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『『真冬の特別な一日』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 とある国の辺境にある、貧しい地域。
 この地の冬はとても厳しく、冬を越すのも命がけであった。
 これはそんな地域に生まれた、アレスディア・ヴォルフリートの子どもの頃の、大切な誕生日のお話。

 アレスディアの誕生日は、冬真っ盛りの1月の上旬だった。
 暖をとる方法も少なく、お年寄りや体の弱い人にはとても辛い時期だった。
 そんな厳しい寒さの1日だったけれど、この日だけは毎年、部屋が温められ、食卓に沢山の料理が並んだ。
 病弱で、一日の大半をベッドで過ごすことの多かった彼女の母が、この日だけは誰かに任せることなく、下ごしらえから全て自分で料理を作り、アレスディアと共に食事をすることを心がけてくれていた。普段、母親らしいことをしてあげられないから、と。
 美しい黒髪のアレスディアの母親は、優しくて穏やかで、とても女性らしい人だった。
 そして、病弱で優しくも意志の強い女性だった。その確固たる意志は、アレスディアの父でさえ曲げることができない。
 天候が、体調がどうであれ、この日だけは毎年、優しい微笑みを湛えながら、愛情がたっぷり込められた料理を、食卓に並べてくれたのだ。
 幼い頃、アレスディアはそれを素直に喜び、母と一緒に美味しい料理を堪能し心から楽しんだ。
 だけれど成長するにつれ、自分の誕生日に母親が無理をしているのではないかと思うようになり……考えた末に。
「母さん、料理の仕方教えて!」
 その年の誕生日、準備を始めようとする母に、アレスディアは料理を習いたいとお願いしたのだった。
「何作る? 何用意すればいい?」
 そんなアレスディアの意図に、母はすぐに気付いたけれど、その思いを汲んで料理を教えることにした。
 母に言われた通りの食材を、貯蔵庫から持ってこようとして……種類を間違えて行ったり来たり。
 皮を剥いていたら、身が殆どなくなってしまったり。
 固い野菜のカットも絶対自分でやろうとして、一生懸命上から押して切ろうとして、真っ赤になったり。
「自分でやる! 母さんは座ってて」
 そう言い張って、アレスディアはできるだけ母の手助けを拒み、指示だけしてもらって一生懸命作った。
 完成したのは、その日母が用意しようとしていたメニューの半分だったのだけれど、それでも食卓には普段より沢山の料理が並んだ。
 しかし。
「煮たら芋が全部なくなってしまった。かぼちゃの形はぐちゃぐちゃで……」
 自分が作った料理を見て、アレスディアはしょんぼりしてしまう。
 だけれど味は、大丈夫だということは味見をしたので分かっている。
 調味料、間違えそうになった時には母が指摘してくれたし、量も上手く入れられなかったけれど、母が味を調整してくれたから。
 料理を見ながらアレスディアが落ちこんでいると。
 アレス、と母が優しく名を呼んでくれて。また一緒に練習しましょう、と、アレスディアに小指を差し出してきた。
 途端、アレスディアの顔に笑みが生まれる。まだ母より小さな小指を、細く華奢な母の指に絡めて、笑顔で強くうんと頷く。

 夜。仕事から帰った父を交えて、家族3人で温かな食卓を囲む。
 今までの誕生日より、少し品数が少なくて、少し――ではないくらい、料理の見た目は良くなかったけれど。
 父も母も喜んでくれて、自分自身も嬉しくなって。
 アレスディアにとって凄く楽しい、幸せな一日になった。
 来年はもっと上手くなる。自分が美味しいものが食べたい、というのとはちょっと違って。
 母に無理はさせたくないから。母に教えてもらうことが、側にいることがとても嬉しくて、幸せだったから。

 その日から、アレスディアは母に料理を習うようになった。
 調子の良い時には、母は側で見守ってくれていて、時には料理を一緒に食べた。
 身体に優しい料理も、栄養のつく料理も沢山教えてもらった。
 そして、年に一度。自分の誕生日――アレスディアの母が母親となった特別な日には、ご馳走を。
 母が見守る中、作るのだ。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、川岸満里亜です。
暖かい気持ちになるノベルのご依頼、ありがとうございました。
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2019年01月11日

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