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『袖の縁 』
ジェールトヴァka3098

 うん……?
 こんにちは。はじめまして、でいいのかな?
 そうだね、良い天気だ。
 歩きやすい道に、穏やかな日差し。散歩に最適だ。君も同好の士と、そういうことなのかな?
 ああ、すまないね。私のような年寄りと同じだなんて、失礼だったかな。
 いいや、謝らなくてもいいよ、ちょっとした言葉のあやと言うものだ。
 長く年寄りをやっていると、どうも、説教臭くなっていけないね……
 なんだい、敬ってくれるなんて、存外に嬉しい事だね。
 私は、そんな視線を向けてもらえるような生き方は……おっと。
 つまらない話をしてしまうところだったね。
 え?
 そうか……ふふ。
 確かに、こうして出会ったのも何かの縁だ。
 時間は大丈夫なのかな?
 年寄りの話が君にとって益になるかは……君は聞いてくれるというんだね。
 何から話そうか……

 簡単な自己紹介はしておいた方がよいかな。
 私はハンターをやっていてね。ああ、そのハンターだ。
 荒事は好まないように見えるなんて、そうかな? 私はそんな穏やかな皺を刻めているのか、嬉しいね。
 隠居して家族と過ごさないのかって? ……はっはっは!
 ああ、気分を悪くなんてしていないさ。
 堂々と聞けるというのは美点だよ。少なくとも私はそう思う。
 誤解を恐れず言うなら、君のような若い子の踏み台になるのも、私にとってはよい経験さ。

 私は、これでも妻と子供を看取った身なんだ。
 そんな顔をしないでいいんだよ。確かに死別ではあるけれど、病気だとか事故だとか、そんな悲しい別離ではなかったのだからね。ただ、時間が違っただけさ。
 お互いに、その事実をわかった上で共に歩んでいたのだから、そこに後悔はないんだよ。
 そうだね……私は、今思えば。
 彼女達と同じように、時間を過ごしているように見せたかったのかもしれない。
 なんの話かわからない? ……説明が足りなくてすまないね。
 人にもよるし、血統にもよるのだろうけれど、私たちエルフは実年齢と外見が揃っていないだろう?
 私は、妻と子供と共に年を取りたかったのだろうね。若いままの姿でいた時間が、他より短いのだと思うよ。
 彼女と出会うまでは、私は色々と人に言いにくい仕事をしていたから。親友と共に、身軽な姿を好んでいたよ。

 若かったんだね、迷いやすい時期があったんだ。親友にそれを伝えたいと思っていたのにね。
 それをどうにもできないまま、悲しい事が起きてしまった。
 私自身手放せないでいたものが、突然手の届かない場所に離れてしまった。それを取り戻せないと信じて、私は簡単に希望を捨ててしまったんだ。
 喪失感を埋めるには、時間だけが手段だと思ったね。でも、回復を待つだけもじれったかった。そして、私はその隙間に、代わりを求めてしまった。
 ……私は、待っている寂しさと、罪悪感と。義務感と言う免罪符を手にして……自分を騙して、甘やかしてしまったんだ。

 失った代わりになってくれたのが、妻なんだよ。私との間に出来た子もまた、私の隙間を満たす優しい子だった。
 そんな彼女達を力で守るだけなら、私は若いままでいる方が良かったのかもしれない。でもそうしなかった。
 確かに肉体は衰えたように見えるけれど、現役のハンターをできる程には動けるからね。実際、私はそうして今までやってきているよ。
 私は彼女達の傍で、私のうつろう姿を全て見せたいと思った。共に時間を過ごす真似事かもしれなくても、私と言う存在の可能性を全て見せておきたかった。
 いつか彼女達の元に行くときに、はぐれないように……かもしれないね。


 ……懺悔を、聞いてもらってもいいかい?
 私は、親友からたくさんのものを奪ってしまったんだ。
 そうだね、返せたら……謝って、許してもらえるならそれが良いのだろうね。
 でもね、私が奪ったものは、返すことができるものではなかった。
 親友もわかっていたから、奪ったものを、奪ったものなのに……頼むと、そう言ってくれた。
 そして、親友そのものは戻ってこなかった。
 私は親友という代償にを対価に、親友の大事なものを奪ったから。引き止められるわけもなかった。

 私なりに頼まれた、得た存在に。最大限を尽くしてきたつもりだ。
 1人になった時、自分自身を失うことも考えたけど、それは親友を思い出すと出来なかった。
 彼を思えば、私はそれ以上、自分を甘やかすわけにはいかなかったからね。


 今の私は、親友から奪ったものも全て、もう傍になくてね。
 同じような誰かが居たら、せめて私の経験を糧に出来るように、そう思っているよ。
 贖罪のつもりなのか、ただの自己満足か……時々、わからなくなるけどね。
 無駄に生きるよりはいいだろう? 無駄に死ぬよりもいいだろう?
 年寄りの戯言だよ。自由な余生だからね。

 ……思った以上に、君の時間を貰ってしまったみたいだ。
 ありがとう、最大限の感謝を。
 どうか、君の思う最善を。

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【ka3098/ジェールトヴァ/男/70歳/白聖導士/いつか、見えるその時を】
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石田まきば クリエイターズルームへ
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2019年01月10日

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