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『face 』
ヴァージル・チェンバレンka1989

「お疲れさん!」
「何だ、態々声かけてくるとか。店が閑古鳥でも鳴いてんのか?」
 赤ら顔の酒場の主人にいつも通りの冗談を飛ばす。
「ばれたか? ってちげぇよ、常連客に声くらいかけるわ!」
 仕事帰りだろ? 寄っていけよと続くそれは、いつも通りのやり取りだ。
「だったら綺麗な姉さんでも連れてきな」
「ヴァージル、お前まさかうちの母ちゃんにそんな目を……!」
「そこまで飢えちゃいないさ、相手を見つけるのは得意だからな」
「はっは、それもそうか! こっちが一本取られたな! でぇ、実際飲みに来るのかぃ?」
「そうだな、確かに今懐は温かいが」
 主人に向き直るように一歩前へ。

 ギンッ!

 主人と裏道を遮る位置に立ったところで、刃がヴァージルに向かってくる。
「……なぁ……あんた、アギル、だろ……?」
 酒場に行くか悩むように腕を組んでいたが、それは見せかけ。自然に、コギトを裏道の方へ、つまり刃の主であり、不躾な声の主へと向けるための予備動作。
「ヒィッ!?」
 極間近で行われた、剣戟を示す音。
 主人が悲鳴を上げたことで、周囲の注目が集まる。
(ま、殺気が殺せてない時点でこうなるよな)
 もとより読めていた事なので動じることもない。男の刃を主人に滑らせないよう、細心の注意を払いながらヴァージルは裏道へ、刃の主へと向き直る。
「主人、離れられるか」
「ッ! ……あぁ、すまない!」
 視界から外れたことを確認して、良かったとこぼしておく。
「随分、偉くなったなぁ……アギルぅ……!」
 反吐が出る、とばかりの男の目は侮蔑の色が滾っている。
「さっきからアギル、アギルと煩いな」
 努めて冷静に聞こえるように声量を抑えているが、目の前の男にだけわかるように、同じ視線を返す。
「俺はヴァージルだ」
「!?」
 耳が遠いのか? と続ければ、侮蔑に怒りの色が増える。

 ギリッ

 男の歯ぎしりと共に、まだコギトで止めたままの刃が押される。
「お前……だっ!」
 受け流すこともできるが、それは同時に、表通りへと男を放つことになる。煽っている手前、このまま、裏道から出さずに終わらせたいところだ。
 静かに、けれど確実に押し返していく。
「間違える……わけが、ないっ!」
 じりじりと後退する己を叱咤するように声を荒げる男は、ただヴァージルだけを見据えている。
「アギルの……お前の、せいで……ッ!」
 復讐に取りつかれた眼は、どこまでも過去に起きた何かに駆り立てられているらしい。
「なあ、それは、俺が聞かなきゃ駄目な話か?」
 男を見つめる趣味はない。見飽きたとばかりに呆れた声を向ける。
「認めないつもりかッ! お前みたいな奴のせいで俺は、俺達は!」
「いや、質問に答えてくれないのか?」
 やっぱり耳が遠いみたいだな?
「しらを切る気かっ!? だが証拠は」
「その目、ずいぶんヤられた目だなあ兄ちゃん」
 割り込んでくる声に虚をつかれた男。その隙を利用して、鞘ごと抜いたカオスウィースを振り抜く。

 バシュッ!

「!!」
 真剣ではないから、外傷はそう見えない。しかし籠めたマテリアルの分、体内は悲惨なことになっているはずだ。
 襲撃者はあっけなく倒れ込む。
 そもそも、ハンターとして更なる力を身に着けたヴァージルに叶うはずがなかった。男の怨嗟の声以外は静かだったその攻防は、あっけなく終わる。
「それって薬ってことか、爺さんよ?」
 倒れた男が動かないと判断してから声のした方へと振り返る。
 白衣の男が倒れた男に歩み寄り、瞳孔を確認し、脈を診て。したり顔で頷いた。
「そうだろうなぁ……人の顔を見間違える程、視力も弱まっていたんじゃないかね?」

 大丈夫かー、なんて気楽に声をかけてくる野次馬に、軽く手を振って返す。ちょっと道を逸れれば裏通りなんてこの場所では、この程度の事件は日常と同じだ。
「人違いで斬りかかられるなんざ、難儀なことだな」
「そんなによくある顔なのか、俺の顔って」
 今時こんなにイイ男他に居ないと思うんだがな?
 にやりと笑えば周囲もつられて、笑う。
「ハンター様に言いがかり付けるなんて、この若造も命知らずなことするのぅ?」
 既にこと切れていると知っているはずなのに、医者も、襲撃者を抱え上げ、歩かせているように振舞う大柄な医者の助手も、そして野次馬達も、それを口にすることはない。
 改めて襲撃者の顔を見ても、似た顔に覚えがない。いや、覚えていないと言うべきか。
(俺は仮の名前と一緒に、面倒な記憶の蓋もきっちり閉めておけるんでな)
 面倒な相手は、家族ごと。漬けるなり堕とすなり、追えないようにしていたはずだ。
(爺さんのあれは方便かと思ったが……事実だったか?)
 奇跡か執念か、それとも両方か。もしかすれば命がけだったのかもしれないが。
(……別に、どうでもいいな)
 終わった事だ。それに。
「俺はヴァージルだって名乗ったのにな?」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1989/ヴァージル・チェンバレン/男/45歳/闘狩征人/瞬間を最大限に愉しむ】
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石田まきば クリエイターズルームへ
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2019年01月10日

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