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『交差し、光射す(2) 』
白鳥・瑞科8402

 戦闘服に着替えるという行為は、ある種の儀式にも似ている。普段は普通の教会でシスターをしている自分が、「教会」の武装審問官へと変わるための儀式。黒の光沢のあるラバースーツが、彼女の扇情的な身体のラインを崩さずピッタリと肌に張り付くのと共に、自らの心も引き締まるのを瑞科は感じた。
 首から下を覆ったこのスーツは、耐衝撃性があり万が一彼女が敵の攻撃を受けたとしても瑞科の傷一つない肌を守ってくれる事だろう。
 もちろん、優れた性能を持っているのはラバースーツだけではない。彼女のグラマラスな身体を忠実になぞる薄い生地で出来た修道服もまた、特別な布で作られたものだ。修道服には両脇に腰下までの深いスリットが入っており、ニーソックスが食い込んだ美脚をちらりと覗かせている。膝まであるロングブーツも、彼女によく似合っており瑞科を一層美しく映していた。
 スリットから僅かに覗く太腿につけられたベルトには、彼女のお得意の武器であるナイフが携えられている。今までいくつもの穢れを切り裂いてきたそのナイフだが、丁寧に磨き上げられた特別な品な上に瑞科の洗練された技術のおかげか錆びる事も刃毀れする事も知らなかった。
 肩には、翼の代わりとばかりに純白のケープを羽織っている。瑞科の清らかさを形にしたかのような、同色のヴェールも忘れてはいけない。二つの白は、瑞科を一層神聖に彩っていた。
 女性らしい魅力に溢れた胸を強調するコルセットは、瑞科の見る者を魅了する体型を損なう事はなく腰を絞り上げている。これにもまた、見た目の美しさだけではなく戦闘においても実用的な仕掛けが存在していた。コルセットの下には、彼女の美しいくびれの出来た腰回りを守るために鉄が仕込まれているのだ。軽量で薄いそれは彼女のなめらかな身体のラインを崩さないながらも、特殊な素材で出来ているので強度が高く、大抵の衝撃ではヒビを入れる事すら叶わない上質の防具でもあった。
 上質な防具には、上質な武器を。最後に瑞科がロンググローブ越しに手に取ったのは、聖女が持つに相応しい美しい刃。悪しき者を切り伏せる、聖なる剣であった。
 部屋に鎮座している姿見で確認し、瑞科は部屋を後にする。そして、通信端末で仲間と連絡を取りながらも、「教会」随一の実力を持つ戦闘シスターは早々に現場へと向かい駆け始めたのだった。

 ◆

 今のところ確認されている悪魔達の数は、膨大だ。敵の組織は、どうやら召喚儀式を何度も繰り返し行っているらしい。
 本命の悪魔が召喚に応じなくて焦っているのか、あるいは低級悪魔を大量に呼び出す事自体が目的なのか。狙いはまだハッキリとは分からないが、何にせよこのまま放っておけば数日も経たぬ内に街は悪魔で満たされてしまう事だろう。
「全く、わたくしの街で好き勝手な事をしてくれてますわね」
 一番近い現場へと辿り着いた瑞科は、闇夜を縫い息吐くすら間もなく一体の悪魔を切り裂く。
『儀式は今も行われているはずです。このままでは、悪魔を倒してもきりがありませんよ!? 大丈夫ですか!?』
 繋げていたままの通信端末から、瑞科を心配するような仲間の声が響いた。だが、瑞科はなんて事がないように笑みを返す。
「あら、簡単な事ですわ」
 次々に呼び出される悪魔達を倒すのは、一見終わりがない事のように思える。しかし、瑞科には自信があった。敵の組織が次の召喚の儀式を行う前に、今この街にいる全ての低級悪魔を倒す自信が。
 今回の任務にあたっているのは、瑞科一人だ。他の仲間は別の任務や情報収集を行っており、悪魔せん滅の任務は受けていない。
 人員不足なわけではない。瑞科以外の者が悪魔をせん滅しようとしても、かえって瑞科の足を引っ張る可能性があったからだ。
「悪魔といえど、所詮は低級。わたくし一人でも十分なくらいですわ」
 むしろ、瑞科をよく知る者ならこう思うだろう。低級の悪魔達を倒すのに、あの白鳥瑞科を使うのはもったいない、と。
 膨大な数の悪魔を目の前にしても、彼女の瞳には恐れはなくその視線は敵を逃す事はない。
 瑞科には確かに見えているのだ。自分が勝利する、その未来が。
「さて、神罰のお時間ですわよ。少々おいたの過ぎたあなたがたには、永遠の眠りをお贈りいたしましょう。今からでも遅くはありませんわ。犠牲になった罪なき者達に、懺悔なさい!」
 瑞科は、凛とした声で告げる。宣告する。夜の街を、光が突き破る。
 瑞科の操る落雷の如き電撃が、一瞬の内に戦場を支配した。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8402/白鳥・瑞科/女/21/武装審問官(戦闘シスター)】
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月08日

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