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『祭の後で 』
未悠ka3199)&ユメリアka7010

●高校最後の

「それじゃあ……」
 未悠の視線に答えるように、ユメリアが頷いて。
「文化祭、お疲れ様です!」
「「乾杯!」」
 カチンと軽い音が鳴って、互いにドリンクを傾ける。
 ほぅ、とユメリアからため息が零れる様子に未悠が首を傾げた。
「どうしたの?」
「……こんな風になってるんですね」
「あら? カラオケは初めてだったかしら?」
 注文にも慣れて居たように見えたのだけれど。
「誰かときたことがなかったんです」
 普段は1人用専門の店舗に行っていたらしい。
「ジャズ部の活動として空き教室を借りて練習はしてましたけど。どうしても学校で場所が取れなかった時とか、個人的にジャズ以外を歌いたい時とか……でしょうか」
「私は逆に1人で行ったことはないわね、その話も聞きたいわ」
「そうですか? 集中したい時に便利ですよ。あとは、そうですね。ものを食べるとかは、ほとんどしてませんでした」
 既にテーブルに置かれているパーティー用のプレート。2人の視線が向かう。
「美味しそうな匂いがする、ってなんだか不思議ですね」
 つい手が伸びてしまいます。言いながらひとつつまみあげて。
「今日は打ち上げで、女子会なのよ? 初めてならなおさら楽しんでもらわなくちゃ!」
 他の料理もおいしいのよ?
「では、オススメはどれですか?」
 美味しい、と笑顔になるユメリアと二人、メニュー表を捲る。デバイスもあるけれど、写真が見やすいのはやはりこちらなのだ。

●Thanks

 ある程度食べ終えたところで、2人は選曲を始める。
「満腹に近いほど、声が出しにくくて駄目なのですよね……」
 今は腹七分目といったところ。途中で摘むためにと、まだ器に残しているスティックサラダをじっと見つめるユメリア。
 茹でたての温かい根菜を、これまた温かいチーズ系ディップで食べるのだが、文字通りやみつきになる味だったのだ。
 冷めても美味しいと思うけれど、なんだか視界に入る度に食べてと訴えられているように感じてしまう。
「あら、別にうまく歌うために来たわけじゃないでしょ?」
 食べたっていいじゃない、と笑う未悠。
「今日は練習じゃないのだもの。楽しいのが最優先! 歌だけじゃなくて、美味しい食事だって、今日に必要な……楽しむための大事な要素だわ!」
「……そう、ですね」
 そうだ、未悠の言う通り。今日は1人できているわけじゃない。
「気に入って、好きだと思った味を好きなように食べたって良いんでした」
 なんでそんなことを忘れていたのだろう。知らず、肩が落ちる。
「……ユメリアったら、やっぱり気負いすぎてたんじゃない」
「!」
「貴女が歌う事を好きなのも、ジャズ部の設立に思い入れが強くて、それだけ気持ちを傾けていたのはわかってるつもりよ?」
 親友だもの。どれだけ一緒に過ごしたと思ってるの?
「でも、文化祭で区切りを迎えたでしょう? ……気を抜いたっていいのよ。むしろ、積極的に抜いちゃいなさいな!」
「高瀬さん……」
 どうして今日は2人なのだろうと、こっそり思っていた。文化祭の打ち上げなら、一緒に歌った後輩達も誘うのだと思っていたのだ。
(私のためだったんですね)
 あの日を境に、後輩達にジャズ部を託した。その打ち上げなら……自分はそれを意識してしまって、後輩達の前ではずっと先輩風を吹かせようと気を張ってしまうのだろう。
 この優しい親友と同じように、後輩達の事も好きだからこそ。
「……高瀬さん、先に一曲、いいですか?」
「あら? 食べないの?」
 デバイスでメニューを開こうとしていた未悠の手が止まった。
「勿論食べますよ。でも、今は、すぐ歌いたい気分なんです」

 ♪〜
 見上げた空に輝く太陽
 触れたいと伸ばした手を遠くからでも温めてくれる
 願いを 想いを 温めてきた全てを
 その力強さで 心の一番近くで
 支えてくれる 大切な君に
 dear friend...my love
 ありがとうの言葉に全てを籠めて

 髪を遊ばせ森へ誘う風
 生命の香りを次々に運んで傍に居ると教えてくれる
 背中を 翼を 飛び立つための力を
 追い風の勢いが 心を軽くして
 助けてくれる 大切な君に
 dear friend...my love
 ありがとうの言葉に全てを籠めて

 彩る星に囲まれた三日月
 星の楽譜を光で奏でて夜の寂しさを和らげてくれる
 歌を 曲を 全てのはじまりの切欠
 魔法の言葉で 心を映し出して
 歩いてくれる 大切な君に
 dear friend...my love
 ありがとうの言葉に全てを籠めて

 dear friends...
 〜♪

●ことのは

 こくり、とコップの中身を飲み干す。生絞りのオレンジジュースがするりと喉を滑り落ちていく。その感触が妙に心地よい。
(ちょっと熱くなっちゃったけど……目標達成、かしらね?)
 吹っ切れた様子のユメリアの歌は、緊張がない分深みが増したように思う。
 彼女を誘う時に伝えた2人で遊びに行きたい、と思っていたのも勿論本音だった。
(でも、文化祭の間……緊張が随分と顔に出てたもの)
 それが良い結果をもたらしていたから、当日は指摘もしなかったけれど。
(感極まっていたせいかしら、まだ少し、引きずってるようにも見えちゃったのよね)
 その予想は外れていなかったようだ。自分の言葉でどうにかできれば、少しでも胸の内を解してあげられたらと思ったけれど。
(よかった……ちょっと強引かしらって思っても居たから)
 これなら、後日改めて。4人で遊びに出掛ける計画を立ててもよさそうだ。
(4人に限らなくてもいいかしらね。もっと、高校生のうちに思い出作っておきたいもの)
 高校生でいるうちに……
(そうよ、もう少しで卒業なのよね)
 歌いたい曲を思い浮かべて、デバイスに触れる。
「高瀬さんも歌いましょう!」
 ユメリアも、そう言ってくれることだし。

