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『仲直り、しようよ 』
御剣 正宗aa5043)&ミラン・M・アイナットaa4968hero001)&フラン・アイナットaa4719)&CODENAME-Saa5043hero001

「はじめて行った店だけど、あたりだったね! 今度は正宗と一緒に行こうっと!」
 ミラン・M・アイナット(aa4968hero001)は上機嫌だった。今日は新しく出来たイタリアンの店に、兄のフラン・アイナット(aa4719)と一緒にランチに出かけたのだ。おしゃれな店で、結婚してから久々の兄妹水入らずだったし、ランチもデザートも美味しかった。

 ところが。
 フラン達が帰ろうとしたとき、家の前でなにやら大喧嘩している人物がいた。
 CODENAME-S(aa5043hero001)と御剣 正宗(aa5043)である。
「その辛気臭い顔、二度と見たくありませんっ!! 私達の生活に入ってこないでください!!」
 空気を震わせるほどのSの甲高い声が響く。かなり感情的になっているようだ。
「それはこっちの台詞だ! お前なんかもうボクの英雄じゃない!」
 売り言葉に買い言葉。正宗も負けじと叫ぶ。

「ストーップ。二人とも、熱くなり過ぎだ。クールダウンしようぜ?」
 フランが二人の間に割って入った。この喧嘩は二人だけの問題ではない。
 Sは英雄だ。下手をすれば、もっとおおごとになる。

「えすちゃん、兄貴のお世話で家に篭りっぱなしで、ストレス溜まってるんじゃない? 気分転換しよう!」
 ミランがさりげなくSの手を取る。
 Sにとってフランと共に居る以上の幸せはない。それでも、ミランの手を振り払いはしない。
「さっき歩いてたらね、えすちゃんに似合いそうなかわいい服見つけたんだ。一緒に見にいこ?」
「ミランがそう言うなら……仕方ないですね」
 促されるままに、でも足取りは軽く、ミランと連れ立って出かける。

「どうしたんだよ。らしくねーぜ?」
 フランは残った正宗に声を掛けた。
 正宗は徹底した女尊男卑、いままで女性であるSに対しても声を荒げることすら珍しかったはずだが。
「えすちゃんが、ボクの話を聞いてくれない……」
 俯いて、今にも泣き出さんばかりの様子である。
 よく見ると平手打ちされたらしく、頬に赤く手形が残っている。
「エスに同じことやり返してねーよな?」
「さすがにボクも女性に手を上げるようなことは……。でも、えすちゃんお気に入りのぬいぐるみを投げてしまって、それでえすちゃんが凄く怒り出たんだ」
 リビングに入ると、いつもはソファに綺麗に並べられているクッションが散らばり、モノを投げ合った混乱の跡が見て取れる。ピンクのリボンをつけた青色のクマも床に転がっている。
 いつかの夏祭り、フランが射的で取ってやったぬいぐるみ。しばらくはSと一緒に就寝する役目だったが、結婚してからはそれはフランだけの特権。仮初めの身代わり役を終えたクマは飾り棚の一番いい席に座っていた。
 丁寧に埃を払ってやって、元の場所に戻す。
 ぬいぐるみは特に汚れたわけでも、破れたわけでもないが、自分のお気に入りに手を出されるということがSの逆鱗に触れたのだろう。
「ひとまず、場所変えようぜ。正宗の家に行こう、な?」
 フランとSが結婚するまではここが正宗の家だった。未練が大きすぎて変化についていけないところがイラつくのだと、Sも常々言っている。
 リビングを軽く片付けて正宗を呼ぶと、しょんぼりしながらフランの後をついてきた。


     ◆


「まったく政宗さんときたら! ぐじぐじするしヘタレだし弱いし、我儘だし女と見れば誰でもデレデレして! フランとは大違い過ぎるんです!!」
 Sはミランと一緒に服を選びながらもぷりぷり怒っていた。
 ミランのほうはSと正宗を取り合う事態は起こらなそうだと、かえって心やすらかに相槌を打っている。
「えすちゃんは、兄貴のことが好きなんだねえ」
「あ……当たり前じゃないですか! フランほど素敵な人はいません! 私だっていつ、がっかりされるか……」
「がっかり?」
 意外な言葉を聞いた気がした。
 Sは可愛くてよく気がついて、フランには勿体無いくらいの人。
 フランのアイドルグループにも、人を惹きつけるSが参加したことによって新規ファンが増えているというのに。
 Sは選んだ服をあてて、ミランを振り返った。
「……なんでもありません。それよりこの服、似合うでしょうか? フランは可愛いと言ってくれるでしょうか?」


