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『【任説】still more dark than the night 』
ゼノビア オルコットaa0626)&レティシア ブランシェaa0626hero001)&ヰ鶴 文aa0626hero002

 突然自分の手を引いて駆け出したレティシアに、ゼノビアは目を白黒させながらも懸命についていった。
 頭一つ分以上離れた場所にあるレティシアの顔をうかがい知ることはできず、ただ白い顎先が見えるだけで。言葉の話せない自分の代わりのように口数の多い彼が、何も言わずに自分の手を引くことが、何か悪いことが起こる前触れのような気がして落ち着かない。

 声を出せれば、何か尋ねることができただろうか。詮無いことを考えながら、人通りのない路地をレティシアの先導でひた走る。先ほどまで大通りにいたのに、いつの間にこんな人気のないところへ来たのだろうか。結構長いことこの街に住んでいるが、ゼノビアはこんな道があったことすら知らない。共に暮らして長いが、ゼノビアは一向にレティシアのことを知れる気がしなかった。

 などと、そんなことを考えて気をそらしていたのが災いした。

「ぁ!」
「ッゼノビア?!」

 足場の悪い場所を走っていたのだ、気をそらせば足を取られるのは道理というもので。
 無秩序に伸びていた配管に躓き体勢を崩したゼノビアを、レティシアが咄嗟と腕を引いて引き上げる。
 そこで、隙ができた。

「ッ!!」

 は、と気付いたレティシアが、腰元から拳銃を引き出す時間すら惜しんでゼノビアを背後に押し込んだ、その瞬間。
 レティシアの脇腹付近で火花が散った。

「っ、ずいぶんなご挨拶じゃねぇか、えエ?」
「……」

 瞳の奥にジラつく焦燥を押し隠し、レティシアがわらう。
 突然レティシアの腹に凶刃を向けた青年が、まさか防がれるとは思っていなかった、とでも言いたげに目を見張っていた。ギチ、と金属同士の擦れる音を上げて、拳銃の握りとナイフの刃先が震える。お互いの呼吸音すら聞こえてきそうな距離で、不利なのはどちらかといえば銀の青年のほう。なにせ、銃は指さえ動けば使えるのだから。
 予想外の事態、先に動いたのは青年だった。

「っと」
「……チッ」

 グリップ部分で刃先を受け止め、銃自体の損傷をも最小限にとどめて見せたレティシアの手腕を、襲撃者は危険視したらしい。刃先の欠けたナイフを用済みとばかりにレティシアの死角だろう右目めがけて投げつけてきた。
 が、それも危なげなく躱す。予備動作の見えているものを簡単に喰らってやるほど、レティシアはやさしい場所で生きていない。まぁ、それは目の前の青年も同じだろうが。

「どこのどいつだか知らねぇが、初対面だってのに挨拶もなしか? お里が知れるぞ」

 右手にゼノビアの手を、左手にオートマチックを構え、ひたりと銀色の青年を睨めつける。相手の狙いがわからない以上、ゼノビアを逃すのは悪手と言えた。己を案じるようにギュッと握られた右手を、大丈夫だ、と言うように軽く握り返した。欲を言うなら右手を自由にしていたいところだが、戦闘技術も心構えも万全ではないゼノビアにそれを求めるのは酷というものだろう。守られる側にも訓練がいるということは、レティシアも痛いほど知っている。
 さて、お嬢様をどうしたものか。

「……フミ」

 そんなことを考えていたからだろうか。
 銀の青年が口にした言葉を、レティシアはうまく理解できなかった。

「……は?」
「フミ。文章の文、と書いてフミ。……僕の名前」
「へ? あー、そう。へぇ。文くん。ほーん?」

 どうやら名乗られたらしいぞ、と理解するまで、優に深呼吸2回分の時間を有した。しかも「僕が名乗ったんだからそっちも名乗るのが筋ってもんじゃないかな」みたいな顔をしているものだから、レティシアはなんだか毒気を抜かれたような気分になる。しかめっ面で、臨戦態勢のままで、もう見るからに嫌々だとわかるような風体で、それでも名乗る襲撃者、とは。
 実はこいつ天然とかそういうものなのでは? と益体もないことを考えつつ、レティシアはそっとゼノビアの手を離した。

「……俺が合図したら振り返らず走れ。いいな」

 ゼノビアにだけ聞こえるように言えば、息づかいで是と答えるのが聞こえて幾許かの安堵を覚える。
 初撃の失敗からこっち、増援も何もない上に、相手が名乗った、ということは、少なくとも組織がらみの襲撃ではないのだろう。言いたくはないが、この場においてゼノビアは足手まとい以外の何物でもない。たとえそれがレティシアの身を案じているが故だとしても、この場に残る、と言われるのが一番の悪手だった。

 これで懸念事項が一つ減った。
 だから、わざと隙を見せるように右手を腰に当て、左手の指はトリガーガードを引っ掛けるようにして銃をぶら下げ、誘うように「戦う意思はない」という態度をとる。
 まだ、相手の目的がわからない。それを知るまで、レティシアは下手に動けないのだ。

