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『『愛の行方〜ディラ・ビラジス〜 後編』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

「この数年、誰よりも一番近くで私を見続けてきたのは、ディラだ。ならば、わかるな?」
 何よりも大切な存在、アレスディア・ヴォルフリートのその言葉。
 ディラ・ビラジスは彼女を組み敷きながら深く葛藤していた。
 解ってはいた、彼女がそういう女性だということ。そんな彼女じゃなければ、今自分は彼女の側にはおらず、取り巻く者たちの1人としてここに居たかもしれない。
「私が奴らの注意を引きつける。タイミングを計り、仕掛けてくれ。奴らが混乱から回復し、体勢を立て直すまでの貴重な時間。戦闘不能に拘らなくていい。一人でも多く足を奪え。こちらも合わせて動く。その後は合流、決して分断されるな」
「身を隠す場所もない、こんな広い空間でどう戦うというんだ。……死ぬ気か?」
 もどかしさに、震えさえ覚える。
 ディラには武器がなかった。この地で目立つ武器は持ち歩けはしないが、ここに居る者たちはある程度の武器を仕込んでいるはずだ。決して堪能ではない魔法と、小さなナイフだけで渡り合える相手ではない。
「ディラが来てくれて、あるわけないだろう。こちらの不利は百も承知。だが、矛が背にある限り私の盾は、難攻不落だ」
 アレスディアの手が、ディラの胸へと伸びた。いつでもかけているペンダントへと。
 この短剣をモチーフにしたシルバーのペンダントは、2年ほどまえにアレスディアからもらったものだった。
「ところで皆、解ってる? 私たち、利用されているだけだってこと」
 自分に抗体を求めてきた女が、皆へ語りかけ始めた。
 ディラはこの女と手を組んだ。……そして裏切るつもりだった。
 既に抗体を渡したと思われる彼女に、この場を任せて自分はアレスディアを連れて退く。
(そんな方法、アレスが許すはずもない、か)
 ディラはこの女を不憫には思うが、それでアレスディアが護れるのなら躊躇なく首を刎ねられる。
 これは、アレスディアから見れば、冷酷で醜い感情だろう。
 解っている。自分は彼女に愛される資格なんて、ありはしない。だけれど……。
「解った。もう、離さない」
 ディラは脱出を諦め、アレスディアの右手に指を絡めた。
 彼女の右手には、ディラが贈ったリングが今も嵌められている。
 アレスディアは頷き、ペンダントに口づけをしてから放した。
「強く想え。想いが強ければきっと、応えてくれる」
 護りたい。彼女を護り、彼女の矛となれる力が欲しい。
 強く想い、ディラはペンダントを握りしめた――直後、ペンダントが大きな物体へと変わっていった。
(これは……アレスの力か!?)
 アレスディアは『思い入れのあるものを、自らが最も欲している力の形に変える』能力を有している。
 彼女はその能力で、灰銀のコインを矛や盾に変化させて戦ってきた。
「そのドクターは内通者。抗体を得て私達を治療することが目的なのではなく、これは彼の――団の実験なのよ」
 女の突然の言葉で、場がざわめきだし、次々に武器が取りだされていく。
 女が皆を煽り、ドクターと呼ばれた男が顔をゆがめ、場が色めき立つ。
 頃合いを見て、女は盾を床に落し、部屋の隅へと退いた。
「くっ」
 ドクターの前に、アレスディアが無言で歩み寄っていた。
 アレスディアはため息をついた直後に、ドクターの胸倉をつかんで頭突きで意識を奪う。
「ウイルスに犯されたということは、かつてそういう感情を誰かに抱いていたのだろう。それはそんな簡単に諦められるものなのか?」
 アレスディアの朗々とした声が響く。
「この中に、本当に心を取り戻したいと思っている者はいるか? これが実験だろうとどうでもいい。元より治療法が確立されているものでもない。それでも、試したい。自身の心を取り戻したい。かつてのように誰かに思いを馳せ、共に生きたいと強く望む者は前へ出ろ。心など要らぬというなら、欲望のままに他者を食い散らかして生き、いつか誰かに食い散らかされて死ね。その誰かは、今隣にいる誰かかもしれないがな」
 場に居る者たちが反応を示すより早く、ディラは姿を変えたペンダント――長く、太く、厚い刀身を持つ巨大な剣を手に、彼らのもとへと滑り込んだ。
「その抗体、俺持ってるぜ」
 覆面を取り払い、にやりと笑みを浮かべて挑発する。
 この武器があれば、そしてアレスディアがいれば、切り抜けられる。確信が持てていた。
「貴様、ディラ・ビラジスか……!」
 大半は知らない顔だったが、ディラの顔を覚えている者は少なくないようだった。
「それじゃあ、始めようか」
 アレスディアが跳び、武器を抜いたものたちを盾で殴り飛ばす。
 ディラは両手で剣を構えて、刀身を背の方向へと回す。
「アレス!」
 声を上げて、腰を使って再び大きく振るう。
 太く、厚い刀身は盾にもなる。だがこの武器には、大きな弱点がある。
 振り切った後、大きな隙が生まれるということ。
 1人、ならば。
 彼女がいれば、アレスディアが一緒ならば。
 剣を振り、複数の敵を同時に打ち払ったディラを、アレスディアが盾で庇う。
 放たれた魔法、投げナイフは彼女の盾で防がれた。
「行くぞ」
「ああ」
 話し合う必要はもうない。
 アレスディアはディラが身につけていたナイフで、自らの掌を切り裂き、ディラも包帯を取り払い傷口を開く。
「抗体をよこせ!」
「私の心を返してよ」
 血を乱舞させながら、2人は必死に襲い来るものたちを迎え応じた。