     ◆


「ボクはえすちゃんのこと、家族だと思っているんだ。ただの英雄じゃなくて。結婚したら、家族って増えるものじゃないか?」
「そだな。俺も正宗のこと、義弟だと思ってるぜ?」
 正宗とフランは、ミランの家に来ていた。
 もともとミランが住んでいた家に、Sに追い出された正宗が転がり込んだ形だ。
「フラン……! ボク、フランのこと、義兄さんと呼ばせて貰ってもいいかな?」
「その呼び方はなんか痒いからパス。でも、家族だと思って、いつでも頼ってくれていいぞ」
 フランにとって正宗は妹婿でもある。年齢はそう変わらないが、正宗のことは、何かと心配でもある。
「えすちゃんはフランと付き合うようになって以降、あからさまにボクのことを邪魔者扱いするし、結婚してからはもっと酷くて、むしろ縁切りしたいみたいで」
「……それでも、エスは人間じゃなくて英雄だ。能力者である正宗が英雄であることを否定するのはやりすぎだ」
 冗談で済めばいいが、悪くすれば誓約破棄。
 英雄であるSは、本人が思うよりも不安定なのだ。
「わかってる。ボクだって言い過ぎたとは思ってるんだ。本当は仲直りしたいし、これからも仲良くやっていきたいとボクが一番切望している」
 正宗はエージェントであり、最近誓約した第二英雄が居るとはいえ、やはり共に経験を積んだ英雄はSのほう。
 北極に愚神の王が現れたいま、英雄に共に戦う意思がないのは死活問題だ。
「正宗のほうにそういう気持ちがあるんならいくらでも協力するぜ。エスは冷たいんじゃない、情が濃くてああなってるんだ」
 Sの背中には、天使と悪魔の羽が片翼ずつ。
 ただ可愛らしいだけの女の子ではなく、守るべきものがあれば、敵に牙を剥く凶暴さも併せ持っている。
(まあ、俺はそういうとこが好きなんだけど)
 フランは若干口元を緩ませた。しかし別に正宗まで威嚇する必要はないだろう。
「ここから仕切り直そうぜ。結婚で家族が増える、俺もそういうもんだと思う。一番以外を切り捨てる必要なんか、ぜんぜんない」
 俺も妹と今日出掛けてきたしな、とフランは言う。
 フランがミランと仲良くすることにSは違和感を持っていないようなのだが。
「どうやって仕切り直せばいいんだろう……?」
 正宗はまたしょんぼりする。Sに対しては、いままで出来るだけ仲良くできるよう、正宗なりにアプローチしてきたつもりだ。これ以上なにをすれば、Sの気持ちを動かせるのか見当もつかない。
「今までと違うことをしてみるといいかも。サプライズパーティとか」
「サプライズか……。面白そうだけど、何を祝うパーティにするんだ?」
「そりゃあ勿論、Sと正宗の仲直りだろ。それと、家族が増えたことかな」
 自信満々に、フランは言う。
 Sは本当に正宗を嫌っているわけではない。それは、夫であるフランがよく知っている。


     ◆


「俺? 俺は正宗のこと、すっごく格好いいと思ってるよ? 当たり前でしょ?」
「えぇっ? どこが、ですか?」
 一通りブティックめぐりを終え、ミランとSはカフェで休憩を取っていた。
 足元の紙袋には、舞台でも映えるような甘めのゴスロリ服。
 ミランはゴマフラペチーノに生クリームとハチミツ増し増しで、Sは暖かいキャラメルマキアートをチョイス。
「ふふーん。えすちゃんが正宗のこと、そういう目で見ないっていうんなら教えてもいーよ?」
 わざと勿体つけてミランは喋る。Sの愚痴は本質的にはフランが好きで堪らないという惚気なのだ。
 そろそろ、ミランのほうも惚気たくなってきた。
「男の真価って、調子のいいときより逆境のときに見えてくると思うんだよね。正宗っていつも一番強いわけじゃないじゃん?」
「むしろ激しく弱いです。いい加減にして欲しいくらい」
 Sは夫のフランに甘く、能力者に辛辣なのだった。ミランは気にせず続ける。
「でも結局諦めずに、また向かっていける芯の強さが好き。フェミニストなのもいいよね。好きだけで優しくしてくれる男って、喧嘩したり気持ちが冷めたりすると急に粗雑になったりするけど、正宗は喧嘩しても優しいもん。えすちゃんと喧嘩したけど、手は出さなかったでしょ?」
「でも、私のお気に入りのぬいぐるみを投げました……!」
 Sとしては、自分に手を出されたほうがましだった。
 自分は多少傷ついてもすぐ直るが、ぬいぐるみは汚れるし、壊れる。
「それ、兄貴絡みのモノだよね? えすちゃんはいつも兄貴が一番だから」
 う……、とSは答えに詰まる。
「えすちゃんは正宗を排除することで、兄貴が一番なのを強調したいんだよ。いまはちょっと、それをやりすぎただけ。そうじゃない?」
 ミランには痛いところを突かれた。
 でも、それだけでは割り切れないものがある。
 Sは声を震わせた。
 心の底にある、本当の気持ち。
「そうじゃない、私は、私は……!」


