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『アングレカム 』
アイシュリングka2787

「1人なら、君の時間を自分に貰えないだろうか?」
 不足していた日用品を買いに街に出ただけだと言うのに。
 店で品物を待つ間。ほんの少しの待ち時間くらいは気を抜ける……その短い隙に、アイシュリングは声を掛けられた。
 これが典型的なナンパだということはわかる。しかしそれに応じる理由が全く見つけられない。
 断りの言葉を選ぶ間に、相手の男性はここから少し歩いた先のカフェが人気だとか、オススメのメニューの話だとか、途中を通る予定の公園の過ごしやすさについて語っている。
 落ち着いた物腰で、身なりも悪くない。けれどほんの少しくらい、待つ余裕を持てないものだろうか。
 別に仕事に追われているわけでもないだろうに。
「無駄話をする時間はありません」
 欠片も興味が持てないのだと、嫌悪感を声音に乗せることで、内心の恐怖や不安を隠す。
 そこに丁度、購入した品々を詰め終わった店員が戻ってくる。
「お待たせしました! まあお客様、ご入用の者はなんでしょう?」
 さっと差し出してくる紙袋を受け取り、一応の挨拶をして離れることにする。
「用も済んだので、失礼」
「あ、君……」
「お客様、お待たせしてしまったのですから、是非サービスさせていただきますね!」
 男性の言葉に被せるように接客する店員は、いつもアイシュリングの買い物に対応してくれる女性だ。男性がいるこのタイミングで振り向くわけにはいかないので、後日改めて御礼を言いに来ようと思いながら足早に店から離れた。

(……思っていたより、慣れていなかったのね)
 森を出て、ハンターとなって数年。人と触れ合う機会は幾度もあった。
 あの女性店員のように顔を合わせる回数が多い相手なら、問題はない。
 共に仕事をするハンターであったり、食事処の給仕であったり。アイシュリング側に明確な目的があって、達成するために必要な行動ならば。そつなく対応できる程度には人見知りも出なくなっていたのだけれど。
(理想の対応……そんなものがないのはわかっているけれど)
 先ほどみたいに、好意の視線や態度を明確に向けてくる相手に対して。自身が目的と、対象とされる場合において。どうしても遅れをとってしまう。
 初対面ということは、その前段階において、互いの外見しかわからないということだ。
 相手がエルフならば、わかる。互いに互いのマテリアルを感じ取って、波長が合うか合わないか、なんとなくでもわかることがあるからだ。
 互いに好ましいと思える相手に出会うことは簡単ではないが、好みのマテリアルを持つ相手を、より好ましいと感じて恋愛に発展する同族の話は聞いたことがある。
(さっきの人は、人間だった)
 何をもって己に魅力を感じたのだろう。
 アイシュリングにも美醜の感覚は備わっているが、外見よりも内面……人柄を、性格を、何を指針としているかといった、接する時間が長くなければわからないような、そんな要素を重視して人への興味を、好意を向けているものだから。
 外見で人に惹かれる、その感覚が理解できない。
 それはエルフであるがゆえに、周囲に整った顔立ちの者が多い中で育ったせいかもしれないし、アイシュリング本人が裏表なく心の内を示す性質だからかもしれない。
(……考えても無駄ね)
 しかし最大の理由は、アイシュリング本人に、その感覚を理解する気がないという所だろう。
 誰かの想いを理解するために、みつけた片鱗を辿って、想いをなぞろうとすることはある。
 けれどアイシュリングが相手に興味を持たない以上、その相手の想いを知る必要はないから。
 きっとこれからも、ナンパされる度に同じことを繰り返すのだろう。
 それこそアイシュリングにとって、好ましい波長をもつ相手に出会わない限りは。

 部屋に荷物を運び終えたアイシュリングは、改めて外へと向かった。
 目的地である公園には、様々な草花が育っている。
 管理人の趣味なのだろう、いくつもある花壇の内、最盛期を迎えているのは常に一か所だけとなっている。
 けれどそれこそが訪れる者の目を楽しませる理由だ。今日はどの花壇が美しいか、探しながら公園の中を歩くものは多い。
 しかし、アイシュリングが向かうのは、整えられた花壇ではなかった。
 花壇から零れ落ちたり、風や鳥が運んだ種が芽吹いてできた、木々の中の花畑。人工的な公園の中にぽつりとある、小さな自然。
 自然の力が互いに助け合ってできたその場所は、街の中において、アイシュリングにとって特別で、どこか気の休まる場所だった。
「また、会えたわね……」
 中でも特別思い入れを籠めて見つめるのは、年に数度の花を咲かせることがある花。
 この花にあうために、何度も足を運んでいるのだ。
 白の花弁を星のように張り、陽射しを反射する様子に。
 太陽に向かうのではなく、まるで敬意を払うように、祈りを捧げるように咲くその様子に。
 己の中の何かを重ねて……

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2787/アイシュリング/女/16歳/聖魔術師/何度でも立ち上がる決意を】
おまかせノベル -
石田まきば クリエイターズルームへ
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2019年01月15日

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