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『『愛の行方 後編』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 自分を組み敷し、囁きかけて奪う振りをするこの覆面の男が、待っていた人、ディラ・ビラジスであることを理解し、アレスディア・ヴォルフリートは彼の演技の深いキスを受けた。
「ディラ……来てくれて嬉しいが……」
 抱き着く代わりに、ぎゅっと彼の服を握り、アレスディアは小声で彼に語りかける。
「ディラが好きだと言った女は、この場を他の誰かに押し付け逃げて、助かったと喜ぶ女か?」
 彼の唇は彼女の首筋に移り、彼女の唇の側には彼の耳があった。
「この数年、誰よりも一番近くで私を見続けてきたのは、ディラだ。ならば、わかるな?」
 そんなアレスディアの小さなしっかりとした声に、ディラはすぐに言葉は返さなかった。
 重なり合う身体を通して、彼の深い葛藤が感じられる。
 彼が、自分を大切に想ってくれている……護りたいと思っていることは、解っている。
 けれども、自分がただ護られることを良しとしない女だということも、彼は解っているはずだ。
「私が奴らの注意を引きつける。タイミングを計り、仕掛けてくれ。奴らが混乱から回復し、体勢を立て直すまでの貴重な時間。戦闘不能に拘らなくていい。一人でも多く足を奪え。こちらも合わせて動く。その後は合流、決して分断されるな」
「身を隠す場所もない、こんな広い空間でどう戦うというんだ。……死ぬ気か?」
「ディラが来てくれて、あるわけないだろう。こちらの不利は百も承知。だが、矛が背にある限り私の盾は、難攻不落だ」
 アレスディアは彼の胸にある硬いものを手にとった。
 短剣をモチーフにしたシルバーのペンダント――2年前の冬に、アレスディアがディラにプレゼントしたものだ。
「ところで皆、解ってる? 私たち、利用されているだけだってこと」
 魔術師風の女が、アレスディアの盾で2人を隠しながら、皆に語りかけた。
 その間に、ディラは身を起こし、アレスディアは彼のペンダントを見詰める。
「解った。もう、離さない」
 ディラはアレスディアの右手に指を絡めた。彼女の指には自分が贈ったリングが嵌められている。
 アレスディアは頷き、ペンダントに口づけをして彼の胸に返す。
「強く想え。想いが強ければきっと、応えてくれる」
 ディラがペンダントを握りしめた。直後、ペンダントは姿を変えていく。
 2人が欲している、彼が必要するものへと――。