 ♪〜
 指先で紡ぐ言葉が 羨ましくなるの
 触れるその指の感触は どれほど温かい?
 想像するだけで愛しさが募るの
 見ているだけで好きの気持ちに育っていく

 天秤の向こうに少しずつ溜まっていく

 声がなぞる言葉に 耳が熱を持つの
 擦れた声が甘く響いたら 苦しくなる筈
 想像するだけで愛しさが募るの
 聞いているだけで大好きの呟きを繰り返す

 天秤の向こうで山になった頂が見えた 

 読み解かれる言葉 貴方の心はどこ?
 心の奥に閉じ込めた気持ちを 解かれたなら
 想像するだけで愛しさが募るの
 募らせてばかりで伝える勇気に届かないけど

 天秤の向こうが溢れ出て溺れ落ちる程
 溜まったら自分の言葉で伝えに行くから
 〜♪

●想えば

「あぁっ、さっき飲み干してたわ!」
 歌い終わって慌てる未悠に、水の入ったコップを差し出すユメリア。
「気持ちが籠もってましたから。私もついつい、聞き惚れちゃいました」
「そ、そうかしら?」
 ありがとう、そう言いながら頬を染める様子が可愛らしいと思う。文化祭ではあんなに姉らしさを発揮していたし、さっきだって、私に素敵な言葉をくれるくらい、頼りがいのある人で。
 共に過ごして幸せな気分を分けて貰っていたからこそ、何かの形で返していきたいと思う。
(そんな貴女の恋が実りますように……♪)
 迷った結果、口に出して尋ねることに。
「2月はどうするんですか?」
「なっ……なんのこと……あっ、今年の恵方はどれかしらね!?」
「高瀬さん。節分じゃないですよ?」
 わかってるくせに、誤魔化しても無駄ですよ?
「う……うぅ……」
「チョコレート、手作りしたりとかは……?」
 あえて遠回りをした質問にしてみれば、ぽつぽつと答えが返ってくる。
「私、のせるだけとか工作に近い事は大丈夫だけど」
 それ以前の段階での不安が大きい、らしい。
「でも、伝えるなら、本当は」
「……2月に、皆で集まって一緒に作ってみるとか」
 少しずつ分担してみるとか。1人でやるから失敗しやすいのかもしれないし。
「私も、お手伝いしますし……?」
 後輩達にも、渡す相手が居るようだから。時折、会話の中に混じる相手の名前を思い出して微笑む。
「誘えば、彼女達も賛成してくれると思いますよ」
「そうかしら……?」
「そうですよ」
「ね、ねえ。ユメリアは、誰か居ないのかしら?」
 瞬いて、首を傾げる。
「そう、ですね……?」
 首を傾げて考えてみる。話す相手は居ないこともないが、特別に誰か、と言われると……?
「いつかは、と思いますけど。今は、皆さんと楽しく過ごすのが一番です、ね?」
 大好きな皆さんと一緒で幸せだと思っています。そう言えば、未悠が破顔して、抱きついてくる。
「もぅっ、嬉しい事言ってくれるじゃない……!」

●覚めても

 ……Zzz

 いつも通りのようでいて、懐かしさも感じる、不思議で、幸せな。
「前にも、あったような気がするわ……?」
 思い出そうとすればするほど、すり抜けていってしまう夢物語。
「仲の良い誰かと一緒だったのは、間違いないわ」
 まだ半分微睡みの中に居るような今だから、ゆるゆると、考えを少しずつ言葉にして、唇にのせる。
「歌を……でも、今はない場所で。だったら……」
 どんな場所が歌うのにふさわしいだろう。
 ステージは違う。転移前も今も、機会はそうないものだ。
 広場は……確かにポルカを踊ったけれど。懐かしいと思うほど前の事ではない。
 カラオケは……?
「それよ!」
 たった一つの言葉を切欠に、夢が鮮明に蘇る。
 もう、意識もはっきりしていた。けれどもう、夢物語は幻にはならないようで。
「全部、思い出せたわ……!」
 なら、今日の予定は決まりね。

 友人が居るだろう広場へと、大急ぎで駆けていく。
 今朝見たばかりの夢を、分かち合いたい。
 夢の中だけでなくて、現実の彼女の声でも聴いてみたい。
「あっ、いたいた、ユメリア!」
「そんなに急いでどうしたんですか、高瀬さん?」
 ムーン・ナイトの調律をしていた手を止めて、微笑みが返ってきた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3199/高瀬 未悠/女/21歳/征霊闘士/決戦はVD!】
【ka7010/ユメリア/女/20歳/聖奏導士/恋よりも、今は】
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2019年01月15日

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