「……俺はレティシア。なぁ、お互い名前を知ったってことは、赤の他人からお知り合い程度には慣れたってことじゃん? どう? 今までのことは水に流して仲良く−−−−」

 なんて、おどけた調子で言ってはみたものの。

「しない」
「だろうな!」

 交渉がうまくいくとは、レティシアだって思っていない。

 まっすぐ自分めがけて突っ込んできた文に、グリップを額に叩き込むことで応えた。勢いを殺さず上体を反らせることでグリップの打撃を躱した文に、追い討ちをかけるように足技を繰り出すレティシア。視界に入るよう、わざと上段から繰り出した攻撃にも怯まずまっすぐ己に向かってきた文に左目を眇める。こいつ、慣れている。

 自分が分析されているなど思いもしない文は、顎先を狙って打ち上げられた膝を片手で叩きつけるようにいなして、反動のままに宙返る。お返しとばかりに足先で顎を狙ってみるが、片手で軽くいなされた。シッ、と舌打ちに似た音が文の口から漏れる。
 文が着地するまでの隙を、レティシアはゼノビアを逃がすために使ったらしい。タタタ、と軽い足音が路地に響いた。
 ト、とかすかな音を立てて地面に立ち、文は苛立ちを隠さず眉間にしわを寄せる。

「……それ」
「あ?」

 つ、と文が指差したのは、未だ一発も放たれていない拳銃。オートマチック特有のつるりとしたボディーは、レティシアが過ごしてきた戦場の激しさを物語るかのように傷だらけだ。グリップに刻まれた傷のうち、一つは自分がつけたものだろう。どれがそうだかわからないけれど。

「……それ、使わないの」

 つい先ほど、文が着地するまでの一瞬。その一瞬で、レティシアは何発か文に発砲できていたはずだった。もちろん、あの少女を逃した上で、だ。
 文にだってむざむざ蜂の巣にされる気は無いし、何発か打ち込まれた上で避ける心得だってある。手加減された、とも違う妙な違和感が、先ほどから文の刃を鈍らせるのだ。思わず名乗ってしまうほどに。

 文の指摘に、レティシアは束の間「何言ってんだこいつ」みたいな顔をして、それから、得心したように口の旗を釣り上げた。

「お前、誰かを守ったことは?」
「は?」

 突然の意味不明な問いに、思わずして大きな隙を晒す。一瞬の油断が命を奪う戦場にしてあってはならないほど大きな隙だったが、目の前の男は何もせず、ただ意味深に笑うだけ。
 わけが、わからなかった。

「……今だって、僕は」
「オーケィ、俺が悪かった、質問を変えよう」

 若干ムキになりかけた文を察したのか。レティシアが軽く両手を上げて肩をすくめる。
 それこそ大きな隙だったけれど、文には手出しができなかった。それがなぜだかわからなくて、余計に不快だった。

「お前、誰かに守られたことは?」
「…………は?」

 意味が、わからなかった。
 何を言われたのか理解できなくて、無様を晒す。きっと今、文は形容しがたい顔をしているに違いない。混乱したような、唖然としたような、憮然としたような、それでいて、親を探す迷子のような。
 緊張に漲っていた腕からは力が抜け、けれど矜持を守るようにナイフだけは手放さない。弛緩した腕に反して硬く握られた指が、文の心を反映しているかのようにちぐはぐで。
 そんな様を、何か寂しいものを見る目で見られているのが、一番嫌だった。

「文、だったか。なんで俺を狙った?」
「それ、は」

 だって、ここにいてはいけないものだろう。

 喘ぐようにそう言えば、レティシアはついに、哀れなものを見るような目をする。どうしてそんな目で見られるのかわからなくて、文は何かを耐えるように口元を手で覆った。

「だって、おかしいだろう? この世界にいてはいけないものだろう? 僕、は、それを排除するためのモノ、だ、から……」

 だって、そう言われたのだ。そいつらは世界を脅かすものだと。
 だって、そう言われたのだ。だから守らなくてはいけないのだと。

 だって、そう言われたのだ。自分は、世界を守る刃なのだと。

「だか、ら、僕は……」

 −−−−この世界に存在してはいけない。

「それ以上考えるな」

 いつの間にか、口元を覆っていたはずの手は視界を遮るように目元を覆っていた。固くナイフを握り締めた手はそのままに、拳で目を押しつぶすような、そんな姿。
 ターゲットから目をそらすだなんて、普段の文からは考えられない失態だった。いつだって文はターゲットを抹消することだけを考えていたし、上手にその任務を遂行していた。今回のようなイレギュラーさえなければ、文はいい子の守り人のままだったのに。

「ぼく、は、何?」
「お前はお前だ。文、そうだろ? それ以外の何者でもない。文。大丈夫だから。文。フミ?」

 気が付けば、身も世もなく泣いていた。それでもナイフだけは手放さなかった。
 どうしてこの気に食わないターゲットは自分のことをこんなにも揺さぶるのか。こいつは今まで倒してきた敵と何が違うんだ。僕はただ、敵を倒せばよかっただけじゃないのか。どうして、なんで、どうして?