 立っている者がいなくなってから。
「……もう、いいかしら」
 意識のあるものたちを魔法で倒し、ディラと手を組んだ女が近づいてきた。
 アレスディアとディラも、傷つき、力を使い果たし床に膝をついていた。
「私はその男――ディラのことが、昔、好きだったの。その想いを取り戻したい。なんとしてでも」
 女は仕込み刀を拾い上げて、歩いてくる。
「日を、改めよう。俺が、抗体を貰った方法、試すんだろ」
 交渉を試みようとしたディラだが、アレスディアに手で制される。
 ディラは落ちていたナイフを手にとって、2人の女性を強く見据える。
 いつでも、女の命を奪えるよう。
「……あなたのディラへの想い、万分の一かもわからぬが、確かに受け止めた」
「そう、それなら……」
 女が、アレスディアに剣を打ち下ろす。
「だが、それでも、譲れぬ」
 アレスディアは女の一撃を盾で受け止め、腰を入れた正拳突きを女の鳩尾ちに放った。
 女の身体が飛び、同時にアレスディアも崩れ落ちる。
 倒れる彼女を、ディラは自らの胸で受け止めた。
 後ろから抱きしめて、きつく眉を寄せる。
 胸が締め付けられ、言葉が何も出てこなかった。
 アレスディアを抱き上げて、力を振り絞り、部屋の外へと、地上に戻るために歩いて行く。

「ふ、はははははは……実験体がこんなに沢山。全て逃しはしない。ははははははははははははははは」
 意識を取り戻したドクターが狂ったように笑いながら、ガスホースを引き抜いた。
「……悔しい……これは、ただの、嫉妬じゃなくて……失恋の心の痛み、だと信じるわ」
 涙を一筋落し、女は火の魔法を発動した。
「私、人に戻れた、よね――」


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
こちらはディラ視点の物語となります。
意外な展開、終わり方となりました……。こちらの物語はこちらで完結となります。
続く新たな物語のご依頼、緊張しながらお待ちしております。
アレス視点でお願いします。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月08日

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