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『ぬいぐるみにまつわる話 』
マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001)&迫間 央aa1445


 これはマイヤ サーア(aa1445hero001)の幻想蝶、の中にあるベッド、の上にある迫間 央(aa1445)、を模したぬいぐるみにまつわるお話です。


 『そうだ、央のぬいぐるみを作ろう』とマイヤが思い立ったのは、冬の気配がそこかしこに滲み始めた頃でした。何故そんな事を思い立ち実行するに至ったのか、その経緯を事細かに記す必要はないでしょう。乙女心を解説するなど野暮の極みだからです。
 ともかくとにかくそんな訳で、マイヤは能力者、兼婚約者のぬいぐるみを自作しようと思い立ったわけですが、ぬいぐるみを一から手作りするのはとっても難しいのです。まず型紙を作らなければなりません。マイヤが想定していたのは二頭身のぬいぐるみでしたが、それでも頭があって、胴体があって、手があって、足がある。髪や服や眼鏡なんかも忘れてはいけません。それらを正確に作るには型紙は必要不可欠ですし、また央は実在の人物なので、ぬいぐるみチックな、けれどきちんと央に見えるようなデフォルメ化も必要です。
 次に布を選ばなければなりません。布と一口に言っても種類も、色も、手触りも、丈夫さも千差万別です。色が違えば央に見えなくなりますし、手触りが悪ければ持っていて嬉しくありません。丈夫でなければすぐに壊れてしまいます。なので数ある布の中から好みにあった、かつぬいぐるみ作りに最適な布を選ばなくてはなりません。ある程度妥協するならいざ知らず、拘ろうとすればするだけ布選びは迷宮化します。
 そして最後にして最大の難関は縫うことです。ぬいぐるみというぐらいですから縫うのは当然のことですが、その当然しなければならないことがもっとも難しいのです。特にマイヤは生活能力が壊滅的に低いので、裁縫能力に関しても推して知るべしってカンジです。ましてや立体的なぬいぐるみ作りとなると……立ちはだかる壁がどれほど高いか想像出来ると思います。
 それでもマイヤは『そうだ、央のぬいぐるみを作ろう』と思い立ちました。なので一生懸命頑張りました。何故なら自分で作らないと央のぬいぐるみが手に入るわけがないからです。
 まずデフォルメ央を描きました。あーでもないこーでもないと悩みながら、何枚も何十枚もデザイン画を描きました。次に描いたデザイン画を元にして型紙を作りました。それから央に内緒で布を買いに行き、央に内緒にするために迫間宅にこっそり持ち込みました。マイヤは普段幻想蝶に籠っているので、本来であれば幻想蝶で作業を行う所ですが、幻想蝶に布を持ち込めば央にバレてしまいます。なので幻想蝶ではなく、迫間宅にてこっそりと作業を行うことにしました。
 そして時に針で指を刺し、時に糸をこんがらがらせ、時に呻き、時に頭を抱え、常に綿と布の切れ端を身体のどこかにつけながら、ようやくマイヤは「物体」を完成させました。物体。ぬいぐるみではなく物体。布を縫い合わせ綿を入れた、という意味であればぬいぐるみと言っても差し支えないかもしれませんが、とりあえずどう贔屓目に見ても央には見えないものでした。央どころか人型にも見えません。出す所に出せば「名状しがたい何か」という名称を与えられることでしょう。
 それでも頑張って作ったので『これは央だ、これは央だ』と自分に言い聞かせてもみたのですが、見れば見る程名状しがたい何か以外には見えません。マイヤは出来上がった物体を抱え、迫間宅の居間に座り込み、綿と布の切れ端にまみれながらしょんぼりと眉を下げました。
『(やっぱり、一からぬいぐるみ作りなんて私には無理だったのかしら)』
 両手で不細工なぬいぐるみを抱えたまま、マイヤはちょっと涙ぐみそうになりました。いつもはクールなマイヤですが、今回ばかりはさすがにへこんでしまいました。だってこんなに頑張ったのです。頭の中に理想があって、その理想を叶えるために一生懸命頑張ったのに、今手の中にあるものは名状しがたい何かな物体。これでへこむなという方が無理というものでしょう。
 いっそ誰かにお願いしてみようかしら。マイヤの頭の中をそんな考えがよぎりました。この国にはやたらと手先の器用な人がいます。マイヤはそういったことに詳しい方ではありませんが、ネットとかで探してみれば、マイヤの代わりに央ぬいぐるみを作ってくれる誰かが見つかるかもしれません。