「……あんた、だって、僕とおんなじじゃないの?」
「そうだな、俺と文は似てる。文が俺を狙った理由に間違いはないさ」
「じゃあ」
「それでも、俺は俺だしお前はお前だ。難しく考えるな。お前の名前は?」

 頑是ない子供に言い聞かせるように、レティシアは文の心のやわいところを揺さぶってくる。力が入らず折れた足を支えるように手を差し伸べ、文の体を支えるレティシアは、それこそ守護者のようだった。
 背中を包み込むような体温に安堵を覚えて、文はそれこそ、子供のように問われた質問に答えてしまう。

「……ぼ、くの、名前は、文。ヰ鶴文」
「ヰ鶴文、いい名前じゃねえか。どこから来た?」
「……」
「いや、いい、聞いた俺がバカだった。だからそんな、死にそうな顔すんな」

 ついさっき、それこそ何分もしないほど前に殺しあっていたとは思えないほど優しげな声音でレティシアが言う。それがなぜだか痛くて、文は無表情のまま涙を流す。
 こんな時にどんな顔をすればいいのか、文は知らない。知らないのだ。

「……あな、たは、……『外のモノ』だろう?」

 ほとんど無意識にそう口にした文に、レティシアは顔を歪めることで応えた。嫌な名を聞いた、と文に聞こえないよう口にして、ガシガシと己の髪の毛をかき回して大きく息を吐き出す。それが怒られているように聞こえて、文は小さく肩を竦めた。

「悪ぃ、違う、大丈夫だ、お前にじゃない。……ゼノビア! もういいぞ!」

 路地の奥へ向かってレティシアが叫ぶと、積み上がったガラクタの向こうで白い頭がひょっこりと顔を出す。

『もういい? だいじょーぶ?』

 メモパッドにさらさらと英字で記されたその文句に、文は逃げるように視線を地面に落とす。−−−−この女の子は喋れないのだ。
 耳の奥で、レティシアの声が反響していた。「誰かを守ったことは?」「誰かに守られたことは?」、と。

「なーに暗い顔してんだ」

 地面にのめり込みそうなほど落ち込んだふみの様子を察してか、レティシアが銀色頭を痛いくらいの強さでかき乱した。指通りのいい銀髪がボサボサになるのが嫌で、けれど頭皮を撫でる指の熱が心地よくて、文はなんとも言えない表情をして立ち尽くす。白い女の子が不思議そうな顔で文を見つめていた。

 何を言っていいのかわからなくて、文はレティシアから逃れるように一歩足を引く。けれど次の瞬間に腕を掴まれて、文はこの場からの逃亡を諦めざるを得なかった。小さく嘆息して、細い肩が落ちる。

「……僕をどうする気?」

 今更、レティシアを害そうとは思えない。興が削がれた、というより、傷つけたくなかったのだ。
 このまま帰還できないことはわかりきっていたが、文にはどうしようもない。与えられたミッションを遂行できなかった場合どうなるかなど、文は知らないのである。−−−−だって、失敗したやつは帰ってこないのだから。

「どうもこうも、こうなったらウチで面倒見るしかねーだろ」

 だから、当たり前のようにそう言い放ったこの赤頭のことが、文には理解できない。

『ウチって、レティの家じゃないんだけど?』

 それを当然のように受け入れるゼノビアも。

「……どう、して……?」

 呆然とそう口にすれば、レティシアはなぜか、聞き分けのない子供を見るような顔をする。
 そうして、今の今まで握りしめていたナイフを、文の指を一本一本丁寧に引きはがしながら、ほのかに笑った。

「俺もそうしてもらったから、かな」

 カラン、と、思いの外軽い音を立ててナイフが地面に落ちた。レティシアの言葉の意味がわからなくて、ゼノビアが満面の笑みを浮かべている理由がわからなくて、文の脳内はパンク寸前だ。

「文や俺が何者か、だなんてどうでもいいんだ。文は文で俺は俺、ゼノビアはゼノビア。それ以外の何物でもねぇんだから」

 背中を押されて、一歩踏み出す。振り向けば、ゼノビアが先を急かすように笑っていた。
 路地の奥は、文が思っていたよりずっと明るい。

「ほら、行くぞ」

 光に消える大きな背中が目に痛くて、文は手を引かれるのに任せて目を閉じた。

 繋がれたてのひらが痛いほどにあたたかくて、吐き出す息が細く、細く震えている。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0626/ゼノビア オルコット/女性/17歳/人間】
【aa0626hero001/レティシア ブランシェ/男性/27歳/ジャックポット】
【aa0626hero002/ヰ鶴 文/男性/20歳/カオティックブレイド】
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2019年01月07日

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