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『夜に願う 』
リィェン・ユーaa0208)&イン・シェンaa0208hero001

 リィェン・ユーは上体を冬の冷気に晒したままため息をついた。
 鍛え抜いた体には気で熱した血を巡らせているから寒くはない。もっとも、暖房をつければそれだけですむ話。なのにこんな真似をしでかしているのは、つまるところ……
「浮かれておるのう」
 背後からリィェンの様を窺っていたイン・シェンが深いため息をつく。
「気合を入れてるだけだ」
 言い返したリィェンはこの日のために買い込んだブランドものの香水を手に取り、置いて、もう一度手に取ってまた置いた。
 こんな日だからこそ、もうひとつ“武装”したい気持ちはある。が、いざ事が起こったとき、余計な香りは死を引き寄せる目印となりかねない。
 というリィェンの心の動きをあっさり見て取ったインはまたため息をつき。
「用意するなら別の武装じゃろうが。嗜みと気配りは男が負うべきものぞ。なにせ今夜はクリスマスイヴ、男と女にとって特別なんじゃろ?」
 ぎくりとすくみあがるリィェンに、インは三度ため息をついた。大の男が好いた女をものにする気概もなく縮み上がるとは。不甲斐ないより悲しゅうなるわ。
 もっとも、彼女は先にリィェンの想い人の本心を聞いている。今、リィェンを受け入れるだけの余裕がないことを。
 それでもこの日の誘いを受けるほどにはリィェンへの情があるのだ。まるで見込みがないわけではない。
 結局香水をつけぬままドレスシャツを着たリィェンへ、インはやさしく声をかけた。
「よいかリィェン、たとえあちらの休みがたまたま今日しかなかっただけでもじゃ。家族と過ごす時間を割いてそちと会ってくれようという心、ゆめ忘れてはいかんぞ」
「わかってるさ。彼女が家のパーティーへ登場できる時間にはきちんと帰らせる」
 力強く言い切ったリィェンから視線を外し、インはやれやれ、かぶりを振った。

 着慣れないタキシードで固めたリィェンは出かけていく。
 それを見送ったインはすぐさまスマホを取り出して。
「わらわじゃ。こちらは相も変わらず童丸出しじゃが、そちらはどうじゃ? おお、そうか。よしよし、そのまま頼むぞ。で、集合場所なのじゃが」


 東京某所。
 石畳を敷いた坂の登り口で、リィェンは深呼吸を繰り返していた。
 ごく自然に、スマートに。ほかのことは考えるな。それだけできてれば上等だ。
 果たして。
「ウエディングドレスも最高だったけどな、今日のドレスはまた格別だ」
 瞳と同じ青のイヴニングドレスをまとったテレサ・バートレットは礼を述べ。
「人にはそれぞれパーソナルカラーがあるものだけど、リィェン君はやっぱり黒が映えるわね」
 本来であれば家まで迎えに行くべきなのだろうが、テレサがH.O.P.E.東京海上支部から直接向かうとのことだったので、目的地近くで待ち合わせと相成ったのだ。
「今日も特務だったんだろう?」
「ええ、今年の新年も家では過ごせそうにないわね。リィェン君は? って、中国の新年はもう少し遅いんだったかしら」
「ああ。でも、きみを招待するのは難しいな。なにせ爆竹を馬鹿みたいに鳴らすんだ。ガンナーの耳には毒だろう」
「その度に伏せるから、一日でダイエット完了ね」

「なんか笑ってるアルよー」
 リィェンたちからは見えない曲がり角でひそひそ、マイリン・アイゼラが告げた。
「落ち着いた風情じゃが、まるで艶気のない有様よの」
 肩をすくめて応えるイン。
 ちなみにインの先の電話、その相手がマイリンである。共に契約主の見物をしようと誘ったのは、ある意味で契約主ふたりの未来が彼女たちにも少なからず影響するからなのだが。
「艶はこの後に期待するとしてじゃ。そちはふたりの展望をどう見る?」
 インの問いに「んー」、マイリンは眉根をひそめ。
「チャイニーズフード食べ放題アルし、あたしはリィェンが婿でいいんアルけどねー」
 それはそうじゃろうな。インはマイリンが言外に含めた意味を正確に読み取った。バートレット家はともかく、イギリスの名士社会はリィェンを拒むということだ。
 マイリンはテレサの契約英雄で同性だからこそ普通に暮らせているが、リィェンはちがう。“紳士”ならぬ異民族なのだから。
「とまれ、すべてはそれを心配できるところにまでこぎ着けられた後の話じゃな」


