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『グロテスクと少女 』
夢路 まよいka1328

 下男がアフタヌーンティーを運びに部屋へ入ると、まよいは細い指でトランプを積み上げて、トランプタワーをつくっているところであったらしい。
 だが、その塔は見る影もなく、机の上で無残にも折り重なっている。
 下男のノックの音にまよいが反応した拍子に、手元が狂い、築いていたタワーを崩してしまったようだ。
 下男はその崩壊は自分のせいだと思い、謝罪した。
「ああ、気にしないでね」
 しかし、当のまよいはこともなげに言う。
「最後は崩すんだもの」
 下男は首を傾げた。せっかく出来上がったものをどうして崩してしまうのだろう。
 が、そんなことより、茶や菓子を運ぶ方が大事だった。下男は疑問をすっぱり忘れて、トランプを片付け、アフタヌーンティーを供する。
 まよいは花弁を縫い合わせたような華奢なティーカップに注がれた紅茶の香りを楽しみ、そっと口をつける。
「トランプ、もう1セットあるかしら」
 まよいの問いに首肯して下男は答えた。まよいの真意は知れないけれど、要望とあれば遂行するのが下男の仕事だった。

 下男が夢路 まよいについて知っていることは少ない。
 彼女が主人の雇ったハンターで、魔術師であること。少女であることくらいだ。
 下男の主人は成金で、気持ちのいいくらいの成金趣味だった。節制という言葉は彼の辞典にはない。
 財力があれば、不埒な輩に狙われることもある。そこで主人はハンターオフィスに護衛の依頼を出したのだ。
 依頼料は高額だったので、すぐに人が殺到した。だが、主人はその中からは選ばずに、たまたまオフィスで見かけたまよいを護衛にすることに決めた。
 まよいは高位の魔術師だ。しかし見た目は可憐な少女である。誰もが、あの成金男はハンターとしての技量より、容姿の愛らしさで選定したと断じた。事実そうであった。
 でっぷり太った男の隣にいる小柄なまよいは余計に神秘的に見えたし、逆に男の方はよっぽど醜怪に見えた。
 男は、まよいを護衛役以上の待遇で迎えていた。まるで、一国の姫でも迎え入れたよう。
 そんなまよいの世話を下男は任されていた。要求は全て叶えるように、と言われている。
 下男は最初、どんな無理難題をふっかけられるか怯えていたが、まよいはそんなことを全くしなかった。
 仕事のないときは、トランプタワーをつくって遊んでいるし、紅茶の味に文句をつけることもなかった。
 それは、人を使役することに慣れていないから何も言わないのと違って見えた。
 下男はまよいに、ことあるごとに怒鳴り散らす自分の主人とは違う、生まれついての貴族を見出していた。
 どこか人形めいた美しさと静謐さを併せ持つ存在。
 彼女を見ていると、猥雑な浮世にも、こんな汚れのない純粋な人間がいるのだと思えた。

 下男はまよいに、主人が急遽遠方へ仕事に行くことになったのを伝えた。もちろん護衛としてまよいも同行するのだ。
「私、トランプを積むより、積木でお城をつくるほうが好きなの」
 支度のためにまよいは立ち上がって、そんなことを言った。
 下男には言葉の真意が全くわからなかった。いや、今までだってわからなかったけれど、今回は特にわからなかった。
「だって、積木の方が、崩した時の音が派手でしょ?」
 また「崩す」という話だった。
「高いところから、がらがら崩れて、面白いんだもの」
 下男は、積木を用意した方がいいのだろうかと訊いた。
「ううん、そういう意味じゃないの。正直に言ってしまうと、積木が欲しかった時もあるんだけど、今はいらないと思っているのよ」
 そこで、まよいは言葉を区切り、ゆっくりと──
「だって……積木の高いお城はもう、あるみたいだから」
──蕾が花開くように、微笑んだ。
 下男はこの時、清いことは善いことかもしれないけれど、清過ぎるのは毒なのだと思い知った。まよいの微笑は汚れがないばかりに異様に見えたのだ。同時に、「積木の高いお城」とは主人の築いた財産のことではないかと考えた。
 あなたは主人に害をなすつもりなのかと、下男は問いかける。
「そんなことしないわ。それに、ここでの暮らしに不満はないもの」
 その言葉に気を許しそうになったけど、下男はまだ警戒する。
「本当よ。旦那様はちゃんと守るわ。あの人の側にいると、いろんな人がたくさんやって来て、飽きないもの」
 まよいは、そんな下男の警戒も気にせず、平然と言葉を紡ぐ。
「ただ──高いところから落ちるのはとても痛くて。高ければ高いほど、それは面白く見えるのよ」
 蝶が舞うような足取りで、まよいは部屋を出て行った。
 下男は思う。彼女のいる方へ手を伸ばしてはならない。
 それは、禁忌に触れるからであり、また、どうしようもなく綺麗なものを汚してはならない、という想念からでもあった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1328 / 夢路 まよい / 女性 / 15 / 魔術師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 おまかせノベルなので、どうしてこのような内容になったのか、あとがきとして書いておきます。

 純粋さと残酷さを書こうというのがはじまりです。
 戦闘シーンももちろんよいのですが、リプレイではなかなか書くことのできない戦闘前の日常シーンを描写してみました。

 この度はおまかせノベルのご依頼ありがとうございました。
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2019年01月07日

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