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『夜明け前には星を見よう 』
鬼塚 陸ka0038

 依頼を終えてオフィスでの報告を終えると、夜もすっかり更けてしまっていた。
 戦闘後の村での瓦礫の片づけに、思ったよりも手間取ってしまったのが原因だ。
 それでも「敵は倒したから、じゃ」なんてのは性に合わないし、むしろ“そういうほう”を大切にしていきたいと思う。
「お腹、すいたなぁ……」
 オフィスの玄関を外へ潜りながら、リクは小さく鳴ったお腹をさする。
 最近は戦場続きで乾燥食品やら携行食やらの味気ない――ないしは、しょっぱすぎる食事が続いていた。
 たまにはまともなものを、それもお腹いっぱい食べたい。
 例えばそう……ラーメンとか。
 たっぷり背油の乗ったコテコテのスープが時折恋しく感じる。

 ふと振り返るとオフィスの部屋部屋にはまだ煌々と明かりがともっていた。
 こんな時間でも相談を受ける受付嬢や報告をまとめる職員たちはフル稼働の日々。
 それだけ世界には問題が山積みということだろうし、それだけ自分の手が回らない現場もあるということ。
 特にリアルブルーが封印されてからというもの、あちらで活動していた歪虚たちがこちらで観測される例もあり、相対的にクリムゾンウェストでの事件が増えたように感じる。
「それだけハンターも必要とされてる……ってことか」
 ハンターとしての仕事は、その実、泥臭いものだ。
 アニメや漫画で見たような華々しい活躍がない――とは言い切らないものの、基本的には日々の小さな戦いの積み重ね。
 守護者となった今も変わらず、ひとつひとつ、この手で成せる範囲で。
 それゆえに自分の手ですべてを掬いきれないことも、理解はしている。

 リゼリオの通りを歩いて飲食店街へ。
 確かこの辺に、前に来た東方風料理店屋があったはず……
「あっ」
 すでに片付けられた暖簾に、光の落ちた店内。
 そりゃ、時間が時間だものな。
 あっちの世界なら日付が変わるまで、さらには24hでも――なんてのも当たり前だけれど、こっちの文化レベルではこれが当たり前。
 そもそも家庭用の通電が当たり前じゃないのだ。
 魔導機器を導入できるような施設でなければ、今でも頼りない蝋燭の輝きが夜の生活を照らす。
 いや、頼りないと感じたのは今は昔。
 今はこれはこれで味があるし、不便も感じていない。
「これからでも開いてるお店は……っと」
 記憶を探るものの、大して選択肢はなかった。

「……1人で来るのはあんまり慣れないなぁ」
 ランプの光に照らされて、リクは肩身が狭そうに身体を小さくして木造のカウンター席に座る。
 後ろでは樽ジョッキ片手にすでに出来上がった男達の豪快な笑い声。
 カウンター越しにマスターから差し出されたお酒のメニューを苦い笑顔で断って、代わりに適当なフルーツジュースを注文する。
 ううん、ここでビシっと注文できればかっこいいんだろうけど。
 とっくにお酒を飲める年齢を迎えているものの、なかなか知り合いの大人組のように1人でアウトローでムーディな雰囲気を楽しむにはまだまだ夜の街の社会勉強が足りない。
 スティックサラダとボロネーゼパスタでお腹を満たしながら、魔導スマホから最近の報告書で気になったトピックを抜き出して閲覧する。
 自分が居なかった戦場のことを勉強しながら、時折出てくる仲間たちの名前とその活躍に笑みもこぼれた。
「みんな頑張ってるなぁ」
 関われなかった戦場では別の仲間が戦っている。
 両手で掬えないのなら、掬うための手が増えればいい。
 ひとりの人間として、これほど頼もしいこともない。

 ご飯を食べ終えて、そそくさとお店を後にする。
 次こそはかっこよく――そう思いながらも、たぶん同じ結果になるだろうな。
 変わりゆく世界で変わらないこともまた大切。
 いや……ここは変わりたいところのひとつだけれど。
「おっ」
 ふと空を見上げると、冬の澄んだ空気の中で満天の星空が輝いていた。
 今や新たなこの世界のシンボルとなりつつある「2つの月」も、街頭というもののないこの街を優しく照らしている。
 2つ目の月はリアルブルーでの勝利に似た敗北の傷跡。
 直視するには少し眩しいけれど、心に焼き付けなければならない光景だ。

 ふと、東の空にうっすらと光の筋が走った。
 星空全体が次第に青い色に染まり始めて、瞬く星はより強い陽の光に霞んで見えなくなっていく。
 夜が明ける。
 いつも見るわけじゃない光景をぼーっと眺めて息を吐く。
 満たされたお腹から程よく眠気がやってきて、続いて大きなあくびがこぼれた。「……帰って寝よう」
 くるりと踵を返して、リクは部屋を目指して歩きはじめる。
 低い陽の昇りは早くて、もうすっかり夜空は朝の空へと変わってしまっていた。
 とは言え見えないというだけで、空の向こうで星の輝き自体が失われているわけではない。
 明日もまたきっと同じ光が空に散らばる。
 そうあるように願い、戦い続けているのだ。


――了。

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【ka0038/キヅカ・リク/男性/20歳/機導師】
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ファナティックブラッド
2019年01月15日

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