 目ざとくジーニアスヒロインを発見し、握手やサイン、写真を求める人々の波を泳ぎ渡り、ようようとたどり着いた店は風格あるフレンチレストラン。食に興味のある者ならば、ここが予約の取れないことで有名な“星つき”であると気づくはずだ。
「予約、大変だったんじゃない?」
「大陸のネットワークは国を越えるのさ」
 それだけ説明し、席へつく。店側か“ネットワーク”かが気を利かせてくれたのだろう。美しくライトアップされた庭の景色を楽しめる窓際の席だった。
 しかし、リィェンは厳しい顔をうつむかせる。
「すまない。俺の配慮が足りなかった。奥の席に換えてもらえるよう頼んでくるよ」
 テレサがこの街にいることはすでにSNSを通じて知れ渡っている。リィェンとしては力尽くでも止めたいところだったが、テレサは人々の求めに快く応じていたから邪魔できなくて。ゆえに、彼女を狙う賊がこの窓に凶弾を叩きつけない保証は存在しないのだ。
「リィェン君はなにも悪くないわ。サンタクロースの前座を務めたかったのはあたしだもの。それよりせっかくの景色を楽しみましょう?」
 立ち上がりかけたリィェンを止め、テレサはウインク。
 そういうことか。愚神やヴィランと戦うH.O.P.E.のジーニアスヒロインがここで席を換えてしまえば、まわりの客はなにかがあるのではないかと不安に駆られるだろう。
 テレサが人々に応えること、食事を楽しむことはすなわち、この地の安全を示すためなのだ。
 それだけじゃない。いざとなれば共鳴していないその体を張って、一般人を守る覚悟を決めてるんだな。
 リィェンは肚を据え、食前酒のグラスをテレサのグラスと合わせた。
 きみがジーニアスヒロインとして人を守るなら、俺はテレサその人を守るよ。

「ジーニアスヒロインの知名度を考えれば不用心に過ぎるが……それをさせたはリィェンじゃ。せめて責は取ってやらねばならんな」
 こちらもネットワークの力で席を用意させ、リィェンたちの監視を続けていたインが、景気づけとばかりにグラスを呷って立つ。
「え? どこ行くアル? これから二つ星フレンチ三昧、始まるアルよ?」
「芝居してまで食らいたいか……気づいておろ? 消音器はあろうな?」
 うう。無念の呻きを漏らし、マイリンがインに続く。その間に服のあちらこちらから抜き出された部品を組み立ててれば、掌に収まる二丁拳銃ができあがった。
「ロケット弾アルから、音しないアル。弾数はそんなにないアルけど」
「上等じゃ。支援を頼む」
 髪を結い上げていたネビロスの操糸を抜き放ち、インが閉ざしていた右眼を開く。

「“王”との決戦が近いわね」
 ナイフを置いたテレサがぽつり。
「きみも出るのか?」
「あたしはウルカグアリー戦を越えたらそのまま白狼戦へ向かうわ。ミオを守らないと」
 オペレーターである礼元堂深澪は、いかなる戦場へも生身で臨む。契約英雄の本業を邪魔したくないかららしいが、それにしても無謀な少女だ。
「友だちなんていなかったのよ。いつも誰かと比べられて、上回ることを要求されてきた。それでいいって思ってきたあたしに、それじゃだめだって教えてくれたのはミオだから」
 強いられた孤高がただの孤独であることを思い知らせてくれた友が、深澪。きっとテレサは深澪の前でだけ、ジーニアスヒロインの名を負わずにいられるのだろう。
 でも。
「俺の前でもテレサでいてくれよ。ジーニアスヒロインでもH.O.P.E.会長息女でもない、ただのテレサで」
 すごく難しい要求だろうが、でも、今だけはサンタの前座を務めるきみにねだってもいいだろう? 一秒先には、俺がその役を代わるから。
「少し席を外す」
 きみにプレゼントするよ。きみが守りたいと願う静かな夜を。