 けれどきっとものすごくお金が掛かるでしょう。どの程度掛かるかは分かりませんが、つまりオーダーメイドを頼むのです。決して安くはないことは覚悟した方がいいでしょう。とは言え目の玉が飛び出るほど高いということもないでしょうが、お金を無駄遣いするのは好ましくありません。何故なら央がエージェント活動をする上においてお金は必要だからです。エージェントである以上、装備の修理や強化、消耗品の購入など結構なお金が掛かります。それを疎かにして央が怪我をすることだってあり得るのです。故にかつてマイヤは央が贈ると言った婚約指輪さえも断ったのです。『エージェントとして万全でいられるよう、活動資金をちゃんと用意しておくべきよ』と言った自分が、央に浪費をさせる訳にはいきません。
『(なにより、もしそれが原因で、央に何かあったら嫌だわ)』
 マイヤは不細工なぬいぐるみを胸にぎゅっと押し当てました。最初に央に逢った時、マイヤの心の中は愚神への復讐心でいっぱいで、そのために央に依頼に行くようせっついているような状況でした。マイヤ自身は幻想蝶に籠もりきりで、殆ど飲食もしておらず、敵と対峙する時以外はほとんどからっぽの状態でした。
 けれど今は央のことでこんなにも心が動く。マイヤはぬいぐるみを抱えたままあれこれと考えて、やっぱり自分でなんとかしよう、と決意を新たにしました。やっぱりお金は掛けられないし、またマイヤは世情に疎いので、ネットでオーダーメイドを頼む、とかは出来そうにありません。もっとも、作り直すにしてもどうしてもお金は掛かりますが、それでもオーダーメイドを頼むよりはずっと少なく済むはずです。
 ただし問題は山のごとし。残っているお小遣いはそれほど多くはないですし、またこの腕前では、何度チャレンジしたとしても上手くいく気がまったくしません。名状しがたい何かがもう一体生まれてきそうです。
『(諦めるしかないかしら)』
 マイヤはしょぼんと肩を落とし、片付けをするべく立ち上がりました。央が帰ってくる前に居間を復旧しなければなりません。まずはその第一歩として、腕の中にあるぬいぐるみをごみ箱に捨てようと――
「ただいまー」
 その時、玄関が開く音と共に央の声が聞こえてきました。マイヤは驚きました。何故ならいつもより帰宅時間が早いからです。
「今日はマイヤがいないからそのまままっすぐ帰ってきたんだ。一緒にH.O.P.E.行くだろう? それとも今日はやめておくかい?」
 どうやらマイヤを想っての早期帰宅のようですが、マイヤは感激するより慌てました。腕には名状しがたい何か、足下では裁縫道具やら布の切れ端やらがパレードなうだからです。見られれば一発で央にバレてしまうでしょう。乙女心的に、二重の意味で見られたくはありません。
『ひ、央! ちょ、ちょっと待って!』
 とマイヤは声を上げましたが、時既に遅し。央は居間の扉を全開にしてしまいました。居間にいたのは名状しがたい何かを抱き、頭に綿と布の切れ端を装備している婚約者。
「マ、マイヤ? ……何か作ってたのか?」
 央は居間の惨状からそのように推理しました。マイヤは幻想蝶に逃げ込もうかと思いましたが、それで誤魔化せるのは一時だけ。明日も明後日もその先もずっと誤魔化し続けるのは不可能です。マイヤは俯き、腕の中のぬいぐるみが歪むほどきつく抱き締めた後、聞こえるか聞こえないかのか細い声で言いました。
『央を……作ろうと……思って……』
 その言葉に、央はマイヤの腕の中のぬいぐるみに視線を向けました。スーツを着ているように見えなくもないですが、央の目から見てもそれは名状しがたい何かです。ですが茶化すようなことを言えるはずもありません。
『へたくそね。私、ぬいぐるみもろくに作れないんだわ』
 そう、マイヤが悲しそうに言ったからです。
「……こういうのが作りたいのか?」
 央はテーブルの上からデザイン画を発見しました。そして一通り眺めた後、うなだれているマイヤの手を取りました。
「出掛けようか」
『H.O.P.E.に?』
 マイヤは即座にそんなことを言いました。央はその言葉に、笑いながら首を振りました。
「今日はエージェント業はお休みにして、手芸店に行こう」
『手芸店? どうして?』
「俺が代わりに作るよ。だからマイヤはアドバイスしてくれると嬉しいな」


