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『交差し、光射す(1) 』
白鳥・瑞科8402

 まるで他の音を忘れてしまったかのように、夜道にはロングブーツが地を叩く音だけが響いていた。
 長く伸びた茶色の髪が、その小気味の良い音に合わせて揺れる。周囲の薄暗さに怯える事もなく、彼女は一人その道を歩いていた。至極のアクアマリンの如き青色の瞳は、ただ一心に進むべき方向、前だけを見つめている。
 だから、闇に潜む影はその隙をつこうと彼女へと狙いを定めたのだ。
 彼女の背後から、無遠慮に這い寄るのは夜を異形の形で固めたかのような不気味な出で立ちの漆黒の怪物だった。見るからにこの世のものではないその影は、溢れ出る邪気を隠そうともせずに今宵の獲物へとにじり寄る。
 その柔らかな髪を、彼女に似合う美しい服を、爪の先まで手入れの行き届いた肢体を、全てを喰らおうと牙をむく。
 何の罪を犯したわけでもない、ただこの場所を通りかかってしまっただけの不運な女性は、未だ振り返る事はない。何の問題もなく、影は獲物を食らえる――はずだった。
「挨拶もなしに襲いかかってくるだなんて、礼節のないお方ですわね」
 だが、今宵においては、不運なのは女性ではなく怪物の方であったらしい。
 女性は柔らかくも、どこか力強さを感じる笑みを浮かべた。さながら聖女の如きその笑みを、影が直接見ていないのは在る種彼にとって幸運な事だったのかもしれない。その笑みは、悪しき者すらも浄化してしまえそうな程美しいものだったのだから。
 むき出した牙は、獲物に届く事はなく空を噛む。女性は、振り返る事もなく怪物の攻撃を軽々と避けてみせたのだった。
 同時に、目にも留まらぬ速さで彼女はいつの間にか手に持っていた銀色の物体を振るう。
 それは、丁寧に手入れがされている、鋭いナイフ。何が起こったのかも理解出来ないまま、怪物は身体を切り裂かれ霧散した。
 その姿を視界に収める事すらなく敵を倒してみせた彼女……白鳥・瑞科は、相手の張り合いのなさに物足りなさを感じ少しだけ肩をすくめてみせるのだった。

 静まり返った夜の帳に、通信端末が着信を知らせる音が響いたのはそのすぐ後だ。端末の向こうから届いたのは、瑞科の上司である神父の声だった。
 彼の声が、近頃街を騒がしている事件について語る。昨夜から、漆黒の怪物が闇夜に紛れ通行人を襲っている事件が相次いているのだ、と。
「ええ。わたくしも、ちょうど今その事についてご報告するつもりでしたわ」
 今まさにその敵の内の一体を倒した瑞科は、通信端末の向こうの男が続けて紡いた『お願いしたい任務がある』という言葉に笑みを深める。通信を切った彼女は、足の向かう先を自身が所属している組織の拠点の方向へと変えるのであった。

 ◆

 もう夜も遅いというのに、呼び出された瑞科の顔に憂いはない。むしろ、その顔はこの街を守る機会を与えてもらえた事に対する歓喜の色を宿していた。
「市民を襲う異形……そして、その異形を生み出した組織のせん滅ですわね」
 神父に任務内容を確認しながらも、瑞科は諜報部隊が揃えた事件に関する資料へと目を通す。
「ええ。シスター白鳥はどう見ていますか?」
「恐らく、街で暴れている異形の者達は召喚の儀式に失敗して呼び出してしまった低級の悪魔達ですわ」
 神父の問いに、瑞科は自らの見解を述べた。現段階で怪物達に分かっている事は少ない。しかし、実際に倒した時の感覚からしてあれは異界から呼び出した低級の悪魔の類だろう、と、こういった任務を数多くこなしてきた瑞科はすぐに察したのだ。
「悪魔召喚を行っている何者かが、この街に潜んでいるようですわね。申し訳ないですけれども、悪魔達の出現場所について今一度諜報部隊に確認していただきたいですわ」
 罪なき人々を襲う怪物。すでに犠牲者が出てしまっている事に、瑞科は美しいラインを描いている眉を悲痛げに潜める。人類に仇なす魑魅魍魎や人物を殲滅する事を目的とした秘密組織、「教会」として見過ごす事は決して出来ない事件だ。
 せん滅対象である悪魔は、低級と言えど戦う力を持たぬ一般人にとって、十分な驚異となるだろう。一体一体の力は小さいものの、数も多い。
(一刻も早く、皆様の安全を取り戻さなくてはなりませんわ)
「悪魔達の数は多く、その裏にいる組織についてもまだ未知数です。危険な任務になるに違いありません。ですが、だからこそあなたにしかお願い出来ない……頼めますね?」
 神父の言葉に、瑞科が返す答えは決まっている。迷う事なく首を縦に振った彼女の瞳には、必ず今回の任務も成功させてみせるという確かな決意が込もっていた。

 ◆

 神父のいた部屋を出た後、瑞科は慣れた足取りでとある部屋へと向かった。拠点内にある、自らの私室だ。 
 室内に足を踏み入れ、彼女は部屋の奥にある精巧な装飾の施されたワードローブへと手をかける。
 それは、ただの衣装箪笥ではない。「教会」の紋章が刻まれた、瑞科が任務の前にだけ触れる特別なワードローブだ。
 そこにしまわれているのは、最先端の素材を使って作られた特注の衣服……瑞科の戦闘服だった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8402/白鳥・瑞科/女/21/武装審問官(戦闘シスター)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、ライターのしまだです。このたびはご発注ありがとうございました。
連続ノベルの1話目となっております。しばらくお付き合いいただけましたら幸いです。
引き続き、よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年01月08日

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