「そのドクターは内通者。抗体を得て私達を治療することが目的なのではなく、これは彼の――団の実験なのよ」
 魔術師風の女の突然の言葉に、場がざわめいていく。
「薄々、そんなところだろうと思ってはいたが、それでも自分さえ抗体を手に入れられりゃ、それでいいって思ってたわけだがな」
 傘を持っていた男が、持ち手を引き抜いた。その先にあったのは、刃。仕込み刀だった。
 それを合図とするかのように、その場にいた者たちは各々隠し持ち、仕込んでいた武器を抜いていく。
「実験だろうが何だろうが、大人しく従っていれば抗体を得られるものを」
「抗体を得ても、愛という感情を完全に失っている私達に何の意味があるのかしら?
 抗体を持つサンプルを手に入れて、抗体を滅ぼす実験を行うことが目的でしょ?」
 魔術師風の女が嘲るように言い、ドクターと呼ばれた男――アレスディアをこの場に招いた男が顔をゆがめ、場が色めき立つ。
 女は盾を落し、そっとその場から退く。
「くっ」
 この場を切り抜ける言葉を探すドクターの前に、アレスディアが無言で歩み寄った。
 一度、ため息をついた次の瞬間。
 彼女はドクターの胸倉をつかんで、思い切り人中に頭突きを食らわした。
「くは……っ」
 脳震盪を起こし、ドクターはその場に崩れ落ちる。
「この程度で浮き足立つとは情けない」
 手を離し、彼女は振り返った。
「ウイルスに犯されたということは、かつてそういう感情を誰かに抱いていたのだろう。それはそんな簡単に諦められるものなのか?」
 アレスディアは全員をぐるっと見渡して、言葉を続ける。
「この中に、本当に心を取り戻したいと思っている者はいるか? これが実験だろうとどうでもいい。元より治療法が確立されているものでもない。それでも、試したい。自身の心を取り戻したい。かつてのように誰かに思いを馳せ、共に生きたいと強く望む者は前へ出ろ。心など要らぬというなら、欲望のままに他者を食い散らかして生き、いつか誰かに食い散らかされて死ね。その誰かは、今隣にいる誰かかもしれないがな」
 大きな声、強い口調ではっきりと言うアレスディア。
 彼女の言葉が終わるや否や、場にいる者たちが反応を示すより早く――ディラが動いた。
 より多くの者が集まる場所に滑り込み、持ち上げた剣の刀身を滑らせて、足を薙ぎ払う。
 アレスディアの能力で姿を変えたその剣は、長く、太く、厚い刀身。攻撃を受け止める盾ともなる、巨大な剣だった。
「その抗体、俺持ってるぜ」
 覆面を取り払い、鋭い眼でにやりと笑みを浮かべるディラ。
「貴様、ディラ・ビラジスか……!」
 男が声を上げ、取り巻く空気が変わる。より、鋭利なものへと。
「それじゃあ、始めようか」
 アレスディアは盾を拾うと同時に、立っている者のもとに跳び振るう。殴り倒すと直ぐに次の敵のもとへと跳ぶ。
 その一撃は軽く、ステップは軽やかに。一撃で倒すのが目的ではなく、機動力を削ぐことが目的だった。
「アレス!」
 ディラが声を上げて、巨大な剣を両手で握りしめ、再び大きく振った。
 2人に近づこうとした者たちの足が砕かれ、倒れていく。
 アレスディアは彼のもとへと戻り、続く魔術師たちの攻撃を盾で受ける。
「行くぞ」
「ああ」
 短く言葉を交わすと、アレスディアはディラが持っていたナイフで、自らの掌を切り裂いた。
 そして、2人は護り、護られながら迫る敵と血で濡れた手で戦っていく。
「抗体をよこせ!」
「私の心を返してよ」
 叫び声ともいえる声が、響き、刃がと血が飛び舞う。

「……もう、いいかしら」
 彼女は、最後まで部屋の隅で見ていた。
 まだ動ける者たちの意識を魔法で奪って、彼女が――魔術師風の女が近づいてくる。
 アレスディア、ディラ共に、力を使い果たし、床に膝をついていた。
 辺りに響く、乱れた呼吸音は、2人のものだけだった。
「私はその男――ディラのことが、昔、好きだったの。その想いを取り戻したい。なんとしてでも」
 言って、女は倒れた男の手から仕込み刀を奪い、2人に近づいてくる。
「日を、改めよう。俺が、抗体を貰った方法、試すんだろ」
 そう女に持ちかけるディラを、アレスディアは手で制す。
「……あなたのディラへの想い、万分の一かもわからぬが、確かに受け止めた」
「そう、それなら……」
「だが、それでも、譲れぬ」
 女の言葉を待たず、アレスディアはそう言い、女の一撃を盾で受け止め、腰を入れた正拳突きを女の鳩尾ちに放った。
 2人の女性は、同時に崩れ落ちる。
 アレスディアは意識が途切れる前に、ディラを感じた。ディラはアレスディアだけを受け止め、抱いた。

*******

 クリスマス間近の東京歓楽街――。

 ドォーン!!

 深夜、大きな爆発音が響いた。
「火事だー!」
 ビルから湧き上がるように炎が広がっていく。
 小さなネオンの輝き全てを打ち消し、人々の幸せを飲み込んでいった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、ライターの川岸満里亜です。
続くお話しの希望をいただいておりますため、結末は曖昧にさせていただきました。
次のご依頼の際に、ご指定いただけましたら幸いです。
ご依頼ありがとうございました。2人の行く末を楽しみにしております。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月08日

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