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『『愛の行方――迷い』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

「俺だ。合わせてくれ」
 アレスディア・ヴォルフリートの耳に、ディラ・ビラジスの囁き声が届いた。
 途端、アレスディアの身体から力が抜け、緊張から解放され、様々な感情が湧いてくる。
 来てくれたのか、という思い。
 そして……来させてしまったという思いが、同時に湧き起っていた。
「彼の次は私の番よね、功労者だもの♪」
 魔術師風の女がアレスディアの盾を抱えて、近づいてくる。
「吸い付くしちまったら、ゴメンな! あははははッ」
 ディラは普段の声とは違う、ハスキーな大声で笑ったあと、アレスディアに顔を近づけて、囁く。
「彼女が仕掛ける。その隙に逃げるぞ」
「…………」
 ディラは望んでこの場にはいない。
 逃げるという言葉からも、それは明白だった。
 そして『彼女』という言葉から判るのは、彼が新たな取引をしたということ。
『……奴らが、約束を守ると思うか? 苦境に立たされたときこそ、信じる先を誤るな。矛だけでもならぬ。盾だけでもならぬ。共にいてこそ、状況は切り開ける』
 自分のその言葉を聞いた直後だろうか。彼が『彼女』と取引をしたのは。

 彼は、取引をしてしまった。

 喜びと共に、湧き上がる悲しみの感情。
 アレスディアの脳裏に、自らの過去が思い浮かんだ。
 取引をして、搾取だけだけされて、死に絶えた大切な人たち。その無残な最期は――自分のせいだった。
(私は彼を止められなかった。私こそが、引き金となってしまった)
 アレスディアは自分のせいで、ディラを巻き込んでしまったと思い込んでいた。今、大切に想う、彼を。
(だが、嘆く時間などない。そして、取引に甘んじる気もない。ディラを巻き込むことになるが、私が護る)
 立ち上がり、ドクターに、色めき立つ者たちに言葉を浴びせながらも、アレスディアの思いは背後のディラに向いていた。
 2年前に、彼に贈ったペンダントが武器へと変わった。
 攻撃を防ぐこともできる、太く厚い、巨大な大剣。彼はこの巨大な剣を両手で持ち、振り抜いた。剣圧で一般人ならば吹き飛ぶほどの威力があった。
 しかし、この武器には致命的な弱点がある。
 ディラの体躯をもってしても、渾身の力で剣を振った後、大きな隙が生まれる。
(一太刀とても彼には届かせぬ。ディラだけは何としても、この場より生かして帰す。それまで、死ぬ気はない)
 盾でアレスディアはディラを護る。放たれる魔法も全て防ぎきる。

 彼はここに訪れる以前に、体中に傷を負っていた。『彼女』に、抗体を渡すためについた傷だろう。
 多くの血を流し、体力を使い果たしたアレスディアとディラに、その『彼女』が近づいてきた。
「私はその男――ディラのことが、昔、好きだったの。その想いを取り戻したい。なんとしてでも」
 『彼女』はその想いを取り戻すために、命を賭けている。彼と交わした取引が、命の危険を伴うものだということは、概ね判っていた。
(人が人を想う気持ちは自由だ)
 アレスディアは、ディラを制して立ち上がる。
「……あなたのディラへの想い、万分の一かもわからぬが、確かに受け止めた」
「そう、それなら……」
「だが、それでも、譲れぬ」
 それでも、ディラを再び闇の世界に帰すつもりはない。
(彼は日の当たる場所で笑って生きられる)
 後ろにいる彼の、自分にだけ向けられる笑顔が、思い浮かぶ。
 それは、今は自分にだけ、だけれど……。
(再び闇になど帰さない。譲れない気持ちに偽りはない)
 『彼女』の一撃を盾で受け止め、正拳突きを放った後――アレスディアの心が、揺らぐ。
(だが、日の当たる場所で彼の隣にいるべきは本当に、私なのか)
 ディラが、自分を抱き留めてくれたことが、分かる。
 彼が抱きしめる相手は、自分でいいのか?
 自分は、この腕の中に在っていいのか。
(私の隣で……どれだけの時間、彼は笑みを浮かべていられる……)
 意識が、深い闇へと落ちていく。
 どこかで何かに、亀裂が走る音がした――。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております。ライターの川岸満里亜です。
ウェブゲーム『愛の行方』のアレスディアさんの心情のご依頼、ありがとうございました。
今年も引き続き、お2人を描かせていただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月08日

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