▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『The Baccarat 』
ヴァイオレット メタボリックaa0584

●Baccarat
 ヴァイオレット・ケンドリック(ヴァイオレット メタボリック(aa0584))は、擦り切れた黒い外套を身に纏い、暗い夜道を歩いていた。目の前には、スーツで風を切る男の背中。
「まさかこんなところでお前の顔を見るとはな」
 空を見上げ、男は笑う。ヴィオは襟元を手で押さえながら、男を睨む。
「……それはこっちの台詞だ。お前こそ、どうしてあんなところに」
 ほんの十分前、二人は裏路地の売春宿にいた。乱暴に“使われた”売春婦の手当てをしていたところ、ヴィオはばったりこの男と出くわしたのである。男は彼女を見るなり、大金を女衒に突き出し、彼女を“買って”しまったのだ。
 男は振り返ると、白髪交じりの頭をぼりぼり掻きながら応える。
「あー。まあなんだ。あそこは俺の仕事場の一つなんだよ。あっただろう? 客もお前らも立ち入らねえ部屋が、一つ地下に」
「仕事……あんなところで、お前は手術してたのか?」
 ヴィオは言葉を失いかける。ちょっと窓を開ければ、排水溝のすえた臭いが漂ってくるような場所だ。お世辞にも清潔とは言えない。男――闇医者は小さく歯を剥き出す。
「それでもいいって奴はな、世の中にたくさん転がってんだ」

 ヴィオは、この男の事を知っていた。彼女の父親の、医学生時代のライバル。度々父親たちの仕事ぶりを冷やかしに来ていたのだ。正義感の強い父を馬鹿にしつつも、何だかんだで毎年クリスマスカードを送ってくるような、変な所で律儀な男。そんな印象だった。

 さらに二十分歩いて、ヴィオはようやく一軒のアパートに辿り着いた。
「今日からお前の住む場所は此処だ」
 玄関を上がると、いきなり消毒薬のつんとした匂いが漂う。キッチンにダイニングテーブル、ついでにテレビやラジオがあるくらいの、すっからかんなリビングだ。生活感が無い。ヴィオが黙って立ち尽くしていると、闇医者は顎をさすりながら、値踏みするようにヴィオを見つめた。
「もちろん俺はお前を買ったわけだから、それなりの仕事はしてもらう。そうだな……」
 いきなりヴィオの腕を掴むと、闇医者は隣の部屋まで彼女を引っ張っていく。彼が扉を開いた瞬間、思わずヴィオはあっと声を上げてしまった。
「まずは此処を掃除してもらうか」
「汚いな……」
 その部屋の中に広がっていたのは、大量の段ボールの山。所々破れて、中身がはみ出している。漫画に、ゲームだ。彼は悪びれもせずに応えた。
「そうだ。汚いんだ。だから中の整理しといてくれ。ついでだから言っとくが、ここがお前の寝室になるからな。えーと何処だ……?」
 段ボールの山へと踏み込んだ闇医者は、部屋の隅から何かを引っ張り出す。闇医者はニヤリと笑うと、彼女に向かって放り出した。
「あとベッドもないからこれで寝ておけ」
 手にしてみると、それは粗末な寝袋だった。ヴィオがあからさまに不満な顔をしてみせると、彼は悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「何だ? じゃあ俺と寝るか? そっちも色々覚えたんだろ?」
「黙れ」
 ヴィオは唸ると、痩せぎすな男の肩を掴み、部屋の外へと押しやった。

●Poker Face
 彼はとんでもなくダメな奴だった。金さえ積まれれば、ヴィランズの一員にすらアイアンパンク化手術を施すような奴だった。売春宿や賭場には彼の仕事場が幾つもあり、足が付かないよう彼はその仕事場を転々としているのだ。ヴィランに刃向かって家ごと焼かれた父に比べれば、その生き様は雲泥の差だった。売春宿にいる頃よりはずっとマシだから文句は言えないが、彼の露悪的な生き方にはしばしば嫌気がさしたものだった。