     ◆


「……ふむ。ボクのほうはこんなものかな。フラン、手伝えることがあれば、何でも言って欲しい」
 正宗とフランは、二人でパーティの準備をしていた。
 パーティグッズを買い込み、部屋を飾り付ける。
 正宗が用意した料理は、ローストビーフとローストチキン。
 見た目は豪華だが、要は塊肉に調味料をまぶし、寝かせてからオーブンで焼くという簡単料理。これでも正宗としては相当に頑張っている。
 フランはミートパイを焼いている間に舌平目のムニエルの下ごしらえをし、フルーツを飾り切りにしてチョコムースと一緒に盛り付けておく。出す前にバニラアイスを盛り付け、ココア粉を振って最後の飾り付けをする。

「何種類ものメニューを用意するのって、思ったより大変なんだな……」
 正宗がSと暮らしていた頃、夕食はいつも前菜から始まってメインは肉と魚の二種類が出るコース料理で、サーヴするのはもっぱらSだった。Sがあまりにそつなくこなすので、大変な労力が掛かることだと思っていなかった。
 
 そのうち、フランのスマホに着信が入る。
 ミランからだ。どうSを言いくるめたのか、もうすぐこの家に到着するらしい。
「正宗、テーブルのセッティングを頼む。グラスと飲み物、あとサラダと前菜は出しておいてくれ」
 テキパキとフランが指示を飛ばす。
「了解」
 正宗は決戦に備える兵士のように、上官の指示を忠実にこなす。


「ミラン、何かメッセージを送ってましたね? 何です?」
 Sはミランの操作するスマホを覗き込む。
「え……えすちゃんは何も心配しなくていいよっ?!」
 慌ててミランは画面を切り替える。
 正宗とは落ちついて話すべきだと、ショッピングの後ミランの家に招かれた。
 Sもそれに従った。
 よくよく自分の心を探ってみれば、正宗に投げつけた言葉とは別のところに、自分の本心はあったのだ。
「じゃあ、いくよ……3、2、1……」
 玄関前、ミランがなにかおかしな通話をしている、とSが思ったそのとき。

 ぱぱぱぱーん!!

 ドアが開くと同時に、クラッカーの破裂音。色とりどりの細い紙のリボンがいくつも舞う。
「いらっしゃい……えすちゃん」
 クラッカーを束にして持ち、はにかむ正宗。
 そしてその後ろには……同じくクラッカーを持ち、満面の笑みを浮かべる愛しい人。
「フラン!」
 正宗との対面は覚悟していたが、そこにフランまで居るとは思わなかった。感激して夫に抱きつく。
「待ってたぜ、エス」
 部屋の中に招かれると、パーティの準備がしてあった。
「何のお祝いですか?」
「エスと正宗の仲直りのお祝い。エスは優しい子だから、きっと仲直りしたくなってるだろうと思って」
「さすがフラン……! 私の理解者!」
 Sはもう一度感激して、夫に抱きつく。
 大喧嘩を見られて、キツい女だと幻滅されたらどうしようとSは内心ハラハラしていた。
「まあ、正宗のほうにだって言い分はあるんだよな」
 フランのスマホから、正宗の声が聞こえてくる。この家でフランに自分の気持ちを話したときの隠し撮りだ。
「待ってくれフラン、録画してたのか?」
「黙っててください正宗さん。いま聞いてますから。面と向かっては上手く話せないだろうというフランの配慮がわからないんですか?」
 あいかわらず、Sは正宗に厳しい。