「うわーうわー」
 小声で騒ぎながら、マイリンは男のバラクラバへ手を突っ込み、口の中に拳をねじ込んだ。
「スイッチ発見アル。なんでこういうヤツらって口ん中にあれこれ仕込むアル?」
「殺された衝撃で押せるからじゃろ」
 別の男の奥歯に仕込まれた起爆スイッチを抑え、そこから伸びた線を断ち斬ったインは、先に外しておいた顎をそのままに、流れるような動きで四肢の関節を外して転がした。
 テレサの命を狙って庭へ侵入してきた襲撃者を、ふたりで五人しとめた。チームが何人構成なのかは知れないが、最低でも半数は抑えられたはずだ。
「窓に撃ち込まれたら終わりじゃからな。狙撃手がおらんことを祈るばかりよ――」
「それは今しとめてきた」
 潜めた声音と共に、無力化されたスナイパーとスポッターがインの脇へ投げ落とされる。
「テレサのエスコートはどうした?」
「インたちがなんでここにいるのかは後で聞かせてもらうけどな。……これだけこそこそ騒がれたら、話もできやしない」
 リィェンが仏頂面で言うのに対し、マイリンは残念なものを見る目を向けて。
「なんか話してたアルっけ?」
 と。庭の先で綺麗に刈り込まれた植樹の葉がこすれる音がして、リィェンは顔を上げた。
「戻ってこられると厄介だ。追う」
「あたしたちが乗ってきたバイクあるアルから、それ使ってアル」
 後ろ手でマイリンの投げたキーを受け取り、リィェンは影塊となって駆ける。


「早く乗って!」
 エンジンをかけたオフロードバイクに跨がっていたのは、他ならぬテレサだった。
「マイリンのバイクのキーはあたしも持ってるのよ」
 リィェンになぜここにいるのかを問わせず、後ろに乗るよう示して発進させる。そのドレスの右裾は大きく縦に裂かれ、ストッキングに包まれた脚とその腿に巻きつけたホルスターを晒していた。
「まさか銃まで持ってるとは思わなかった」
「ジーニアスヒロインは二十四時間、年中無休だもの。――ああ、誰にも裾を裂くところは見せなかったわよ?」
「せっかくのドレス、裂かずにすませてほしかったよ……ここへ来てほしくもなかったが」
「あれ以上あそこにいたらほかのお客さんに迷惑をかけるもの。それに、エスコート役に捨てられたかわいそうな女を演じられるほど、お芝居に自信もないしね」
 襲撃者のこともリィェンの意図も、すべて悟られていたわけだ。テレサの能力の高さは当然知っているが、込めた願いに邪魔をされ、見誤ったらしい。
「すまない」
 万感をひと言に押し込めたリィェンは、足止め役なのだろうバイク乗りが突き込んできたカトラスを手刀で巻き取り、引き込んで掌打を打ち当てた。
 肋が砕ける手応えを残し、路に転げ落ちていく男。
 こいつは追ってきてくれるだろうインに任せるとして。事がすんだら店に謝罪をしに行かないとな。
 大通りへ飛び出し、一般車をかいくぐって進むうち、残りの襲撃者の乗るバイクが見えてきた。あちらもふたり乗りだが、屈強な男ふたりよりも、ひとりが女であるこちらのほうが速い。
「ハンドルお願い!」
 言い放ったテレサはハンドルから手を離し、ホルスターからオートマチックを引き抜いた。一秒で銃口にサイレンサーを装着、二秒で狙いを定め、シュート。
 速度を抑えられた弾が一直線に飛び、バイクのチェーンを撃ち抜いた。これならばバイクを転倒させることなく、止めることができる。
 テレサの体を両腕で挟みつけて固定し、ハンドル操作を預かっていたリィェンは、バイクから跳び降りて逃走を図ろうとした男ふたりの前を塞いで。
「法の裁きを受けられるだけありがたいと思ってもらおうか」
 リィェンの拳が閃き、反撃もろとも男たちを叩き伏せた。


「もう一度あやまらせてほしい。すまなかった」
 東京海上支部のワープゲート前でリィェンはテレサに頭を垂れ、力強く上げて。
「それから、今日しそこねたプレゼントをもう一度させてもらうチャンスが欲しいんだ」
「プレゼント?」
 リィェンはぐっと息を詰め、そっと、声音を紡ぎだす。
「きみがただのテレサでいられる夜」
 対してテレサは笑みを傾げ。
「楽しみに待たせてもらうわ」

 テレサが消えたゲートを見つめていたリィェンはようようと視線を外し、後ろで待っていたインに向きなおった。
「先はまだまだ長そうじゃが、一歩は進めたようじゃの」
「なら、たどり着くまでその一歩を重ねるさ」
 さて。サンタの前座が本物のサンタに成り仰せられるかの?
 インは胸中でうそぶき、うなずいてみせた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【リィェン・ユー(aa0208) / 男性 / 22歳 / 義の拳客】
【イン・シェン(aa0208hero001) / 女性 / 26歳 / 義の拳姫】
【テレサ・バートレット(az0030) / 女性 / 23歳 / ジーニアスヒロイン】
【マイリン・アイゼラ(az0030hero001) / 女性 / 13歳 / 似華非華的空腹娘娘】
イベントノベル(パーティ) -
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リンクブレイブ
2019年01月07日

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