「……全く、どうしたらこんなに汚く出来るんだ」
 そんなわけで、今日もヴィオは不満たらたらで自室の掃除を続けていた。破れた段ボールの代わりを探して来るだけでも一苦労。もう一か月ほど経つが、片付く目途は一向に立たなかった。
 そんな折、リビングの電話が急に鳴り響いた。それは内線専用の電話。ヴィオは不審な顔をしながら居間に戻り、受話器を手に取った。
「はい? 食事の用意なら言われなくたって――」
[隣に来い。直ぐにだ!]
 闇医者の切羽詰まった声が鼓膜に突き刺さる。ヴィオは顔を顰めると、受話器を電話に叩きつけ、隣室へと足を踏み入れる。アパートの隣とは改造で繋がっていた。本当に大事な仕事を引き受けた時、彼はクランケをそこへ通すのである。
「一体何が……」
「来たか。早くそれ着て、こっち手伝え。思った以上にやばいんだ」
 彼は険しい眼で壁際にかかった手術着を指差す。首を傾げていると、彼は声を荒らげた。
「早く! 此処が吹っ飛びかねん。こいつ、アイアンパンクの部品に爆弾仕込まれやがった」
 爆弾。その言葉を聞いてヴィオは息を呑む。慌てて手術着に袖を通すと、彼の傍に駆け寄る。
「よし……あいつの娘なんだろ。じゃあ今から言う奴全部取って寄越せ」
 ヴィオは彼に言われるがまま、次々に手術道具や工具を手渡す。その間に彼は風のように手を動かし続け、爆弾の切り離しから解除までを終えてしまった。
 天才。父の言っていた意味を、その瞬間に理解した。闇医者も傷口を縫い合わせると、ヴィオの横顔を見て鼻を鳴らした。
「まさか本当にやってくれるなんてな」
「明日からも手伝え。……その方が楽だ」
 人を喰ったような声色は無い。彼はぶっきらぼうに、淡々とヴィオへ言い渡すのだった。

●Attack of Blackjack
 それからというもの、ヴィオは闇医者に助手として使われるようになった。掃除洗濯も、闇医者が多少やるようになった。いつの間にやら、ヴィオと闇医者は家族のような、奇妙な関係になりつつあった。酒癖は悪いし、何だかんだで女は買うしで、一向に尊敬できない男であったが、その生活にはある種の心地よさがあった。

 しかし、そんな日も長くは続かないのだった。

 全身の鈍い痛みで、ヴィオは目を覚ます。眼の前には、険しい顔のバカラがいた。隣には、見慣れぬ青年が立っている。
「目が覚めたか、ヴィオ」
 ヴィオは身を起こそうとしたが、視線を横切った腕を見て、彼女は愕然とした。いつの間にか、彼女の腕は機械に替わってしまっていたのである。
「そんな、これって……」
 刹那、記憶が蘇ってきた。何事かを喚くヴィランズが押し入り、共鳴した闇医者と彼らは戦いとなり、部屋を吹き飛ばすような爆発が起きた。巻き込まれたヴィオは、全身に痛みを感じながら意識を失ったのだ。
「悪いが、これ以上一緒に居るのは危険らしい。……まあ、これ以上一緒にいてやる意味も無かったわけだが」
「……なあ、お前は一体何なんだ?」
 痛みに視界が歪み、掠れる声でヴィオは尋ねる。帽子を目深に被り、彼は応える。
「医者だ。クソッたれの」
 彼はヴィオをベッドに残したまま、英雄と共にヴィオの前から姿を消した。

 彼がアルター社所属のエージェントであり、中南米地方のヴィランズに対して諜報活動を行っていた事を知ったのは、それから間もなくのことだ。残されたヴィオは自由となり、H.O.P.E.のエージェントとして生きる道を選んだのだった。



「やれやれ。本当に律儀な男じゃ」
 修道院に届けられた一枚のクリスマスカード。その裏を見つめてヴィオは呟く。

 そこには、天幕の前でGLAIVE達と共に写る、闇医者の姿があった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ヴァイオレット メタボリック(aa0584)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
影絵 企我です。
医療漫画というよりは、完全にあの漫画のイメージが入っているかもしれません。タイトルの元ネタもそうです。あと文字数が足りなくて全体的に物足りない感じになってしまったかもしれません。あと2000文字くらいあれば違ったんですが……
それでも何とか纏めてみました。気に入って頂けたら幸いです。

ではまた、御縁があれば。
シングルノベル この商品を注文する
影絵 企我 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2019年01月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.