「開けてみて」
 数日後、央はマイヤに袋をひとつ差し出しました。マイヤがリボンを取って袋を開けると、中にはマイヤが思い描いた通りの、央のぬいぐるみがありました。
『……』
「ネットで作り方とか調べながらやったんだけど、どうかな」
『嬉しい……ありがとう』
 マイヤは心から嬉しそうにぬいぐるみを抱き締めました。それを見た央も嬉しそうな顔をしましたが、その表情が曇りました。マイヤが急に悲しそうな顔をしたからです。
「どうした?」
『ううん……私、本当に何も出来ないんだなって……』
「そんなことないよ。マイヤは俺に十分以上のことをしてくれる」
『私が一体何をしてあげられると言うの?』
「俺を幸せにしてくれる」
 マイヤは央を見つめました。央もマイヤを見つめ、にっこりと笑顔を浮かべました。
「マイヤは俺を幸せにしてくれる。これ以上のことはないさ。それに少しでも返せるなら、嬉しい」
 そう言って笑みを深める央にマイヤは涙ぐみました。央は俯くマイヤを見つめ、そうだ、と言いました。
「マイヤが作ったもの、俺にくれないか」
 その言葉にマイヤはびっくりしました。「捨てるのはちょっと待ってくれ」と言われたので一応持ってはいましたが。
『で、でも、あれは失敗作で……』
「マイヤが一生懸命作ったんだろう? 失敗作なんかじゃないさ」
 ほら、と央が手を出します。マイヤは幻想蝶の、自分の部屋に置いていたぬいぐるみを取り出しました。央はそれを受け取って、それから優しく笑いました。
「大事にするよ」
『悪い夢を見ても知らないわよ』
「その時には、マイヤも一緒に夢に出てくれるだろう?」
 そして悪戯っぽく笑う央。マイヤは少し眉を下げ、それから『まったく』と言いました。もし本当に夢に出たら、一体どんな夢だったのか忘れずに聞いておかないと。マイヤは心の中でそんなことを思いました。


 こうしてマイヤの幻想蝶、の中にあるベッド、の上に央、を模したぬいぐるみが置かれることになりました。デフォルメされたそれを眺めてマイヤは微笑みます。
『可愛い』
 待望の央のぬいぐるみ。しかも央自らがマイヤのために作ってくれたのです。それを枕元に置いてマイヤは目を閉じます。央ぬいぐるみはマイヤの傍で可愛い笑顔を見せています。

 とってもいい夢が見られそうです。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【マイヤ サーア(aa1445hero001)/外見性別:女性/外見年齢:26/シャドウルーカー】
【迫間 央(aa1445)/外見性別:男性/外見年齢:25/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。おまかせで頂いたので参考にするためにイラストを拝見したのですが、マイヤさんのベッドの上にある央さんぬいぐるみの出自がとても気になったので、「市販で売ってる訳がないし、でもマイヤさん生活能力が壊滅的って書いてるし……」とこのようなお話にさせて頂きました。文体もいつもとは違うものにしてみました。口調や設定、イメージと齟齬がありましたら、お手数ですがリテイクの連絡をお願いします。
 この度はご注文下さり、誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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2019年01月08日

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