり、いいよな」
 透は言った。チィと、それから真を。順番に真っ直ぐ見つめながら。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】
【kz0243/伊佐美 透/男性/28/闘狩人(エンフォーサー)】(NPC)
【(未登録)/チィ=ズヴォー/男性/25/闘狩人(エンフォーサー)】(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご発注有難うございます。
まあその。うちの二人の共闘シーンとのことで。まあ普段から大体こんな風に戦ってるんだろうなというのは考えてはいたんですが。
いざきちんと書いてみると何というかその。調子に乗ってすみません感が凄い……。
注文の意図に添いつつ、鞍馬さんも目一杯活躍させたつもりですが、ご不満ありましたら申し訳ありません。
改めまして、この度はご発注有難うございました。
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凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年01月07日

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