「私、実は後悔しているんです……正宗さんと居るとき、甘やかし過ぎました」
 話を聞き終えたSは、まじめな顔で正宗に向き直る。
「正宗さん、しっかりしてください! 自立してください! 私はもうフランのものなんですよ! いまさら正宗さんの為に何ができるかって……厳しく突き放すしか、ないじゃないですか!」
 正宗とSが出会って誓約した頃、正宗は家族も友人も、職すら失った何もない子だった。
 愛情を注がれるのを必要としていて、Sはそうした。
 でも人は、いつまでもそのままではいられない。
 Sは愛する人と出会い、正宗もミランという妻を得た。
「そんなにエスがひとりで抱え込まなくてもいいんじゃないか? 正宗だってもう子供じゃない」
 フランがとりなす。やはりSは、愛情豊かなのだ。

「えすちゃんは、いまの正宗をよく見てないからそう思うんだよ。もっと近くに居れば、成長がわかるよ」
 ミランは朗らかに笑う。
 正宗は女性的で女装癖もあるため、ミランと一緒に居ると女同士か、悪くすると俺っ娘なミランが男と誤解されることもあるが、中身はしっかり男だし、割と頼れるところもあるのだ。
「……正宗さんにプレゼントがあります。開けてみてください」
 Sは持っていた小さな紙袋を正宗に渡す。
 包みを開くと、中から出てきたのはペアのマグカップ。
「ミランは正宗さんには勿体無いくらいのいい子です。大事にしてください、私よりまずミランと仲良くしてください。もし泣かせたら、しばき倒しますよ」
 カップは二人が仲睦まじく暮らせるようにとのSの願い。簡単には割れない丈夫なものを選んだ。
「……うん。ボクはミランにいつも助けられてる。今日だってそうだ。ミランに相応しくありたいと思っているし、誇って貰えるようになりたいと思ってる。この気持ちを教えてくれた、ミランが誰より大事だ」
 正宗は彼なりに、考えている。既に家庭も持ち、何もかも失ったあのときから変わっていないわけではない。

「ボクはえすちゃんに以前みたいに甘やかして欲しいとかじゃなくて……英雄として、エージェントのボクと共に戦って欲しいんだ。コミュニケーション維持のためには、一緒に住むのがベストじゃないかと思ってる」
「シェアハウス、ですか?」
 正宗の提案は、Sに響いたらしい。フランとミランはどう思うのかと尋ねる。
「俺も、それがいいと思う」
「正宗についていくよ」
 フランはSの存在維持が最優先だし、ミランは正宗を信頼している。

「……生計と食事が別で、フランとの時間を邪魔しないなら……」
 考えた末、Sも譲歩した。
 Sはフランが大切で、フランのいるこの世界も大切。
 いま世界は異次元からの侵略に揺れており、いつまでも続くことを約束されていない。
 生存は戦って勝ち取るもの。
 Sが英雄である限り、その戦いは能力者である正宗と共にある。
 覚悟を決めねばならない、Sと正宗だけでなく、かかわるすべての者が。

「よし、じゃあ乾杯しよう、エスと正宗の仲直り、そして俺達の新たな生活の門出を祝って」
 フランがグラスを配って、飲み物を注ぐ。
 フランと正宗はシャンパン、Sとミランには発泡性のソフトドリンク。
「じゃあボクは、ミランを愛し続けることと、えすちゃんに見限られないよう努力し続けることを誓います」
「皆での乾杯に個人の誓いをぶっこまないでください正宗さん! そういう空気読まないとこがダメなんです!」
「うちの正宗がゴメンね、えすちゃん。でもこういうトコが可愛いんだ」
 正宗とS、ミランがわいのわいのと騒ぐ。
 四つのグラスが触れ合って、澄んだ音を響かせる。


――乾杯!



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【御剣 正宗(aa5043) / ? / 22歳 / 愛するべき人の為の灯火】
【ミラン・M・アイナット(aa4968hero001) / 女性 / 18歳 / 久遠ヶ原学園の英雄】
【フラン・アイナット(aa4719) / 男性 / 22歳 / 共に進む永久の契り】
【CODENAME-S(aa5043hero001) / 女性 / 15歳 / 共に進む永久の契り】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびは御指名ありがとうございます。桜淵トオルです。
仲直りとは何か。
ときにはぶつかるからこそ、それぞれの優しさと強さ、愛情が際立つ…といった感じで書かせていただきました。
正宗さん、フランさん両カップルにはひそかに注目しております。
まだもう少し続くこの世界での、ご活躍を期待して。

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2019年01月11日

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